美しい人

志子

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もう一人の少年③

 ふっと目を覚ますと、見慣れた木製の天井が視界に入った。
 身体を動かそうと思ったが岩のように重く、少し動かすだけで酷い疲労感に襲われた。と、そこで自分がベッドの中にいることに気付いた。

(……いつの間に?)

 確か自分は書物の部屋に居て、そこで頭が割れるほどの酷い頭痛に襲われ気を失いかけて……。

(……あ)

 脳裏に浮かんだ一人の少年。もう一人の同居人とは別の……外の人間。

(あいつは……?)

 俺は首をなんとか動かし辺りを見渡すと、そこは自分が与えられた部屋で窓際に一人用の机と椅子があり、その椅子に漆黒のドレスを身に纏い黒のベールを被った女……この塔の主である魔女が座っていた。

 身体は俺のほうに向けていたが、顔は窓のほうを向いていた。窓の外は薄暗く雨音が聞こえる。ふと机に置かれた魔女の手が何かを握っていることに気付いたが、薄暗くて良く見えなかった。

「目を覚ましたのね」

 俺がじっと魔女の手元を見ていたら魔女が声を掛けてきた。窓から俺のほうに顔を向けた魔女は素顔が見えず、見えるのは真っ黒に塗られた唇だけだ。

 魔女は立ち上がり俺の枕元にやってくると、血の気のない手で俺の額に触れてきた。冷たい指先だったがそれがやけに心地よかった。

「まだ熱があるわ。食欲は?」
「……ない」
「そう。後で解熱剤を持ってくるわ、多めの水で飲みなさい」

 魔女はそう言って俺の額から手を離した。

「それから、あなたの傍にこれが落ちていたわ」

 魔女はそれを俺の目の前にかざした。それは歪な形をしたフクロウの小さな木彫りだった。どう見ても素人が彫ったとしか言えない代物だ。

 だがその木彫りを見た瞬間、俺は思わず「あ……」と声を漏らした。フクロウの木彫りから微かに感じる魔力。

「俺の……」

 気付けば俺はそう呟いていた。魔女は「そう」とだけ言って、それを枕元に置いた。

「後でまた来るわ」

 魔女はそう言って俺の部屋を出て行った。静寂が部屋の中に落ちる。

 俺は深く息を吐き出してから身体を無理やり横向きにし、枕元に置かれたフクロウの木彫りをそっと握りしめた。すると掌に柔らかな温かさが広がり身体が少しだけ楽になった。

(魔力が少ない平民は魔法を使わないと聞いていた……)

 だけどあいつは魔法を……しかも魔力の消費が大きい治癒魔法を何のためらいもなく使った。

(ヴァルアラ神の祝福……)

 久しぶりに感じた癒しの力は温かく、羽毛に包まれたかのような心地よさだった。

(俺は許されたんだろうか……)

 前世で犯した罪をヴァルアラ神は許してくれたのだろうか……。

 もし、そうであるのであれば……と願いながら俺は目を瞑った。

感想 3

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