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side:二人の少年②
‟なんて哀れな子でしょう„
‟この子の前世はどれほどの罪を犯したのでしょうか„
”ヴァルアラ神のお怒りはそう簡単には消えないでしょう„
‟ああ、なんて罪深い子……„
うるさい。
‟力も使えないどころか、ヴァルアラ神の怒りを買っているなど……お前は一族の恥でしかない„
‟お前みたいな役立たずが弟だなんて、一層死んでくれたほうがいい„
‟本当にな„
黙れ!
そう叫ぶが口から出てくるのは掠れた息だけ。
苦しい。苦しい。苦しい。
俺の前世の罪はあとどれくらい償わなければならない?
この苦しみはいつまで続くんだ?
‟おにいさま……わたしはまっています。ずっと……ずっとまっています„
漆黒の髪の小さな少女がアメジストの瞳から大粒の涙を流しながら祈るように手を握る姿が浮かぶ。
(ビビ……)
手を伸ばすが彼女には届かなかった。意識が粘りのある泥水のような闇に飲み込まれる。
(誰か……たすけ……)
朦朧とする意識の中、不意に誰かの手が額に触れてきた。
‟いたいの、いたいの、とんでいけ„
陽だまりのような暖かな声とともに、優しい眼差しを浮かべた漆黒の瞳と目が合った。
瞼を持ち上げると見慣れた天井が視界に入った。
「……俺……っ!」
頭に走った激痛に俺は顔を顰めた。魔女の転送魔法で西の神殿……アディルガ神殿の近くに飛んだのまではよかった。
神殿の入り口で俺は手足が冷たくなる感覚と酷い吐き気に襲われ、胸元のシャツを握りしめてその場に蹲ってしまった。
その後のことは何も覚えていない。意識を失う直前、地面に魔法陣が浮き出たのが見えた。魔女がその場で転送魔法を使って戻ってきたのだろう。
(どうして……)
神官に会ってすらいないのに……。
『神殿に行ったとしてもあなたは祝福を受けることはできないわ』
「……っ!」
魔女の言葉が脳裏に浮かぶ。そう告げられた時、俺はその言葉を信じなかった。あの平民の治癒魔法では痛みを全く感じなかったからだ。
(だから俺は許されたんだと……)
そう思っていたのに……。
神殿を前にした時のあの感覚が蘇り、俺は胸元のシャツを握りしめた。すると布越しに微弱な魔力が手のひらに感じた。俺はそっとシャツの中から首飾りを取り出した。
細い革ひもの先端に歪な形をしたフクロウの木彫りがぶら下がっている。
(今ではこうして強く握りしめないと感じ取れなくなってしまっている……)
あの時吐き気に襲われた瞬間、咄嗟に胸元に隠していた首飾りを握りしめたら僅かだけ身体が楽になった。……だがそれだけで結局最後は意識を手放してしまった。
(なぜ……)
なぜ、こいつの治癒魔法だけは痛みを感じないんだ? 俺は手のひらを広げフクロウの木彫りを見た。
木彫りに残された魔力……。そして神殿に入ることが出来なかったこと……。
(……まさか)
これのせいで俺は神殿に入れなかった……のか? そう考えた瞬間ゾッと背筋が震えた。
(……あいつはヴァルアラ信仰者……じゃない?)
いや、違うと俺は首を振った。なまりはあったがあいつはセリオス語を話していたし、今いる場所は帝国内だ。第一この世界で治癒神はヴァルアラ神だけだ。他の治癒神などこの世界に存在しない。
(存在……しない)
俺はフクロウの木彫りを握りしめ、自分にそう言い聞かせた。
五日後、俺は再び魔女と共に今度は東側にある神殿に向かった。俺が再度神殿に行くと告げた時、魔女は何も言わなかった。そして俺はフクロウの木彫りを部屋に置いていくことにした。
一度浮かんだ疑念はそう簡単に消えることはなかった。絶対ないと言いながらも、もしかしたらと何度も考えてしまう。
「胸が苦しいの?」
姿を変え東の神殿が遠くに見える場所に移動した俺は、魔女の言葉で自分が胸元のシャツを握っていることに気付いた。
「大丈夫だ」
俺は胸元のシャツから手を離し、神殿に向かって歩き出した。……無意識だった。
(まさか手元にないだけでこんなにも不安に駆られるなんて……)
疑念を抱きながらも俺はあのフクロウの木彫りを手放すことが出来なかった。俺は不安を振り払うように頭かぶりを振った。
そして神殿を前にして俺は……再び意識を失った。
‟この子の前世はどれほどの罪を犯したのでしょうか„
”ヴァルアラ神のお怒りはそう簡単には消えないでしょう„
‟ああ、なんて罪深い子……„
うるさい。
‟力も使えないどころか、ヴァルアラ神の怒りを買っているなど……お前は一族の恥でしかない„
‟お前みたいな役立たずが弟だなんて、一層死んでくれたほうがいい„
‟本当にな„
黙れ!
そう叫ぶが口から出てくるのは掠れた息だけ。
苦しい。苦しい。苦しい。
俺の前世の罪はあとどれくらい償わなければならない?
この苦しみはいつまで続くんだ?
‟おにいさま……わたしはまっています。ずっと……ずっとまっています„
漆黒の髪の小さな少女がアメジストの瞳から大粒の涙を流しながら祈るように手を握る姿が浮かぶ。
(ビビ……)
手を伸ばすが彼女には届かなかった。意識が粘りのある泥水のような闇に飲み込まれる。
(誰か……たすけ……)
朦朧とする意識の中、不意に誰かの手が額に触れてきた。
‟いたいの、いたいの、とんでいけ„
陽だまりのような暖かな声とともに、優しい眼差しを浮かべた漆黒の瞳と目が合った。
瞼を持ち上げると見慣れた天井が視界に入った。
「……俺……っ!」
頭に走った激痛に俺は顔を顰めた。魔女の転送魔法で西の神殿……アディルガ神殿の近くに飛んだのまではよかった。
神殿の入り口で俺は手足が冷たくなる感覚と酷い吐き気に襲われ、胸元のシャツを握りしめてその場に蹲ってしまった。
その後のことは何も覚えていない。意識を失う直前、地面に魔法陣が浮き出たのが見えた。魔女がその場で転送魔法を使って戻ってきたのだろう。
(どうして……)
神官に会ってすらいないのに……。
『神殿に行ったとしてもあなたは祝福を受けることはできないわ』
「……っ!」
魔女の言葉が脳裏に浮かぶ。そう告げられた時、俺はその言葉を信じなかった。あの平民の治癒魔法では痛みを全く感じなかったからだ。
(だから俺は許されたんだと……)
そう思っていたのに……。
神殿を前にした時のあの感覚が蘇り、俺は胸元のシャツを握りしめた。すると布越しに微弱な魔力が手のひらに感じた。俺はそっとシャツの中から首飾りを取り出した。
細い革ひもの先端に歪な形をしたフクロウの木彫りがぶら下がっている。
(今ではこうして強く握りしめないと感じ取れなくなってしまっている……)
あの時吐き気に襲われた瞬間、咄嗟に胸元に隠していた首飾りを握りしめたら僅かだけ身体が楽になった。……だがそれだけで結局最後は意識を手放してしまった。
(なぜ……)
なぜ、こいつの治癒魔法だけは痛みを感じないんだ? 俺は手のひらを広げフクロウの木彫りを見た。
木彫りに残された魔力……。そして神殿に入ることが出来なかったこと……。
(……まさか)
これのせいで俺は神殿に入れなかった……のか? そう考えた瞬間ゾッと背筋が震えた。
(……あいつはヴァルアラ信仰者……じゃない?)
いや、違うと俺は首を振った。なまりはあったがあいつはセリオス語を話していたし、今いる場所は帝国内だ。第一この世界で治癒神はヴァルアラ神だけだ。他の治癒神などこの世界に存在しない。
(存在……しない)
俺はフクロウの木彫りを握りしめ、自分にそう言い聞かせた。
五日後、俺は再び魔女と共に今度は東側にある神殿に向かった。俺が再度神殿に行くと告げた時、魔女は何も言わなかった。そして俺はフクロウの木彫りを部屋に置いていくことにした。
一度浮かんだ疑念はそう簡単に消えることはなかった。絶対ないと言いながらも、もしかしたらと何度も考えてしまう。
「胸が苦しいの?」
姿を変え東の神殿が遠くに見える場所に移動した俺は、魔女の言葉で自分が胸元のシャツを握っていることに気付いた。
「大丈夫だ」
俺は胸元のシャツから手を離し、神殿に向かって歩き出した。……無意識だった。
(まさか手元にないだけでこんなにも不安に駆られるなんて……)
疑念を抱きながらも俺はあのフクロウの木彫りを手放すことが出来なかった。俺は不安を振り払うように頭かぶりを振った。
そして神殿を前にして俺は……再び意識を失った。
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