110 / 282
本拠地突入編・1
教皇、凶行に及ぶ
しおりを挟む110-①
聖女シルエッタが転生の儀の準備を開始したその頃、勇者リヴァルはソウザン城の地下深くの地下牢に幽閉されていた。
両手に嵌められた手枷は、力を吸い取る特殊なものらしい。勇者だけが持つと言われる、光の力を操る《光術》は使えず、身体能力も著しく低下している。
どれくらいの日数が経ったのか……朝も昼も分からない薄暗い地下牢の壁に、リヴァルは力無くもたれかかっていた。
「勇者様、お食事をお持ちしました」
「ああ……君か」
リヴァルは食事を運んで来た少女に微笑みかけた。
少女の名はフェイア=ライクといった。年齢は12歳、髪は短く切り揃えられ……銀髪であった。
彼女が言うには、2年前……両親が暗黒教団に入信し、それ以降すっかり人が変わってしまった両親に心を痛めながらも、彼女は両親に従うしかなく、暗黒教団の儀式に参加させられる内に、栗色だった髪の毛が変色したのだそうだ。
彼女は周囲を見回すと、懐からパンとリンゴを取り出し、こっそりとリヴァルの食事のトレーの上に乗せた。
彼女はリヴァルの為に、食べ物をこっそり持って来たり、外の情報を教えてくれたりと、何かと世話を焼いてくれていた。
「しっかり食べて下さいね?」
「すまない……君の両親を助けると約束したのに……」
「私が……何とか看守の目を盗んでこの牢屋の鍵を取ってきます!!」
「いけない!! そんな危険な真似をしては──」
「おい!! 何をしている?」
リヴァルがフェイアを制止しようとしたその時、見回りの看守がやってきた。
「あっ、はい!! 今すぐ戻ります!!」
フェイアは小声で、(今日の夕食の時に)と言い残し、慌ただしく行ってしまった。
110-②
「勇者様……勇者様!!」
「ん……? フェイアか?」
微睡みの中にいたリヴァルは、フェイアの呼びかけで目を覚ました。
「勇者様……取ってきました!!」
フェイアは自慢気に笑うと懐から鍵を取り出した。
「危険な真似を……」
「今、鍵を開けますから!!」
フェイアは牢屋の鍵を開けた。
「ごめんなさい!! 手枷の鍵までは……」
「良いんだ、ありがとうフェイア。一緒に……ここから出よう!!」
「ハイ!! こっちです!!」
リヴァルは手枷を嵌められたまま走り出した。
「むっ!? だ……脱走者め!!」
「フェイア、隠れているんだ!!」
「は、はいっ!!」
剣を抜いて襲いかかって来る看守に向かってリヴァルは走り出した。
「脱走者め、逃がさんぞ!!」
「とぁーっ!!」
「ぐへっ!?」
振り降ろされた剣を真上に跳躍して回避したリヴァルは、空中で素早く身を翻して、看守の顔面に回し蹴りを叩き込んだ。
蹴りを受けた看守は勢いよく吹っ飛び、後方の石壁に叩き付けられてズルリと崩れ落ちた。
「大丈夫、気を失ってるだけだよ、行こう」
その後もリヴァルは次々と襲いかかって来る信徒達を鎮圧しながら突き進んだ。
流石は勇者である。光術を封じられ、身体能力を低下させられ、手枷で動きを封じられてなお、足技のみで、武装した信徒や衛兵達を蹴散らしてゆく。
あと少しで地上へと続く出口が見えるというその時だった
「きゃあああああ!?」
「フェイア!?」
フェイアが信徒に捕まってしまった。フェイアを捕らえた信徒の手にはナイフが握られている。
「嫌ぁぁぁぁぁ!! 助けて、勇者様ぁぁぁぁぁっ!!」
フェイアを抱えた信徒は走り去ってしまった。リヴァルが慌てて後を追う。逃げる信徒は一つの部屋に入っていった。
「待てっ!!」
リヴァルは信徒を追って部屋に突入した。
「フフフ……よく来たな、勇者リヴァルよ!!」
「お前は……!!」
突入した部屋は暗黒教団の大聖堂、そして待ち構えていたのは漆黒の法衣を纏った男だった。男は右腕でフェイアを抱き抱えるように拘束しており、左手にはナイフが握られている。
「ようこそ、リヴァル=シューエン……光の勇者よ!! 私が暗黒教団の頂点に立つ『教皇』である!!」
「お前が……暗黒教団の首魁か!!」
「フン……首魁だと……それではまるで山賊や野盗の親分ではないか、この無礼者め」
「罪無き人々を苦しめているという点で、お前達など……野盗山賊と変わらないッッッ!!」
「違うな……私は無力感に苛まれ、苦しむ者達を救ってやっているだけだ」
「何だと……!?」
「お前のように、強大な力を持つ者には分かるまい。三年前の大戦で多くの者が命を落とした……残された家族は、友は、恋人は怒り、悲しみ、嘆いた。『もっと自分に力があれば……』『大事な人を殺した魔族が憎い』『すぐに助けに来なかった王国軍が憎い』とな……しかしながら、哀しいかな、彼らは哀れなほど無力だった。魔族に復讐を挑む事も、粛清を恐れて王家を批判する事も出来ず……」
両手を広げ、教皇は語る。自己陶酔に浸っている教皇に、リヴァルは強い嫌悪感を抱いた。
「私は彼らの報われぬ想いを……ドス黒く暗黒に染まる魂を解放し、救済する為に、信徒達に影魔獣という力を……おや?」
教皇は語るのを中断した。
「せっかくこの私が直々に有難い話をしているというのに……どうやらお前はこの小娘が気になって話に集中出来んらしいな……」
「なっ!? 待て──」
“グサリ!!”
教皇が……フェイアの喉元にナイフを突き立てた。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる