斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
2 / 180
勇者(?)召喚編

斬られ役、異世界に立つ……前の日

しおりを挟む

 2-①

「よぉっしゃあああああーーー!! やったるでーーー!!」

 梅田スカイビル内に用意された一室で雄叫びを上げている男がいた。

 彼の名は唐観武光からみたけみつ、劇団《舞刃団ぶじんだん》に所属する時代劇俳優である。

 舞刃団は大阪を拠点に活動する六人程の小さな劇団で、《殺陣たて》…いわゆる時代劇アクションのショーを各地のイベント等で披露して回っている。
 その日、武光は燃えていた!! それはもう他の舞刃団のメンバーに若干引かれるほど燃えていた!!

 何故なら……その日は武光にとって初めての主役だったからだ。

 舞刃団結成から七年、最古参のメンバーであるにもかかわらず、武光は今の今まで主役を張った事が無かった。
 舞刃団では、経験を積ませる意味も込めて、入団二年目くらいで、新人に主役をさせるのだが、武光の場合、イベントが急遽中止になったり、音響係の病欠で急遽代役に入らなくてはいけなくなったりと、不運が重なりに重なりに重なり倒して、主役を張るのに今の今までかかったのだ。

 七年もの間、斬られて、斬られて、斬られ続けて、刀のサビになり続けた男が、ようやく華々しく戦える場を与えられたのだ、アホの子みたいに雄叫びを上げるのも無理は無いというものだ。

 今日は、梅田スカイビル下のイベントステージで、20分程の尺のショーをやる事になっている。雲一つ無い快晴!! 大勢のギャラリー!! 武光のような役者バカなれば、心躍らざるを得ないというものだ。

 ……あと10分で舞刃団の出番である。武光達、舞刃団のメンバーは舞台袖ぶたいそでに向かった。

 2-②

 ……そして舞台は幕を開けた。

 武光は上手かみて(=客席側から見て右側)の舞台袖ぶたいそでに隠れて舞台の様子をうかがっていた。
 舞台上では悪役である四人組の浪人ろうにんが、彼らの悪事を偶然目撃した町娘を捕らえている。

「見られたからには生かしちゃおけねぇ……」
「運が悪かったと諦めるんだなぁ……」
「お、お許し下さいませ!!」

 浪人B役の下原君と浪人C役の小野君が町娘役の岩野さんの両腕を捕らえて下卑げびた笑いを上げる。
 武光は拳をぎゅっと握った。もうすぐ出番だ……鷲矢わしやさんが抜刀して刀を振り被ったら、すかさず『待て!!』と言って登場する……

 頭領役の四ツ橋さんが片手を上げた。

「………この者を斬れぃっ!!」
「はっ!!」

 浪人A役の鷲矢さんが抜刀して、上段に振り被った!!

 よっしゃ……今や!!

「待──」
「お待ちなさいッッッ!!」

 武光が舞台上に登場しようとしたその瞬間、突然観客を掻き分けてフード付きのマントを羽織った人物が舞台上に上って来た。

「卑劣な真似を……そのご婦人を離しなさい!!」

 フードを被っているせいで顔はよく見えないが、声や体格からして女性だろう。
 観客のおっちゃんが、『ええぞーねーちゃん!!』などと声援を送る。完全にショーのキャストだと思っているようだ。

 (いや……全然良くないし!!)と武光は思った。

 こういう観客はたまにいる……ショーを見ているうちにテンションが上がり過ぎて舞台上に上ってきてしまう客が。
 武光は舞台袖から出て行こうとしたが、四ツ橋さんの目が『待て』と言っていた。『目は口ほどに物を言う』とは良く言ったもので、七年も一緒に舞台に出ていると、目だけで相手の言わんとしている事が分かる時がある……ここは舞刃団一のベテランである四ツ橋さんに任せるしかない。

「飛んで火にいるなんとやら……こやつも捕らえろ!!」
「はっ!!」
「なっ、離しなさい!!」

 四ツ橋さんは下原君と小野君に命じて、舞台上に上って来た観客を下手しもて(=客席側から見て左側)に移動させた。その間、岩野さんには鷲矢さんが付いている。

「ふっふっふ……二人とも始末してくれる!!」

 四ツ橋さんの目が『今や、出てこい!!』と言っている。ベテランの機転に感服しつつ、武光は腹の底から声を出した。

「待てぇぇぇいッッッ!!」

 武光は、舞台袖から勢い良く飛び出した。

「何奴!?」
「その二人を返してもらおう…………はぁっ!!」 

 武光は浪人達の間に割って入り、町娘とフードの女を助け出した。アドリブで殴りかかったが、三人とも上手く対応してくれた。
 これから舞台上では激しい殺陣たて(=アクション)が展開される。観客に舞台上にいつまでも留まられては危険だ。先に上手の袖にハケた(=隠れた)町娘に続いて、武光はフードの女を上手側の舞台袖に誘導した。

「危ないからここで大人しくしとってください!! 絶対に出てきたらあきませんよ!?」

 フードの女が小さく頷いたのを見て、武光は再び舞台に戻り、悪役達に啖呵を切った。

「貴様らの悪業……天が許しても、この私が許さん!!」
「おのれ……者共、此奴こやつを斬れぃっ、斬り捨ていっ!!」
「「「応ッ!!」」」

 BGMが流れ出し、下手側にいる悪役達が一斉に抜刀した。

「でやぁーっ!!」
「うおおーっ!!」

 浪人B・Cと続けて上段から袈裟掛けに斬りかかって来るのを左右に身体を振ってかわす。

「だあーっ!!」
「おおおっ!!」
「ハッ!!」

 抜刀!! 頭領と浪人Aが上段から斬りかかって来ようとする所を抜刀して牽制する。二人がジリジリと下がりながら刀を構え直す。
 武光はそれに合わせて、両手で大きな円を描くように腕を回した後、刀を右耳の横で垂直に立てて《八双はっそう》に構えた。
 実戦ならばそんな大袈裟な動きをしていたら斬られてしまうだろうが、これは、《見得みえ》を重視した時代劇ならではの《芝居のウソ》という奴だ。
 その後も武光は四方から次々と迫り来る斬撃をかわし、受け流し、受け止め、さばいた……と、文字に起こすと、武光がまるで剣の達人のように見えるが、殺陣とは元々、次に誰がどう動くか、順番があらかじめ決まっているのだ。

 もっとも……『順番があらかじめ決まっている』という事を観客に感じさせないようにするには、かなりの鍛錬が必要である事を付け加えておく。

 そして殺陣はクライマックスを迎えた。武光の左右の斜め前と左右の斜め後ろに立った四人が一斉に刀を振り上げようとするのに対し、武光は刀を上段に構えて《四方斬り》の態勢になった。

 《四方斬しほうぎり》とは、自分の左右の斜め前と左右の斜め後ろに立った敵に対して、∞の記号を描くように刀を振るい、その名の通り、四方から襲いかかってくる敵を四連続の袈裟斬りで瞬時に斬り倒す技だ。

 全身の脱力と重心の素早い移動、刀の正確なコントロールが要求される技で、少しでもモタつくと一気に『順番があらかじめ決まっている』感が出てしまい、観客の子供とかに『あのワルモン、今のウチにあの人斬ったらええやーん』と言われてしまう技なのだ。

 四人が刀を振り被った!! 全身の力を抜いて刀を振り下ろす!!

「うおおおっ!!」
「ぐはぁっ!!」

 一人目!! 右斜め後ろの敵を、上半身を捻りつつ袈裟懸けに刀を振り下ろす!!

「せいっっっ!!」
「ぐっ!?」

 二人目!! 一人目を斬った勢いをそのままに、今度は上半身を左に捻って上段に構え、再び袈裟懸けに刀を振り下ろす!!

「はあああっ!!」
「ぬぉっ!?」

 三人目!! ここで動きを止めてはいけない。今度は重心を右前に持って来て刀を振りかぶり、上段から右斜め前の敵を袈裟懸けに斬る!!

「どりゃあっ!!」
「ぐああっ!!」

 ラスト!! 今度は左に重心を移動しながら上段に構えて最後の一人を袈裟懸けに斬る!! 最後の一人を斬り終わった時に、刀を “ピタッッッ!!” と止めるのが、格好良く見せるコツだ。

「うおおおっ!!」

 止まる事無く四方斬りを終えた武光は、すかさず刀の切っ先を左後方に向けて、左の《脇構え》になると、その場でくるりとターンして水平に刀を振り抜いた。周囲の四人が斬られたリアクションをしながら、ぐるりとその場で一回転する。

 “……パチンッ!!”

 そして、武光が刀をさやに収めると、四人の悪役は四方に倒れた。そのさまは、あたかも花のつぼみが開くかのようであった。

 ……まぁそれも、そう見えるようにタイミングや位置取りを計算して、斬られ役が斬られているのだが。

 観客から大きな拍手と歓声が上がる。途中でハプニングはあったものの、ショーは大成功だ。

 武光は観客達に深々と頭を下げた。

 観客への挨拶も終わり、退場しようと上手かみての方を向いた時、武光は、あのフードの女がいなくなっているのに気付いた。

「まぁ……ええか」

 だが、武光はこの後、ちっとも良くない出来事に巻き込まれる事を知る由も無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...