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勇者(?)召喚編
斬られ役、拝謁する
しおりを挟む7-①
武光とナジミは城へと向かう馬車に揺られていた。
馬に乗って馬車を先導する武官にチラリと目をやってナジミが言った。
「武光様……今更ですが、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「さあな、でも打首は嫌やろ? 俺も帰られへんのは困るし……やるしかないやろ」
現在武光が向かっているのが、本島中央から北北西……時計の文字盤で言えば10時と11時の間辺りに位置する、王都 《ダイ・カイト》である。11時の位置にある《アスタト村》から見れば南西に当たる。
「あっ武光様、見えてきましたよ。あれが王都ダイ・カイトです」
「何やあれ……凄っ」
馬車に揺られる事およそ1時間、武光の視線の先に王都ダイ・カイトがその威容を現した。
王都ダイ・カイトは街全体が高さ30メートルはあろうかという高い防壁に囲まれており、防壁の上には数十メートル置きに巨大な弩砲が据え付けられ、アナザワルド王国の旗がはためいている。
武光は巷で人気の、巨人が進撃してくるマンガかよと思った。
二人を乗せた馬車は壁の手前まで到達すると、巨大な門をくぐり、壁の内側に入った。王都と言うだけあって人が多い。が……行き交う人々の表情は、どことなく暗い。
「何か……雰囲気重いなぁ」
「……ええ。父や子、兄や弟、そして夫や恋人……愛する家族が魔王との戦いに駆り出されて、みんな不安な日々を送っているのです」
「そっか……」
二人を乗せた馬車は、城下町を抜けた先の小高い山の上に建つ、西洋風の石造りの城の前で停まった。馬車を先導していた武官が馬車の扉をコンコンとノックした。
「《アナザワルド城》に到着致しました。降りて下さい」
「た……武光様、私……吐きそうです!!」
「落ち着け、こういう時は深呼吸や、ハイ吸って!!」
「すぅぅぅーーー!!」
「ゆっくり吐いて!!」
「はぁぁぁーーー!!」
「止めて!!」
「むぐっ!? んむむむ………………ぶはぁっ!? し、死んじゃいますよ!!」
「そんだけ元気あったら乗り切れるわ。ええか、俺はこう見えていざって時の度胸だけはあるつもりや。俺を信じて、胸張って堂々としてたらええねん」
武光の言葉に、ナジミは力強く頷き、馬車の扉に手をかけた。
「分かりました、行きましょう!! …………あ、あれっ?」
「……その扉、外開きやぞ」
7-②
武光とナジミは城内の案内役に先導されて、謁見の間の前まで案内された。案内役が、扉をノックし、大きな扉の前で叫んだ。
「アスタト村の巫女、ナジミと異世界の戦士、唐観武光を連れて参りました!!」
中から『御目通りを許可する』という声がして、扉が左右に開かれた
謁見の間は、かなり奥行きのある部屋で、部屋の中央には赤いカーペットが敷かれ、部屋の中央奥は床から数段高くなっており、豪華な装飾が施された椅子が置いてあった。おそらくあれが玉座、そして……それに座っているのが、国王だろう。武光は、そう見当を着けた。
武光から見て、カーペットの右側には、鎧を纏った武官達が、カーペットを挟んで左側には、ゆったりとした服を着た文官達がずらりと並んでいる。
好奇、疑心、驚愕……様々な感情の込められた視線が、武光達に突き刺さる。これはかなりのプレッシャーだ。武光が隣を歩くナジミに、チラリと視線を向けると、ナジミは物凄くカクンカクンしていた。というか、同じ方の手と足が出ている。
「そこで止まれ」
部屋の中央辺りまで歩いてきた所で、国王に声をかけられた。それを聞いた武光は、左手で鞘の鯉口(=鞘の根元)の辺りを掴んで竹光を帯から鞘ごと抜くと、右手に持ち替えて正座し、左右の手を前に着いて平伏した。
帯から抜いた刀は、反っている方を自分の方に向けて体の右側に置いてある。
これは、刀を敢えて抜刀しにくい向き・位置に置くことで敵意が無い事を相手に示す所作である。
日頃から悪代官や悪徳大名の手下役として平伏し続けている武光のこと、その動きはナジミが一瞬見とれる程に無駄が無く、スムーズであった。武光の姿を見て、ナジミも慌てて跪く。数秒の間の後、頭上から重厚な声が降ってきた。
「面を上げよ」
「……ははっ!!」
武光は下げていた頭を上げ、声の主を見据えた。玉座に座っている壮齢の男は眼光鋭く、口の周りから顎にかけて立派な髭を蓄え、獅子の如き威圧感をその身に纏っていた。
「そなたか……異世界から来た戦士と言うのは」
「……はっ、唐観武光と申します!!」
国王は小さく頷くと、武光をジッと見た。
目を逸らしたら殺られる。そう感じた武光は、(これは舞台……これは舞台……)と自己暗示をかけながら、重圧感に耐えて、国王をジッと見返した。重苦しい空気が場を支配してゆく。しばらく視線を交えていた二人だが、不意に、国王がニヤリと笑った。
「……良かろう。儂がアナザワルド王国、第13代国王、ジョージ=アナザワルド3世である」
「……ははっ」
武光は再び頭を下げた。
「武光とやら、そなた……なかなかの胆力だな。儂はどうやら人に威圧感を与えてしまうらしい。ここにいる将軍や文官達ですら、儂と話す時は怖がってなかなか目を合わせてくれぬのだが……」
アナザワルド王は自嘲気味に笑った。
「そなたの隣におる巫女に、異世界から魔王を倒せる勇者を連れてくるように命じた時も、威圧感を与えぬよう、儂なりに最大限優しく命じたつもりだったのだが、すっかり怖がらせてしまったようでな。無理なら断っても良いと言ったのだが……『出来る』と言わねば処罰されるとでも思ったのか、そこの巫女は必死に自信満々なフリをして『任せて下さい!!』と言っておったぞ」
いや、処罰どころか打首にされると思ってましたよこの人。武光はナジミの顔を横目でチラリと見たが、ナジミは顔を真っ青にして、しゅんとしていた。
「まぁ、大臣達や将軍達の前で、儂に出来ると宣言した以上、もし紛い物を連れてこようものなら……処刑せねばならなかったがな」
アナザワルド王の目に威圧感が戻った。ナチュラルに『処刑する』という言葉が出てくるあたり、目の前の人物が絶対的権力者で、彼の一言で、即座に自分達の首は飛ぶという事を思い知らされた武光は、改めて気を引き締めた。
「して、武光よ……そなた戦の経験は?」
「……某、19の頃より、(イベントで)各地を転戦 (兵庫とか京都とか奈良とか……)、刀を振るう事六十数戦、(芝居なので)一度たりとも傷を負った事がありませぬ」
「ナジミよ……この者の申す事、真実であろうな?」
「は、はいっ。む、向こうの世界で私が悪逆の徒に捕らえられた際、私を捕らえた四人の悪党を瞬時に斬り捨ててございます(……芝居でしたけど)」
「ふむ……では次の質問だ……」
……その日の謁見の様子が城の記録に残されている。
『アスタトの巫女ナジミが異世界より召喚せし戦士、唐観武光。
華やかさはないが、実直な武人と見受けられ、国王陛下や大臣達の問いにも常に堂々と答え、その胆力を国王陛下も賞賛した。
国王陛下の『魔王の討伐を果たせるか?』との問いに、『へのつっぱりはいらんですよ!!』と応じる。
言葉の意味はよく分からないが、とにかく凄い自信であった』
……と。
ちなみに……武光が国王に言い放った言葉は、武光の好きな超人プロレス漫画の主人公が、とんでもない困難に挑まなければならない時に、自分を奮い立たせる為に言う台詞だが、異世界の人々がそれを知る由もなかった。
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