33 / 180
用心棒編
姫、売り込む
しおりを挟む33-①
武光がラウダノン邸で、タイラーファミリーの首領、シジョウ=タイラーと対面していたのとほぼ同時刻、ミトはカラマク寺院で、幻璽党の頭領、ライチョウ=トモノミナと対面していた。
「貴女ですか……襲撃者を撃退し、私の部下を救ってくれたというのは」
「ええ、ジャイナ=バトリッチと言います」
「それはそれは、私が幻璽党の頭領、ライチョウ=トモノミナです……なんとお礼を言って良いのやら」
ライチョウの一見紳士的な振舞いが所詮上辺だけのものだという事を、幼い頃から王家の姫として、ガチの紳士淑女と関わって来たミトは瞬時に見抜いていた。
「能書きは不要です。単刀直入に言います……私を雇いなさい」
「これはこれは……貴女のようなうら若き乙女が私の配下になりたいと?」
「自惚れないで、私は貴方のような下賤の輩の配下になる気など毛頭ありません。私は『雇いなさい』と言ったのです」
ミトのふてぶてしい物言いに、ライチョウの周りにいた取り巻き達が色めき立った。ちなみにミトの場合は武光と違って演技ではなく “素” である。
「ライチョウさん……コイツ、ワルモノか?」
ライチョウの背後に控えていた鬼のように恐ろしい顔をした、筋骨隆々たる大男が動こうとしたのをライチョウが手で制した。
「下がりなさい、客人に失礼です」
ミトには分かっていた。これも、ただ自分の器を大きく見せようとしているだけだ。先程から、ライチョウのこめかみには青筋が浮いて、ピクピクと動いている。
「タイラーファミリーには恨みがあります。奴らはどんな手を用いても必ず地獄に叩き落とします!!」
「その『どんな手を使ってでも』の内の一手が我々を利用する事だと?」
「ええ、そうよ。私一人では骨が折れるもの。つべこべ言わずにさっさと私を雇いなさい、タイラーファミリーに勝ちたいのでしょう?」
「貴女を雇えばそれが出来ると?」
「……へのつっぱりはいらんですよ!!」
ミトの発した謎の言葉に、ライチョウはキョトンとした。
「……異国の友人が教えてくれた言葉です」
異国の言葉は分からないが、とにかく凄い自信がある時に使う言葉なのであろうという事を、ミトの雰囲気からライチョウは察した。
「良いでしょう……貴女を雇います。一人殺る毎に5万出しましょう」
「それで構わないわ」
「交渉成立です。ベン、こちらの方を客人用の部屋に案内して差し上げなさい」
「ライチョウさん……分かったんだな。一緒に来て欲しいんだな」
ライチョウに促されて、先程の鬼のような大男が立ち上がり、ミトについて来るように言った。ミトは、大男の後に付いて応接の間を出た。
33-②
大男に先導されて、ミトはカラマク寺院内にある客人宿泊用の部屋に連れてこられた。
「ここがあんたの部屋なんだな……それじゃあ」
「あっ、ちょっと待って」
部屋を出て行こうとした大男をミトが引き止めた。
「少し、お話ししませんか?」
大男はキョロキョロと左右を見回した。
「貴方ですよ、貴方」
「話? おれと? どうして……?」
「あの冷酷な目をした連中の中で、貴方だけは優しい目をしていたから」
「み、みんなはおれのこと角の生えてない鬼だって怖がってる。あんたはおれのこと怖がらないのか?」
それを聞いてミトはクスリと笑った。
「全然。貴方、私の父と一緒で見た目で損しちゃう人でしょう? みんなと仲良くしたいのに、近付こうとすると相手が怖がって逃げてしまう」
「……うん」
大男は頷いた。
「私はジャイナ=バトリッチ、貴方のお名前は?」
「ベン……ベン=エルノマエ」
「ベン……貴方はどうして幻璽党なんかにいるの?」
「おれ……おれは……騎士になりたいんだな」
ミトの問いに、ベンはもじもじと照れくさそうに答えた。
「貴方が……騎士に?」
意外な答えにミトは驚いた。
「お、おれのにいちゃんは、この街を守る騎士だったんだな。にいちゃんは強くて、優しくて、子供の頃から街のみんなにバケモノの子だってイジメられてたおれをいつも助けてくれた……」
「貴方のお兄さんの名前って、もしかして……クロウギ=エルノマエ?」
「にいちゃんを知ってるのか?」
「ええ」
ミトは思い出していた……二年前の事だ。
王都ダイ・カイトにて国王の生誕記念式典が開かれた。式典には各地の領主が招かれ、その中には当時ボゥ・インレを治めていたラウダノン伯爵もいた。そしてその伯爵の警護をしていた騎士が、クロウギ=エルノマエだった。
クロウギ=エルノマエは貴公子然とした精悍な騎士で、ラウダノン伯爵も彼の事を、知勇兼備にして忠義心篤く、領民にも慕われている自慢の家臣だと父に語っていたのをミトは覚えている。
クロウギ=エルノマエは、魔王の軍勢がボゥ・インレに侵攻してきた際に、ラウダノン伯爵の指揮の下、街を守るべく魔王軍相手に奮戦したものの衆寡敵せず、ラウダノン伯爵共々戦死したと聞いている。
「にいちゃんは死んじまった……だから、おれがにいちゃんの代わりにこの街を守るんだな。ライチョウさんは街の人を困らせるタイラーファミリーをぶっ潰したら、街のみんなはおれのこと騎士として認めてくれるって言ったんだな……あれ? ジャイナ?」
ミトは怒りに打ち震えていた。目の前の心優しき男の純粋な願いを利用し、弄ぶライチョウに。やはり幻璽党は壊滅させねばならない。
「……ジャイナ?」
「えっ、ああ……ごめんなさい。また……お話ししましょうね。それじゃ」
「おう!!」
ベンが去ったのを確認したミトは、用意された個室に入ると、扉をしっかりと閉めた後、カヤ・ビラキを通じて武光に通信を送った。
「……我、潜入に成功せり」と。
0
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる