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用心棒編
姫、売り込む
しおりを挟む33-①
武光がラウダノン邸で、タイラーファミリーの首領、シジョウ=タイラーと対面していたのとほぼ同時刻、ミトはカラマク寺院で、幻璽党の頭領、ライチョウ=トモノミナと対面していた。
「貴女ですか……襲撃者を撃退し、私の部下を救ってくれたというのは」
「ええ、ジャイナ=バトリッチと言います」
「それはそれは、私が幻璽党の頭領、ライチョウ=トモノミナです……なんとお礼を言って良いのやら」
ライチョウの一見紳士的な振舞いが所詮上辺だけのものだという事を、幼い頃から王家の姫として、ガチの紳士淑女と関わって来たミトは瞬時に見抜いていた。
「能書きは不要です。単刀直入に言います……私を雇いなさい」
「これはこれは……貴女のようなうら若き乙女が私の配下になりたいと?」
「自惚れないで、私は貴方のような下賤の輩の配下になる気など毛頭ありません。私は『雇いなさい』と言ったのです」
ミトのふてぶてしい物言いに、ライチョウの周りにいた取り巻き達が色めき立った。ちなみにミトの場合は武光と違って演技ではなく “素” である。
「ライチョウさん……コイツ、ワルモノか?」
ライチョウの背後に控えていた鬼のように恐ろしい顔をした、筋骨隆々たる大男が動こうとしたのをライチョウが手で制した。
「下がりなさい、客人に失礼です」
ミトには分かっていた。これも、ただ自分の器を大きく見せようとしているだけだ。先程から、ライチョウのこめかみには青筋が浮いて、ピクピクと動いている。
「タイラーファミリーには恨みがあります。奴らはどんな手を用いても必ず地獄に叩き落とします!!」
「その『どんな手を使ってでも』の内の一手が我々を利用する事だと?」
「ええ、そうよ。私一人では骨が折れるもの。つべこべ言わずにさっさと私を雇いなさい、タイラーファミリーに勝ちたいのでしょう?」
「貴女を雇えばそれが出来ると?」
「……へのつっぱりはいらんですよ!!」
ミトの発した謎の言葉に、ライチョウはキョトンとした。
「……異国の友人が教えてくれた言葉です」
異国の言葉は分からないが、とにかく凄い自信がある時に使う言葉なのであろうという事を、ミトの雰囲気からライチョウは察した。
「良いでしょう……貴女を雇います。一人殺る毎に5万出しましょう」
「それで構わないわ」
「交渉成立です。ベン、こちらの方を客人用の部屋に案内して差し上げなさい」
「ライチョウさん……分かったんだな。一緒に来て欲しいんだな」
ライチョウに促されて、先程の鬼のような大男が立ち上がり、ミトについて来るように言った。ミトは、大男の後に付いて応接の間を出た。
33-②
大男に先導されて、ミトはカラマク寺院内にある客人宿泊用の部屋に連れてこられた。
「ここがあんたの部屋なんだな……それじゃあ」
「あっ、ちょっと待って」
部屋を出て行こうとした大男をミトが引き止めた。
「少し、お話ししませんか?」
大男はキョロキョロと左右を見回した。
「貴方ですよ、貴方」
「話? おれと? どうして……?」
「あの冷酷な目をした連中の中で、貴方だけは優しい目をしていたから」
「み、みんなはおれのこと角の生えてない鬼だって怖がってる。あんたはおれのこと怖がらないのか?」
それを聞いてミトはクスリと笑った。
「全然。貴方、私の父と一緒で見た目で損しちゃう人でしょう? みんなと仲良くしたいのに、近付こうとすると相手が怖がって逃げてしまう」
「……うん」
大男は頷いた。
「私はジャイナ=バトリッチ、貴方のお名前は?」
「ベン……ベン=エルノマエ」
「ベン……貴方はどうして幻璽党なんかにいるの?」
「おれ……おれは……騎士になりたいんだな」
ミトの問いに、ベンはもじもじと照れくさそうに答えた。
「貴方が……騎士に?」
意外な答えにミトは驚いた。
「お、おれのにいちゃんは、この街を守る騎士だったんだな。にいちゃんは強くて、優しくて、子供の頃から街のみんなにバケモノの子だってイジメられてたおれをいつも助けてくれた……」
「貴方のお兄さんの名前って、もしかして……クロウギ=エルノマエ?」
「にいちゃんを知ってるのか?」
「ええ」
ミトは思い出していた……二年前の事だ。
王都ダイ・カイトにて国王の生誕記念式典が開かれた。式典には各地の領主が招かれ、その中には当時ボゥ・インレを治めていたラウダノン伯爵もいた。そしてその伯爵の警護をしていた騎士が、クロウギ=エルノマエだった。
クロウギ=エルノマエは貴公子然とした精悍な騎士で、ラウダノン伯爵も彼の事を、知勇兼備にして忠義心篤く、領民にも慕われている自慢の家臣だと父に語っていたのをミトは覚えている。
クロウギ=エルノマエは、魔王の軍勢がボゥ・インレに侵攻してきた際に、ラウダノン伯爵の指揮の下、街を守るべく魔王軍相手に奮戦したものの衆寡敵せず、ラウダノン伯爵共々戦死したと聞いている。
「にいちゃんは死んじまった……だから、おれがにいちゃんの代わりにこの街を守るんだな。ライチョウさんは街の人を困らせるタイラーファミリーをぶっ潰したら、街のみんなはおれのこと騎士として認めてくれるって言ったんだな……あれ? ジャイナ?」
ミトは怒りに打ち震えていた。目の前の心優しき男の純粋な願いを利用し、弄ぶライチョウに。やはり幻璽党は壊滅させねばならない。
「……ジャイナ?」
「えっ、ああ……ごめんなさい。また……お話ししましょうね。それじゃ」
「おう!!」
ベンが去ったのを確認したミトは、用意された個室に入ると、扉をしっかりと閉めた後、カヤ・ビラキを通じて武光に通信を送った。
「……我、潜入に成功せり」と。
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