斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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用心棒編

姫、弔う

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 46-①

 ヴァンプ=フトーは、ミトにぶん投げられた宝剣カヤ・ビラキをキャッチすると、ミトのもとに行き、カヤ・ビラキを差し出した。

「……確か、武光の所の監査武官だったな」
「え……ええ、ジャイナ=バトリッチです」
「……良い剣だ、乱暴に扱うのは感心しない」
「は、はい……」

 ヴァンプはカヤ・ビラキをミトに手渡すと、担いでいた荷物をそっと地面に置いた。布にくるまれて中身は分からないが、棒状の物を何本か束ねてあるようだ。

「これは……?」
「……東口で戦っていた者達の武器だ」

 そう言って、ヴァンプは包みを解いた。中身は、ひもで束ねられた剣だった。

「……とむらってやろうと思ってな。俺の故郷では昔から、『持ち主の生業なりわいに関わる道具には魂が宿る』と言われている。料理人の包丁や、漁師の船、そして……兵士が命を預ける武器。俺の故郷では持ち主が死んだ時は、子や弟子に受け継がせ、受け継ぐ者がいない時は道具に宿る魂を清め、弔う」

 言いながら、ヴァンプは背負っていた大剣のっ先を地面に突き刺した。

「……フン!!」

 ヴァンプがつかを握る両手に力を込めると、 “ドン!!” という大きな音と共に地面が掘り起こされた。
 ミトの目にはヴァンプは軽く力を込めただけのように見えたが、ヴァンプの足下には剣の束がすっぽりと収まりそうなくぼみが出来ていた。
 ヴァンプは遺品の剣を束ねている紐をほどくと、一振りずつ丁寧に窪みに横たえ始めた。

「わ、私も手伝います!!」

 そう言って、ミトはヴァンプの隣で剣を安置してゆく……が、途中である事に気付いた。

「あの……これで全部ですか?」
「……ああ、俺が駆けつけた時には敵は既に壊滅していたが、倒れていた十人の内、誰一人として敵に背を向けて倒れている者はいなかった。見事な戦士達だ」
「えっと……あの、ベンの武器は?」
「……ベン?」
「えっと、貴方と同じくらいの大男で、顔は怖いんだけどとても優しくて……」
「……俺が見つけたのはこの剣の持ち主の十人だけだ。周囲も探したが俺と同じくらいの体格の奴はいなかったが……」
「どういう事なの……」

 ヴァンプが到着した時点で敵は壊滅していた……という事は、ベンはそれまで生きていたという事だ。

 ……問題はその後だ、ヴァンプの言っている事が事実なら、ベンは東口の敵を壊滅させた後、重症を負ったまま姿を消してしまったという事になる。

 手傷を負った者はナジミの所へ行った後、傷を治療してもらい戦線に復帰する。戦いが始まる前日の作戦会議では、そういう手筈てはずになっていた。それはベンも重々承知していたはずなのに。
 意外と傷は浅かったのか……? いや、そんなはずはない。どう見てもあれは立っているのもやっとのはずの重症だった。

「……埋めるぞ」

 ミトの思考はヴァンプの言葉に中断された。

「えっ? あっ、はい」

 ミトとヴァンプは窪みに安置した剣に上から土を被せた。ヴァンプは土の上から、持っていた酒をかけた後、小さなさかずきを取り出し、自分も一口だけ飲んだ。

「……略式りゃくしきだが、武具を弔う時の儀式ぎしきだ、アンタもやるか?」
「はい」

 ミトはヴァンプから酒瓶と盃を受け取ると、ヴァンプがそうしたように、土の上から酒をかけた。

「……よし、その後、清めの酒を飲むんだ」
「はい」
「ちょっと待ったあああああ!!」

 ミトが、盃に酒をぎ、人生初の酒を口にしようとしたその時、リヴァル戦士団付きの監査武官、ダント=バトリッチが物凄い勢いで走ってきて、ミトから酒瓶と盃を取り上げた。

「貴女様にはまだ早いです、お酒は二十歳になってからっ!! ヴァンプさん、貴方は何を考えているのです!!」
「……いや、弔いの儀式をだな」

 普段の大人しさからは想像もつかないダントの剣幕けんまくに、豪傑ごうけつヴァンプもたじろいだ。

「このお方はまだ未成年なんです!!」
「……そうなのか? だが一口くらい……」
「黙らっしゃい!! このお方をどなたと心得ます!! おそれ多くも……ぐえええええっ!?」

 ミトによる背後からのチョークスリーパーでダントはめ落とされてしまった。

「あら、ダントおじさまったらこんな所で寝ちゃうなんて……やはり日頃のお疲れが溜まってらっしゃるのかしら?」
「……いや、絶対違うだろ。こいつも、とんだとばっちりだな」
「さぁ、儀式の続きをしましょう」
「……未成年なんだろう? 子供は酒を飲まなくても良いんだぞ」
「ムッ、私は子供じゃありません!! 貴方と同じように弔います!!」

 そう言ってミトは、仮面の口の部分をパカッと開いた。普段は、目の部分に穴が開いているのみで、無表情なフルフェイスの仮面が、口の部分を開くと笑っているように見える事から武光はこの状態を《ジャイナさんスマイル》と呼んでいる。
 ミトが仮面をこの状態にする時は、余程よほどの強敵に出会った時か……ご飯を食べる時だけだ。
 ミトは、ダントの手から酒瓶を奪い取ると、一気に酒をあおった。

「……オイ、一口だけで良いんだぞ!?」
「いっぱい飲んだ方がいっぱい弔えると思って……」
「……そんな決まりは無い。それより大丈夫か? この清めの酒はかなり強い酒なんだが……」

 ヴァンプはミトを見たが、仮面の上からでは顔色が分からない。言葉ははっきりしているようだが……

「大丈夫ですよ。それより……助けに来てくれてありがとう」
「……いや、俺はほとんど何もしていない。礼ならリヴァルとキサンに言え」

 ヴァンプは絞め落とされたダントをひょいっと肩に担いだ。

「もちろん彼らにも伝えますよ。じゃあ……また、ご機嫌よう」
「……ああ」

 ヴァンプはダントを肩に担いだまま去っていった。

「さて……じゃあ私達も……って、あれ? なんか地面が揺れて……? あれ? あっれぇー? …………きゅー」
〔ひ、姫様!? 姫様ーーーーー!!〕

 ミトはその場で、バタンとぶっ倒れてしまった。

 46-②

 武光一行がカラマク寺院を訪れたのとほぼ同時刻、ボゥ・インレとクラフ・コーナン城塞を結ぶ線の中間地点の辺りにある、とある洞窟の中では、一体の魔物が地面に横たわる大男を見下ろしていた。

「これだけの傷を負ってなお生きているとは……人間とはとても思えん。くくく……これは良い拾い物をした。こいつは……良い研究材料になる」

 魔物の狂笑が薄暗い洞窟の中に響き渡った。
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