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術士編

術士、加わる

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 61-①

 激闘の末、リザードマンの群れと妖姫ヨミを撃退した数日後、リョエンの家で、リョエンとサリヤの指導の下、術の修行をしている武光達の元に、次なる指令が届いた。

 指令の内容は『クラフ・コーナン城塞攻略軍の第二軍と合流し、奪還戦に参加せよ』だ。

「……いよいよ来たわね!! 私達の手で魔物共を成敗してやりましょう!!」

 届いた指令を見て、毎度の如く意気込むミトだったが、武光は毎度の如くテンションがダダ下がりだった。

「またか……また危ない真似せなあかんのか……」
「……仕方ありませんよ武光様、それに火の神様である《ニーバング》様がまつられている《火神廟かじんびょう》は、クラフ・コーナン城塞の敷地内にあるんですから」
「うわー、マジかー。よりにもよって、何でそんな所にあるねん……」
「ニーバング様は戦いの神としてもあがめられていますから……これも元の世界に帰る為です、頑張りましょう!!」
「じゃあ早速クラフ・コーナン城塞に向かって出発するわよ!!」
「ひー、やめろー!!」
「皆さん、待って下さい」

 嫌がる武光をズルズルと引きずって行こうとするミトをリョエンが止めた。


「私も……一緒に連れて行ってくれませんか?」


「先生……いや、そら一緒に来てくれたら心強いですけど、そんな急に決めてしもてええんですか?」
「急にではありませんよ、私なりに数日かけて熟慮じゅくりょしました」

 リョエンは武光達一人一人の顔を見た。

「貴方達のお陰で、私は自分が術を学んでいた理由を思い出しました。私は……私の術が誰かの役に立って、喜んでもらうのが嬉しかったのです。キサンが生まれてから、いつの間にかその思いは妹への対抗心や嫉妬心にすり替わってしまっていましたが……」

 そう言って、リョエンは照れ臭そうに頭をポリポリといた。

「それを思い出させてくれた貴方達に……私の術を役立ててもらいたいのです。だから……私も一緒に連れて行ってくれませんか?」
「私からもお願いするわ、リョエンはこんな所でくすぶっていて良いような人間じゃないもの」

 そう言って、リョエンとサリヤは武光達に頭を下げた。

「……分かりました!!」
「ありがとう、武光君」
「あ、そや。じゃあ先生、これから一緒に旅をするにあたって、割と大事な事を伝えておかなあかんのですけど……」
「何でしょう?」
「驚かんとって下さいね……ジャイナ」

 武光に言われて、ジャイナは仮面を外した。

「「ゲェーーーッ!? みっ、ミト姫様ぁぁぁぁぁーーーっ!?」」
「……ごきげんよう」

 ジャイナの正体を見たリョエンとサリヤは頓狂とんきょうな叫びを上げ、慌ててひざまずいた。

 二人共驚きを隠せなかったが、知らぬ事とは言え、武光達を追い出そうと彼らに家事や雑用を押し付けまくっていたリョエンは顔面蒼白がんめんそうはくだった。

「しししし知らぬ事とは言え、ミト姫様に何というご無礼をーーーっ!!」
〔良いんですよ、姫様には良い社会勉強になりました〕

 泣きそうな声で非礼をびるリョエンに対し、カヤ・ビラキは優しく応えたが、それでもリョエンの震えは収まらない。そんなリョエンにミトは優しく声をかけた。

「リョエンさん」
「は、ハイッッッ!!」
「これからも術の指導、よろしくお願い致します」
「コイツはホンマに我儘わがままで、気の強い跳ねっ返りで、野生のイノシシみたいな奴なんですけど……まぁ俺の妹みたいなもんなんでよろしく頼んます」
「……はぁぁぁぁぁ!? 誰が気の強い跳ねっ返りですって!? と言うか、なんで私が貴方なんかの可愛い妹なのよ!?」
「いや……別に『可愛い』とは言うてへんけど……嫌か?」
〔武光さん、姫様は妹ではなくてですね、一人の女性として──〕
「ちょっ、ちょっとカヤ!? な、何を訳の分からない事を言って──」
「何やねん、騒がしいやっちゃなぁ」
「う……うるさい!! 処刑するわよ!!」
「しょ……処刑!?」

 処刑という物騒ぶっそうな言葉にビビるリョエンに武光が注釈ちゅうしゃくを入れた。

「ああ先生、『処刑するわよ!!』ってのはこいつの口癖みたいなもんなんで、別に気にせんでもええですよ、『おのれデ◯ケイド!!』みたいなもんです」
「は、はぁ……(デ◯ケイドって一体何だろう…?)」
「ま、とにかくこれからよろしくお願いします、先生!!」
「ハイ!!」

 リョエンが 仲間にくわわった!

 かくして、新たな仲間、術士リョエン=ボウシンと機槍テンガイを加えた武刃団はクラフ・コーナン奪還戦に向けて動き出した。
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