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攻城編
巫女、荒ぶる
しおりを挟む70-①
武光は絡まった鎖を解くのも忘れてポカンとしてしまった。
自分達がベンと闘っている間に、ナジミが仰向けに転倒させたセンノウの上に馬乗り……総合格闘技などで言うところの《マウントポジション》を取って、センノウをボコボコに殴りまくっていた。
「ちょっ、おま……何してんねん!?」
「ハイ!! 小さい方なら私でもやっつけられるかもと思って!!」
普段はドジでトロいくせに、変なスイッチが入った時に見せるこの俊敏さは何なのか。
(うわぁ……アイツよう見たら手の中に石握り込んで殴ってるやんけ……)
武光は若干引いたが、今はそれどころではない。
「と、とにかくそいつを逃すな!! 痛めつけてベンさんの洗脳を解く方法を吐かせろ!!」
「任せて下さい!! えいっ!! やあっ!!」
ナジミのパンチがセンノウを襲う。それにしてもこの巫女、ノリノリである。
「……よっしゃ、解けた!! 俺はミトの援護に行きます!! 先生はナジミを護衛して下さい!!」
「分かったよ武光君」
絡まった送雷鋼縄を解いた武光はミトの援護に向かった。
「うぉぉぉりゃあああ!!」
“すん”
武光は、ミト目掛けて振り上げられた大槌のヘッド部分を、背後からイットー・リョーダンで斬り落とした。 “ずしん” と音を立て、大鎚のヘッド部分が地面に落ちる。
「大丈夫か、ミト!?」
「え、ええ」
「今、ナジミと先生がベンさんを元に戻す方法を吐かせとる、それまでベンさんをセンノウに近付けさせるな!!」
「分かったわ!!」
二人の視線の先では、ベンが、柄だけになった大鎚を無造作に捨て、背中の武器を手に取っていた、右手に長巻、左手に大剣である。
「よっしゃ、まずはイットーで武器を潰す!! ミト……悪いけど、囮になってくれへんか?」
「任せなさい!!」
武光の提案に、ミトは力強く頷いた。
「よっしゃ、行くで……ミト!!」
「ええ!!」
ミトがベンに向かって突撃した。ベンが、右手の長巻をミトの頭目掛けて振り下ろすが、ミトは優れた反射神経を活かして左に跳躍して回避した。空を切った長巻の切っ先が地面にめり込む。
「せりゃあああっ!!」
……そして、その瞬間を狙って、ミトからワンテンポずらして突撃していた武光が、ベンの長巻を刀身の根元から切断した。
すかさず、右から大剣の一撃が横薙ぎに襲って来たが、武光はイットー・リョーダンを縦に構えて防御した。ベンの怪力によって、武光は大きく吹っ飛ばされたものの、ベンの大剣は刀身の真ん中付近で切断されていた。
「大丈夫、武光!?」
「痛たたた……アカン、おもっくそケツ打ってもうた。ケツが割れたかもしれん……」
「バカな事言ってないで、次が来るわよ……ナジミさん、白状しましたか!?」
「ま……まだです!! 早く……吐きなさい……っ!!」
武光達の視線の先では、荒ぶるナジミが、俯せに倒れたセンノウの背に馬乗りになって、キャメルクラッチ(に酷似した技)を極めていた。上半身の反り具合から見て、これはかなり深く極まっている……吐くのも時間の問題か。
「ミト、もう少しや……もう少しだけ踏ん張るぞ!!」
「ええ!!」
ベンは、再び背負っていた武器を手に取った。今度は右手に槍、左手に大鎌である。
先程と同じように、ミトが気を引き、武光が武器を狙って攻撃する。
武光とミトは槍と大鎌を破壊した。
「ナジミっ、センノウは吐いたか!?」
武光がナジミの方にチラリと視線をやると、ナジミが両手を高々と天に向かって掲げていた。足元には白目を剥いたセンノウが転がっている。
「はぁっ……はぁっ……か……勝ったーーーーーっ!!」
「あ……アホーーーっ!! 失神させてどないすんねん!?」
「はうぁっ!? ご、ごめんなさいっ!! つい興奮しちゃって……急いで吐かせますからっ!! ……い、癒しの力っ!!」
ナジミは癒しの力を使い、センノウが意識を取り戻した瞬間に、すかさず腕ひしぎ逆十字固めを極めた。センノウが苦悶の声を上げる。
「さぁ、ベンさんの洗脳を解きなさい!! さもないと今度はもっと痛い事しちゃいますよっっっ!!」
「ぐぁぁぁっ!? わ……分かった!! 解く!! ムカクにかけた術を解いてやる!! ムカク、大人しくするのじゃ!!」
ついにセンノウが音を上げた。センノウの命令でベンが動きを止めたのを見たナジミは技を解いた。
「良いでしょう……さぁ、早くベンさんの洗脳を解きなさい!!」
ナジミに促されて、センノウはベンに近付いた。無論、センノウの首には、武光のイットー・リョーダン、ミトのカヤ・ビラキ、そして、リョエンのテンガイが突き付けられている。
「分かっていると思いますけど、少しでもおかしな真似をしたら……」
ナジミは武光達に視線を向けた。
「叩っ斬るぞ?」
〔真っ二つにな!!〕
「斬り刻むわよ?」
〔細切れにね!!〕
「焼き尽くしますよ?」
〔デンゲキ モ アルヨ!!〕
ダメだ……ここは大人しくムカクの洗脳を解くしかない。ムカクを手放すのは惜しいが、どうせこの戦いの後には人間だろうと魔物だろうと、新たな素体の補充には事欠かない。
センノウはベンの洗脳を解いた。意識を失ったベンが地面にドサリと倒れ込む。ナジミがベンにそっと近付いた。
「大丈夫、生きてます……邪悪な気配も感じられません!! 皆さん……剣を引いてあげて下さい」
ナジミに言われて、三人は武器を引いた。そしてその瞬間、ナジミの跳び膝蹴りがセンノウに炸裂した。
「グハァッ!? な、何をする!? せ、洗脳は解いたじゃろうが!?」
「確かに私は『洗脳を解かないと痛い目にあわせる』と言いました。でも……『洗脳を解いたら痛い目にあわさない』とは言ってませんっっっ!! どりゃーーー!!」
「ひっ!?」
もはや無茶苦茶だ。ボルテージが振り切れ、荒ぶりまくってやりたい放題のナジミがセンノウに再び襲いかかろうとしたその時だった。
“ドォォォォォンッッッ!!”
空気を震わす轟音が鳴り響いた。塔が……結界塔が崩壊してゆく。破壊神砲の第二射が、クラフ・コーナン城塞の結界塔を撃ち抜いたのだ。
武光達が結界塔の崩壊に気を取られている隙を突いて、センノウは逃げだした。
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