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巨竜編
勇者達、巨竜に挑む
しおりを挟む72-①
地中から突如として出現した巨竜は、二本の脚で立ち上がり、再び咆哮を上げた。
ゴツゴツとした岩のような外皮に包まれた蒼い巨躯は、高さ10mはあろうかという城壁の倍近くもあり、頭部には水牛のような二本の大きな角を持ち、翼は無く、背中から尻尾の先にかけて水晶のような透き通った背ビレが並んでいる。
巨竜が尻尾を振るった。無造作に振るわれた一撃は、クラフ・コーナン城塞の厚く高い壁を易々と叩き壊した。
巨竜は暴れる。自分を取り囲む壁(もっとも……竜にしてみれば『柵』程度にすぎないのかもしれないが)を邪魔だと言わんばかりに叩き潰してゆく。
人間も魔物も、暴れ回る巨竜によって踏み潰され、瓦礫の下敷きになってゆく。攻城側から退却の角笛が鳴り響き、城内に突入した兵達がばらばらと逃げ出して来る。
クラフ・コーナン城塞を破壊し尽くした巨竜は、何かを探すかのように、ゆっくりと周囲を見回した……そして、巨竜の視線が一点で止まった。その視線は真っ直ぐに北西……破壊神砲の方を向いている。
巨竜は天に向かって咆哮を上げると、野太い尻尾を打ち振るい、視線の先目指して走り始めた。
72-②
「竜だ……竜がこっちに来るぞぉぉぉ!!」
「に、逃げろ……逃げるんだ!!」
「ま、待てお前達!! 勝手に持ち場を離れるな!!」
破壊神砲を動かしていた特別攻城部隊とその護衛に付いていた部隊は大混乱に陥っていた。クラフ・コーナン城塞を瓦礫の山へと変えた巨竜が一直線にこちらに向かって来る。
巨竜に対し、主力部隊が率いていた弓隊と術士隊が側面から攻撃を試みたが、矢の雨も、術の嵐も、巨竜には傷一つ付けられない。
「あ、あれだけの攻撃を受けて無傷だなんて……」
「だ、だめだ……逃げなきゃ食われちまう!!」
もはや混乱を収拾するのは不可能だった。特別攻城部隊の隊長と特別攻城部隊の守備隊長は止む無く総員撤退の命令を下した。兵士達が、隊列すら組まずに我先に逃げてゆく。
だが……誰もが逃げ惑う中、リヴァルだけはその場に留まっていた。
尻尾を左右に激しく振りながら迫る巨竜を前に、一歩も退こうとしないリヴァルに対し、ダントは思わず叫んだ。
「リヴァルさん!? 何をしているんです!? 逃げますよ!!」
「いや、あいつを野放しにすれば、味方や街の人々にどれほどの被害が出るか分かりません……ここで食い止めます!!」
「いくら貴方でもあんな怪物に勝てるわけ無いでしょう!?」
「例え勝てずとも……ほんの僅かでも皆が逃げる時間を稼いで見せます!!」
「何を言ってるんです、貴方は!? ヴァンプさん、キサンさん、リヴァルさんを止めて下さい!!」
ダントはヴァンプとキサンに助けを求めたが、二人はリヴァルを止めるどころか、リヴァルの両隣に並んだ。
「……フッ、この頑固者め」
「仕方ありませんねー、ケーキ食べ放題で手を打ってあげますかー」
リヴァルの左右に並んだヴァンプとキサンを見て、ダントは首を横に振った。
「わ、私には無理です。私はただのしがない監査武官で、貴方達みたいに強くないんです!! すみません……私は命が惜しい」
泣きながら頭を下げるダントに、リヴァルは優しく声をかけた。
「良いんですよ、ダントさん。これは私の我儘なんですから」
「……安心しろ、俺達はお前の事を裏切り者などと決して思わない。さぁ行け、友よ」
「ダントさんってば、大袈裟ですよー。あの竜をやっつけたら四人でまた旅をするんですからー……あ、そうだ。一足先に街に戻ってケーキ屋さんに予約を入れておいて下さい。代金はリヴァルさん持ちなんで、一番高級な店でお願いしておきますねー」
「す、すみません皆さん…………ご武運を!!」
ダントは深々と一礼すると走り去っていった。
「さてと……ああは言ったものの、どうするかな……」
リヴァルの視線の先では、巨竜に対して断続的な攻撃が続いていたが、やはり効果はない。
「ふっふっふー、せっかくだからアレ使っちゃいましょうよー」
キサンが親指を立てて、ビッと背後を指差した。キサンの背後には破壊神砲があった。
「そうか!! 弾はまだ一発残っているのか!!」
「……装填は済んでいたはずだ。キサン、お前は術士席へ。リヴァルは砲手席だ」
リヴァルが砲身の根元右側面にある砲手席、キサンが砲身の根元左側面にある術士席に着いたのを確認すると、ヴァンプは台座から伸びた鉄の棒に手をかけた。
「……ぬぅおあああああああああっ!!」
兵士達が三十人がかりで回していた台座を、ヴァンプはたった一人で動かした。
「……どうだリヴァル!?」
「あと少しだけ左だ!!」
「……よし」
ヴァンプは再び台座を動かそうとしたが……
「えー!? あと少しだけ右ですよー!!」
「……何?」
それに対して、キサンが待ったをかけた。
「……そ、そうか!!」
ヴァンプは気付いた。砲撃を行う砲手席も、砲身に火術のエネルギーを送り込む為の術士席も、砲身から左右にずれた位置にある。二人の目測を当てにすると照準が大きくズレている恐れがある。
だが、巨竜はすぐそこまで迫っている。破壊神砲到達まで、時間にすればニ分も無いだろう。
もうこうなれば一か八かだ。ヴァンプがリヴァルに『撃て!!』と言おうとしたその時だった。
「ヴァンプさん、あと三歩分だけ右です!!」
「……この声は!!」
三人は声のした方を振り返った。そこには、戦場を離脱したはずのダントが戻って来ていた。
「ダントさん!!」
「やはり私には貴方達を置いて逃げる事など出来ません。私は……監査武官です。私には貴方達の戦いを最後まで見届ける義務があります!!」
「本当に良いんですか……?」
心配そうに問いかけたリヴァルに対し、ダントは涙目になりながらも精一杯の虚勢を張った。
「か、監査武官ナメんなよ!? 力ではリヴァルさん達に遠く及びませんが……測量や目測の技術は貴方達の何倍も上だコノヤロー!!」
ダントの目を見て、リヴァルは頷いた。
「ダントさん、指示をお願いします!!」
「分かりました!! リヴァルさんは手元の赤い取っ手を引いて砲身を少し下げて下さい!! キサンさんは、今すぐ火術の準備を!!」
……監査武官は戦場において、どの地点で、どんな戦いが行われたか記録するのが役目である。それ故に、例えば『本陣の北北西、四里の地点で戦闘が行われている』というように、目測で方位や距離を測る能力に長けている。
リヴァル、ヴァンプ、キサンの三人は、ダントの指示に従って破壊神砲を操作した。
「リヴァルさん!! 私の合図で引き金を!! 5……4……3……2……1……今です!!」
「破壊神砲……発射ぁぁぁぁぁッッッ!!」
最後の砲弾が、巨竜を直撃した。
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