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巨竜編
監査武官、報告する
しおりを挟む84-①
リョエンに肩を借りて、武光は何とか立ち上がった。
少しはマシになったが、それでも全身が重く、痛い。
「武光君、大丈夫ですか?」
「はぁっ……はぁっ……どエライ目に遭ったわ……ったく、あのアホ……」
言いながら、武光は仰向けに倒れているロイに視線を向けた。
「あのぅ……ダントさん?」
武光は、すぐ側に立っていたダントに聞いた。
「……シュワルツェネッ太の奴はどうなるんすかね?」
「……ロイ将軍のとった行為は、私的理由による重大な利敵行為です。最終的な判断を下すのは私ではありませんが、現行の軍法に照らし合わせれば、いかに王国軍最強の将軍と言えど……死罪は免れないかと」
武光が悲しそうな顔をしたのを見て、ダントは怪訝な顔をした。
「唐観さん、どうしてそんな顔をするんです……まさか」
「いや、その……ほんの、ほんのちょーーーーーっとだけ可哀想って言うか、その……この事は御内密に……なんて」
武光の言葉に対し、ダントは即座に首を横に振り、真っ直ぐに武光の目を見て言った。
「貴方はあの人に殺されかけているんですよ!? それに……決して偽らず、決して誇張せず……戦場で何が起きたのかをありのまま伝える、それが私の監査武官としての使命であり……誇りです」
「で、ですよねー(しゃーないな、こうなったら……!!)…………ふふふ……フハハハハハ!!」
武光が突如として狂ったように高笑いをした。
「か、唐観さん……!?」
「愚かなり下等生物!! 貴様らはこの、せんのぅの術中にまんまとハマったのだー!! 実はあのクソ骸骨は、儂が密かにかけた死霊魔術によって操られ、貴様らを襲うように仕向けられておったのじゃー!!」
そう言って武光は、倒れているロイをビッと指差した。
「くっ……あの死霊魔術師の悪霊が唐観さんの肉体に取り憑いているのか!?」
「ダントとか言ったな……貴様が此奴のした事を報告し、此奴が叛逆者として処刑されれば、我が魔王軍は戦わずしてあの白銀の死神を始末する事が出来るという寸法よ!! ……わははははは!!」
「センノウ……お前の好きにはさせない!!」
高笑いを続ける武光の前にリヴァルが立ち塞がった。剣を鞘から抜き、胸の前で剣を垂直に立てて構えた。その刀身に金色の光が宿ったのを見て、ダントがリヴァルを制止する。
「待って下さいリヴァルさん!! そんな事をしたら唐観さんが……!!」
「えっと……大丈夫です!! この技はアレです……肉体に取り憑いた邪悪なる者だけを斬り捨てる事が出来るのです!! ……行くぞセンノウ!!」
「来いやぁぁぁぁぁ!!」
リヴァルが武光に向かって駆け出した。
「うぉぉぉぉぉ………せいやぁぁぁっ!!」
「ぐはぁっ!?」
すれ違いざま、リヴァルが剣を水平に振り抜く。暫しの静寂の後……武光は地面に倒れ込んだ。
「唐観さん!?」
ダントは慌てて倒れた武光に駆け寄ったが、武光の胴体に斬られた痕は無かった。
「へへ……だ、大丈夫ですよ……ダントさん……まめ太とシュワルツェネッ太を操っていた死霊魔術師の悪霊は……ヴァっさんが倒してくれました……痛ててて……」
「大丈夫ですか、武光殿? さぁ、私の肩につかまって」
「す、すまん……」
武光はリヴァルに肩を借りて立ち上がった
「……さてと!! ウチのドジ巫女とイノシシ娘も心配しとるやろうし……帰るか!!」
「はい!!」
【まめ太---!! お前も達者でなーーーーー!!】
武光が声をかけると、それに応えるかのように、まめ太はゆっくりと立ち上がり、天に向かって吼えた。海に向かって歩き始めたまめ太の背を見送りながら、武光はリヴァルに肩を借りて歩き始めた。
……ちなみに、のちにダントが提出した戦闘報告は次のようなものだった。
84-②
王国暦1192年 11月1日
王国軍情報本部宛
報告者 王国軍首都防衛軍情報部所属
リヴァル戦士団付監査武官
ダント=バトリッチ
クラフ・コーナン城塞跡における巨竜との戦闘報告
王国暦1192年11月1日、クラフ・コーナン城塞地下から突如として出現した巨竜を討伐すべく、ショバナンヒ砦において、クラフ・コーナン城塞奪還作戦総司令、ショウダ=イソウ将軍の命により、以下の七名が、巨竜討伐に志願。
ロイ=デスト 王国軍第十三騎馬軍団・軍団長
リヴァル=シューエン 傭兵部隊リヴァル戦士団・団長
ヴァンプ=フトー リヴァル戦士団所属・剣士
キサン=ボウシン リヴァル戦士団所属・術士
唐観武光 傭兵部隊舞刃団・団長
リョエン=ボウシン 舞刃団所属・術士
ダント=バトリッチ 王国軍首都防衛軍情報部所属リヴァル戦士団付監査武官
同日正午、巨竜を討伐すべく巨竜討伐隊はショバナンヒ砦を出陣後、迂回路を取り、およそ二時間後、クラフ・コーナン城塞南の森に到達。進軍中、唐観武光の発案により、部隊内での巨竜の呼称が『まめ太』となる。(以下まめ太と呼称)
唐観武光が睡眠中のまめ太への奇襲を試みるも、攻撃直前でまめ太が目を覚まし、失敗。ロイ=デスト将軍が先陣を切り、討伐隊はまめ太との戦闘に突入する。
各員果敢にまめ太に攻撃するも、致命傷を負わせるには至らず。しかしながら唐観武光、リヴァル=シューエンの両名が竜の言語を操り、まめ太との意思疎通に成功。まめ太のアナザワルド本島から外への誘導を成功させる。
しかしながら、突如として出現した魔王軍の死霊魔術師センノウにより、まめ太とロイ=デスト将軍が操られ、ロイ=デスト将軍を除く六名は再度、まめ太との戦闘に突入する。
ロイ将軍を除く六名は協力し、死霊魔術師の撃破に成功するも、まめ太とロイ=デスト将軍にかけられた死霊魔術は解くことは出来ず。
その後、唐観武光が火術を用いて凶暴化したまめ太を鎮圧し、徒手格闘にて、操られたロイ=デスト将軍を取り押さえるも、今度は自身が倒したセンノウの悪霊に取り憑かれる。
唐観武光は死霊魔術師に操られかけるも、リヴァル=シューエンが取り憑いた悪霊を祓う術を用いて死霊魔術師の魂を斬り裂き、唐観武光を救出する。
まめ太を討伐する事は叶わなかったものの、巨竜まめ太を本島から追い出す事に成功。しばらくは巨竜による脅威は去ったものと考えます。
以上
追記
唐観武光はロイ=デスト将軍に拳を振るい、鎮圧したものの、決して叛意などは無く、作戦の遂行とロイ=デスト将軍の身の安全を第一に考えた結果であると証言致します。
その証拠として、唐観武光は鎮圧の際、自身最大の武器である聖剣イットー・リョーダンを使わず、徒手格闘に徹している点からも明らかであり、罪に問われるべきではない事は明らかと考えます。
また、『死霊魔術師に操られた場合、瞬時に意識を乗っ取られ、抗う術は無い』との唐観武光の証言により、ロイ=デスト将軍の友軍への攻撃もまた、叛意によるものではないと考えます。
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