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鬼退治編
聖剣、励ます
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93-①
アナザワルド王国本島中央に聳え立つ、標高およそ8000mの巨大火山、《タンセード・マンナ火山》の東南東の麓……例の如く時計の文字盤で例えるならば、時計の中心と4時とを結んだ直線と、タンセード・マンナ火山を等高線で表した際の最外周の主曲線との交点……ショバナンヒ砦から見れば南南西にあたる位置に存在する街、《マイク・ターミスタ》
逃げるようにショバナンヒ砦を後にした武光一行の次の目的地である。マイク・ターミスタは『鉄と職人の街』と呼ばれ、アナザワルド王国最大規模の鉱物採掘施設を保有し、そこから採掘される質の高い金属と、それを加工して様々な物を生み出す腕利きの職人達によって栄えてきた街である。
街の中には王国軍で使用する槍や剣や鎧、攻城兵器の部品と言った武器・兵器を製造する大規模な兵器工廠も存在しており、クラフ・コーナン城塞から魔王軍が撤退し、側面を突かれる心配が無くなった今、王国軍内でも奪還の優先度は高い。
ショバナンヒ砦から逃げ出した武光達は、かなりのハイペースでマイク・ターミスタに向かっていた。
かなりの早足で歩くミトに対し、武光・ナジミ・リョエンの三人は遅れ気味だ。
「はぁ……はぁ……ちょっと待てやミト、ペース早過ぎるって」
「そ……そうですよ姫様、少し休憩しましょう……」
「はぁ……はぁ……足が……」
無理も無い……三人とも巨竜と戦ったり、虫に散々追いかけ回されたりした後、休む間も無く歩き続けている。
武光も、ナジミの癒しの力で、ロイ=デストと殴り合いをした際の怪我が治ったと言っても、スタミナまでは回復していないのだ。
「ダメよ、少しでも砦から離れるの!!」
〔みなさん、頑張って下さい、一刻も早くマイク・ターミスタへ向かいましょう!!〕
ミトの言葉に同調したカヤ・ビラキを見て、武光は、(おや?)と思った。いつもならミトがムチャやワガママを言い出したら窘める側なのに。
その後、一時間近く歩き続け、日が暮れ始める頃になって、流石にミトも疲れたのか、ようやく休息を取ると言った。
四人は、街道脇の大きな木の陰に腰を降ろした。
「つ、疲れた……足パンパンやんけー」
「姫様……そう言えば、ベンさんはどうしたんです?」
「ベンにはナンテさんの警護を任せました。私に化けたナンテさんは、今頃、私の代わりに王都ダイ・カイトへ送り返されようとしている事でしょう。しかし、ショバナンヒ砦からダイ・カイトまでの道は王国軍の勢力下とは言え、魔物が出現しないとも限りません。それに、ベンがいればイソウ将軍の配下の者もナンテさんには易々と近付けないはずです。イソウ将軍には、会話や食事の差し入れなどは全てベンを通すように言ってありますし。ベンにはナンテさんを無事に送り届けたら私達と合流するようにと伝えてあります」
ミトは『二段構えの完璧な作戦』などとドヤ顔で胸を張ったが、三人と二振りの剣と一本の槍は思った。こんな粗だらけでガバガバのすっとこ作戦が上手くいくとは到底思えない。
「さぁ、少し休んだらすぐに出発するわよ!!」
「ミト……お前さっきから何をそんなに急いでんねん!?」
武光の質問に、ミトは少したじろぎながら答える。
「それは……魔王軍に虐げられている民を一刻も早く救う為に決まっているでしょう!?」
もちろん本心である。だがそれだけではない……影武者に気づいたら、ショウダ=イソウは間違いなく自分の身柄を確保しに来るだろう。もし捕まって王都に送り返されようものなら、一緒にいられなくなる。ミトはそれがたまらなく嫌なのだ。
「よし……分かった!! 今日はここで休もう!!」
「ちょっと!? 私の話を聞いてたの!?」
「昔から言うやろ、『急がば回れ』『急いては事を仕損じる』『6を逆さにすると9になる!!』ってな」
ミトの不服げな表情を見て武光は続ける。
「あのなぁ……仕事でも何でもそうやけど、ガムシャラに無理したところで、ヘトヘトになってもうたらええパフォーマンスはでけへんねん。ええパフォーマンスをする為にはこまめに休息を取ってなるべく体力が高い状態を維持せなあかん。いくら早くても、街に着いた時点でヘトヘトやったら戦われへんやろ? だから……今日はもう寝る」
〔でも、一刻も早くマイク・ターミスタに行かなくては……〕
〔珍しいな、お前がそんなに焦るとは……〕
いつになく焦っているカヤ・ビラキにイットー・リョーダンが聞いた。
〔すみません……マイク・ターミスタは……私が造られた街なんです〕
〔なんと……そうであったか〕
カヤ・ビラキが焦っている理由を知ったイットー・リョーダンは、焦燥を隠しきれないカヤ・ビラキを力強く励ました。
〔案ずるな、お前の生まれ故郷に巣食う悪鬼共は、この無敵の聖剣、イットー・リョーダンが全て薙ぎ払ってくれる!!〕
〔あ、ありがとうございます……あなた〕
〔うむ!! 我に任せて…………って、あなた!?〕
「よっしゃ、イットー!! 嫁さんの為にも頑張んぞ!!」
〔嫁!?〕
「姫様、カヤさん、私も頑張りますっ!!」
〔ナジミさん……私達夫婦の為に……ありがとうございます!!〕
〔夫婦!?〕
「何を水臭い、姫様とお二人の為に、私とテンガイも微力ながら力を尽くしますよ!!」
〔リアジュウ バクハツシロ!!〕
〔爆発!?〕
〔リョエンさん、テンガイ……本当にありがとうございます!!〕
「よっしゃ!! ほんなら明日に備えて、とっとと寝るぞー!!」
……その後、数日に渡る移動の果てに、武光達は辿り着いた。
『鉄と職人の街』……マイク・ターミスタに。
アナザワルド王国本島中央に聳え立つ、標高およそ8000mの巨大火山、《タンセード・マンナ火山》の東南東の麓……例の如く時計の文字盤で例えるならば、時計の中心と4時とを結んだ直線と、タンセード・マンナ火山を等高線で表した際の最外周の主曲線との交点……ショバナンヒ砦から見れば南南西にあたる位置に存在する街、《マイク・ターミスタ》
逃げるようにショバナンヒ砦を後にした武光一行の次の目的地である。マイク・ターミスタは『鉄と職人の街』と呼ばれ、アナザワルド王国最大規模の鉱物採掘施設を保有し、そこから採掘される質の高い金属と、それを加工して様々な物を生み出す腕利きの職人達によって栄えてきた街である。
街の中には王国軍で使用する槍や剣や鎧、攻城兵器の部品と言った武器・兵器を製造する大規模な兵器工廠も存在しており、クラフ・コーナン城塞から魔王軍が撤退し、側面を突かれる心配が無くなった今、王国軍内でも奪還の優先度は高い。
ショバナンヒ砦から逃げ出した武光達は、かなりのハイペースでマイク・ターミスタに向かっていた。
かなりの早足で歩くミトに対し、武光・ナジミ・リョエンの三人は遅れ気味だ。
「はぁ……はぁ……ちょっと待てやミト、ペース早過ぎるって」
「そ……そうですよ姫様、少し休憩しましょう……」
「はぁ……はぁ……足が……」
無理も無い……三人とも巨竜と戦ったり、虫に散々追いかけ回されたりした後、休む間も無く歩き続けている。
武光も、ナジミの癒しの力で、ロイ=デストと殴り合いをした際の怪我が治ったと言っても、スタミナまでは回復していないのだ。
「ダメよ、少しでも砦から離れるの!!」
〔みなさん、頑張って下さい、一刻も早くマイク・ターミスタへ向かいましょう!!〕
ミトの言葉に同調したカヤ・ビラキを見て、武光は、(おや?)と思った。いつもならミトがムチャやワガママを言い出したら窘める側なのに。
その後、一時間近く歩き続け、日が暮れ始める頃になって、流石にミトも疲れたのか、ようやく休息を取ると言った。
四人は、街道脇の大きな木の陰に腰を降ろした。
「つ、疲れた……足パンパンやんけー」
「姫様……そう言えば、ベンさんはどうしたんです?」
「ベンにはナンテさんの警護を任せました。私に化けたナンテさんは、今頃、私の代わりに王都ダイ・カイトへ送り返されようとしている事でしょう。しかし、ショバナンヒ砦からダイ・カイトまでの道は王国軍の勢力下とは言え、魔物が出現しないとも限りません。それに、ベンがいればイソウ将軍の配下の者もナンテさんには易々と近付けないはずです。イソウ将軍には、会話や食事の差し入れなどは全てベンを通すように言ってありますし。ベンにはナンテさんを無事に送り届けたら私達と合流するようにと伝えてあります」
ミトは『二段構えの完璧な作戦』などとドヤ顔で胸を張ったが、三人と二振りの剣と一本の槍は思った。こんな粗だらけでガバガバのすっとこ作戦が上手くいくとは到底思えない。
「さぁ、少し休んだらすぐに出発するわよ!!」
「ミト……お前さっきから何をそんなに急いでんねん!?」
武光の質問に、ミトは少したじろぎながら答える。
「それは……魔王軍に虐げられている民を一刻も早く救う為に決まっているでしょう!?」
もちろん本心である。だがそれだけではない……影武者に気づいたら、ショウダ=イソウは間違いなく自分の身柄を確保しに来るだろう。もし捕まって王都に送り返されようものなら、一緒にいられなくなる。ミトはそれがたまらなく嫌なのだ。
「よし……分かった!! 今日はここで休もう!!」
「ちょっと!? 私の話を聞いてたの!?」
「昔から言うやろ、『急がば回れ』『急いては事を仕損じる』『6を逆さにすると9になる!!』ってな」
ミトの不服げな表情を見て武光は続ける。
「あのなぁ……仕事でも何でもそうやけど、ガムシャラに無理したところで、ヘトヘトになってもうたらええパフォーマンスはでけへんねん。ええパフォーマンスをする為にはこまめに休息を取ってなるべく体力が高い状態を維持せなあかん。いくら早くても、街に着いた時点でヘトヘトやったら戦われへんやろ? だから……今日はもう寝る」
〔でも、一刻も早くマイク・ターミスタに行かなくては……〕
〔珍しいな、お前がそんなに焦るとは……〕
いつになく焦っているカヤ・ビラキにイットー・リョーダンが聞いた。
〔すみません……マイク・ターミスタは……私が造られた街なんです〕
〔なんと……そうであったか〕
カヤ・ビラキが焦っている理由を知ったイットー・リョーダンは、焦燥を隠しきれないカヤ・ビラキを力強く励ました。
〔案ずるな、お前の生まれ故郷に巣食う悪鬼共は、この無敵の聖剣、イットー・リョーダンが全て薙ぎ払ってくれる!!〕
〔あ、ありがとうございます……あなた〕
〔うむ!! 我に任せて…………って、あなた!?〕
「よっしゃ、イットー!! 嫁さんの為にも頑張んぞ!!」
〔嫁!?〕
「姫様、カヤさん、私も頑張りますっ!!」
〔ナジミさん……私達夫婦の為に……ありがとうございます!!〕
〔夫婦!?〕
「何を水臭い、姫様とお二人の為に、私とテンガイも微力ながら力を尽くしますよ!!」
〔リアジュウ バクハツシロ!!〕
〔爆発!?〕
〔リョエンさん、テンガイ……本当にありがとうございます!!〕
「よっしゃ!! ほんなら明日に備えて、とっとと寝るぞー!!」
……その後、数日に渡る移動の果てに、武光達は辿り着いた。
『鉄と職人の街』……マイク・ターミスタに。
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