斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
101 / 180
鬼退治編

斬られ役、狂乱する

しおりを挟む

 101-①

「ひぃぃぃ……」

 ナジミは、武光の後ろで、小動物のようにプルプルと震えていた。それもそのはず、武光とナジミは現在、三十体以上のオーガと対峙しているのだ。

「あわわわ……うぇぇぇ……た、武光様、私……吐きそうです」

 そう言って、ナジミは武光を見たが、武光もナジミと同様、プルプルと震えていた。

「た、武光様……ここはひとまず逃げましょう!!」

 いつもなら、誰かが口に出す前に、真っ先に『よし、逃げよう!!』と言い出す武光だが、武光は黙って首を左右に振った。

「……ナジミ、お前だけ逃げろ」
「そ……そんな事出来ません!! 武光様も一緒に……」
「イットーを助ける為にも、俺は逃げるわけにはいかへん!! それになぁ……俺はコイツらを……殺したくて殺したくて仕方ないんじゃあああああ!!」

 武光が血走った目で邪悪な笑みを浮かべた。

「武光様!? 怨念に取り憑かれて……!? 今すぐ私が……きゃっ!?」

 魔穿鉄剣の怨念にみ込まれかけている武光に、ナジミは浄化式ローリングソバットを叩き込もうとしたが、喉元のどもとに切っ先を突き付けられて、身動きが出来なかった。

「た、武光様……」
「……ハッ!? す、すまん!!」

 我に返り、自分のしている事に気付いた武光は慌てて切っ先を下ろした。

「ほんまゴメン……マジで逃げてくれ……頼む!!」

 ナジミは悟った。武光が先程からプルプルと震えているのは、いつもみたいに恐怖から震えているのではない。
 内から湧き上がる殺意と破壊衝動を抑え込もうと戦っているのだ。今自分が近くにいても武光の邪魔になるだけだ。

「わ、分かりました……気を付けて下さいね!? 無茶しちゃダメですからね!?」
「へっ……任せとけ!!」
「おっと、そうはいくものかよ!!」

 屈強なオーガ達の中から、銀色の一本角を持つ、一際屈強な白髪はくひつの黒鬼が飛び出し、武光の目の前に立ちはだかった。オーガ達の副大将、ボウギャクである。

「てめぇら……このボウギャク様から逃げられ……ぎゃっ!?」

 ボウギャクが悲鳴を上げた。武光が魔穿鉄剣のナックルガードに付いた鋭いびょうでボウギャクの両眼をいきなり突き刺したのだ。

「お前……ええ角しとるやんけ……大人しくしてろ、その角……もらうぞ!!」
「て……てめぇぇぇぇぇっ!!」

  “グサァッ!!”

 オーガ達ですら思わず目を背けた。武光が、声を頼りに武光に襲いかかろうとしたボウギャクの口の中に魔穿鉄剣を突き刺したのだ。

「あ……が……」
「大人しくしてろって言うたやろが……!!」

 武光は突き刺した剣をぐりぐりと動かし、ボウギャクの口の中を散々にえぐったあと、勢い良く剣を引き抜いた。
 口からおびただしい量の血を吐きながら、ボウギャクが倒れ込む。武光はすかさず魔穿鉄剣を振り下ろし、ボウギャクの首をねた。

 ……その場の誰もが凍り付いた。オーガ一族随一の凶暴性をもつボウギャクが更なる暴虐によって惨殺されたのだ。

「おい……何しとんねん、ナジミ……早よ逃げんかい!! ぶっ殺すぞコラァ!!」
「は……ハイ!!」

 ナジミが逃げ出したが、誰もその後を追う者はいない。武光はボウギャクの首から角を削ぐと満足げに頷いた。

 イットー・リョーダンの修復に必要な鬼の角……残り82本

「……これは要らんわ、返す」

 武光はボウギャクの首をまるでサッカーボールのように、オーガ達の方へ雑に蹴飛ばした。

 オーガの一人が転がってきたボウギャクの首に慌てて駆け寄り、首を拾い上げようと思わず屈んだ瞬間、武光は一気に間合いを詰めて、オーガの無防備な後頭部に魔穿鉄剣を叩きこんだ。

 崩れ落ちたオーガからすかさず角を削ぎ落とす。

 イットー・リョーダンの修復に必要な鬼の角……残り81本

「次は……お前らじゃあああああああああ!!」

 武光は魔穿鉄剣を振りかざし、オーガの群れに突撃した。

 怒号と悲鳴を背中に受けながら、ナジミは走る。

「武光様……どうかご無事で……って、わーーーっ!?」

 逃げるナジミの前に、一体のオーガが現れた。

 101-②
 
 ミトは、武光を探して街を走り回っていた。

「ったく……あのバカ、一体どこに……これは……殺気!?」

 前方の建物の陰……ただならぬ気配を感じ取ったミトは剣の柄に手をかけながら後方に飛び退いた。
 果たして建物の陰から、何者かが姿を現した。全身ボロボロの血みどろで、剣を引きずりながらヨロヨロと歩く姿は、さながら地獄の亡者である。
 そして、その全身血まみれの亡者を5秒くらい凝視して、それが武光だと分かったミトは慌てて武光に駆け寄った。

「大丈夫!?」
「角を……角をよこせえええ!!」

 焦点の定まらない目で叫びを上げた武光に対し、ミトは横っ面を引っぱたいた後、持っていた飲み水を頭からぶっかけた。

「しっかりしなさい、武光!!」
「ミ……ト……?」
「そうよ、ミト、分かる?」
「お……おう。ハッ!? 何でお前がここにおんねん!? 工房は……工房はどうした!?」
「安心しなさい、工房は私とリョエンさんで奪還しました、工房の設備も無事です!!」
「そ……そうか!! せやったら後は角さえ集めれば……!!」
「それが……イットー・リョーダンの容態が急変したみたいなの!! 今すぐにでも打ち直しを始めないとダメだってジャトレーさんが!!」
「そ……そんな!?」

 イットー・リョーダンの修復に必要な鬼の角……残り63本
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...