111 / 180
鬼退治編
斬られ役、吼える
しおりを挟む111-①
「ククク……コイツは思わぬ収穫だ。逃げ出した餌を追いかけていたら……まさかお前の所に案内してくれるとはなぁ!!」
ザンギャクは血走った目を武光に向けた。ザンギャクの額には魔穿鉄剣に折られた黄金角の代わりに、溢れ出る鮮血を連想させる真紅の一本角が生えている。
ヤバい……コイツは前よりもヤバい。武光はそれを肌で感じた。向かい合っているだけで肌がヒリ付き、背中から物凄い量の汗が流れ出す。
「グオァァァッ!!」
「うぉっ!?」
ザンギャクが右手に持った蛮刀を大上段に振りかぶり、武光目掛けて突進してきた。
(危なっっっ!?)
武光は咄嗟に横に跳躍し、振り下ろされた蛮刀を躱した
そしてその隙を突いて、ミトががら空きの背中に斬りかかった……だが!!
「なっ!?」
前回の戦いで、ミトの秘剣・業火剣乱によって付けられたザンギャクの背中の傷口が突然開いた。
開いた傷口から、 “ずるり” と音を立てて、大蛇の如き太い尻尾が飛び出し、ミトの身体に巻き付いた。
「くっ……うああああああっ!? か……はっ……!!」
「グオァッ!!」
「ミト!?」
ザンギャクはミトの身体を凄まじい力でギリギリと締め付けた後、工房の石壁に思いっきり叩き付けた。
〔姫様!! 大丈夫ですか!? お気を確かに!!〕
カヤが必死に呼びかけるが、ミトはグッタリとしてピクリとも動かない。
ナジミが慌ててミトに駆け寄り、容態を確認する。
「ひ、酷い……全身の骨がバラバラに……でも……姫様は私が絶対に死なせません!!」
それを聞いた武光は、力強く頷いた。
「ナジミ……ミトを頼んだ!! 先生はミトとジャトレーさん達を安全な所まで退避させて下さい!!」
「分かった、すぐに戻って来るよ!!」
「マッハでお願いしますっ!! ……めっちゃ怖いんで!!」
「ああ!!」
武光はナジミ達が工房から退避するのを見送った。その光景を見ていたザンギャクは口の端を吊り上げて残忍な笑みを浮かべた。
「ククク……どうだモモタロウ? 次はテメェの番──」
武光がゆっくりとザンギャクの方へと振り向いた。
「おいお前……ミトに何してくれてねんコラ……」
「あぁん!?」
「何してくれてんねんコラアアアアアッ!!」
「うっ……!?」
武光の気迫の前に、ザンギャクは無意識の内に後退ってしまっていた。
(気圧されただと……!? この俺が……武器も持たない人間如きに……!?)
ザンギャクは己が気圧された事を否定するかのように、首を左右に振って咆哮を上げると、武光目掛けて突進した。
「グ……グオァァァッッッ!!」
「くっ……おらあっ!!」
“ドカッ!!”
“バキッ!!”
“ボコォ!!”
顔面への右フック!! 左のボディブロー!! 喉元へのエルボー!! ザンギャクの突進をギリギリまで引きつけて躱した武光は、突進を躱され振り向いたザンギャクに怒りの三連撃を叩き込んだが、武光的には “ドカッ!!” “バキッ!!” “ボコォ!!” だったが、ザンギャクからしてみれば、 “ぽこっ” “ぺちっ” “ぱちん” だった。
「グオァッ!!」
「ぐはっ!?」
尻尾の一振りで、ザンギャクは武光を軽々と弾き飛ばした。
やはり思い違いか……やはりコイツはこの俺が恐るべき敵などではない。ザンギャクはニヤリと笑った。
「ちぃっ……」
弾き飛ばされた武光は、不格好ながらも何とか前回り受け身を取り、体勢を立て直した。
「くっ……アバラは……折れて無いな。よーし……いける!!」
危ない所だった。もし受身を失敗して身体の前面を地面に打ち付けていたら、マンガみたいに、『アバラの2~3本持って行かれたか……』などという台詞を吐く羽目になる所だった。
いや、持って行かれるどころか、ヒビが入った時点で激痛でそんな台詞を吐く余裕などない事を経験上、武光は知っている。
(いけるけど……やっべぇ!! マジで打つ手があらへん!!)
「武光君!!」
「……先生っ!!」
武光が焦りまくっていたその時、ミト達を退避させたリョエンが戻って来た。
「邪魔はさせねぇ!!」
「うわっ!?」
ザンギャクの起こした青い焔の壁がリョエンの周囲をぐるりと取り囲んだ。
「テメェの火術は厄介だ……そこでじっとしてな!!」
「くっ……武光君!! ……これを!!」
リョエンが、持っていたものを武光目掛けて放り投げた。武光は放物線を描いて飛んで来たそれを右手でキャッチした。
「これは……!!」
武光がキャッチしたのは鞘に納められた一振りの日本刀であった。刀身の修復と武光の依頼で全面改修を終えた聖剣イットー・リョーダンである。
「っっっしゃあああああっ!! 行くぞ……イットー!!」
武光はイットー・リョーダンを左手に持ち替え、腰を落とすと抜刀の構えを取った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる