斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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鬼退治編

斬られ役、吼える

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 111-①

「ククク……コイツは思わぬ収穫だ。逃げ出した餌を追いかけていたら……まさかお前の所に案内してくれるとはなぁ!!」

 ザンギャクは血走った目を武光に向けた。ザンギャクの額には魔穿鉄剣に折られた黄金角の代わりに、あふれ出る鮮血せんけつを連想させる真紅の一本角が生えている。

 ヤバい……コイツは前よりもヤバい。武光はそれを肌で感じた。向かい合っているだけで肌がヒリ付き、背中から物凄い量の汗が流れ出す。

「グオァァァッ!!」
「うぉっ!?」

 ザンギャクが右手に持った蛮刀を大上段に振りかぶり、武光目掛けて突進してきた。

(危なっっっ!?)

 武光は咄嗟に横に跳躍し、振り下ろされた蛮刀を躱した

 そしてその隙を突いて、ミトががら空きの背中に斬りかかった……だが!!

「なっ!?」

 前回の戦いで、ミトの秘剣・業火剣乱によって付けられたザンギャクの背中の傷口が突然開いた。
 開いた傷口から、 “ずるり” と音を立てて、大蛇の如き太い尻尾が飛び出し、ミトの身体に巻き付いた。

「くっ……うああああああっ!? か……はっ……!!」
「グオァッ!!」
「ミト!?」

 ザンギャクはミトの身体を凄まじい力でギリギリと締め付けた後、工房の石壁に思いっきり叩き付けた。

〔姫様!! 大丈夫ですか!? お気を確かに!!〕

 カヤが必死に呼びかけるが、ミトはグッタリとしてピクリとも動かない。
 ナジミが慌ててミトに駆け寄り、容態を確認する。

「ひ、酷い……全身の骨がバラバラに……でも……姫様は私が絶対に死なせません!!」

 それを聞いた武光は、力強く頷いた。

「ナジミ……ミトを頼んだ!! 先生はミトとジャトレーさん達を安全な所まで退避させて下さい!!」
「分かった、すぐに戻って来るよ!!」
「マッハでお願いしますっ!! ……めっちゃ怖いんで!!」
「ああ!!」

 武光はナジミ達が工房から退避するのを見送った。その光景を見ていたザンギャクは口のを吊り上げて残忍な笑みを浮かべた。

「ククク……どうだモモタロウ? 次はテメェの番──」

 武光がゆっくりとザンギャクの方へと振り向いた。

「おいお前……ミトに何してくれてねんコラ……」
「あぁん!?」
「何してくれてんねんコラアアアアアッ!!」
「うっ……!?」

 武光の気迫の前に、ザンギャクは無意識の内に後退あとずさってしまっていた。

(気圧されただと……!? この俺が……武器も持たない人間如きに……!?)

 ザンギャクは己が気圧された事を否定するかのように、首を左右に振って咆哮を上げると、武光目掛けて突進した。

「グ……グオァァァッッッ!!」
「くっ……おらあっ!!」

 “ドカッ!!”
 “バキッ!!” 
 “ボコォ!!”

 顔面への右フック!! 左のボディブロー!! 喉元のどもとへのエルボー!! ザンギャクの突進をギリギリまで引きつけて躱した武光は、突進を躱され振り向いたザンギャクに怒りの三連撃を叩き込んだが、武光的には “ドカッ!!”  “バキッ!!”  “ボコォ!!” だったが、ザンギャクからしてみれば、 “ぽこっ”  “ぺちっ”  “ぱちん” だった。

「グオァッ!!」
「ぐはっ!?」

 尻尾の一振りで、ザンギャクは武光を軽々と弾き飛ばした。
 やはり思い違いか……やはりコイツはこの俺が恐るべき敵などではない。ザンギャクはニヤリと笑った。

「ちぃっ……」

 弾き飛ばされた武光は、不格好ながらも何とか前回り受け身を取り、体勢を立て直した。

「くっ……アバラは……折れて無いな。よーし……いける!!」

 危ない所だった。もし受身を失敗して身体の前面を地面に打ち付けていたら、マンガみたいに、『アバラの2~3本持って行かれたか……』などという台詞を吐く羽目になる所だった。
 いや、持って行かれるどころか、ヒビが入った時点で激痛でそんな台詞を吐く余裕などない事を経験上、武光は知っている。

(いけるけど……やっべぇ!! マジで打つ手があらへん!!)

「武光君!!」
「……先生っ!!」

 武光が焦りまくっていたその時、ミト達を退避させたリョエンが戻って来た。

「邪魔はさせねぇ!!」
「うわっ!?」

 ザンギャクの起こした青い焔の壁がリョエンの周囲をぐるりと取り囲んだ。

「テメェの火術は厄介だ……そこでじっとしてな!!」
「くっ……武光君!! ……これを!!」

 リョエンが、持っていたものを武光目掛けて放り投げた。武光は放物線を描いて飛んで来たそれを右手でキャッチした。

「これは……!!」

 武光がキャッチしたのは鞘に納められた一振りの日本刀であった。刀身の修復と武光の依頼で全面改修を終えた聖剣イットー・リョーダンである。

「っっっしゃあああああっ!! 行くぞ……イットー!!」

 武光はイットー・リョーダンを左手に持ち替え、腰を落とすと抜刀の構えを取った。
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