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勇者編
黒竜翁、現る
しおりを挟む124-①
「ば、馬鹿な……この俺が……っ!!」
火竜将・侵掠のリュウズは追い詰められていた。
「認めん……認めんぞぉぉぉぉぉっっっ!!」
リュウズは後方に跳び退いてリヴァルから大きく距離を取り、超竜身化によって、竜そのものへと変化した頭部から連続して火炎弾を吐き出したが、リュウズの火炎弾をリヴァルは獅子王鋼牙で左右に斬り払いながら悠然と歩を進める。
「くそっ……!? 俺は……俺は竜人四天王最強なんだぞっ!!」
叫んだリュウズに対し、リヴァルは獅子王鋼牙の切っ先を向けた。
「ああ、確かにお前は強い、間違いなく強い!! だが、平和を願う人々の想いが……お前達の竜身化よりも、遥かに大きく、強い力を私に与えてくれるのだ!!」
「……ほざくなぁぁぁっっっ!!」
リュウズは青龍刀を振りかぶってリヴァルに斬りかかった。
それは、例え敵が鋼鉄の鎧を身に纏っていようと容易く両断するだけの重さと速さを兼ね備えた斬撃であったが、リヴァルはその斬撃を素早くかいくぐってリュウズの懐に飛び込むと、リュウズの袈裟斬りを右手の獅子王鋼牙で防ぎつつ、左の掌底をボディに叩き込み、零距離で光術・退魔光弾をぶっ放した。
「ぐはぁっ!?」
大きく吹き飛ばされ、背後の壁に勢い良く叩きつけられたリュウズは、前のめりに倒れそうになったが、青龍刀を杖代りに、なんとか踏ん張った。
「はぁっ……はぁっ……竜人四天王の誇りにかけて……俺は……絶対に膝を地に着かん!!」
リュウズは気力を振り絞って、火炎弾を吐き出そうとしたが、口から吐き出されたのは、夥しい量の血の塊だった。しかし、その目に宿る闘志はいささかも衰えてはいない。
その姿を見たリヴァルはゆっくりと息を吐きながら、獅子王鋼牙を正眼に構え直した。
「火竜将・侵掠のリュウズ……その闘志、敵ながら見事!! お前と剣を交えた事、我が誇りとするぞ!!」
「……決着をつけようぞ……来い……リヴァル=シューエンッッッ!!」
「行くぞっっ!! 光術……斬魔輝刃っ!!」
リヴァルの光術・斬魔輝刃によって獅子王鋼牙の刀身が、眩い光を纏った。
リュウズは最後の力を振り絞って青龍刀を構えようとしたが、思わず動きを止めた。
リヴァルの後方……軍議の間の扉の前に、いつの間にか一人の老人が立っていた。黒っぽい色をした中国の道士服に似た衣を身に纏い、白く長い髭と髪を蓄え、そして右側頭部に三日月型の角が生えた老竜人である。
ニコニコと柔和な笑みを浮かべているその老竜人の顔を見て、リュウズは思わず声を上げた。
「あ、貴方様はまさか……な、何故……何故、貴方様が此処におられるのです!?」
その男は、遥か昔……この地に生きる人間達を恐怖と絶望のどん底に叩き落とした古の魔王……シンと共に、古の勇者と数々の死闘を繰り広げた男。
その男は、絶対的な力を持っていた魔王シンが、その強さを認め、対等に口を利く事を許した唯一の男。
その男は、『敵に回した者に超弩級の災厄をもたらす存在』として、竜人達……いや、全ての魔族に、三百年の時を超え語り継がれる伝説の男。
「こ、《黒竜翁》様!!」
ゼンリュウが あらわれた!
124-②
黒竜翁ゼンリュウ……
リュウズも幼き頃にたった一度だけ遠目に見た事があるだけで、竜人族の重鎮達ですら、ゼンリュウが普段どこで何をしているのか知る者はいない。
その、生ける伝説……幻の竜人が転移の術を使い、突如として水竜塞に出現したのである。
リュウズほどの歴戦の猛者が、今が闘いの最中であるという事を一瞬忘れかけた。強敵と相対している今、例えほんの一瞬だろうと、油断は即、死を招く。
リュウズは慌てて剣を構え直そうとしたが、リヴァルの攻撃は来なかった。ゼンリュウの存在に気付いたリヴァルは、大きく跳び退き、ゼンリュウと距離を取っていた。その額には玉のような汗が浮かんでいる。
ゼンリュウは穏やかな微笑を湛えたまま、ゆっくりとリュウズに歩み寄って行くが、まるで無防備に見えるゼンリュウに対し、リヴァルは金縛りにあったかのように動けずにいた。
そしてとうとう、ゼンリュウはリュウズの前までやってきた。
「こ、黒竜翁様……何故、貴方様がこちらに……?」
リュウズの問いに対し、ゼンリュウがゆっくりと口を開いた。
「……婆さんや、メシはまだかのう?」
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