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勇者編
監査武官、戦慄する
しおりを挟む129-①
ダントは戦慄していた。
辺り一面、見渡す限りの竜人達の屍の山である。
少なめに見積もっても、四人 対 千二百人だった。しかも、その千二百人の敵は、一人一人が並の魔族より遥かに強い竜人族なのである。
それが今ではリヴァル達によって屍の山を築いている。
今にして思えば、砦から出て来た三人の様子は明らかにおかしかった。三人共、身の毛もよだつような残忍で凶悪な気配を纏い、止める間も無く水竜塞を取り囲む敵兵の群れに突撃した。
『ちぎっては投げ、ちぎっては投げ』という表現がある。
……多数の敵を相手に大立ち回りを繰り広げる様を表した言葉である。
ヴァンプは、迫り来る竜人の大軍を相手に、その剛力で、(敵の手を、足を、首を)ちぎっては投げ、ちぎっては投げを実践した。
『血風吹き荒ぶ』という表現がある。
……血の匂いが混ざった風が、戦場を吹き抜けてゆく様を表した言葉である。
キサンは、攻め寄せる竜人の大軍を相手に、地術で圧し潰し、水術で呑み込み、火術で焼き尽くし、風術で引き裂いて……血風どころか、血の嵐を巻き起こした。
『無人の野を行くが如し』という表現がある。
……障害や妨害を物ともせずに、突き進む様を表した言葉である。
リヴァルは、襲い来る竜人の大軍を相手に、光を纏った獅子王鋼牙を振るい、視界に入った敵を片っ端から斬り伏せ、串刺しにし、首を刎ねながら突き進み……彼の通った後を無人の野へと変えていった。
そして……『目を覆うような』という表現がある。
……あまりの惨状に、思わず直視を避けてしまうような光景を表した言葉である。
リヴァル達が巻き起こしたあまりにも凄惨な殺戮劇を前に、ダントをなんとかその場に踏み留まらせたのは、戦場で起きた事をその目で見て記録するという、監査武官としての責任感だった。
そして、竜人族の軍勢を壊滅させたリヴァル達がダントのもとへ戻って来た。
「これだ……もっとこの力を使いこなせていれば……っ!!」
リヴァルは空を見上げ、絞り出すように呟いた。
「み……皆さん、一体どうしたっていうんですか!? こんな……こんな……」
「いやー、砦の中でとんでもない強敵と遭遇しちゃってですねー」
「……俺達の完敗だった」
「理由は分かりませんが、私達は戦いの最中、新たなる力を得ました。そして、私はその力に溺れ……傲り……敗れました。ですから、この力を使いこなす為に……いや、違いますね。みっともない話ですが……腹いせです、悔しくて仕方ありません」
「……全く、子供かお前は」
「えー、でもヴァンプさんも人の事言えないでしょー?」
「……まぁな」
苦笑する三人だったが、ダントの目の前に広がる光景は、『腹いせ』というにはあまりにも凄惨なものだった。
「さ、三人共……何かおかし──」
「この……化け物共がぁぁぁぁぁっ!!」
「ダントさん、危ないっ!!」
「え……?」
ダントの視界からリヴァルが消え、そして次の瞬間、ダントの背後で悲鳴が上がった。
瓦礫の陰から飛び出し、背後からダントに襲いかかろうとした竜人をリヴァルが袈裟懸けに斬り捨てたのだ。
竜人族の男は口からごぼりと血を溢れさせながら、地面に倒れ込んだ。
「ぐっ……無念……流石は……懸賞首第三位の……男……」
懸賞首第三位……自分が魔王軍内でそこまで警戒されていたとは……リヴァルは意外に思った。
竜人族の男は、息も絶え絶えに続ける。
「我らの無念は……魔王様が、きっと……」
「魔王・シンは……我々が討つ!! 四竜塞を抜けば、魔王の城はすぐそこ……我らの勝利は目前だ……!!」
それを聞いた竜人族の男はニヤリと笑った。
「それはどうかな? 我々は……懸賞首……第一位を既に……捕らえている」
「何……?」
《懸賞首第一位》……それ即ち、魔王軍において最も危険視されているという事だ。リヴァルには、思い当たる人物が一人いた、そして竜人族の男の言葉を一笑に付した。
「フッ……あのロイ=デスト将軍がお前達などに捕らえられるわけないだろう。言っておくが、あの人は今の私達でも勝てるかどうか……」
「白銀の死神か……奴は……第二位だ……」
あの人が……王国軍最強の将軍が第二位……? では、第一位とは一体誰なのか? リヴァルは竜人の男に問うた。
「わ……我々は既に捕らえている……懸賞首第一位……唐観武光率いる……傭兵団・武刃団をな!!」
そう言い残し、竜人族の男は息絶えた。
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