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殴り込み編
斬られ役、殴り込む
しおりを挟む158-①
再び武光達の前に現れたカンケイは邪悪な笑みを浮かべた。
「お前……帰ったんとちゃうんかい!?」
「ククク……脅威が去った直後というのは誰しもが油断するものよ。それにしても……やはりあの女、貴様を殺しておらなんだな」
「くっ……」
「……何を企んでいるのかは知らぬが、今すぐ魔王様に報告し、あの女を嬲り殺しに──」
“すん!!”
武光は一気に間合いを詰め、カンケイを袈裟懸けに斬りつけた。
「ぐ……はっ!?」
「それ聞いて……俺がお前を生きて帰すと思たんか……ナメんなよコラ……!!」
武光に殺意のこもった視線を向けられ、深手を負わされたカンケイは戦慄した。
まさか目の前の敵がこれ程の力を今まで隠して……いや、本人には自覚がないようだが……この男、本当につい先程まで魔王に完膚なきまでに叩きのめされていた人間と同じ人物なのか!?
多種多様な魔族がいる魔王軍において、カンケイが参謀に選ばれたのは、カンケイが、数多の魔族の中でもズバ抜けた智謀を誇っていた事と、そしてそれ以上に魔王軍で五指に入ると言っても過言ではない程の高い武力の持ち主だったからだ。
……だが、怒れる武光はそのカンケイに深手を負わせた。
ドバドバと夥しい量の血を流しながら跪いているカンケイを前に、武光はイットー・リョーダンを振り上げた。
「行くぞイットー……!!」
〔あ……ああ!!〕
「ちょっと待ったあああああっ!!」
イットー・リョーダンが振り下ろされようとしたその時、ドサクサに紛れて拘束から抜け出していたヨミがカンケイの前に立ち、武光に待ったをかけた。
「邪魔すんな……お前も斬るぞ」
ヨミは気圧された。心を読むまでもない、コイツは……本気だ。今のコイツに迂闊に触れるのは危険だ。
自由になったヨミは、どこからともなく吸命剣・妖月を召喚した。
「アンタにカンケイは殺させない……」
しめた!! ヨミの言葉にカンケイは思わず目を細めたが、次の瞬間その表情は凍り付いた。
「こいつは……私が殺す!!」
「なっ!?」
“どすっ!!”
一瞬の出来事だった。ヨミの言葉に武光が呆気に取られた隙を突いて、ヨミは逆手に握り直した妖月をカンケイの胸に突き立てた。
「うぐっ……ば、馬鹿な……貴様……何故……!?」
ヨミは屈みこんで、俯せに倒れ込んだカンケイの顔を覗き込むと、ニコリと微笑んだ。
「んふふ、どうせその傷じゃ助かる可能性は六割五分ってところだし……ま、犬死にするくらいなら、私の力になってもらった方が有意義な死に方でしょ?」
「こ、この小娘がぁぁぁぁぁっ!!」
ヨミを絞め殺そうと伸ばしたその手は、届く事なくダラリと落ちた。吸命剣がカンケイの生命を吸い尽くしたのだ。
「ふふふ……さぁ、勝負よ唐観武光!! 今度こそアンタを……ぎゃんっ!?」
武光は大外刈りで容赦無くヨミの背中を固い地面に叩きつけると、仰向けに倒れたヨミの右足を捕らえて爪先と足首を掴んだ。
武光は捕らえた足の膝裏に自身の左足を当ててヨミの膝を地面と平行に畳ませ、そこからヨミの膝裏に当てた自身の左足を軸にぐるりと回転して足首を極めた。回転足首固め……正式名称スピニング・トゥホールドである!!
「ちょっ、待っ……痛だだだだだ!?」
2回転!! 3回転!! 4回転!! ……
スピニング・トゥホールドは回転する度に威力が増す。怒れる武光は、ヨミに無言でスピニング・トゥホールドをかけ続けた。
「武光!! もう十分よ!!」
何十回転しただろう、ミトに言われて、ヨミが白目を剥いて失神しているのにようやく気付いた武光はスピニング・トゥホールドを解いた。
「さてと……行くぞジャイナ、先生!!」
「行くってどこに?」
「そんなん決まってるやろが……魔王城に殴り込みかけるねん!!」
「ま、待ちなさい!!」
「そうですよ、何の策も無く魔王城に殴り込みをかけるなんて!!」
「どないしたんや? お前らしくないやんけ。いつもやったら、いの一番に敵に突撃かますのに……もしかして怖気付いたんか?」
武光は、いつもみたいに『そんなワケあるか!!』とか『貴方と一緒にしないで!!』とか、ミトが言い返してくるものと思っていたが、ミトは否定しなかった。
「…………そうよ、怖いの……貴方が死ぬのが怖いのよ!!」
ミトの身体は小刻みに震えていた。
「ミト……」
「さっき、死んでしまった貴方を見た時、怖くて怖くてたまらなかった……何十匹もの魔物を前にした時よりもずっとずっと怖かった……だから!!」
「……それでも俺は行く……すまん!!」
「ナジミさんが攫われたとは言え、魔王の城には何千何万という魔物が待ち構えているのよ!? いつも、姑息な策を準備してからじゃないと動かないのに……どうしてそんな無茶しようとするのよ!? 貴方の方こそ、いつもの貴方らしくないじゃない!!」
「おまっ……それはやな……えっと……アレや!!」
「アレって何よ!!」
「言うたらお前ら絶っっっっっ対に笑うから嫌や!!」
「はぁ!? 何よそれ……笑わないから言いなさいよ!! 言わないと処刑するわよ!!」
「ぜ……絶対笑うなよ……!!」
武光はミトとリョエン、そして駆けつけたエルフ達をぐるりと見回すと、息を大きく吸い込んだ。
「俺は……ナジミに……めちゃくちゃ惚れとんじゃああああーーーーーーっ!!」
惚れた!! それもただ惚れたのではない、めちゃくちゃ惚れたのだ!!
アホな男がバカな真似をやらかすには十分過ぎる理由である。
武光の叫びを聞いて、エルフ達は堪えきれずに噴き出し、大笑した。
「ほ、ほら見ろーーーーー!! めちゃくちゃ笑てるやんけーーーーー!?」
こっ恥ずかしさのあまり、まるで思春期の乙女のように両手で顔を覆って身悶えする武光にエルフ達が近付いた。セリオウスが武光の肩を叩く。
「すまない武光、あまりに痛快だったものだからつい。なぁ弟よ?」
「ああ、兄上のいう通りだ。惚れた女を取り返す……男ならば燃えずにはいられない……そうだろ、皆!!」
エルフの戦士達は口々に『応っ!!』『そうだそうだ!!』と応える。
「み、皆……って言うかジャイナ……何故泣く!?」
「……うるさい!! 泣いてなんか……泣いてなんかないもん……!!」
〔もう!! 武光さんのニブチン!!〕
「はぁ……?」
明らかにミトは仮面の下で泣いていたが、武光はそれ以上は訊かない事にした。
「とにかく……そういう事や、俺は行く……魔王城に殴り込みかけて、ナジミを連れ戻す!!」
「お待ちなされ、救世主殿」
武光が居ても立っても居られなくなって駆け出そうとしたその時、木々の間から、ソフィアを伴い、大賢者ウィスドムが現れた。
「救世主殿、巫女殿を取り戻すのに、何か策がお有りかな?」
「……ありませんっっっ!! でも……死ぬ気でやります!!」
「まるでダメじゃな……それでは救世主殿が再び生命を落とすのは必定。命がけで魔王の城に乗り込んだ巫女殿の想いも、生命も、露と消える事となろう」
「ぐぬぬ……」
「そこでじゃ……あの者を利用するのです」
そう言ってウィスドムは杖の先で、カンケイの亡骸を指した。
「我らが救世主殿を魔王城までお連れしましょう、魔王軍の参謀を殺害した痴れ者を引き渡すという名目でな。さすれば、城の周囲の大軍を相手にする事なく城に潜入できましょう」
「いや、お気持ちはめちゃくちゃ有り難いんですけど……そんな事して、もしバレたりしたらカライ・ミツナの人達に危険が及ぶんじゃ……なんでそこまでしてくれはるんですか?」
武光の問いに、ウィスドムはニヤリと笑った。
「決まっておろう……儂も男ゆえな」
そんな真似して本当に大丈夫なのか……困惑した武光は、視線をウィスドムの隣に立つソフィアに向け、視線を向けられたソフィアは、困ったような、呆れたような笑みを浮かべた。
「……次の大賢者様には、女性を推薦する事に致します」
それを聞いたエルフ達はどっと笑った。
「武光さん、貴方は私達の為に命がけで魔王と戦ってくれました。だから私達にも恩返しをさせて下さい」
「分かりました……ウィスドム様!!」
「うむ」
「ソフィアさん!!」
「ハイ!!」
「……エルフの力、お借りします!!」
武光は左手を高々と頭上に掲げた。
「そういうワケやから……ジャイナ、お前は先生とここに残って……ぶべらっ!?」
冷静さを取り戻し、自分がどれ程無謀な事をしようとしていたか理解した武光は、さっきとは反対に、ミトにここに残るよう言ったが、思いっきりビンタされた。
「何言ってるのよ!! 私も行くに決まってるでしょう!!」
「いや、大人しく待ってろって!! 今回ばっかりは危険過ぎるって!!」
「でも、貴方は行くんでしょう? 心底惚れた相手の為に……」
「ま、まぁな……」
「じゃあ私も行く!!」
「いやいやいや『じゃあ』の意味が全く分からんねんけど!?」
「うるさい!! とにかく行くったら行くの!!」
「武光君、私も行きます。ナジミさんは私や姫様にとっても大切な仲間です!!」
「ジャイナ……先生……分かった!! 改めて……俺に力を貸してくれ!!」
「当たり前です!!」
「もちろんですよ!!」
頷き合う三人を見て、ウィスドムは笑った。
「決まりじゃな、では囚人護送用の馬車を用意させよう」
……かくして、話は本章冒頭に戻る。
魔王の城は……すぐそこまで迫っている。
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