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決戦編
斬られ役、ケリをつける
しおりを挟む174-①
〔「ほう……あの二人を一撃で倒すとはな……貴様、一体何者だ?」〕
「唐観武光……天下御免の斬られ役や!!」
〔「斬られ役……? フッ、ならば存分に斬り刻んでやろう!!」〕
「ケッ!! 俺に斬られてほしかったらなぁ……ギャラとして百億万円用意しろっちゅうんじゃーーー!!」
武光とリヴァルは互いに剣を構えた。武光は八双、リヴァルは右の脇構えである。
ナジミは心配そうに胸の前で手を組み、武光を見つめていた。それに気付いた武光が、リヴァルから視線を外さずにナジミに話しかけた。
「心配すんな!! 俺のカッコイイとこ……見とけよ?」
「は、ハイッ!!」
「よっしゃ……行くでイットー!!」
〔応ッ!!〕
「き……消えた!?」
“バチッ!!”
ナジミの視界から突然武光とリヴァルが消え、次の瞬間、さっきまで武光が立っていた場所からかなり離れた場所で金属同士がぶつかる甲高い音と共に、火花が散った。
それを皮切りに、あちらこちらで金属音が響き、火花が散る。
「ま、まさか……」
そのまさかだった。『見とけ』など到底無理だった。二人の神速の闘いはもはや到底肉眼で追える速さではなかった。
互いにアホみたいな速度の斬撃を繰り出し、紙一重で躱し、瞬時に斬り返す。
ほんの一瞬……いや刹那ですら気を抜いたら即座に斬られる闘いの中で、武光はニヤリと笑っていた。
〔「何が可笑しい……?」〕
凄まじい速さの刺突を捌きながら、武光が答える。
「いや、流石やなと思ってな……」
〔「当然だ、我は勇者の聖剣──」〕
「お前やない、ヴァっさんや。お前に操られてなかったら、多分俺、もうとっくに斬られて死んどるわ」
〔「貴様……!!」〕
二人の闘いは更に激しさと速さを増してゆく。
もはや次元のちがう戦いを前に、ミトとリョエンは動けずにいた。
「何て闘いなの……動きが全く見えない……!!」
「これでは援護もままならない……!!」
「くっ、私達に出来る事は何も無いというの……!?」
自分達には何も出来る事が無いのかと歯噛みする二人に対し、ナジミは首を横に振った。
「いいえ、私達にも出来る事があります……!!」
「何なの、それは!?」
ナジミはミト達の顔を見回すと力強く答えた。
「武光様を……皆で応援しまくるんですっっっ!!」
「お、応援!? そんなのが武光の援護になるというの……!?」
「なりますっっっ、絶対になります!! だって、武光様が言ってました……観客からの声援は、俺にとって何よりの力になるって!!」
そう言うと、ナジミは武光に向かって目一杯叫んだ!!
「武光様……頑張れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ナジミの渾身の声援を聞き、ミト達も後に続く。
「武光……負けたら処刑よーーーーー!! 頑張りなさーーーーーい!!」
〔武光さーん、姫様を悲しませたら承知しませんからねーーーーー!! イットー様も頑張ってーーーーーー!!〕
〔ご主人様ーーーーー!! 負けるなーーーーー!!〕
「武光君、頑張れーーーーー!!」
〔カットバセーーーーー!! タケミツーーーーー!!〕
仲間達の声援を背に受け、武光はフッと笑った。
「……勝ったな、イットー」
〔ああ、この戦い……僕達が勝つ〕
〔「何だと……!?」〕
「今の俺には、最高の剣と!! 仲間達の声援と!! 俺の為に祈りを捧げてくれる可愛いヒロインがおる!! あと……オマケで神々の力も宿っとるしな!! 皆無ッ……負ける要素が皆無ッッッ!!」
〔ああ……コレで負けるとかありえないね!!〕
〔「ほざくなッッッ!! イットー・リョーダン……『出来損ないのナマクラ』ごときがぁぁぁぁぁっ!!」〕
〔フッ……違うね〕
〔「何だと……!?」〕
〔僕の名前に込められた意味は『出来損ないのナマクラ』なんかじゃない!! 僕の名前に込められた意味は……『一撃で真っ二つ!!』だぁぁぁぁぁっ!!〕
イットー・リョーダンとショウシン・ショウメイが、激しくぶつかり合い、火花を散らす。
「うおおおおおっ!!」
〔うおおおおおっ!!〕
〔「チッ!?」〕
ショウシン・ショウメイはリヴァルを後方に跳び退かせ、武光の真っ向斬りを回避した。
距離を取った両者が再び剣を構え直す……両者の距離、およそ15m。
〔「もうよい、決着を付けてやる……偽聖剣共々、貴様を真っ二つにして、その断末魔を我が復讐の号砲としてやろう!!」〕
「そうは行くか!! お前を倒して……ヴァっさんを救う!!」
〔次が……最後の一撃だ!!〕
「……………………………………………うおおおおっ!!」
〔「…………………………………………オオオオオッ!!」〕
長い間の後、二人は同時に駆け出した。両者の距離がぐんぐん縮まる。
「火術、火炎障壁!!」
〔「ぬうっ!?」〕
武光がリヴァルの足元に火炎弾を打ち込んだ。噴き上がった炎が壁となって武光の姿を隠す。
〔「ッ……小賢しいわぁぁぁぁぁっ!!」〕
……真っ向斬りか!! ショウシン・ショウメイは炎を斬り裂きながら自身に迫りくる刃を逆袈裟で迎撃した!!
“……キンッ!!”
ショウシン・ショウメイの渾身の一撃は、迫り来る剣の刀身を中程から斬り飛ばした。
遂に……遂にあの憎っくき偽聖剣をへし折った!!
ショウシン・ショウメイは高らかに笑った。
〔「フハハハ!! やはり最後には正義が勝──」〕
勝利を確信していたショウシン・ショウメイだったが……
〔ボディがぁぁぁ……〕
「ガラ空きだぁぁぁぁぁっ!!」
〔「なっ!?」〕
“ドゴォォォォォッッッ!!”
〔「グハァァァッ!?」〕
武光の 横薙ぎ!
会心の 一撃!
リヴァルは 吹っ飛んだ!
逆袈裟斬りを繰り出し、ガラ空きになったリヴァルの右脇腹に、武光はイットー・リョーダンによる左逆手の一撃を叩き込んだ。
衝撃でリヴァルはその手からショウシン・ショウメイを取り落とし、直後に床に勢いよく叩きつけられた。魔王の兜も脱げてピクリとも動かない。
リヴァルの手から落ちたショウシン・ショウメイは再び床に突き立った。
「……終わりや」
〔ここまでだ、真聖剣ショウシン・ショウメイ!!〕
武光の左手に握られているイットー・リョーダンを見て、ショウシン・ショウメイは声を荒げた。
〔ば、馬鹿な……!? 何故だ……我は確かに偽聖剣を叩き折ったはず……!!〕
「お前が斬り飛ばしたのはイットーとちゃう」
〔なっ……あれは!?〕
ショウシン・ショウメイは先程自分が斬り飛ばした剣の先が落ちているのに気付いた。だが……刀身の切断面がおかしい。
〔……木だと!?〕
「ああ、お前が斬り落としたのは、俺の竹光……《雷光丸Mk-13》や」
……実は、武光は魔王城潜入にあたり、超聖剣イットー・リョーダン、魔穿鉄剣の他に、もう一振りの刀を持ち込んでいた。
その三本目……いや、『一本目の』と言った方が正確か……その一振りこそが、武光がこの世界に連れて来られた時に所持していた一本目の刀……芝居用の竹光、雷光丸Mk-13である!!
……戦いに使うつもりで持って来たわけではない。腰に差していたイットー・リョーダンや魔穿鉄剣と同様、ソフィアに隠形の秘術を施してもらい、お守り代わりとして、背中に背負っていたのだ。
〔おのれ……だが、貴様は親友をその手にかけたのだ!! 一生消えぬ後悔に苛まれ続けるが良い!!〕
悔し紛れのショウシン・ショウメイの言葉だったが、それを聞いた武光は、ニヤリと笑った。
……一度、言ってみたかった台詞がある。
武光はショウシン・ショウメイに言い放った。
「安心せい……峰打ちじゃーーー!!」
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