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第2章 司のあわただしい二週間
第28話 積み重なる誤解と上手く付き合う方法
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アルフリートさんへの説得? も一段落し、まだまだ余裕そうなアルフリートさんを横目にテーブルの上を眺める。
ウイスキーが半分になって、飲み足りないと思ったから追加でスパークリングのロゼとブランデーを投下。グラスは例の鈍器グラスとコニャック用のくびれたグラス。
鈍器としても立派に使える暗殺用フルートグラスだが、しっかり魔道具としての機能も積んでいて、魔力を込めればラクリマ監修の美味しい水が湧く。ドラゴンの牙と骨を使って贅沢すぎる仕上がり。
おつまみはミックスナッツ缶(特大)。好みじゃないナッツは避けてアルフリートさんに回す。大分酔いが回ってきているな。いかんいかん、まだ聞かないといけない事がたくさんある。
酔いたいと思えば酔える。酩酊超えたら状態異常回復で酔いを醒ませばいい。うん、ここは自分の家。二階に行けば寝床がある。帰り道の心配とかいらないし、今日は、そうか! 僕は僕のありのままの姿でいいんだ! とかパロって脱ぐ人がいないので僕は安心して酔える。僕が介助に回らない飲み会はどれくらいぶりだろうか。
「そういえば、最後兎が逃げようとした時倒れたんですけど、何かしたんですか?」
「あの剣に仕掛けがあってな。あの剣は私の神性魔法によって傷を癒す機能をもった魔法剣だ」
「剣ぶっささってるのに回復するんですか?」
「そうだな、あとは魔力の性質の違いを利用した神経伝達の混線と、魔力の活性化による感覚の強化も回復のついでにしている」
「主にどんな狙いなんですか?」
「苦痛を与え続ける事、動きを阻害することだな」
「正統派タンクかと思いきや思ったよりえぐかった・・・付与魔術と回復のダークサイド」
「ついでに引き抜けば大出血のおまけ付きだ。元から強い魔獣ほど痛みに弱かったりするんでな。剣が通らない相手に対しては得物や方法を変えている」
どぼどぼとロゼを注ぐ。華やかな香りと白桃の高雅な甘みを繊細な炭酸が引き立てる。ピンクの可愛らしい液体は電球色の光の中オレンジを帯びて、細やかな泡が絶え間なく静かに上る様はとても淑やか。がぶ飲みにはもったいないけど、美味しいワインほど気付くと無くなっている。
「ほらほら、アルフリートさんも好きなだけ飲んじゃってください。あ、もしかして口に合わないとか」
「大丈夫だ、特に嫌いな物は無い」
「健啖家ですねー僕は好きなのが少しあればいいです。アルフリートさん、この世界は飲酒で酔っぱらうのって駄目な事だったりします?」
「多少は大目に見てもらえるかもしれないが、犯罪行為の言い訳にはならん」
「はーい、節度を持って酔います」
乾燥したクコの実、松の実、ひまわりの種、カシューナッツ、高カロリーのオンパレードの気がするが、偶の暴飲暴食くらいはいいよね。ちびちびと減っていく琥珀色。不満とかあるなら呑み込まずに言ってほしい。言わなくとも分かるだろうって僕はエスパーでも神でもないから分かる訳がない。思っててこれブーメランじゃないかなと気づいた。
「アルフリートさんさっき初めて聞いたんですけど、獣姦偏執者って何なんですか?」
不穏な響きがひしひしと。字面も嫌な予感しかしない。
「一言で言ってしまえば、獣態でしか興奮出来ない性的倒錯だな」
「・・・・」
そんなものじゃないです。違います。誤解です。色んな言葉がぐるぐるまわって絞り出した言葉は、は、はぁという間の抜けた音。
「違います! 僕はもふもふが好きなだけで変質者とかじゃないです!」
両手のひらを相手に向け首も手も横に振り力一杯否定させてもらう。
「キスも獣態が良い、獣の姿なら進んで抱き着く。人の姿は緊張する。同じクランの熊とはよく一緒に寝ていたとも言っていたな。そう思うのが自然じゃないか?」
「いやぁ・・それは、あくまでわちゃわちゃと軽いスキンシップまでと言う意味で」
「なら獣態愛好家か? あそこまで拒絶する理由は恋人でなくともその熊とやらに操でも立てているのかと思ったのだが」
「トムとあれこれなるとかこの世界が滅んでもあり得えないです。身内というか兄弟みたいな感覚で・・でももうそれでいいです・・・」
なんか酷い誤解が積み重なっているが自業自得の感は強い。獣姦大好き疑惑が無くなっただけ良しとしよう。気力が持たない。
「あ、そうだ、この世界結魂しなくても子供できるんですよね?」
「むしろお前がいた世界が違ったことが驚きだ」
「もしかして向こうもそうだったかもしれないですけど、僕は興味なかったんでスルーしてました」
妊娠したら精神力が二段階下がったワロスwwとか育児記書いてた人もいたくらいで、ステータス的にはマイナス要素しか無かった。子作りは魂の力を削る荒行だと思ってる。子供を作る作らないにかかわらず毎月血を流すのが義務なのとどっちがマシなのだろうか。
「大丈夫なのか・・・? 学校で習う事だろう? そちらでは保健教育は無かったのか?」
「僕は学校とか行ってません」
リアルも中卒だしね・・それ以上は未知の世界。学校は現地人向けはもちろんあった。どんな教育内容かは知らない。職業訓練的な所は知ってる。
「親はどうした? 義務教育は無かったのか?」
わお、どう答えるべきか。
「んー行かなくても良かったので行ってないだけです」
「にしては知識も教養も相応にあるように見えるが」
「そんな事ないですよ。興味がある事、必要な事しか知りません。魔道具類に関してはこちらの方が技術は進歩してますし、ダンジョンも向こうの世界はほとんど開発が進んではいませんでした。僕の知識が果たしてどこまで役に立つか不明です。こちらの教育事情はどうなっているんですか?」
「初生はどこの国でも条約で義務化されている。大体の国では無償だがその後に市民登録や納税の義務が発生するのが多いな。2生以降は幼く働けない数年は教育・訓練に当てる人間は多い」
「生まれ変わる度に新しい事を学ぶのは良い事ですね」
「場所によっては人脈づくりが主目的の所もあったりするがな」
「そっちにはあんまり関わりたくないなー。話が逸れましたけど、こちらも妊娠出産で精神力削られるんですか?」
「ああ、それはその通りだ」
「あっちだと2段階以上下がる人もいましたけど、こっちもそんな感じですか?」
「2段階ならマシだな。初生で2人産んだらもう次生は望めん」
「は・・?」
よいこの保健体育が一気に別の命がけのライフイベント解説に早変わり。
話を詳しく聞くと、結魂していれば魂を削り死んでしまうような無茶な妊娠は無い、お互いの相性が高い状態で、自分の命より子供が欲しいと母親が望めば出来てしまう事があるそうだ。
というか、結魂はお互いの相性を高め、安全に子供ができやすくなる重要な要素だが、核合わせが妊娠の絶対条件らしい。いくら中に出そうと核合わせしなければ妊娠しないとか、なんて性交渉と妊娠に距離がある世界だ。OTLもそうだったかもしれないけど、僕は知らない。
まぁ望まぬ命がうっかり出来る可能性が低くなるなら僕としてはそれでいいと思う。
あとお約束で性病は何だそれはみたいに逆に問われてしまい、ごくまれにあるんですとお茶を濁した。どうしよう、性交渉へのハードルがめっちゃ低い。
これまでの話で本気でアルフリートさんに僕の常識を心配された。肩を掴まれ、いいか、これを読めとタグの画面を神恵図書館に接続され、児童向けの図書を数冊教えられた。
わー新世界・・・。あかちゃんってどうやってできるの? とか、はじめての~シリーズは表紙の子供っぽさも相まって中々僕の心をえぐる。
目を通す中で児童書関係かおすすめの本の表示があった。
黒狐の恩返し、猫になった大魔導士、鶴の掌返し・・動物シリーズ多いな。アルフリートさんに教えてもらった本は後で読むとして、表紙の美しい黒狐の恩返しを流し読みした。水彩画の柔らかな自然の風景にまっくろの狐が窪んでいる。
助けられた恩返しに勝手に影に潜って裏から恩人を守る。ずーっと守り続けて、最後には恩人に殺される。恩人は助けた事なんて気にも留めてないから最初から狐の一方通行だ。
狐のやった事は恩人に都合のいい事ばっかりだったから、不可解な事件、事故の数々はその人の仕業だと疑われ恩人が殺されそうになる。
だから狐は呪いを振りまいた悪い狐の振りをする。暴れまわり、人の目の前で恩人を害する振りをして、恩人に殺されて、また触ってもらえたことに満足そうに泣いて死ぬ悲しいお話。
恩人の姿は最初は手だけだったのが、足だけ、背中だけと描写される範囲は広がっていくが、顔は出ない。最後の最後まっくろでしかなかった狐に目が描かれる。
ストーカーすよね。これ。美談っぽくなってるけど、児童向けとはとても思えないぞ。半分実話だそうで。ごんぎつねの悲しさ強化版か。
ぼやけた風景が涙に滲んだ恩人の視界なのかもしれない。なんにせよ暗すぎる。陰鬱な気分を変えたくてお酒のピッチが速くなる。ロゼじゃ足りない、ブランデーのしっとりとした香に抱きとめられたい。教えた本はちゃんと読んでおくようにって、後で読みます・・・。
「はぁ、黒狐の恩返しがハードすぎてつらい」
「義理堅く臆病な性質が起こした悲劇だな。最初から堂々と恩人の所に押しかければいいものを」
「下手に影に潜れちゃうなら、そうしたくなる気持ちはよく分かりましたけどね。自分の事なんて知らなくていい、自己満足でいいって。世界が違うなら最初から交わらない方がいい事もたくさんあります」
「それで最後に触れてほしかっただけだったと気づいても遅い」
「それは、そうですけど・・・」
「ちなみにその話には続きがあるぞ」
「え、本当ですか?」
「ああ、騒動を巻き起こした黒狐に責任を感じて蘇生させ、結局狐を選んで故郷を捨てる男の話だ」
「でも続きの表示なかったですよ?」
「そっちは児童書じゃないからな」
意味深に笑まれる。時間がある時にでも探してみるか。
「アルフリートさん、明日からの探索で相談があるんですけど」
「何だ」
「ソックスの様子を見るのは変わりませんけど、僕のレベル上げでラクリマが先に行ったアンデッド階層に行こうかなと。アルフリートさんとコロナと僕が居てアンデッドに後れを取るとは思いません。ラクリマの情報次第ですけど、僕のレベル上げを優先しようかなと」
タブレットをタグの画面と連係させ、プロジェクターから掃き出し窓のカーテン兼スクリーンに投影。部屋の明かりも絞る。ソファをL型に配置しているのは配膳のしやすさもあるが、この投影を見る為でもある。一応壁へも映せる。
新規に階層や転移陣を発見したPTには探索優先権が本来は認められているが、今回の依頼に関しては探索最優先とされ、その権利が無効になっている。その分報酬上乗せがされているのでそれは別にいい。
転移陣の先は新発見の階層だったらしく、別PTが既に探索に乗り出している。どこまでマッピングと魔獣の情報収集が進んでいるか二人で確認する。
上空からの動画も載せられている。出現する魔獣も予想通り聖と光で十分対応可能な範囲。
沼と墓地の薄暗く不気味な階層をソックスが嫌がったらコロナと別行動も考えよう。数日遊ぶか待機してもらってもいい。
コロナとソックス事を話したらコロナの声を初めて聞いたが、思った以上に幼いなと言われた。
そうか、話すのは初めてだったか。僕はいつもの事だから気にしてなかった。
「いい子ですよ。話し方は幼いですけど記憶力もいいですし」
「ああ、想像以上に素直なドラゴンだな。ドラゴンは気難しいとばかり思っていた」
「龍車があるんですよね。いつか見に行ってみたいです」
「愛想の欠片もないドラゴンばかりだ。それが普通なのかもしれんがな」
OTLのドラゴンは仕草にとても愛嬌があるのが多かったけど、ここでも違いがあるな。アルフリートさんはレベル上げには付き合ってくれるそうで安心した。ザーカさんにも前もって言ってくれた事に対し謝ると謝罪は不要だと一蹴された。素直にありがとうございますと言ったら微笑まれ、ほっとした僕はとりあえずの方針が決まった気のゆるみもあり酒を過ごした。
リビングで轟沈した僕をアルフリートさんは僕のベッドまで運んでくれたらしく、トトさんの部屋で三人で寝た次の日の朝と同じ光景を性懲りもなく再現してしまった。同じように頭を下げたらお前の世界ではそれが当然なのかもしれんが、こちらではあまりするなと警告された。全然当然じゃないですけど、これが最大級の謝罪だと言うと、不要だと言ってるにも関わらず次から必要以上に謝罪したら・・・と恐ろしい沈黙が返ってきた。
「近づきすぎたら逃げる、距離をとればどこかに去るのだろう。お前を引き留めるのは上からの命令もあったが私がこうしたいからだ。ほら、お前からするのだろう?」
協力してくださいねとも言ったはずだ! もう開き直って獣態愛好家の体(てい)で行こうかなとろくでもない事を考えながら鳥の嘴を狼の口に突っ込んでやった。
もぐもぐかじかじ甘噛みされて完全に敗北した。一体何の勝負をしているんだろう・・。
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