97 / 328
異世界生活編
96.初めての防壁
しおりを挟む
俺は今、ずっと村の中から見るだけだった防壁の中にいる。
中っていうのは文字通り中。防壁が細長い建物だとは思ってなかったよ。所々見晴らし台があるところはかなりスペースが取られていて小さな部屋もある。仮眠する部屋だったり予備の武器が置いてある部屋だったりもするんだって。
自然の石と土魔法の煉瓦と古代からの魔力の強い石で作られている防壁はちょっとやそっとじゃ壊れないって話だけど、それでも絶対はないしこの防壁がやられてしまったら村の存続が危ういらしくてかなり重要な施設だった。
村を魔物から守るだけじゃなくて、悪意を持った人間──多くはないらしいけど──から村を隠したり、防寒の結界の基礎になっていたりと聞けば聞くほど大事なもので俺が入っていいのかなって思うよ。
「防壁だからもっと寒いかと思ってたら意外と……」
「ここは防壁ではあるが結界内だからな。村の外側の壁に魔力の流れる刻印がある」
なるほどねぇ。防壁が建物みたいになってて中を通れるってことは壁が2枚あるのと同じってことだもんな。
一応寒いかと思ってヴァンに貸してもらった魔導具の他に防寒着持ってきたけどいらなかったかも? にしても、俺の練習用弓の貧相なことといったら。いや、防壁内の武器がちゃんとしたやつだから比べるとってだけだけどね。
「一番上、登ってみるか?」
「あ、うん! 行ってみたい!」
そこは俺が一番最初に村に来た時に見た門の上にあたる部分。小さな鐘がついている見晴台で、転移魔法陣以外では唯一の出入り口のところだからか視界はそこそこ開けている。とはいえ、村の中と違って防壁の外は霧も村より濃いし雪が積もってて見やすいんだか見にくいんだかって感じだけどね。
雪があるけど俺は村の中に入ってしまってからはこうやって自分が歩いてきた道を見ることがなかったからちょっと感動……。それに俺がこの世界に来て見惚れるほど感動したあの虹色の霧の世界は相変わらずあるんだ。それが雪の世界と合わさって天国があったらこういう感じなんじゃないのって思うくらい。
「ねえねえ、ルイと俺が来たのってあっちかな?」
「まあ、最後歩いたのはその道で間違っちゃいないが、正確には魔力で歪められた道を歩いてたから実際俺らが会ったのは方角でいうとあっちの上だな」
「え、うっそ……」
魔力で歪められたってどういうことなんだろう。あのときはヘロヘロなのを気力だけで頑張ってたからほとんど覚えてないんだよな。もう、なんていうか、ルイの側を離れちゃいけないって思って歩いてたからさ。たったの数ヶ月なのにすっごく前のことみたいに感じる……うわー、やばー。
「で、イクミが倒れたのがその辺で……」
「ちょ、ちょっと!」
そんなの解説してくれなくていいんだってば! 恥ずかしいっ。い……今の俺なら、倒れないはず……多分。体力も筋力もついたし、なんなら魔力だってちょびっとあるんだから。
「それにしてもやっぱり霧があるから見張りも楽じゃなさそうだね」
「そこは『慣れ』だろうなぁ。あと魔力の察知能力」
「そうなるよねぇ……」
さすがに俺に魔力の察知は無理だよ。俺にできるのは目視できるものに限るからね。あ、でもそういえばなんだけど、日本にいたときより視力良くなってる気がするんだよ。元々すごく悪いわけじゃなかったけど、やっぱパソコンとか使わないからなのかなぁ。それとも、弓矢の練習で遠くのものをよく見るようになったから? 大きくなってからでも視力って回復するもんなんだな。
「イクミ、動物を射るのはできるか?」
「魔物じゃなくて?」
「魔物が出れば魔物でいいんだが、もし魔物じゃなくて動物を見つけた場合ってことだ」
「うーん。危険な生物じゃないなら理由もなく命を奪うのはしたくないかな……」
「もちろん、仕留めたら食材になる。冬はあまり魔物にこだわってはないからな。味で言うと魔物肉のほうが美味いんだが」
そういうことならしょうがないよな。ほぼ自給自足でやっていかなきゃならないんだから。食事、大事。特に子どもたちには沢山食べてもらって大きく育ってほしいし、この村の担い手になってほしいもんね。
「それは立派な理由だと思うから、俺はやるよ!」
「世界の常識も違うだろうに、イクミはよくそうやってついてこれるよな。武器を持ったことがなかったってことは獲物を狩ったことだってないんだろ?」
「やらなきゃ死んじゃうと思えばやれるもんだよ? ……まあ、ちょっと尻込みはしちゃうけど俺も前よりは強くなったと思うしさ」
ちょっとだけあっけに取られた顔をしたルイが目を細めて俺の頭をぽんぽんする。これは励まされたんじゃなくて褒められたのかな。えへへ。味方になってくれて支えてくれる人がいるっていいなぁ。
俺は雪の積もっている外を目を凝らしながら見ていく。でも正直言って目が……。
「うー。集中しようとしても目が疲れて……」
「イクミは目だけで見てるからなぁ。少し離れた方から魔物の気配を感じるがまだ見える位置じゃない」
「あー……そういうので初日とかも俺が気付く前に魔物を切ってくれてたのかってのを改めて実感したよ」
でも、俺も少しは魔力を感じられるようになったんだから、みんなほどじゃなくても気づきたいよなぁ。この辺はもっと魔力コントロールの練習したらマシになるかな? 違うかな……コントロールと察知は違うかも。どういう練習したらいいんだ?
そんなことを考えていたらルイに声をかけられた。
「よし、イクミ。あっちに向けて弓構えてみろ。あそこの岩見えるか? そこから少し左」
「んーー?」
「あ、ほら、動いてるだろ? 鳥だ」
「うそ、どれどれ?」
ルイが指差す方向を見るけど俺にはよくわからない。鳥って本当にいるのかよって思ったらやっとわかった。白と茶色のまだら模様の鳥だったから全然わからなかった……。ていうか、ちっさ!!! あれを狙えっていうの?
「いや、距離があるから小さく見えるがそこまで小さくないやつだぞ?」
ルイの言葉を聞きながら俺は弓を構える。でもいつものヴァンの的よりもずっと小さいし、こちゃこちゃ動くし、色も見づらいしで……。
俺が放った矢はまあ当たり前だけど外れたよね。正直、俺からしたら矢がどこに飛んでいったのかすらわからなかった。ルイは初めてなんだから気にするなって言ってくれたけど、動く動物を狙うことの難しさを知ったよ……。ヴァンの動く的より何倍も難しいじゃん!
中っていうのは文字通り中。防壁が細長い建物だとは思ってなかったよ。所々見晴らし台があるところはかなりスペースが取られていて小さな部屋もある。仮眠する部屋だったり予備の武器が置いてある部屋だったりもするんだって。
自然の石と土魔法の煉瓦と古代からの魔力の強い石で作られている防壁はちょっとやそっとじゃ壊れないって話だけど、それでも絶対はないしこの防壁がやられてしまったら村の存続が危ういらしくてかなり重要な施設だった。
村を魔物から守るだけじゃなくて、悪意を持った人間──多くはないらしいけど──から村を隠したり、防寒の結界の基礎になっていたりと聞けば聞くほど大事なもので俺が入っていいのかなって思うよ。
「防壁だからもっと寒いかと思ってたら意外と……」
「ここは防壁ではあるが結界内だからな。村の外側の壁に魔力の流れる刻印がある」
なるほどねぇ。防壁が建物みたいになってて中を通れるってことは壁が2枚あるのと同じってことだもんな。
一応寒いかと思ってヴァンに貸してもらった魔導具の他に防寒着持ってきたけどいらなかったかも? にしても、俺の練習用弓の貧相なことといったら。いや、防壁内の武器がちゃんとしたやつだから比べるとってだけだけどね。
「一番上、登ってみるか?」
「あ、うん! 行ってみたい!」
そこは俺が一番最初に村に来た時に見た門の上にあたる部分。小さな鐘がついている見晴台で、転移魔法陣以外では唯一の出入り口のところだからか視界はそこそこ開けている。とはいえ、村の中と違って防壁の外は霧も村より濃いし雪が積もってて見やすいんだか見にくいんだかって感じだけどね。
雪があるけど俺は村の中に入ってしまってからはこうやって自分が歩いてきた道を見ることがなかったからちょっと感動……。それに俺がこの世界に来て見惚れるほど感動したあの虹色の霧の世界は相変わらずあるんだ。それが雪の世界と合わさって天国があったらこういう感じなんじゃないのって思うくらい。
「ねえねえ、ルイと俺が来たのってあっちかな?」
「まあ、最後歩いたのはその道で間違っちゃいないが、正確には魔力で歪められた道を歩いてたから実際俺らが会ったのは方角でいうとあっちの上だな」
「え、うっそ……」
魔力で歪められたってどういうことなんだろう。あのときはヘロヘロなのを気力だけで頑張ってたからほとんど覚えてないんだよな。もう、なんていうか、ルイの側を離れちゃいけないって思って歩いてたからさ。たったの数ヶ月なのにすっごく前のことみたいに感じる……うわー、やばー。
「で、イクミが倒れたのがその辺で……」
「ちょ、ちょっと!」
そんなの解説してくれなくていいんだってば! 恥ずかしいっ。い……今の俺なら、倒れないはず……多分。体力も筋力もついたし、なんなら魔力だってちょびっとあるんだから。
「それにしてもやっぱり霧があるから見張りも楽じゃなさそうだね」
「そこは『慣れ』だろうなぁ。あと魔力の察知能力」
「そうなるよねぇ……」
さすがに俺に魔力の察知は無理だよ。俺にできるのは目視できるものに限るからね。あ、でもそういえばなんだけど、日本にいたときより視力良くなってる気がするんだよ。元々すごく悪いわけじゃなかったけど、やっぱパソコンとか使わないからなのかなぁ。それとも、弓矢の練習で遠くのものをよく見るようになったから? 大きくなってからでも視力って回復するもんなんだな。
「イクミ、動物を射るのはできるか?」
「魔物じゃなくて?」
「魔物が出れば魔物でいいんだが、もし魔物じゃなくて動物を見つけた場合ってことだ」
「うーん。危険な生物じゃないなら理由もなく命を奪うのはしたくないかな……」
「もちろん、仕留めたら食材になる。冬はあまり魔物にこだわってはないからな。味で言うと魔物肉のほうが美味いんだが」
そういうことならしょうがないよな。ほぼ自給自足でやっていかなきゃならないんだから。食事、大事。特に子どもたちには沢山食べてもらって大きく育ってほしいし、この村の担い手になってほしいもんね。
「それは立派な理由だと思うから、俺はやるよ!」
「世界の常識も違うだろうに、イクミはよくそうやってついてこれるよな。武器を持ったことがなかったってことは獲物を狩ったことだってないんだろ?」
「やらなきゃ死んじゃうと思えばやれるもんだよ? ……まあ、ちょっと尻込みはしちゃうけど俺も前よりは強くなったと思うしさ」
ちょっとだけあっけに取られた顔をしたルイが目を細めて俺の頭をぽんぽんする。これは励まされたんじゃなくて褒められたのかな。えへへ。味方になってくれて支えてくれる人がいるっていいなぁ。
俺は雪の積もっている外を目を凝らしながら見ていく。でも正直言って目が……。
「うー。集中しようとしても目が疲れて……」
「イクミは目だけで見てるからなぁ。少し離れた方から魔物の気配を感じるがまだ見える位置じゃない」
「あー……そういうので初日とかも俺が気付く前に魔物を切ってくれてたのかってのを改めて実感したよ」
でも、俺も少しは魔力を感じられるようになったんだから、みんなほどじゃなくても気づきたいよなぁ。この辺はもっと魔力コントロールの練習したらマシになるかな? 違うかな……コントロールと察知は違うかも。どういう練習したらいいんだ?
そんなことを考えていたらルイに声をかけられた。
「よし、イクミ。あっちに向けて弓構えてみろ。あそこの岩見えるか? そこから少し左」
「んーー?」
「あ、ほら、動いてるだろ? 鳥だ」
「うそ、どれどれ?」
ルイが指差す方向を見るけど俺にはよくわからない。鳥って本当にいるのかよって思ったらやっとわかった。白と茶色のまだら模様の鳥だったから全然わからなかった……。ていうか、ちっさ!!! あれを狙えっていうの?
「いや、距離があるから小さく見えるがそこまで小さくないやつだぞ?」
ルイの言葉を聞きながら俺は弓を構える。でもいつものヴァンの的よりもずっと小さいし、こちゃこちゃ動くし、色も見づらいしで……。
俺が放った矢はまあ当たり前だけど外れたよね。正直、俺からしたら矢がどこに飛んでいったのかすらわからなかった。ルイは初めてなんだから気にするなって言ってくれたけど、動く動物を狙うことの難しさを知ったよ……。ヴァンの動く的より何倍も難しいじゃん!
21
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
俺が聖女なわけがない!
krm
BL
平凡な青年ルセルは、聖女選定の儀でまさかの“聖女”に選ばれてしまう。混乱する中、ルセルに手を差し伸べたのは、誰もが見惚れるほどの美しさを持つ王子、アルティス。男なのに聖女、しかも王子と一緒に過ごすことになるなんて――!?
次々に降りかかる試練にルセルはどう立ち向かうのか、王子との絆はどのように発展していくのか……? 聖女ルセルの運命やいかに――!? 愛と宿命の異世界ファンタジーBL!
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる