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2.催眠って……催眠って……
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お互いのバイトのない日っていうか……俺がバイトを調整して、都合を合わせて高峰の家に行った。とりあえず手土産に菓子とかは買ってみたけど、普段つるんでないからコイツの好みがさっぱりわかんねぇ。
「狭いけど適当に座って」
「うーい。うお、高峰、ラップトップの他にこんなデスクトップまであんのかよ」
「そりゃ、音声いじるんだからスペックは大事だろ……でも自分で録音するわけじゃないから機材は少ない。そのうち増やしたいんだけどな」
「ふおー……」
パソコンにテンションの上がった俺は、作品作りの質問だけじゃなくて雑談も交えてテンション高く話していた。グループで話すのとは違って、サシで邪魔の入らない環境で誰かと話すのって久しぶりだったからさ。けど、ときどき視線を感じて顔を上げると高峰に観察されているような感じがした。俺を観察したところで意味もないだろうなんて思った……んだけど、さ。
「いや、人間観察は趣味だよ。作品を作るのには必要だろ」
「でも俺の観察なんて意味なくね?」
「んー興味深いね。最近、猶木は実は逸材じゃないかと……」
逸材? どういう意味だかわからなくて聞こうと思ったらチャイムが鳴った。高峰はいつの間にかピザを注文していたみたいで、それが届くと冷蔵庫の中から「一本ずつしかないけど」なんて言いながら缶チューハイを差し出してくる。もしかして用意してくれてたのかもって思って、俺はそれを受け取ると高峰ととりあえず乾杯した。何にって感じだけど。
なんていうか、最初の出会いもかしこまったもんでもなかったし、高峰はズケズケ言うしって感じだったから、コイツといるのは楽だった。さらには今こうやって、度数強めのチューハイで俺はいい感じにほろ酔いになってるし。
酔ってるというほどでもなく、でもアルコールなしよりは心なしか開放的になっていて、さ。
「人間観察の話の続きだけどさ。猶木って、実はMっ気あるよね」
「へ?」
「無意識か……ふーん」
「えー、ないない。Mって痛いことされたいみたいなやつだろ? 俺、女の子にいじめられたいとか思ったことないし、高峰に渡されたアレもかかんなかったし」
あははーなんて笑って答えたけど、高峰にじっと見られていてちょっとだけ胸がカッとする。アルコールが急に回ったのかな……なんだろ。
「それでなんだけどさ。質問に答える代わりに意見欲しいって言ったの覚えてる?」
「もちろん。言うよ、言う言う」
「じゃ、ちょっと横になってみ?」
「はぇ?」
「新作について意見を聞きたいから、まずは聞けって言ってんの」
いや、だって、高峰は自分で音声はやってないんだろ? そう言ってんのに、高峰は「約束守れ」と半ば強引に俺を寝かせた。
しょうがなく言う通りにすると、高峰は部屋の電気を薄暗くして隣で喋りだす。
「聞き終わったら意見を言うんだから集中して聞くように」
「へーい」
俺はほんのりアルコールの回った頭で、寝ないようにしなきゃなと思った。ほろ酔いのときって油断すると寝ちゃうからなぁ……。
すると、こないだ借りたディスクと同じで、まずは深呼吸を勧められる。あの音声は女の子のセリフに合わせて深呼吸をさせられた感じだったけど、今は俺の様子を見ながら高峰がいいタイミングで吸って吐いてと指示を出してくれる。それが断然楽だった。
あとなんといっても声。女の子の高い声じゃなくて低めの高峰の良い声が響く。
なんか気持ちいいなと思っていたら、いつの間にか、どこからかカチコチと左右に揺れる音が聞こえてきて、高峰のセリフに合わせてときどきゴーンゴーンと鳴る。柱時計……なのかな……。
ふわりふわりと意識が揺れる。左右に……そして眠りそうで眠らないギリギリのところにいる感じで、浅く深く……。夢に落ちる前の狭間にいるような気持ちいい状態というか、半分夢の中というか。わかるだろ? あの気持ちいい感じ。
「秘密の地下室に下りるよ……ほら、階段が、20、19、18……」
そうか……地下室に下りるんだ。
カツンカツンと靴音が反響する音が聞こえて、まるで高峰に手を引かれてるような……一緒に階段を下りているような感じがする。階段を下りていったら、ぴちょんぴちょんと水滴の音が聞こえたり、ボボボという何かが燃えるような音がしたりしてくる。
「全部下りると目の前に扉があるよ。開けようか。ほら──」
そこからは高峰の声を追っかけるようにすぅーっと暗闇に吸い込まれて、その中にぽつんと立っているようだった。ひとりきりになったみたいで、少し怖くなって薄く目を開くと、近くに高峰の顔があって「大丈夫、上手だね」と耳元で囁かれる。
そっか……上手なんだ……何が……だっけ。
そしてまた目を閉じると高峰の声が響いて聞こえてくる。高峰はマイクなんてつかってないはずなのに……なんで響くんだろ。その声が聞こえると俺の意識が勝手に引っ張られていくみたいな感じだ。
──パチンッ
突然耳元で指を鳴らす音が聞こえて、トロンとなっていた俺の身体がビクリと跳ねた。
「これから数を数えおろしていくよ。ゼロになって指を鳴らしたらヨシヒサの全身の感度が倍になる」
そんな馬鹿な……頭の片隅でそう思うものの、高峰の声でカウントダウンが始まると一気に気持ちが引きずり込まれる。
「……3、2、1……ゼーロ」
──パチンッ
「んあっ!!」
肌が……ぞわぞわちりちりする……。待って、なんだ、これ。
そう思っていると俺の右腕に高峰が触れて、身体が勝手にビクンッと反応する。驚いたのもあったけど、違うんだ……そうじゃなくて……。
「もう少し、高めておこうか。もう一度ゼロまでいったら感度がさらに倍になる。いくよ? 10、9、8……」
待って待って待って……これ、ダメだ……。
──パチンッ
「はぁうっ」
何も俺に触れていないのに、服が擦れるだけで変になりそうだった。つまり、チンコがやばい。むずむずしつつもジーンズの中で痛い……いや、痛気持ちぃ? 身体を捩ったりビクついたりするだけでチンコがじんじんする。
「あ……やだ……脱ぎた……」
「でも、気持ちいいね? 手は動かしたらだめだよ」
俺はコクコクと頷きながらも高峰に助けを求める。でも高峰はクスッと笑いながら声で指示を出すだけだ。そして、ゼロまでカウントダウンしたら気持ちよさが弾けるよって言ったから待ってるのに、何度も「1」でストップされまくっている。なんでゼロまで言わないんだよ。
「あー、やらしいなぁ。ヨシヒサ、今どうなってるかわかってる? 寸止めカウントダウンで腰ガクガク」
「あ……あ……」
「そんなに腰突き上げてジーパンの中パツパツにさせて、どこがMじゃない、だよ」
「お、ねが……ひぅ……」
「催眠ってね、本当に嫌だと思ってることはかからないの。つまり、わかるよね? ヨシヒサはこれを望んでる」
望んでる? 俺が? そうなのかな、もうわけがわかんない。
目尻から涙がつっと溢れる。嫌なんじゃなくて、快感が強すぎて……。はくはくと呼吸をしながら何度も何度も高峰に乞う。
気持ちいい、つらい、気持ちいい、つらい……。ゼロって言って欲しい……。
「そんなに欲しいならあげるよ、10、9、8、7……」
「あぁぁ……」
高峰のカウントダウンとともに、ぞぞぞと変な感覚が背骨の中を渦をまきながら上がってくみたいだ。
「3、2、1……ゼロ!」
──んぐぅぅ!!
待ち望んだ「ゼロ」がきて、身体が弓なりに反って足先までピンと力が入ってしまう。身体中の毛穴から汗が吹き出るような、それと一緒に何かが溢れだすような、チンコじゃなくて脳みそがおかしくなったような感じだった。
ガクッガクッと身体が跳ねて、そのあと一気に脱力する。何が起こったんだか把握しきれずに、はぁはぁと俺が息を整えていると……。
「まだだよ、5、4、3……」
「まって」
「1、ゼロ!」
「あがっ」
脱力の暇もないくらいすぐに俺の身体が跳ねた。その跳ねた反動で服やベッドと身体が擦れるのですら気持ちいい。頭がおかしくなりそう。俺、ちゃんと目開けてる……起きてる……はずだ。なのに、なんで……。
そんな俺に、高峰は何度も何度もカウントダウンを繰り返してきた。
あ……あ……だめ……まって、おねがい……。
たぶん、ずっとそんな言葉をうわ言のように呟いていた気がする。なのに、自分の発してる言葉がやけに小さく聞こえて、高峰の声だけがクッキリと聞こえるせいでわけがわからなかった。
「あー、汗びっしょりだね。可愛いな……。ところで、下はまだ元気だけど、イッとく?」
何度も何度もビクビクさせられて言葉を発する元気はなかったけど、張り詰めたチンコが痛い。やっぱり直接的な刺激も欲しくて俺は頷いた。イキたい、出したいって頭の中がパンクしそうだ。
「じゃあ手を動かしてもいいよ。触って」
「む……り……力、はいんな……」
「うーん。じゃあヨシヒサの手を動かしてやるよ」
そう言うと、高峰が俺のジーンズの前をくつろげて少し下ろした。その刺激すら強すぎる……。高峰は俺の手を持ち上げると、俺の下着越しにチンコの上に導いて、俺の手ごと握り込む。そして、高峰に少し擦られただけで、俺はあっけなく下着の中に発射してしまった。俺でもびっくりするくらいの早さで声も出ない。
肩で息をしてぐったりしている俺に高峰は「解除するよ」と言った。
「10……静かな暗いところに横たわっている……9、8……だんだん周囲が明るくなって頭の中に響いていた声が小さくなってくる、7……」
ぼやんとしたまま高峰の声を聞いていると、どうしても言われたとおりになってしまう。すうっと俺の目は閉じて、まだ肌がピリピリした感覚のまま横たわっていた。カウントされてそのたびに暗闇に光が射してくるような、目が覚めるような感じがしてくる。
「2……周囲の音がクッキリと聞こえてくる。ほら、車が外を走ってる。1……もう意識はすっかり元の状態になっている。……次に指を鳴らしたらスッキリ目覚めるよ……」
──パチンッ
指が鳴って、急にクリアになった感じがする。ふっと目を開けるとニヤリとした高峰がいた。クソやられた……めちゃめちゃ恥ずかしい。何だこれ、ぐちゃぐちゃだ。いろんな意味で。
「うあぁーー……」
「めっちゃかかるじゃん?」
「うあぁーー……」
「おーい。猶木?」
起き上がったあと、膝を抱えて顔を伏せて呻いていると、高峰が俺をツンツンと突っつく。そっと顔を半分だけ持ち上げると、高峰は少しだけ心配そうな顔をしてる。けど、すぐに眼鏡をクイッと持ち上げて言った。
「やりすぎた? ご意見プリーズ」
「お前はよぉ……」
でも俺は意見を言うのを条件に高峰の家に来てる。忘れちゃいない……いないんだけど。
「ベタベタで気持ち悪くて、今は何も言えない……」
「あーね。シャワー使う? スウェットなら貸す。シャツとパンツなら洗濯すれば朝には乾くんじゃね?」
「ジーンズ……」
「それは乾かないだろうから家で洗えよ」
まあ、ジーンズにかけちゃったわけじゃないから……染みたカウパーはしょうがないから我慢かな。涙目でシャワーを借りてキュウと縮みこむまで股間に水をかけた。他人──高峰──の目の前でイッちゃった衝撃は正気に戻った今、かなりキツい。けど、なんだったんだアレ……すごかった、な。思い出すだけでもぞくぞくしそうだ。
浴室から出てテーブル前にへにゃっと座り込めば、さっぱりしただろ、さあ言えとばかりに高峰がにじり寄って来る。
「うー、意見って何を言えばいいんだよ」
「どういうセリフが良かったかとか、全体の長さとか、誘導の自然さとか」
「誘導って……?」
「今回は洋館の地下室に行っただろ?」
「あ、あぁ~、そうだった」
前に借りたディスクのやつはメトロノームの音に合わせて、女の子が二人で左右から囁いてきたんだけど、今回は雰囲気も全然違ってて。途中で感じたとおり、高峰が俺に合わせてくれたから集中できたのかなとか思う。
「なんか……ほろ酔いで気持ちよくて、でも高峰にちゃんと意見言わなきゃって思って、寝ないようにって真剣に聞いてたらなんか……」
「変な感じとか違和感はなかったか?」
「たぶん……」
普通に引きずり込まれてたと思う。っていうか、たぶん高峰の声に引っ張られたんだと思うけど、それは恥ずかしくて言えない。
「焦らしの長さは?」
「キツかった!!」
寸止めを何回もやられたやつだろ? マジ勘弁してほしかった、そう俺が訴えれば「あれはやればやるほど反動でクルんだよ」って返された。それにしたって繰り返しすぎじゃないかと思うんだけど。
数えおろしてくれるって期待してるのに、何度も肩透かしされるんだぞ? 鬼かと思うだろ。
「意味がわからないって言ってたカウントダウンはどうだった?」
「やばかった……アレなに。チンコ触ってないのに身体も頭も変になりそうだったんだけど……」
「暗示による脳イキだよ。だから連続できる」
「アレ、やばくねぇの? 合法!?」
思い出すだけでぞぞ……としてくるけど、今はしっかり覚醒してるからか反応はしない。いや、催眠かけられてないのにあの状態になったら相当やばいもんな。
クックッと高峰が笑って「非合法な声とかあんのかよ」って言った。
だって、あんなのおかしくね? って言おうとしたのにその心底楽しそうな顔を見て心臓がキュッとなる。
「……高峰ってドSってやつなん?」
「うーん。どっちもあるっていうのかな。最初は自分が萌えるシチュエーションで書いてたんだけど、購入者の感想とか見てるうちに、もっとそういう反応が見たいってなってさ」
「うそだぁ……」
「うそじゃないし。聞く側の気持ちだってわかんなきゃ、独りよがりな作品になるだろ」
そう言われるとそうかもしれないという気分にもなるけど……納得はできないな。でもとりあえず、高峰に聞かれるがまま、ご意見ご感想ってやつを答えていった。
俺が何度も訴えたのは「あれは初心者向けじゃない」ってこと。でも、高峰は「あれはドM向けだからいいんだよ」って言う。なんでそのドM向けを俺で試すんだよ、おかしいだろ。
そのあと、高峰にベッドを使っていいって言われたけど、催眠のことを思い出しちゃいそうで俺は床に寝た。なんか疲れすぎて寝落ちしちまった……床なのにいつもより快眠ってどういうことなんだよって思うわ。
翌朝、洗濯物が乾いていたから着替えて帰ったわけだけど……俺はやばい扉を開いてしまったのかもしれない。
**********
※催眠音声をお酒を飲んで聞いてはいけません
「狭いけど適当に座って」
「うーい。うお、高峰、ラップトップの他にこんなデスクトップまであんのかよ」
「そりゃ、音声いじるんだからスペックは大事だろ……でも自分で録音するわけじゃないから機材は少ない。そのうち増やしたいんだけどな」
「ふおー……」
パソコンにテンションの上がった俺は、作品作りの質問だけじゃなくて雑談も交えてテンション高く話していた。グループで話すのとは違って、サシで邪魔の入らない環境で誰かと話すのって久しぶりだったからさ。けど、ときどき視線を感じて顔を上げると高峰に観察されているような感じがした。俺を観察したところで意味もないだろうなんて思った……んだけど、さ。
「いや、人間観察は趣味だよ。作品を作るのには必要だろ」
「でも俺の観察なんて意味なくね?」
「んー興味深いね。最近、猶木は実は逸材じゃないかと……」
逸材? どういう意味だかわからなくて聞こうと思ったらチャイムが鳴った。高峰はいつの間にかピザを注文していたみたいで、それが届くと冷蔵庫の中から「一本ずつしかないけど」なんて言いながら缶チューハイを差し出してくる。もしかして用意してくれてたのかもって思って、俺はそれを受け取ると高峰ととりあえず乾杯した。何にって感じだけど。
なんていうか、最初の出会いもかしこまったもんでもなかったし、高峰はズケズケ言うしって感じだったから、コイツといるのは楽だった。さらには今こうやって、度数強めのチューハイで俺はいい感じにほろ酔いになってるし。
酔ってるというほどでもなく、でもアルコールなしよりは心なしか開放的になっていて、さ。
「人間観察の話の続きだけどさ。猶木って、実はMっ気あるよね」
「へ?」
「無意識か……ふーん」
「えー、ないない。Mって痛いことされたいみたいなやつだろ? 俺、女の子にいじめられたいとか思ったことないし、高峰に渡されたアレもかかんなかったし」
あははーなんて笑って答えたけど、高峰にじっと見られていてちょっとだけ胸がカッとする。アルコールが急に回ったのかな……なんだろ。
「それでなんだけどさ。質問に答える代わりに意見欲しいって言ったの覚えてる?」
「もちろん。言うよ、言う言う」
「じゃ、ちょっと横になってみ?」
「はぇ?」
「新作について意見を聞きたいから、まずは聞けって言ってんの」
いや、だって、高峰は自分で音声はやってないんだろ? そう言ってんのに、高峰は「約束守れ」と半ば強引に俺を寝かせた。
しょうがなく言う通りにすると、高峰は部屋の電気を薄暗くして隣で喋りだす。
「聞き終わったら意見を言うんだから集中して聞くように」
「へーい」
俺はほんのりアルコールの回った頭で、寝ないようにしなきゃなと思った。ほろ酔いのときって油断すると寝ちゃうからなぁ……。
すると、こないだ借りたディスクと同じで、まずは深呼吸を勧められる。あの音声は女の子のセリフに合わせて深呼吸をさせられた感じだったけど、今は俺の様子を見ながら高峰がいいタイミングで吸って吐いてと指示を出してくれる。それが断然楽だった。
あとなんといっても声。女の子の高い声じゃなくて低めの高峰の良い声が響く。
なんか気持ちいいなと思っていたら、いつの間にか、どこからかカチコチと左右に揺れる音が聞こえてきて、高峰のセリフに合わせてときどきゴーンゴーンと鳴る。柱時計……なのかな……。
ふわりふわりと意識が揺れる。左右に……そして眠りそうで眠らないギリギリのところにいる感じで、浅く深く……。夢に落ちる前の狭間にいるような気持ちいい状態というか、半分夢の中というか。わかるだろ? あの気持ちいい感じ。
「秘密の地下室に下りるよ……ほら、階段が、20、19、18……」
そうか……地下室に下りるんだ。
カツンカツンと靴音が反響する音が聞こえて、まるで高峰に手を引かれてるような……一緒に階段を下りているような感じがする。階段を下りていったら、ぴちょんぴちょんと水滴の音が聞こえたり、ボボボという何かが燃えるような音がしたりしてくる。
「全部下りると目の前に扉があるよ。開けようか。ほら──」
そこからは高峰の声を追っかけるようにすぅーっと暗闇に吸い込まれて、その中にぽつんと立っているようだった。ひとりきりになったみたいで、少し怖くなって薄く目を開くと、近くに高峰の顔があって「大丈夫、上手だね」と耳元で囁かれる。
そっか……上手なんだ……何が……だっけ。
そしてまた目を閉じると高峰の声が響いて聞こえてくる。高峰はマイクなんてつかってないはずなのに……なんで響くんだろ。その声が聞こえると俺の意識が勝手に引っ張られていくみたいな感じだ。
──パチンッ
突然耳元で指を鳴らす音が聞こえて、トロンとなっていた俺の身体がビクリと跳ねた。
「これから数を数えおろしていくよ。ゼロになって指を鳴らしたらヨシヒサの全身の感度が倍になる」
そんな馬鹿な……頭の片隅でそう思うものの、高峰の声でカウントダウンが始まると一気に気持ちが引きずり込まれる。
「……3、2、1……ゼーロ」
──パチンッ
「んあっ!!」
肌が……ぞわぞわちりちりする……。待って、なんだ、これ。
そう思っていると俺の右腕に高峰が触れて、身体が勝手にビクンッと反応する。驚いたのもあったけど、違うんだ……そうじゃなくて……。
「もう少し、高めておこうか。もう一度ゼロまでいったら感度がさらに倍になる。いくよ? 10、9、8……」
待って待って待って……これ、ダメだ……。
──パチンッ
「はぁうっ」
何も俺に触れていないのに、服が擦れるだけで変になりそうだった。つまり、チンコがやばい。むずむずしつつもジーンズの中で痛い……いや、痛気持ちぃ? 身体を捩ったりビクついたりするだけでチンコがじんじんする。
「あ……やだ……脱ぎた……」
「でも、気持ちいいね? 手は動かしたらだめだよ」
俺はコクコクと頷きながらも高峰に助けを求める。でも高峰はクスッと笑いながら声で指示を出すだけだ。そして、ゼロまでカウントダウンしたら気持ちよさが弾けるよって言ったから待ってるのに、何度も「1」でストップされまくっている。なんでゼロまで言わないんだよ。
「あー、やらしいなぁ。ヨシヒサ、今どうなってるかわかってる? 寸止めカウントダウンで腰ガクガク」
「あ……あ……」
「そんなに腰突き上げてジーパンの中パツパツにさせて、どこがMじゃない、だよ」
「お、ねが……ひぅ……」
「催眠ってね、本当に嫌だと思ってることはかからないの。つまり、わかるよね? ヨシヒサはこれを望んでる」
望んでる? 俺が? そうなのかな、もうわけがわかんない。
目尻から涙がつっと溢れる。嫌なんじゃなくて、快感が強すぎて……。はくはくと呼吸をしながら何度も何度も高峰に乞う。
気持ちいい、つらい、気持ちいい、つらい……。ゼロって言って欲しい……。
「そんなに欲しいならあげるよ、10、9、8、7……」
「あぁぁ……」
高峰のカウントダウンとともに、ぞぞぞと変な感覚が背骨の中を渦をまきながら上がってくみたいだ。
「3、2、1……ゼロ!」
──んぐぅぅ!!
待ち望んだ「ゼロ」がきて、身体が弓なりに反って足先までピンと力が入ってしまう。身体中の毛穴から汗が吹き出るような、それと一緒に何かが溢れだすような、チンコじゃなくて脳みそがおかしくなったような感じだった。
ガクッガクッと身体が跳ねて、そのあと一気に脱力する。何が起こったんだか把握しきれずに、はぁはぁと俺が息を整えていると……。
「まだだよ、5、4、3……」
「まって」
「1、ゼロ!」
「あがっ」
脱力の暇もないくらいすぐに俺の身体が跳ねた。その跳ねた反動で服やベッドと身体が擦れるのですら気持ちいい。頭がおかしくなりそう。俺、ちゃんと目開けてる……起きてる……はずだ。なのに、なんで……。
そんな俺に、高峰は何度も何度もカウントダウンを繰り返してきた。
あ……あ……だめ……まって、おねがい……。
たぶん、ずっとそんな言葉をうわ言のように呟いていた気がする。なのに、自分の発してる言葉がやけに小さく聞こえて、高峰の声だけがクッキリと聞こえるせいでわけがわからなかった。
「あー、汗びっしょりだね。可愛いな……。ところで、下はまだ元気だけど、イッとく?」
何度も何度もビクビクさせられて言葉を発する元気はなかったけど、張り詰めたチンコが痛い。やっぱり直接的な刺激も欲しくて俺は頷いた。イキたい、出したいって頭の中がパンクしそうだ。
「じゃあ手を動かしてもいいよ。触って」
「む……り……力、はいんな……」
「うーん。じゃあヨシヒサの手を動かしてやるよ」
そう言うと、高峰が俺のジーンズの前をくつろげて少し下ろした。その刺激すら強すぎる……。高峰は俺の手を持ち上げると、俺の下着越しにチンコの上に導いて、俺の手ごと握り込む。そして、高峰に少し擦られただけで、俺はあっけなく下着の中に発射してしまった。俺でもびっくりするくらいの早さで声も出ない。
肩で息をしてぐったりしている俺に高峰は「解除するよ」と言った。
「10……静かな暗いところに横たわっている……9、8……だんだん周囲が明るくなって頭の中に響いていた声が小さくなってくる、7……」
ぼやんとしたまま高峰の声を聞いていると、どうしても言われたとおりになってしまう。すうっと俺の目は閉じて、まだ肌がピリピリした感覚のまま横たわっていた。カウントされてそのたびに暗闇に光が射してくるような、目が覚めるような感じがしてくる。
「2……周囲の音がクッキリと聞こえてくる。ほら、車が外を走ってる。1……もう意識はすっかり元の状態になっている。……次に指を鳴らしたらスッキリ目覚めるよ……」
──パチンッ
指が鳴って、急にクリアになった感じがする。ふっと目を開けるとニヤリとした高峰がいた。クソやられた……めちゃめちゃ恥ずかしい。何だこれ、ぐちゃぐちゃだ。いろんな意味で。
「うあぁーー……」
「めっちゃかかるじゃん?」
「うあぁーー……」
「おーい。猶木?」
起き上がったあと、膝を抱えて顔を伏せて呻いていると、高峰が俺をツンツンと突っつく。そっと顔を半分だけ持ち上げると、高峰は少しだけ心配そうな顔をしてる。けど、すぐに眼鏡をクイッと持ち上げて言った。
「やりすぎた? ご意見プリーズ」
「お前はよぉ……」
でも俺は意見を言うのを条件に高峰の家に来てる。忘れちゃいない……いないんだけど。
「ベタベタで気持ち悪くて、今は何も言えない……」
「あーね。シャワー使う? スウェットなら貸す。シャツとパンツなら洗濯すれば朝には乾くんじゃね?」
「ジーンズ……」
「それは乾かないだろうから家で洗えよ」
まあ、ジーンズにかけちゃったわけじゃないから……染みたカウパーはしょうがないから我慢かな。涙目でシャワーを借りてキュウと縮みこむまで股間に水をかけた。他人──高峰──の目の前でイッちゃった衝撃は正気に戻った今、かなりキツい。けど、なんだったんだアレ……すごかった、な。思い出すだけでもぞくぞくしそうだ。
浴室から出てテーブル前にへにゃっと座り込めば、さっぱりしただろ、さあ言えとばかりに高峰がにじり寄って来る。
「うー、意見って何を言えばいいんだよ」
「どういうセリフが良かったかとか、全体の長さとか、誘導の自然さとか」
「誘導って……?」
「今回は洋館の地下室に行っただろ?」
「あ、あぁ~、そうだった」
前に借りたディスクのやつはメトロノームの音に合わせて、女の子が二人で左右から囁いてきたんだけど、今回は雰囲気も全然違ってて。途中で感じたとおり、高峰が俺に合わせてくれたから集中できたのかなとか思う。
「なんか……ほろ酔いで気持ちよくて、でも高峰にちゃんと意見言わなきゃって思って、寝ないようにって真剣に聞いてたらなんか……」
「変な感じとか違和感はなかったか?」
「たぶん……」
普通に引きずり込まれてたと思う。っていうか、たぶん高峰の声に引っ張られたんだと思うけど、それは恥ずかしくて言えない。
「焦らしの長さは?」
「キツかった!!」
寸止めを何回もやられたやつだろ? マジ勘弁してほしかった、そう俺が訴えれば「あれはやればやるほど反動でクルんだよ」って返された。それにしたって繰り返しすぎじゃないかと思うんだけど。
数えおろしてくれるって期待してるのに、何度も肩透かしされるんだぞ? 鬼かと思うだろ。
「意味がわからないって言ってたカウントダウンはどうだった?」
「やばかった……アレなに。チンコ触ってないのに身体も頭も変になりそうだったんだけど……」
「暗示による脳イキだよ。だから連続できる」
「アレ、やばくねぇの? 合法!?」
思い出すだけでぞぞ……としてくるけど、今はしっかり覚醒してるからか反応はしない。いや、催眠かけられてないのにあの状態になったら相当やばいもんな。
クックッと高峰が笑って「非合法な声とかあんのかよ」って言った。
だって、あんなのおかしくね? って言おうとしたのにその心底楽しそうな顔を見て心臓がキュッとなる。
「……高峰ってドSってやつなん?」
「うーん。どっちもあるっていうのかな。最初は自分が萌えるシチュエーションで書いてたんだけど、購入者の感想とか見てるうちに、もっとそういう反応が見たいってなってさ」
「うそだぁ……」
「うそじゃないし。聞く側の気持ちだってわかんなきゃ、独りよがりな作品になるだろ」
そう言われるとそうかもしれないという気分にもなるけど……納得はできないな。でもとりあえず、高峰に聞かれるがまま、ご意見ご感想ってやつを答えていった。
俺が何度も訴えたのは「あれは初心者向けじゃない」ってこと。でも、高峰は「あれはドM向けだからいいんだよ」って言う。なんでそのドM向けを俺で試すんだよ、おかしいだろ。
そのあと、高峰にベッドを使っていいって言われたけど、催眠のことを思い出しちゃいそうで俺は床に寝た。なんか疲れすぎて寝落ちしちまった……床なのにいつもより快眠ってどういうことなんだよって思うわ。
翌朝、洗濯物が乾いていたから着替えて帰ったわけだけど……俺はやばい扉を開いてしまったのかもしれない。
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※催眠音声をお酒を飲んで聞いてはいけません
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