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前哨戦なのにハードモードすぎる

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 俺は無人機を使って敵軍の動向を追い続けている。
 なるほど、3軍に分けて移動を始めたか。これでは一気に叩き潰すという訳にはいかなくなったな。
 前世のシミュレーションゲームの物量感から、この神聖オーマ軍の総量を考えてみる。一個つの塊の数を見て、その塊の量から全体の兵の数を推測すると、一つの軍集団は大体8000から1万といったところだろうか?
 なかなかに多い。正直これだけの量の軍隊は、俺のやっていたシミュゲーでもなかなか見るもんじゃない。

 さて、3つに分かれてしまったので、一網打尽とはいかなくなったが、連中の行動、これは俺たちにとってもメリットになる。
 連中が合流する前に、1万を3回戦すれば良くなったからだ。

 そもそも軍隊には戦闘幅というのがある。つまり、一つの軍隊が効率的にぶつかれる幅というのは地形によって制限される。
 映画「300」でスパルタ兵が狭い谷に数万のペルシャ軍を引きつけて、圧倒的少数にもかかわらず善戦したという展開が描かれている。あのイメージでいい。こちらの軍が小さすぎて、連中はそもそも1万人でもそのフルパワーをぶつけることはできない。実質的には1000対70くらいを繰り返す形になると思われる。
 ……いや、とはいえ前哨戦なのにハードモードすぎね?

 気を取り直して、うちはエルフ達70人に俺一人なので、300の3分の1という悪条件に加えて、この辺の陸上地形には、森を除いて隘路らしい隘路はない。
しかし、利用できそうなのはある。ポトポトの近くを流れる川だ。

 川幅はたいしたもので、鉄道や鉄橋の作れる時代になるまで、恐らく橋はかからないだろう。この大きな川で、渡河できる地点はこのポトポトの付近には一か所しかない。攻撃を仕掛けるならこのポイントがいい。
 さっそくミリアに俺の作戦を伝達させよう。

★★★

 トンプル騎士団総長のミーウラは眼前に広がった川を見る。なるほど、広いな。
 ここは先に軽騎兵に渡河させて、歩兵でも渡ることのできる浅瀬を探るのが良いだろう。こういった川の浅瀬には急に深くなる場所もある。
 なればこそ、偵察を務めて行うべきだ。

 機人の姿は未だにみえない。恐らく魔王城に引き籠っているのであろう。
 これは好機だ。この川を越え、一気呵成かせいに攻め上がり、後続が突入する前に我々だけで機人を討ち果たして見せようぞ。

 さすれば、神聖オーマ帝国にこの人あり、と謳われる英雄にこのミーウラはなるであろう。フフ、救国の英雄ミーウラ、いい響きではないか!

「軽騎兵を先に渡河させよ。道を拓かせ、しかるのちに歩兵続けさせよ。輜重しちょう隊の馬車は最後だ。」
「ハハッ」

 ムンゴル帝国から雇い入れた、三日月刀と半弓を装備した軽騎兵隊を先行させる。異民族とはいえ、その馬術は見事なものだ。易々と渡っていく。

 ふむ、問題なさそうだな、歩兵隊を進めるか。
 剣を振って号令する。
「歩兵隊、前へ!」

 私の声を聞いた兵士たちが前進する。
 歩兵たちは末端に至るまで、詰め物をした帷子《かたびら》の上に、小さな鎖を繋ぎ合わせた鎖のシャツを着て、手には槍と上半身と膝までを覆る凧のような形をした盾を携えている。非常に充実した装備だ。トンプル騎士団の財力のなせる精兵だな。
 他所ではこうはいくまい。

 しかし、歩兵たちが川を4分の3ほど渡り切り、いざ対岸に着かんとしたとき、異変が起きた。対岸に先に渡っていた騎兵たちがボロボロと馬から落ち、地面をその自らの血で染めているのだ。

 何が起きた?そう考える間もなく、今度は歩兵隊が前列から崩れ落ち、その身を川に沈めた。空の色を映していた美しい青色の川は、瞬く間に真っ赤に染まった。下流に向かって、赤い糸を幾重にも紡いでいる。しかし糸は繋ぎ合わされ布になった。
 先ほどまで命だったものが紡ぐ、死の反物だ。

 精兵たちが、バタバタと意味も解らずに薙ぎ倒されていく。なんだこれは?何が起きている?
 兵たちの間に恐慌パニックが広まるのにさほど時間はかからなかった。
 行くべきか?戻るべきか?押し合いへし合いしている間に、兵たちは反物の一部になった。火にかけた鍋の水がポコポコとわくくらいの時間。それくらいの時間で私たちの兵はもはや存在しなくなった。

 何だ?何が起きた?まだ「ワールツュタット」に到達すらしていないのだぞ?
 それなのにもう兵を失ってしまった。これが機人の呪術なのか?

 混乱した私は、馬を返し、来た道を戻ろうとした。その瞬間、世界から音が消えた。気を失っていたのだろう。気が付いたら泥の中にいた。周りは地面が掘り返され、緑の芝生は焼け焦げ、黒い土が露わになり、馬車のことごとくが燃え上がっていた。炎が躍っているというのに、何も聞こえない。一体何が――
 その次の瞬間、私は次に光を失った。何もわからないうちに、私はすべてを失った。
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