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知恵比べ
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「トンプル騎士団ミーウラ閣下討ち死に!討ち死ににございます!行軍中に襲撃を受け、生き残りは100に満たず、軍団は潰走いたしました!」
血相を変えて天幕に飛び込んできた伝令が伝える言葉は信じられないものだった。
「なんだと!?何が起きた!」
デイツ王は流石に予想していなかった展開にいら立ちを隠せなかった。戦いで最も危険なのは陣を解いている移動中だ。それがわからぬミーウラでない。となると、機人は我々の上を行ったという事だ。
「ライノ川を渡ろうとしたところ、機人ではなく、見えない何かに攻撃されたと、生き延びたわずかな騎士は申しております!」
「つまり、機人は一人ではないという事か!」
「い、いえ、そこまでは……!」
「ええい!さがれ!」
「ははっ!」
何と言う事か……
トンプル騎士団が……
「やってくれるのう……聖ヨワネ騎士団に伝えよ。渡河地点でトンプル騎士団壊滅とのことだ。忌々しい機人め!」
「トンプル騎士団は不幸でありました。しかし我らは同じ轍は踏みませぬぞ」
そう語ったのは、伝令と入れ違いに天幕に入ってきた、聖ヨワネ騎士団の参謀だ。もう聞きつけたか、流石ナイトは格が違うな。
「我らはマルダの海軍から、船を呼び寄せてあります。トンプル騎士団の過ちは機人を甘く見たことにあります。ケーニヒヌベルクには渡河地点がこの一点のみ、機人に戦略眼があるのであれば、十分に読まれる危険性はありました。」
参謀は地図の上、川を占める青いラインに1つの駒を置く。
「おそらくは、機人は最初、エルフの村に現れました。すると、見えない襲撃者は機人に下ったエルフ達でありましょう。恐らくは奴らが機人の持つ武器を用いているのではないかと」
新たにケーニヒヌベルクのある対岸に駒を置き、指ではじいて駒を倒す。
「エルフを仲間に加えたとしても、迎撃に割ける数はそう多くないはずです。船を使って分散上陸し、機人の配下による迎撃を飽和させます。」
参謀は川の上に8つの駒を置く。
さすがは海賊狩りで名声を上げた、聖ヨワネ騎士団だ。マルダの海軍を使うか……なるほど、これならば渡河の途上での壊滅は避けられるだろう。
「そしてもう一つ、機人の呪術がなんであるのか?それが負傷者の手当てによって、わかりかけております。」
「ほう、そういえば聖ヨワネ騎士団は別名、ホスピス騎士団といいましたな。巡礼者がその巡礼の途上にあって、病や怪我を負った者たちを治療したのが始まりと。」
「ええ、デイツ王のおっしゃる通りです。そして道半ばに散った者たちを介錯し、その血肉を引き継ぐことを是とした騎士団でもあります。ともかく、話を戻しましょう。従僕よ、ここにあれを持て」
「ハハッ」
従僕が「あれ」と呼ばれるものを、布の上に置いて天幕の中に持ち込んできた。
布の上にある者、それは大きくへこみ、穴の開いた胸当て、そしてキノコの様に変形した金属片だった。
「これは……一体何か?」
「トンプル騎士団の負傷者から回収したものにございます。街を焼く大火を発生させる方法についてはまだ不明ですが、人々を死に至らしめる呪術に関しては突き止めました。そしてこれが、機人の呪術の正体にございます。」
「というと?」
「はっ、恐らく機人はこのキノコの様に変形した金属、これを高速で矢のように打ち出しております。もっとも、どうやってそんなことをしているのか?具体的な方法は不明ですが。」
「つまり、呪いや魔法ではないと?」
「はい。そしてこれでわかりました。機人の行っていることは、ごく単純なものでございます。これは本質的には、石を投げているのと変わりませぬ。」
「であるならば……」
「はい、石を投げてくるものにはどうするか?それが我らのすべき対策であります」
参謀は機人の攻撃の対策に必要な物資を求め、私はそれを供給せよという書類にサインした。さすがは聖ヨワネ騎士団だ。彼ら聖ヨワネ騎士団は、マルダの孤島に拠点があり、異民族や海賊と、長年戦い続けていた。そのため、未知の存在と戦う際の分析力が高い。その能力は、他所の追随を許さないものだ。
「ククク、機人め、人間と知恵比べと行こうではないか」
血相を変えて天幕に飛び込んできた伝令が伝える言葉は信じられないものだった。
「なんだと!?何が起きた!」
デイツ王は流石に予想していなかった展開にいら立ちを隠せなかった。戦いで最も危険なのは陣を解いている移動中だ。それがわからぬミーウラでない。となると、機人は我々の上を行ったという事だ。
「ライノ川を渡ろうとしたところ、機人ではなく、見えない何かに攻撃されたと、生き延びたわずかな騎士は申しております!」
「つまり、機人は一人ではないという事か!」
「い、いえ、そこまでは……!」
「ええい!さがれ!」
「ははっ!」
何と言う事か……
トンプル騎士団が……
「やってくれるのう……聖ヨワネ騎士団に伝えよ。渡河地点でトンプル騎士団壊滅とのことだ。忌々しい機人め!」
「トンプル騎士団は不幸でありました。しかし我らは同じ轍は踏みませぬぞ」
そう語ったのは、伝令と入れ違いに天幕に入ってきた、聖ヨワネ騎士団の参謀だ。もう聞きつけたか、流石ナイトは格が違うな。
「我らはマルダの海軍から、船を呼び寄せてあります。トンプル騎士団の過ちは機人を甘く見たことにあります。ケーニヒヌベルクには渡河地点がこの一点のみ、機人に戦略眼があるのであれば、十分に読まれる危険性はありました。」
参謀は地図の上、川を占める青いラインに1つの駒を置く。
「おそらくは、機人は最初、エルフの村に現れました。すると、見えない襲撃者は機人に下ったエルフ達でありましょう。恐らくは奴らが機人の持つ武器を用いているのではないかと」
新たにケーニヒヌベルクのある対岸に駒を置き、指ではじいて駒を倒す。
「エルフを仲間に加えたとしても、迎撃に割ける数はそう多くないはずです。船を使って分散上陸し、機人の配下による迎撃を飽和させます。」
参謀は川の上に8つの駒を置く。
さすがは海賊狩りで名声を上げた、聖ヨワネ騎士団だ。マルダの海軍を使うか……なるほど、これならば渡河の途上での壊滅は避けられるだろう。
「そしてもう一つ、機人の呪術がなんであるのか?それが負傷者の手当てによって、わかりかけております。」
「ほう、そういえば聖ヨワネ騎士団は別名、ホスピス騎士団といいましたな。巡礼者がその巡礼の途上にあって、病や怪我を負った者たちを治療したのが始まりと。」
「ええ、デイツ王のおっしゃる通りです。そして道半ばに散った者たちを介錯し、その血肉を引き継ぐことを是とした騎士団でもあります。ともかく、話を戻しましょう。従僕よ、ここにあれを持て」
「ハハッ」
従僕が「あれ」と呼ばれるものを、布の上に置いて天幕の中に持ち込んできた。
布の上にある者、それは大きくへこみ、穴の開いた胸当て、そしてキノコの様に変形した金属片だった。
「これは……一体何か?」
「トンプル騎士団の負傷者から回収したものにございます。街を焼く大火を発生させる方法についてはまだ不明ですが、人々を死に至らしめる呪術に関しては突き止めました。そしてこれが、機人の呪術の正体にございます。」
「というと?」
「はっ、恐らく機人はこのキノコの様に変形した金属、これを高速で矢のように打ち出しております。もっとも、どうやってそんなことをしているのか?具体的な方法は不明ですが。」
「つまり、呪いや魔法ではないと?」
「はい。そしてこれでわかりました。機人の行っていることは、ごく単純なものでございます。これは本質的には、石を投げているのと変わりませぬ。」
「であるならば……」
「はい、石を投げてくるものにはどうするか?それが我らのすべき対策であります」
参謀は機人の攻撃の対策に必要な物資を求め、私はそれを供給せよという書類にサインした。さすがは聖ヨワネ騎士団だ。彼ら聖ヨワネ騎士団は、マルダの孤島に拠点があり、異民族や海賊と、長年戦い続けていた。そのため、未知の存在と戦う際の分析力が高い。その能力は、他所の追随を許さないものだ。
「ククク、機人め、人間と知恵比べと行こうではないか」
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