俺、人型兵器転生。なぜかゴブリンとかエルフがいる未来の崩壊世界を近代兵器で無双する。

ねくろん@アルファ

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ミッドナイト・ラン

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 ”元”神聖オーマ帝国宰相にして、猫人の私ネコマは、いま首都の周辺を見下ろす丘に居る。
 燃やされ、骨組みだけになった農家と、収穫前に踏み荒らされ、刈り取られて、無残な姿となった畑。略奪だけは一丁前だな。

 領内の視察として抜け出たが、このまま国境を超えるつもりだ。その案内役は鼠人の猟師、機人の目撃報告を最初に持ってきたあの者だ。

「へえ、この先の岩山を超えて、平原を行って7日もすれば、イトアニア、ルシアの先端に着きますはずで」

「長旅になるがよろしく頼む」

 X字軍が召集され、機人との戦いが始まったが、ここまで力の差があったとはな。トンプル騎士団はほぼ何もできずに消滅。聖ヨワネ騎士団もマルダの海軍がその半数以上を失い、総長、そして持ち出した聖遺物の行方も不明だという。

 敗北が続き、宗教的シンボルも失ったX字軍は動揺している。あと一押し、何かがあれば、バラバラになってもおかしくないな。

 残った全軍の3分の1、大デイツ騎士団だけで機人を相手にできるとは思えない。戦った後、傷ついた国土と軍をどうすればいいのだ?降伏するにしても、機人がとても話が通じる相手とは思えない。

 ――つまり、この国、詰んでる。

 私は足に細い布を巻き付け、脚絆とする。強く巻き付けた布は、疲労を軽減してくれる。長旅に備えた品を詰め込んだカバンを背負い、その上に巻いた毛布を乗せる。うん、これならどこから見ても旅行者だな。

 神聖オーマ帝国はこれから崩壊に向かうだろう。なので私はルシアに向かうことにした。ルシアはこの世界のド田舎だ。牛と麦畑、あとはサケを取るためのカヌーしかないようなところだ。

 書類で出来た要塞を離れ、厄介ごとから身を引き、隠遁しよう。
 すくなくとも、機人の気が済むまでは。

 私は丘を離れ、神聖オーマ帝国の東の平原へと向かった。
 しかし、私たちの旅は、突如そこで中断された。
 平原の向こうから唐突に表れた、牛の角を旗印にしたムンゴル帝国の騎兵たち。
 彼らに取り囲まれ、捕虜になってしまったのだ。

 テントを曳きながら羊や馬を伴い移動しているムンゴルの遊牧民たち。地平線を埋め尽くすその数は10万を下らないだろう。半数は民間人だ。つまり、彼らはこれまでの略奪が目的の侵略ではなく、新しく国を建てる、「植民」に来ている。

 神聖でもなく、オーマでもなく、ましてや帝国でもない、神聖オーマ帝国は今ここに死亡診断書を突き付けられた。そしてたぶん私も。

★★★

 数日のち、神聖オーマ帝国の首都郊外に張られた、X字軍の司令部となっている天幕。そこに、息を切らせた伝令が飛び込んできた。

「デイツ王!一大事にございます!」

「落ち着け、聖ヨワネ騎士団が壊滅したことについて、余は既に聞き及んでおる。」

「そちらではありませぬ!ムンゴルが!ムンゴル帝国が侵攻を開始しました!10万を超える軍勢が集結して国境を越え、ペーランドはムンゴル軍の将軍、チンガス・ハンの怒涛の攻撃を受け、州都ワリシャワ陥落との報告です!」

「なんだと?!」

「ムンゴル帝国はペーランドを超え、デイツに迫っています!」

「むむむ……」

「何が、むむむだ!」

声を上げたのは、X字軍にあつまった、諸侯の一人だ。

「この戦いでデイツが疲弊して、一番喜んだのは誰だと思っておる!機人などに貴重な兵力をつぎ込んで、ほかならぬムンゴルではないか!」

「左様、機人はこちらを攻めるわけでもなく、ただ魔王城に居座っているだけ。緊急の要件ではなかった。にもかかわらず、安易な攻撃で半数以上を失った。」

「デイツ王の采配には、我らも疑問を禁じ得ませんな」

こいつら……!あれだけ賛成しておいて、ムンゴルの侵略で自身の領地が危うくなると、あっさり手のひらを返しおった!おのれ……

「であるならば、X字軍はこのままムンゴルの対処にあてるべきかと存じ上げます」

「いかにも、そしてそれはデイツ王の指揮ではなく、大デイツ騎士団総長のタゴコロ総長に一任するのがよろしいかと。」

「「うむ!しかり!しかり!」」

 貴族共をしかりつけても、もはや聞くまい、騎士団の長に過ぎないタゴコロに、10倍の戦力を相手せよと?悪い冗談だ。

 とはいえ、壁を使って戦えば、まだまともな戦いはできる。
 ムンゴルの弓はこちらより性能がいいが、高い壁の上から狙い打てばまだ飛距離を稼げていい勝負ができる。
 つまり籠城戦なら多少の勝機はある。

 機人と戦うつもりでそろえた軍を、まさかムンゴルに使うことになるとはな……
 しかしこうなっては仕方がない、機人はひとまず捨ておいて、まずはムンゴルの対処だ。ここでデイツを失うわけにはいかない。
 私はタゴコロを天幕に呼びつけると、早速、戦いの用意をはじめた。
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