144 / 165
正しい食事
しおりを挟む
おっさんはデカい本を開いてこの本がどういったものなのか?
それを説明しだした。
「すべての始まりは……『正しい食事』から始まったのさ」
「……というと?」
「きまってるだろ?ラメリカがおかしくなった始まりさ。それまでラメリカは自由の国だった。誰かを傷つけたりしなけりゃ、好きにやって良い国だ」
「それは素晴らしい考えだと思います。努力する人は誰から見ても美しいですもの」
ぷるんと揺れるモノを揺らしてデドリーが言う。
うーむ、美しい。やはり妖怪よりはこっちの方が……いや、そうじゃない。
「……それが変わったのが『正しい食事』というわけか、どういった内容だ?」
「その内容はあまりにも多くてね、こうしてまとめた物が回っている。この本の名前は『黒旗』というんだが……ともかく今から説明してやろう」
メガネのおじさんは店のカーテンを閉めると、ガラス戸にロックをかけてブラインドを閉めた。注意深くを外を見まわした後、こちらにもどってきて話を再開した。
「そう、あれは誰が言いだしたのだったか?今となっちゃどうでもいい。とにかく、このラメリカで『正しい食事』ブームが発生したんだ」
「内容は、簡単に言えば、食べることは「悪」だという考えだ」
「「はぁ?」」俺達3人の声がキレイにハモった。
おじさんは『黒旗』に書かれている文章を指さした。
そこにはこのような内容が書いてあった。
食事とは野蛮でおぞましい営みであり、理性を持った思考の存在たる人間、また最上位存在である女性にとってはクソ動物とのゲロつながりを想起させるセカンドレ○プであり搾取的で恥ずべき営みで男性的に過ぎる。
よって『黒旗』はここに『正しい食事』を提唱する。
「……なんだこれは?」
「俺たちもよくわからないから、狂人の戯言として放っておいた。きっとそれが良くなかったんだろう」
「機人様、次の文章を読んでみましょう」
「……う、うむ」俺はミリアに促されてページをめくる。
食事の「残虐性」がもっとも露わになるのは、動物をサツガイしその肉をむさぼる場合である。私たちは動物をサツガイして搾取しなくても、そこらへんの草で栄養を摂取すれば生きていくことができる。
「だんだんおかしくなってきましたね。いや、最初から変ですけど」
「……誰もこれに異を唱えなかったのか?」
「どう考えてもおかしいやつらに取り合っていたら、近所や親せきから、こっちのほうが頭がおかしい奴扱いされるだろ?」
「……それは確かに」
「うわ、次のページはやたら内容がびっしりですよ」
「目が滑るわね。書いてある内容は読めるのに理解ができないわ」
牛や豚は疫病をまき散らし、存在自体が不道徳で危険だ。
げっぷは空気を汚染して、豚は疫病の原因になる。
つまりあらゆる科学的な観点から見ても、「正しい食事」のためには、肉食をやめた方が良いという結論が導きだされる。
(いや、不道徳から何で科学的って話になってるんだ?)
にもかかわらず、男性的文化は筋肉を誇示し、「強い体を作る」といって積極的に肉を食べる。これは男性的文化が動物を殺すことを推奨していると言ってもいい。
この原因は、男性が女性をレ○プし抑圧することを求める野蛮な動物だからだ。
(結論がぶっとびすぎぃ?!)
(なんかAがBなのは、Aであるからっていう風に根拠がグルグルしてません?)
「じゃあ肉を食べる女性はヒゲを付けないといけないんでしょうか」
「……意味不明だな。もうページをめくるのが恐ろしくなってきたぞ」
「しかし、この文章の書き手はずいぶんと男性を嫌悪していますね。ことあるごとに女性の優位を書き、男性を危険な存在として書いています」
「……あまりに偏った見かた過ぎるな」
動物をサツガイする男性的文化は、人と動物を区別することで成り立っている。
つまり、動物のサツガイと人のサツガイを区別し境界線をひいているのだ。
完全な欺瞞である。
なぜなら思考が原始的動物のままである「男性」は、人間というよりは動物であり、生存権をはく奪し、サツガイしなければならないからだ。
(とんでもないこと言いだしたぁ?!)
(なんですかこの怪文書?)
「……なんだ『黒旗』は?人類を滅亡させたいのか?」
「俺たちもそう言って笑ってたよ。だからだれも奴らが実際に行動を起こした時、真面目に受け止めなかった。それが間違いだったんだ。」
「……実際に?最初に一体何が起きた?」
メガネのオッサンはくいっとメガネをなおすと、目じりに涙を浮かべて続けた。
「まずは草を食う事がどれだけ素晴らしいかって話からはじまった。信じられるか?野菜じゃなくて草だぞ?皆して、連中は野菜と草の区別もつかないって笑っていた」
「まず最初にやられたのはステーキ屋だ。わかりやすく肉を売っていたからな。でも俺たちは何もしなかった」
「それは、つまりバーガー屋さんだからですね?」
「ああ。つぎにミートと名がつく料理を取り扱う店がやられた。ジェフリーのやつが作るミートボールは美味かったのにな……畜生!」
「……もう少し読み進めてみよう。ここまでの内容でそれが起きた理由がわからん」
(機人様、わかり切ってるとは思いますが、「黒旗」を読み進めても、わかる気配が一切ありませんよ?)
(しょーがないじゃん。他に手がかりもないんだからさー!)
人間の良心を代表する我々『黒旗』は動物と人の間に境界線を引くことを差別的と断じる。動物にも「平等の原理」を適用すべきなのだ。
(なんで?)
(さぁ?)
なぜなら、動物には感覚が備わっており、快楽や苦しみを感じる能力があるからだ。
苦しむものは助けられなければならない。
それを否定するものは「絶対悪」であり、人間の良心を持つ者は、この論理を否定する「絶対悪人」を断罪し、叩き潰してサツガイしてこの世から抹消しなくてはならない。家族、財産、全てを奪いつくし、その名を刻まれた書物、墓ものこしてはならない。
「……おかしくないか?絶対悪人も『感覚』があるだろう?」
「なんか、言ったその場で矛盾していますね」
「これは別の目的のために作られているな。『正しい食事』を広め得ることが目的なら、食べ物で遊ぶなとかの話になると思うが……」
(そもそも論点がふんわりしていますよね。提唱している割には、「正しい食事」の反証が出来そうな、具体的な定義が一切ないですし)
(……あっほんとだ!どこにもねぇ!雰囲気でしか書いてねえ!!)
「機人様の言う通りだと思います。これは正義の名のもとに奪う行うのが目的です。この『黒旗』の内容は、オーマに流布されていたカリスト教の経典と変わりません」
「あんたらは一体……?」
「……申し遅れたな。我々はポトポトの機人とその仲間たちだ」
「あんたらが、あの?」
「よくは解らんが、その機人だ」
「あの、人をその腹で砕いて、山を飲み込み、湖を飲み干し、巨大な飛行機を作って世界中を爆破して回っているっていう、あの機人か?!」
(割と間違ってはいませんね)
(なんかすっかり怪物扱いされてんなぁ……)
「……まあ、似たようなことはしている。まあ解釈の余地はあるようだが」
「そうか、アンタならこのラメリカを何とかできるかもしれねぇ……応援するぜ!」
「…‥そうか、ではお願いしたいことがある」
「ああ!何でも言ってくれ!」
「バーガーの事を説明してくれ」
「そりゃ失敬」といってテヘペロみたいな感じでおじさんが説明を始めるのだが、これまた苦労しているなあってのが解るラインアップだった。
――いやホントに、どうしてこうなってんだかな?
それを説明しだした。
「すべての始まりは……『正しい食事』から始まったのさ」
「……というと?」
「きまってるだろ?ラメリカがおかしくなった始まりさ。それまでラメリカは自由の国だった。誰かを傷つけたりしなけりゃ、好きにやって良い国だ」
「それは素晴らしい考えだと思います。努力する人は誰から見ても美しいですもの」
ぷるんと揺れるモノを揺らしてデドリーが言う。
うーむ、美しい。やはり妖怪よりはこっちの方が……いや、そうじゃない。
「……それが変わったのが『正しい食事』というわけか、どういった内容だ?」
「その内容はあまりにも多くてね、こうしてまとめた物が回っている。この本の名前は『黒旗』というんだが……ともかく今から説明してやろう」
メガネのおじさんは店のカーテンを閉めると、ガラス戸にロックをかけてブラインドを閉めた。注意深くを外を見まわした後、こちらにもどってきて話を再開した。
「そう、あれは誰が言いだしたのだったか?今となっちゃどうでもいい。とにかく、このラメリカで『正しい食事』ブームが発生したんだ」
「内容は、簡単に言えば、食べることは「悪」だという考えだ」
「「はぁ?」」俺達3人の声がキレイにハモった。
おじさんは『黒旗』に書かれている文章を指さした。
そこにはこのような内容が書いてあった。
食事とは野蛮でおぞましい営みであり、理性を持った思考の存在たる人間、また最上位存在である女性にとってはクソ動物とのゲロつながりを想起させるセカンドレ○プであり搾取的で恥ずべき営みで男性的に過ぎる。
よって『黒旗』はここに『正しい食事』を提唱する。
「……なんだこれは?」
「俺たちもよくわからないから、狂人の戯言として放っておいた。きっとそれが良くなかったんだろう」
「機人様、次の文章を読んでみましょう」
「……う、うむ」俺はミリアに促されてページをめくる。
食事の「残虐性」がもっとも露わになるのは、動物をサツガイしその肉をむさぼる場合である。私たちは動物をサツガイして搾取しなくても、そこらへんの草で栄養を摂取すれば生きていくことができる。
「だんだんおかしくなってきましたね。いや、最初から変ですけど」
「……誰もこれに異を唱えなかったのか?」
「どう考えてもおかしいやつらに取り合っていたら、近所や親せきから、こっちのほうが頭がおかしい奴扱いされるだろ?」
「……それは確かに」
「うわ、次のページはやたら内容がびっしりですよ」
「目が滑るわね。書いてある内容は読めるのに理解ができないわ」
牛や豚は疫病をまき散らし、存在自体が不道徳で危険だ。
げっぷは空気を汚染して、豚は疫病の原因になる。
つまりあらゆる科学的な観点から見ても、「正しい食事」のためには、肉食をやめた方が良いという結論が導きだされる。
(いや、不道徳から何で科学的って話になってるんだ?)
にもかかわらず、男性的文化は筋肉を誇示し、「強い体を作る」といって積極的に肉を食べる。これは男性的文化が動物を殺すことを推奨していると言ってもいい。
この原因は、男性が女性をレ○プし抑圧することを求める野蛮な動物だからだ。
(結論がぶっとびすぎぃ?!)
(なんかAがBなのは、Aであるからっていう風に根拠がグルグルしてません?)
「じゃあ肉を食べる女性はヒゲを付けないといけないんでしょうか」
「……意味不明だな。もうページをめくるのが恐ろしくなってきたぞ」
「しかし、この文章の書き手はずいぶんと男性を嫌悪していますね。ことあるごとに女性の優位を書き、男性を危険な存在として書いています」
「……あまりに偏った見かた過ぎるな」
動物をサツガイする男性的文化は、人と動物を区別することで成り立っている。
つまり、動物のサツガイと人のサツガイを区別し境界線をひいているのだ。
完全な欺瞞である。
なぜなら思考が原始的動物のままである「男性」は、人間というよりは動物であり、生存権をはく奪し、サツガイしなければならないからだ。
(とんでもないこと言いだしたぁ?!)
(なんですかこの怪文書?)
「……なんだ『黒旗』は?人類を滅亡させたいのか?」
「俺たちもそう言って笑ってたよ。だからだれも奴らが実際に行動を起こした時、真面目に受け止めなかった。それが間違いだったんだ。」
「……実際に?最初に一体何が起きた?」
メガネのオッサンはくいっとメガネをなおすと、目じりに涙を浮かべて続けた。
「まずは草を食う事がどれだけ素晴らしいかって話からはじまった。信じられるか?野菜じゃなくて草だぞ?皆して、連中は野菜と草の区別もつかないって笑っていた」
「まず最初にやられたのはステーキ屋だ。わかりやすく肉を売っていたからな。でも俺たちは何もしなかった」
「それは、つまりバーガー屋さんだからですね?」
「ああ。つぎにミートと名がつく料理を取り扱う店がやられた。ジェフリーのやつが作るミートボールは美味かったのにな……畜生!」
「……もう少し読み進めてみよう。ここまでの内容でそれが起きた理由がわからん」
(機人様、わかり切ってるとは思いますが、「黒旗」を読み進めても、わかる気配が一切ありませんよ?)
(しょーがないじゃん。他に手がかりもないんだからさー!)
人間の良心を代表する我々『黒旗』は動物と人の間に境界線を引くことを差別的と断じる。動物にも「平等の原理」を適用すべきなのだ。
(なんで?)
(さぁ?)
なぜなら、動物には感覚が備わっており、快楽や苦しみを感じる能力があるからだ。
苦しむものは助けられなければならない。
それを否定するものは「絶対悪」であり、人間の良心を持つ者は、この論理を否定する「絶対悪人」を断罪し、叩き潰してサツガイしてこの世から抹消しなくてはならない。家族、財産、全てを奪いつくし、その名を刻まれた書物、墓ものこしてはならない。
「……おかしくないか?絶対悪人も『感覚』があるだろう?」
「なんか、言ったその場で矛盾していますね」
「これは別の目的のために作られているな。『正しい食事』を広め得ることが目的なら、食べ物で遊ぶなとかの話になると思うが……」
(そもそも論点がふんわりしていますよね。提唱している割には、「正しい食事」の反証が出来そうな、具体的な定義が一切ないですし)
(……あっほんとだ!どこにもねぇ!雰囲気でしか書いてねえ!!)
「機人様の言う通りだと思います。これは正義の名のもとに奪う行うのが目的です。この『黒旗』の内容は、オーマに流布されていたカリスト教の経典と変わりません」
「あんたらは一体……?」
「……申し遅れたな。我々はポトポトの機人とその仲間たちだ」
「あんたらが、あの?」
「よくは解らんが、その機人だ」
「あの、人をその腹で砕いて、山を飲み込み、湖を飲み干し、巨大な飛行機を作って世界中を爆破して回っているっていう、あの機人か?!」
(割と間違ってはいませんね)
(なんかすっかり怪物扱いされてんなぁ……)
「……まあ、似たようなことはしている。まあ解釈の余地はあるようだが」
「そうか、アンタならこのラメリカを何とかできるかもしれねぇ……応援するぜ!」
「…‥そうか、ではお願いしたいことがある」
「ああ!何でも言ってくれ!」
「バーガーの事を説明してくれ」
「そりゃ失敬」といってテヘペロみたいな感じでおじさんが説明を始めるのだが、これまた苦労しているなあってのが解るラインアップだった。
――いやホントに、どうしてこうなってんだかな?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
49
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる