金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

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15.遠くから来た貴公子

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 信夫はあゆたを支えてない方の手で内ポケットを探ると合鍵を出した。

 信夫は梅渓の敷地内にあるどの扉の鍵も所有している。次期後継者であり、亡き大旦那様お気に入りの孫だった信夫は当代当主である梅渓信善のぶたると同等の力を有している。その信夫があゆたに肩入れしているので、あゆたは冷遇はされているが虐待はされていない。
 
 大旦那様の死後、この隠居所を追い出されないのは、大旦那様が遺言で法的にあゆたを庇護してくれたから。そして同時に、信夫があゆたに好意的だということも大きかった。

 大旦那様の長男であり、梅渓家当主である梅渓信善。その養子である信夫は、子供のいない現当主の正当な跡取りだ。

 信夫の母親は信善の長姉だ。熱烈な恋愛をして梅渓の家を駆け落ちするようにヨーロッパへ飛び出した。つまり大旦那様の長女になる。

 アルファの男女の婚姻による出生率は著しく低い。信善夫妻はアルファ同士だった。子供のなかった信善夫妻が離婚した後、再婚の予定のなかった信善から是非にと乞われて信夫が梅渓家の跡継ぎとして迎えられたそうだ。
 
 物心ついた頃に梅渓の屋敷へ引き取られた信夫は、大旦那様にかわいがられて育った。信夫が梅渓本家において例外的にあゆたへ悪感情を持っていないのも、大旦那様の影響が大きかった。

「何かの偶然でたがが外れないとも限りません。アルファとオメガなのですから、ちょっとした拍子に本能的なことに抗えない事態もありえます」

 信夫は鍵を開けた。からからと軽やかに硝子戸は開く。留守にしていた家の空気がふわりと吹き抜ける。この瞬間、いつもあゆたは大旦那様を思い出す。抹香の匂いに似たこの空気に、懐かしさがこみ上げて、今にも廊下の奥からあゆたを呼ぶ大旦那様の声が聞こえるのではないかなどと錯覚する。

「八月一日宮くんはアルファです」
「……わかってる」

 信夫は抱えるようにして、上り框にあゆたを座らせる。動きの端緒で痛みが走るのに顔をしかめるのを見咎みとがめ、信夫はその場にひざまずいた。
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