金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

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21.子どもに過ぎないもどかしさ

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「親方は心配し過ぎですよ。はい、ありがとうございます。それじゃ、よろしくお願いします」

 微苦笑しながらあゆたは通話を終えた。誰かから、それも家族でもない人からの気遣いがくすぐったかった。

 心苦しいが怪我をしたので休ませて欲しいと頼むと、親方には逆に心配された。梅渓うめのたにとあゆたの関係を知る親方は家に来て養生するようにとまで言ってくれた。

 純粋な好意は嬉しかったが、言葉に甘えて親方の家に行ったことが知れれば、外聞が悪いと母屋の人々は眉を顰めるだろう。あゆたは何度も礼を言って離れでおとなしくしていると親方に約束した。

 夜には痛み止めのおかげで、のろのろとなら歩けるほどになった。熱が出てきているから、さっさと寝てしまおうとあゆたはいつもの何倍のも時間をかけて支度をした。

 いつも意識したこともない些細な動きでびりりと痛みが走る。足首をかばって筋肉に妙な力が入ったり、いつもはしない姿勢になったりするので、明日は筋肉痛になるに違いない。

 入浴はさすがに自信がなくて、ひーひー言いながら濡れタオルで体をふいて終わらせた。

「……あ、保護者の印鑑……」

 四苦八苦して延べた布団に転がってから、はたと気付く。あゆたは顔を曇らせた。どうしよう……と呟いて、しかしすでにやらなければならないことは決まり切っていた。

 学園に保護者として届けられているのは、梅渓当主である梅渓信善のぶたるだ。

 未成年であるあゆたは、学校や役所などに提出する書類には、使用人にお願いして必要書類に著名や印鑑を貰っている。余程のことがない限り母屋の敷居はまたがない。

 母屋に隣接している使用人の住居棟にこっそり赴き、家政婦長か家政を預かる執事に必要書類を渡してくれるようお願いする。この時も余りいい顔をされないが、背に腹は代えられない。

 聡い信夫が察して手伝ってくれることもあるが、信夫の厚意にいつまでも甘えるわけにはいかない。将来の当主である信夫と使用人の間に溝を作るきっかけになりかねないからだ。

 そうして信善の元から返ってくる書類はまた使用人の手を経由する。あゆたが取りに行くか、運が良ければ離れの郵便受けに突っ込まれていることもあった。早めにお願いしないと明後日の登校時には間に合わない。

 そういう経緯でこの届もあゆたの手に戻るまでに迂遠な時間を必要とする。早めに動いた方がいい。
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