金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

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31.たったひとりの友だち

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 あゆたは発情期のないオメガなので余り関係ないが、オメガは繊細な質の生徒が多いらしくすぐに気分が悪くなったりするし、不意の発情期に備えて素早く廊下へ出られるように大抵出入口の傍に席を置かれる。

 華頂学園では保健室の近くや各棟にシャルターが備え付けられていて、突発的なヒートが起きた場合の緊急避難場所があった。そのような際に、換気の流れでフェロモンが広がらないように窓際にも座らせない配慮がされる。

 あゆたの席は廊下から二番目の一番後ろだ。隣の列が廊下の最寄りなので、今のお隣さんはオメガのクラスメイトで蜂須賀はちすが佳英よしえという少年だった。

 一組は成績順なのでメンバーがほとんど固定している。
 
 そんな中で三年になってから、蜂須賀とは初めて同じ一組になった。社交的でないあゆたには蜂須賀がどういう人なのかまだよくわかっていない。

 必要なこと以外はおしゃべりしたことがないが、お花のような印象のかわいらしい顔をしている。ホームルームぎりぎりに登校することが多く、今日もまだ来ていなかった。

 ホームルームまで二十分もあるので、みな授業の準備をしたり思い思いに話したりしている。三年一組にはあゆたを含めてオメガがふたりいる。ベータは三人で、残りの二十三人はアルファだ。そしてあゆたにはこのクラスにひとりしか友達がいない。

「あゆたくんあゆたくん!」

 そろそろと席についたあゆたのところへ、飛んできたのは飛鳥井あすかい於兎おとだった。

 つやつやの黒髪のショートカットは毛先が少し跳ねている。黒目勝ちのぱっちりした目は眼鏡の奥でくりくりよく笑うが、今は焦ったように瞬きを繰り返していた。

 百七十少しあるあゆたより少し小柄な華奢な体つき。おっとりした物腰と相まって、於兎はよくオメガに間違われるようなかわいらしい外見をしていた。しかし発情期休暇を使っているのを見たことがないので於兎はベータのはずだ。

「於兎、おはよう」

 於兎はずっと同じクラスにいる。中学三年の時に席が隣同士になって以来、お互い中途半端な時期に外部から編入してきたこともあり意気投合した。

 ご両親は公務員である於兎はお金持ちのご令息ばかりのこの学校で、自分も同じ数少ない庶民派だと言ってくれた。あゆたは彼を勝手に親友だと思っている。

(ひとりでも友達がいるんだから恩の字だ)

 
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