金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

文字の大きさ
123 / 202

122.この先に待っているもの

しおりを挟む
 どこへ行くのだろうと疑問を差しはさむ余地もない。

 四基あるエレベーターの一つがポーンと軽やかに開いた。行先を知らないままエレベーターは上昇した。

 車もそうだが、エレベーターの狭さも堪える。信善の気配に圧迫されてドアをこじ開けて飛びたしたくなる。独特の浮遊感に胃のあたりがふわふわするのも気持ち悪かった。

 やがて階数ランプは最上階まであと一階を残して止まった。だいたいのホテルが最上階はインペリアルスウィートなので、この階はそれに準ずるセミスウィートに当たるだろう。

 まさか。

 閃いた想像にぞっとした。

 この先に誰か――あゆたを買うというアルファがいるのか。

 ドアがゆっくりと開いていく。
 
 あゆたの足が動かない。

 舌打ちをして、信善があゆたを突き飛ばして廊下へと押し出した。遠慮会釈のない力にふらつきながら廊下の壁に縋る。

「さっさと歩け」

「ここは……? 信善さま、い、いやです、いきなり、こんな……」

 発情期を迎えるということにすら、まだ心の折り合いがついていない。

 それなのにいきなりアルファと引き合わせるつもりなのか。

 物わかりの悪い犬に教えるように、信善はもったいぶって言った。

「あちらは乗り気だ、善は急げという。近々発情期なんだろう? 発情期が終わり次第、顔合わせをする。楽しみだな。発情期が終わるまで、ここにいてもらう」
 
 アルファがいなかったことにほっとしつつ、反射的に嫌だと思う。ただでさえ初めての発情期でナーバスになっているのだ。離れのほうがまだ落ち着ける。

「……逃げたりしませんから、離れのほうが」

 信善は鼻を鳴らした。

「発情期が早晩来るのなら、ここで過ごして様子を見る」

「え?」

「初めてだからな。ちゃんとアルファを誘うフェロモンが出るか確かめる必要がある」

「……そんなこと」

「家で信夫に嘴を挟まれるのも鬱陶しい。お前は顔合わせまでここにいるんだ」
 
 動こうとしないあゆたにしびれを切らしたのか、信善はあゆたの手首を掴んだ。ぐいっと引っ張られ足が縺れそうになる。ぎりぎりと力の限り握りしめられかなり痛かった。

 そのままずんずん進まれて、足を取られて転んでも引きずられていきそうな勢いだ。あゆたは必死で足を動かさざるをえない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...