金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

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133.憎悪はいつもそこにある

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 ついでに水を飲んであゆたはリビングに出た。


 びくんと足が止まる。

「っ、え、……信善さま?」

 ラウンジに信善が座っていた。先ほど気付いてなかったが、裸でうろついていた頃からいたのかもしれない。

「本当に発情期が近いのか? 全然匂いがしないぞ。出来損ないめ」

 信善は顔をしかめた。これ見よがしの仕草に、いちいち傷つかない。

(フェロモンが出ていない? いやでも、あれは……普通じゃなかった)

 あのうだるような欲情の高まりは発情だとあゆたは思っている。

 医者のお墨付きもあった。

 つまりフェロモンが微弱すぎて、アルファには感知されないほどなのか。

 あゆたが考えているのをよそに、信善は話を続けた。

「まぁいい。予定変更だ。顔合わせは二時間後になった」
「は……?」

 あゆたはぽかんとした。

「なんで……来週だって」

 意味を理解して顔がひきつる。勝手に組まれた来週の予定もまだ腑に落ちていないのに。

「事情が変わった」

 何でもないことのように信善は言った。

「教えてもらっただけありがたく思え。こちらとしてはお前に何も教えないままでも構わないんだ」

 勝手な言い草に怒りがこみあげてくるが、信善に睨まれて言い返せない。

「いきなり顔を合わせるよりいいだろう」
「そんな……無茶苦茶だ……」

 せめてもの当てこすりに呟くが、信善は歯牙にもかけない。せせら笑うように唇を歪めた。

「抵抗はするなよ。まぁ、発情期になりさえすれば、オメガならその心配はないか」

 独り言のように呟いた。なおもぶつぶつと何か言っている。あゆたはぼんやりと聞き流した。フェロモンのバランスがいつもと違うせいで考えがまとまらない。それでよかった。信善の言葉なんて、どうせろくなことではないだろう。

 今から会ったこともないアルファに犯される。

 風邪をひいて熱を出した時に似ている。うとうとしていると、悪夢を見る。夢なのか現実なのか俄かにわからなかなる。

(これは現実だけどな……)

 笑おうとしてうまくできなかった。

 信善はなおもあゆたを貶めることを言っていたが、あゆたは聞いていなかった。

「兎に角、粗相のないように。これは多額の金の動くビジネスだからな。今までの恩を返せ。いいな?」

 一通りあゆたを嘲って締めくくると、信善は鼻を鳴らして出て行った。 

 あゆたはもう誰もいなくなったドアの方をむいた。羽虫の微かな音のように空調の音が聞こえた。

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