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153.安心して凭れられるところ
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一階に降りると八月一日宮は通り過ぎざまにレセプションにいた青年に目顔で挨拶をした。
その人はすぐに行けというようにちょっと手を振った。
あゆたは発情期の余韻と怒涛の数時間のせいで身も心もぐったりしているので、八月一日宮に運ばれるままにされていた。
八月一日宮に抱っこされているというだけで安心できた。あゆたは目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうなほどに困憊していた。
心地よい音楽と騒めきをすり抜け、外に出る。秋の爽やかな昼下がりに出る。さっきまでの狂騒が嘘のように世界は穏やかだった。
ホテルの車寄せにすぅーっと静かに車が近づいてくる。運転手が飛び出してきて後ろのドアを開けてくれた。すべて段取りよく進んでいるらしい。八月一日宮は詫びながらあゆたを立たせた。
肩を抱くようにして車に乗せられた。ぐったりと座席に身を沈めると、八月一日宮は車の後ろを回って反対のドアから乗り込んできた。
「あゆたさん、辛かったですね。眠ってもいいですからね」
八月一日宮が座ると、ぎゅっとクッションが沈み込んであゆたはそちらにバランスを崩した。それを軽く抱き留めて、あゆたの頭は八月一日宮の肩口に凭れかかった。あゆたは気絶するように眠りに落ちた。
そうやってどのくらい眠っていたのか。
祖母に呼ばれた気がした。
あゆた、起きなさい。かわいい子。
起きなさい。
体を優しく揺すられる。
誰かに起こしてもらうのは随分久しぶりのことだった。
離れでの大旦那様との短い生活で、あゆたは世話係だからいつも早起きしていた。
大旦那様は宵っ張りで、朝も自分で好きなようにしたいからとマイペースに早起きしたり朝寝したりしていた。
また優しく揺すられる。
額に何か温かい柔らかいものが触れた気がした。
あゆたは水底から浮かび上がるようにゆっくりと目を覚ました。
「あゆたさん。あゆたさん」
祖母の声ではなかった。
誰だろう、と思った瞬間、すべてがすごい勢いで思い出された。あゆたはぱちりと目を開いた。
その人はすぐに行けというようにちょっと手を振った。
あゆたは発情期の余韻と怒涛の数時間のせいで身も心もぐったりしているので、八月一日宮に運ばれるままにされていた。
八月一日宮に抱っこされているというだけで安心できた。あゆたは目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうなほどに困憊していた。
心地よい音楽と騒めきをすり抜け、外に出る。秋の爽やかな昼下がりに出る。さっきまでの狂騒が嘘のように世界は穏やかだった。
ホテルの車寄せにすぅーっと静かに車が近づいてくる。運転手が飛び出してきて後ろのドアを開けてくれた。すべて段取りよく進んでいるらしい。八月一日宮は詫びながらあゆたを立たせた。
肩を抱くようにして車に乗せられた。ぐったりと座席に身を沈めると、八月一日宮は車の後ろを回って反対のドアから乗り込んできた。
「あゆたさん、辛かったですね。眠ってもいいですからね」
八月一日宮が座ると、ぎゅっとクッションが沈み込んであゆたはそちらにバランスを崩した。それを軽く抱き留めて、あゆたの頭は八月一日宮の肩口に凭れかかった。あゆたは気絶するように眠りに落ちた。
そうやってどのくらい眠っていたのか。
祖母に呼ばれた気がした。
あゆた、起きなさい。かわいい子。
起きなさい。
体を優しく揺すられる。
誰かに起こしてもらうのは随分久しぶりのことだった。
離れでの大旦那様との短い生活で、あゆたは世話係だからいつも早起きしていた。
大旦那様は宵っ張りで、朝も自分で好きなようにしたいからとマイペースに早起きしたり朝寝したりしていた。
また優しく揺すられる。
額に何か温かい柔らかいものが触れた気がした。
あゆたは水底から浮かび上がるようにゆっくりと目を覚ました。
「あゆたさん。あゆたさん」
祖母の声ではなかった。
誰だろう、と思った瞬間、すべてがすごい勢いで思い出された。あゆたはぱちりと目を開いた。
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