金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

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173.この手で触れたい*

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「お前なら、いい」
「! また、あなたは」

 噛みつくように口を塞がれた。あむあむと唇を甘噛みされ、あゆたは力を抜いた。覆いかぶさってくる重みが気持ちいい。あゆたは腕を伸ばして彼の首に巻き付ける。

 欲しがっているのはどちらも同じなのだと伝えたくて、口に侵入してきた舌を自分でも舐めてみる。自分の胸に触れている八月一日宮の体がびくんと動いて、彼を驚かせることできて満足した。それが気に食わなかったのか、息をもできないほど抱き締められた。

 縋りつくように彼の首に回した腕の力を強くする。掌に短く刈り上げた八月一日宮の髪がちくちくした。

 おんぶしてくれた背中に揺られながら、あゆたはこの項を見ていた。

 あの頃から自分はずっと、この清潔な襟足に触りたかったのだと気付いた。

 ひっそりと焦がれていた項と短い髪を撫で上げながら、その持ち主に貪られることが嬉しい。

 薬の飲んでいるのに、理性のたがが緩んでいる。薬のないホテルでの自慰は辛いばかりだった。何もかも違う。薬を飲んでいるのに、八月一日宮に触れられているだけでこんなにあゆたは翻弄されている。

「……余裕で考え事ですか」
「ふ、ん、そんなこと、ない……、俺、なんか、薬飲んでるのに、我を忘れそうになってるから……」
「薬のおかげで、こうやって会話できてるんですよ。俺もラットになってないし」
「今でもこんな、きもちくなってるのに……?」

 これ以上の快感なんて、人間の形を保っておけるのだろうか。

 あゆたが真剣な顔で途方に暮れていると、フェロモンが強くなって、あゆたは目眩がしてきた。

 目が回りそうにあるのに耐えて、ようやく息を吐けるようになった頃、目の前の八月一日宮の表情に気が付いた。

 険しい顔をした八月一日宮が何かに耐えるように奥歯を噛み締めているのだ。

「にお?」

 ふーふー言いながら八月一日宮が伏せてくる。密着した体の重み。耳元で聞こえる彼の息の荒さ。抱き締められている安心感。うっとりしてしまう。

「……すいません、なんか、盛り上がっちゃって、一人でいっちゃいそうになりました」
「え? あ、そ、そう……」

 何が八月一日宮の琴線に触れたのかまったくわからない。率直すぎる言動にあゆたは言うべき言葉が見つからないので、じっとしている八月一日宮を刺激しないようあゆたもじっとしていた。
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