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197.恋人が隣にいる不思議
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秋に開いた薔薇を携え、あゆたはいつもひとりで墓参りをしてきた。
横をちらりと見やる。高いところにある白い横顔は前を向いていた。あゆたの視線に気づいてないのをいいことにあゆたは盗み見ている。
顎の線、耳の形。綺麗に刈り上げられた襟足としっかりとした項。白いシャツの襟に制服のブレザーの肩が広い。あゆたが制服で墓参りをするのに合わせてくれたのだろう。
不思議だ。こんなに素晴らしい男が、あゆたが望めば跪いて愛を囁くのだから。
ぼうっと見惚れている自分に我に返る。頬が秋の柔らかな日差しに照らされて熱い。日焼けしたのかもしれない。あゆたはちょっと俯いて頬を手で扇いだ。
温い風が吹きつけて路面電車は去って行く。遮断機がゆっくりと上がった。
くすりと小さく笑う気配がした。はっと振り仰ぐと八月一日宮はにやりと唇だけで笑った。
かあっと顔が熱くなったあゆたはぐっと奥歯を噛んで、隣の男にどんと体当たりをした。小動もしないまま、八月一日宮はぐいっとあゆたの肩を抱いて引き寄せた。
「ぶつかりますよ」
後ろから自転車が来ていた。よく見ている。あゆたは唇を尖らせた。
「ありがと」
渋々礼を言いながら歩き出す。八月一日宮はあゆたの肩を抱いてた手をするりとおろして、そのまま手を繋いできた。余りにも滑らかな移動にあゆたはそのまま手を繋がれていく。
「拗ねないでください」
「拗ねてない」
ぶすりと唇を尖らせたままあゆたはそっぽを向いた。
「そんな風に唇を尖らせて。キスしたくなります」
あゆたはばっと口元を片手で隠した。八月一日宮はまた微笑んでいる。あゆたはぎゅっと握っていた手に力を込めた。
「あゆたさん、握力ありますね」
「力仕事多いから」
「りんご割れますか?」
「どうだろう、試したことない。もったいないから」
どうでもいいことをおしゃべりしながら、霊園の敷地沿いに巡らされた金網のフェンス沿いに歩いていくと、霊園の正門が見えてきた。
「入口があちこちにあるけど、ここからが一番行きやすいから」
横をちらりと見やる。高いところにある白い横顔は前を向いていた。あゆたの視線に気づいてないのをいいことにあゆたは盗み見ている。
顎の線、耳の形。綺麗に刈り上げられた襟足としっかりとした項。白いシャツの襟に制服のブレザーの肩が広い。あゆたが制服で墓参りをするのに合わせてくれたのだろう。
不思議だ。こんなに素晴らしい男が、あゆたが望めば跪いて愛を囁くのだから。
ぼうっと見惚れている自分に我に返る。頬が秋の柔らかな日差しに照らされて熱い。日焼けしたのかもしれない。あゆたはちょっと俯いて頬を手で扇いだ。
温い風が吹きつけて路面電車は去って行く。遮断機がゆっくりと上がった。
くすりと小さく笑う気配がした。はっと振り仰ぐと八月一日宮はにやりと唇だけで笑った。
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「ぶつかりますよ」
後ろから自転車が来ていた。よく見ている。あゆたは唇を尖らせた。
「ありがと」
渋々礼を言いながら歩き出す。八月一日宮はあゆたの肩を抱いてた手をするりとおろして、そのまま手を繋いできた。余りにも滑らかな移動にあゆたはそのまま手を繋がれていく。
「拗ねないでください」
「拗ねてない」
ぶすりと唇を尖らせたままあゆたはそっぽを向いた。
「そんな風に唇を尖らせて。キスしたくなります」
あゆたはばっと口元を片手で隠した。八月一日宮はまた微笑んでいる。あゆたはぎゅっと握っていた手に力を込めた。
「あゆたさん、握力ありますね」
「力仕事多いから」
「りんご割れますか?」
「どうだろう、試したことない。もったいないから」
どうでもいいことをおしゃべりしながら、霊園の敷地沿いに巡らされた金網のフェンス沿いに歩いていくと、霊園の正門が見えてきた。
「入口があちこちにあるけど、ここからが一番行きやすいから」
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