金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ

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201.金色の愛が降ってくる

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(――あ)

 あゆたは心の中で小さく叫んでいた。

 そうだ、あの香りだ。

 大旦那様の薔薇の薄く、しかし確かな芳香に、あの夜がすごい勢いで蘇った。

 吹き付ける雨の冷たさ。嵐が来ることへの心配。広間に連なる窓は煌々と眩しくて、それを横目に濡れて必死になっていた自分。

 ほとんど呆然として、あゆたは八月一日宮を見上げていた。

 あの夜会の夜、嵐に備えてこの薔薇の鉢を抱えていた。あの時、濡れた庭先に残っていたフェロモン、あれは甘い夏の名残の果物の香りだった。

(なんで気付かなかったんだ。鈍いにもほどがあるだろ)

 あゆたは自分に呆れた。

 八月一日宮も言っていたではないか、あの夜彼も夜会に来ていたと。

(そうか、あの時すでに、俺は仁乙に出会っていたんだな……)

 八月一日宮のフェロモンは薄甘いスイカの香りに似ている。

 あの時は姿の見えないアルファの残り香に戦いたが、確かに同時にあゆたはあの香りに妙に惹きつけられていた。

「あゆたさん?」

 いきなり声を上げて、不意に黙り込んだあゆたを怪訝そうに見ている。

 あゆたは首を振って、花立てに薔薇を埋けた。

「ううん、なんでもない。……俺とお前って、やっぱり、運命だったのかもな……」

 遠い海に浮かぶ客船の、あの灯りのもとから八月一日宮はここまで来てくれた。

 八月一日宮はきょとんとして、すぐに破顔した。

「? そうですよ。何を今さら」

 笑顔がぴかぴかしている。黄色い小さな小鳥の形をした葉っぱがひらひらと降ってくる。

 陽光を受けた八月一日宮の髪の毛も金色に光っていた。

 自分に注がれる八月一日宮の目の色は優しくて、微笑の形に陽光の色を吸っている。

 きらきら光る金色の髪の毛と、金色に散る小鳥の形が降り積もる。

「きれいだな……」

 あゆたは真っ青な空から金色の秋がちらちらと散っては降ってくるのを微笑んで見上げていた。
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みんなの感想(5件)

けいしくん推し

面白くて一気読みしてしまいました!!
このまま、幸せになってほしいー!!

2024.01.09 鳩かなこ

マイルアポさま

一気に読んで下さってありがとうございます!嬉しい✨
もうしばらく続きます!

解除
甘口たくあん

あゆた あゆた😭無事でいて
平和なひとときの後からあゆたに更なる辛さが続いていて、こちらの心のヒヤヒヤが止まりません💦
物語にどっぷりです

2023.11.17 鳩かなこ

甘口たくあんさま

あゆたを心配して下さってありがとうございます!
しばしハラハラにお付き合いくださいませ…

解除
甘口たくあん

あゆたー😭すれ違いが哀しくて💦ハラハラが止まらないです
どんな形でもあゆたには幸せになってほしち

2023.11.02 鳩かなこ

甘口たくあんさま

読んで下さってありがとうございます!
私もハッピーエンドが好きです!

解除

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