死に急ぐ悪役は処刑を望む

マンゴー山田

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合法的に退場したい

ざわざわとざわめく室内。
主役である二人に当てられたスポットライト。
そして、視線はオレに突き刺さるが、その視線の大半は「またやってるよ」という半ば呆れのようなものが多い。
だがオレにとってはそれは最高の賛美であるともいえよう。
頑張った。ホントに頑張った。
オレは自分を褒めながら、二人を見る。

ああ、もう少し…! もう少しで…!

「スヴェン・メルネス! お前はシャルロッタに度々危害を加えたな!」
「はい」

この国の第一王子。アルトゥル・バウムガルテンがオレの肯定するの言葉に瞳を丸くしている。
それはそうだろう。普通なら「やっていない!」と反抗すべきところだが、オレはアルトゥルが言った通り彼の腕にしがみついている桃色の髪を持つ少女に、これでもかと嫌がらせを加えてきたのだから。
時に魔法で、時に物理で。
だからオレは嘘偽りなく「そうだ」とにこりと笑って肯定したのだ。

「まぁあれだけ目撃者がいての犯行だ。何か言いたいことは?」
「何もありません」

オレの言葉に眉を寄せるアルトゥル。
よしよし、いい感じだな。このままいけば間違いなくいける。

「いいだろう。スヴェン・メルネス! 貴様を処刑する!」

アルトゥルの言葉にオレはようやくこの時が来たのだと嬉しさで身体を震わせる。それを違う意味でとらえたらしいアルトゥル達が氷のような視線でオレを見つめている。
そんな彼に怯えることなく、オレは思わず右手でガッツポーズをした後。

「やったああぁぁぁぁ!」

ばんざーい!と両手を上げて喜ぶオレを「あーあ。やっちゃったよ」というような呆れた視線があちこちから突き刺さる。

アルトゥルに。

だがオレは嬉しさの方が上回っていたためそのことに気付かなかったが。
そして、オレはどんと胸を叩き満面の笑みで、両手を広げて叫ぶ。

「さぁ! 早く! オレを! 捕まえてくれ!」

ふんすふんすと鼻息荒く、近くにいた兵にそう言えばものすごく奇妙なものを見る目で見つめられた。
いや、ちょっと…かなり引いてるような感じがするがそんなことなど気にしない!
どうでもいいけど王子様の命令だぞ! 早く捕まえろよ!
ああ、これでようやく合法的に退場できる!

「そうだった。こいつは死ぬことに命を懸けていたんだった…!」

そこでようやく思い出したように、しまった、と手で目元を覆って天を仰ぐアルトゥル。
ふっふっふ。今さら気付いても「やめる」なんて言わないよな?
王子様の言葉をなかったことにするなんてできないよなー?
晴れやかな顔でアルトゥルを見れば「チッ」と舌打ちが聞こえる。
ふふふ。いい気味だ。
しかしなぜか兵は一向にオレを捕らえる気はないようだ。なんでだよ。

「待てができる奴は嫌いじゃないぞ?」

すると突然後ろから聞こえたその声に、周りがざわめく。当然オレもその聞きなれた声に驚く。
おいちょっと待て。なんでお前がここにいるんだよ!
思わず振り向けば、そこにはやはりというか…。
いや。
そこにいたのはいつもとは全く違う容姿。

あん?

誰だ?と眉を寄せれば、視線がばっちりと合う。
その瞬間。

「スヴェン様! 今日は一段と可愛いお姿で!」

まるで大型犬が久しぶりにご主人様にあったようなそんな勢いでオレに抱きつき、ぐりぐりと頬擦りする。
そんな言葉と行動に、そこにいた全員が「やべぇのが増えた」と思っているだろう。
オレもそう思う。

「拘束具を付けているスヴェン様もエロ可愛くて素敵ですが、付けていないスヴェン様はとっても可愛いです!」

はぁはぁと息を荒くして抱きしめる力が強くなっていることに、若干引く。
っておいコラ。さりげなく足の間に足を入れるんじゃねぇ!
でも、こういった輩の対処は慣れているのだ。

「…これ以上何かしたら、舌を噛むからな」
「はい♡」

オレの言葉に頬を染めながら、抱きしめることはしなくなったが離すつもりはないらしい。それに相手に聞こえるように「チッ」と舌打ちをしても、にこにこと微笑むそいつはやはりあいつそっくりだ。
だが声は同じでも、どういう訳か容姿がまるきり違うのだ。
そんな疑問が表情に出ていたようで、眉を寄せたオレにくすくすと笑うそいつは、こともあろうかキスをしてきた。
それにざわめく会場内。
すでにオレの処刑の話しはぶっ飛んでいるし、なんなら第一王子も桃色髪のやつのことも忘れている。
しかもこともあろうか舌を入れてくる始末。
何とかして引きはがしたいが、力が…! 力が強い!
仕方なく、脇腹を拳でドスンと力いっぱい殴れば「ぐえっ!」というくぐもった声で悲鳴を上げると、唇が離れた。
唾液でぬれた唇を拭おうとしたが、その手を掴まれぺろりとそれを舐められる。
その表情は恍惚に似て、瞳が蕩けている。
だがキスは覚えるがあるもので。
いや、覚えがあるというものではない。
オレはこいつからのキスを何年も…いや毎日されてきたのだから。
ということはやはり。

「お前…ッ!」

瞳を大きくして名前を口にする。

「クルト…!」

今日は屋敷に置いてきたはずの侍従の名前を叫べば嬉しそうに、にこりと微笑んだ。

「そうですよ。スヴェン様。あなたの従順な侍従。クルトですよ」

その言葉に、オレはぽかんとしたままそいつ…クルトを見つめていた。


■■■


さて、物語の始まりは一年前に遡る。
その時のオレは学生だった。行きたくもない学園に無理やり通わされていた。
こんな金があるなら他に使え、と何度も父と母に告げたが取り合ってもらえなかったから、渋々通っていたんだ。
毎日、毎日どうすればいいのか考えながら。

「あー…今日も死ねなかった…」
「あはは!残念でしたねぇ! スヴェン様」

ちゃり、と金属が触れ合う音をさせながら長い廊下を歩く。オレが歩けば、人が左右に分かれ自然と道ができあがる。

「くっそ…! これさえどうにかできれば…!」
「無理ですって。何度も怪我されるからこうなってるんですからね。自業自得ですよ。スヴェン様」

「ですが、怪我してもすぐに治して差し上げますからね」と、上機嫌に紐を掴んで歩くオレ付きの侍従。その侍従に引っ張られるように歩く度に、ちゃりちゃりと金属が触れ合う音が響く。
その紐は首から手首に延び、手首から侍従が持つ紐へと伸びている。ついでに言えば、紐と言っても革紐だ。そうやすやすと自分で切れるものではない。ちくしょう。
更に言えば口輪マズルガードも付けているから完全に狂犬扱い。はたから見れば犯罪者を連れて歩いているようにも見える。だが、オレとこの侍従―クルトにとってはごくごく普通なものなのだ。
なんせ。

「あー…。早く死にたい…」
「だからダメって言ってるじゃないですかー。懲りませんねぇ。スヴェン様も」

そう。オレは早く死にたいだけなのだから。


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