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少しだけ変わった日常
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「おはようございます! スヴェン様!」
聞き慣れた声に起こされ、ぼんやりしているままのオレの唇を奪う。
ああ。クルトか。
そんなことを思いながら、ふわふわとする頭を目覚めさせるために、ぐっと背を伸ばす。
うん。いい朝…いい…いいのか? いや、変わらない、という意味では大変いい朝なんだけれど。
クルトがオレの部屋にいるということは、オレが寝てから戻ってきたのか。
「スヴェン様ー? おはようございますですよー」
「…おはよ」
「きゃあ! 寝ぼけてふわふわしてるスヴェン様可愛すぎない?! 寝ぼけてる間にもう一回キスしちゃお!」
なんか元気だな。こいつ。
それから宣言された通り、もう一度唇を奪われると髪を手櫛で整えてくれる。
うん。気持ちがいい。
「さて、スヴェン様。お着換えして、ご飯食べに行きましょうか!」
「うん?」
着替えはいい。でも食べに行く?
まだ脳みそが覚醒していないからか、クルトの言葉に首を傾げれば「なんか今日のスヴェン様めっちゃ可愛いんだけど」と呟いている。
「スヴェン様、押し倒されたくなければさっさと覚醒してください。私、もう限界が近いので」
「…眠い」
「っく…! 可愛い…ッ! じゃなくて、ほらほらスヴェン様! しゃきっとしてくだしあ!」
なんか動揺しまくってるのか、噛んでるぞ。
でも昨日の疲れがまだ残ってるからか、めちゃくちゃ眠い。けどクルトが必死になってるから起きなきゃな。
「もっかいキスしてくれたら起きる…かも?」
「もぉー!」
ぽやんぽやんしているオレの口から出た言葉に、クルトが何やら叫びながら両手で顔を覆って、絨毯が敷かれた床をごろごろしている。
ふはっ。
「今日のスヴェン様、マジ可愛い!」
「可愛いって言われるの好きじゃないんだよなぁ…」
「何ってんですか!スヴェン様! スヴェン様は可愛いんですよ?! 他のご令嬢なんか霞むくらいには可愛いんですよ?!」
すっげー力説してるけど、オレ、男だからな?
なんてツッコミを入れたら脳がようやく目覚めたらしい。視界がクリアになった。
「でもスヴェン様からのリクエストですからね! キスはさせてもらいますよー!」
「んむ…」
ちゅっと触れるだけのキスをしてから、じっと見つめてくるストロベリー・レッドの瞳にオレの瞳が映っている。それがなんだか不思議で、思わず手を伸ばせばストロベリー・レッドの瞳が大きく見開く。
そして。
「――ッ?」
伸ばしたその手を掴まれると、クルトの瞳が逸らされた。
「嫌…だったか?」
そう言えばクルトからこうしてはっきりと拒否されたのは初めてかもしれない。
そのことに動揺してしまった。
いつもクルトだけはオレのことを拒否しなかった。だが、今はっきりと拒否をされてしまったことに瞳が揺らぐ。そしてオレもまた、視線をあちこちと彷徨わせる。
「わる…」
「いえ!」
悪い、と言おうとした言葉をクルトの声が遮った。その声にびくりと身体が跳ねる。
「あー…もう…」
「クルト?」
握ったオレの手を額に持って行くと、まるで懺悔をするかのようにもう片方の手が添えられた。
そして。
「クルト…お前…」
「あんま見ないでくださいよ…。恥ずかしいんですから」
ちらりと見えた耳は、瞳のように真っ赤で。
「あんまり可愛い事言うと、本当に食っちまうぞ?」
「――…っ!」
そっぽを向きながら呟くクルトになぜか胸がどきりと大きく跳ねる。
いつものおちゃらけた態度でも、オレを脅すような態度でも、よく分からない感情をぶつける態度でもない。恐らくだが、クルト本来の態度が見えたことに興奮したのだと思う。
「ク…」
ルト、と続く言葉は発せらることはなかった。
なぜかって?
「んむ…ぅ」
クルトの唇で塞がれたからだ。
「ん…ゃ」
突然のキスには慣れているとはいえ、舌までねじ込ませ口腔内をまさぐることは食事以外ではしたことはない。
けれど食事を与えられることに慣れているオレは、鼻で息をすることも知っているし、なんなら舌の動きがなんとなく分かってしまう。
なんせ11年ほど口移しで食事をしていたからな。
「ふ、ぁ…っん…っ」
舌を絡ませ、唾液を与えられる。それを躊躇いなく飲めば、ふ、とクルトが笑う。
その笑みはふざけたものではなく、一人の男としての笑みで。
すると握っていた手が離れ、代わりに頬を包まれキスが深く、激しくなっていく。
「ぁ…ふ…っぁ…」
くちゅ、ぴちゃと濡れた音を立てながらオレの口腔を貪るクルトに抵抗はしない。いや、抵抗しなくていいと身体が知っているのだ。
散々貪っていった舌がずるりと抜けると、酸素が足りないオレははぁはぁと肩を上下に揺らす。それはクルトも同じだったようで、小さく肩を揺らしている。
「スヴェン様」
「ク…ルト…」
もう一度、と言いかけたその時。
コンコンとドアがノックされ、2人で肩を震わせる。
「クルト?」
「――ッ! 大丈夫です!」
「そうか。なら早くしろよ?」
「はい、すみません」
クルトと使用人の会話を聞きながら、ドキドキとしている胸を押さえる。
危なかった…っ!
いや、仮にキスをされている所を見られても問題はない。うがいの最中だとか、苦しいがそう言い訳しても「そうなんだ」で納得されてしまうからな。
しかし――。
「すみません、スヴェン様」
「あ、いや…。うん」
あの時、使用人がこなかったらオレは何を言おうとした?
良く分からない感情に混乱しながらも、ベッドから滑り降りた。
「教会へ…ですか?」
「ああ。なんでも神託を賜ったようでな。朝一番に来るように、と」
「神託、ねぇ…」
胡散臭いな、なんて思ってしまうのは昨日、両親から聞いた神様―ヴィリだからだろう。
魂の叫びを発した後、両親にはオレが生まれる前に一度ヴィリに会ったことがある、と話した。
信じなくてもいい。けれど、ヴィリとは知り合いだと言えば、両親はどこか納得したように頷いた。
「だから赤子の頃から自我があったのか」
「スヴェンちゃんはヴェリ様に愛されているのね」
そう言ってオレを抱きしめてくれた。嘘をついている、と考えなかったのかとも思ったが、オレが一度も教会へ行っていないこと、それなのにヴィリの像をまるで見てきたかのように話したことで信じることにしたようだ。
こういっちゃなんだが、この両親大丈夫か? なんか悪いセールスが来たらころッと騙されそうで怖いんだけど。
けれどオレのことを信じてくれる両親だからこそ死ねなかったのだろう。
それに、オレが生まれた時の神託の為だけに生かされているのか、とその時に父に尋ねた所、母が泣いてしまった。
「神託は関係ない。私たちはスヴェンに生きてほしいだけだよ」
そう告げる父に本当に申し訳なくなり、頭を下げた。
そんなこともあって、ヴィリとオレが知り合いだと信じている両親から神託と聞いて、つい微妙な顔をしてしまった。
「スヴェン様」
「ん…」
それと同時にクルトに飯を口移しで食わせてもらっている最中なんだけれども。
なんでクルトに飯を食わせ貰っているのかって? こいつの仕事を取り上げたら首にされるんじゃないかって思っているからだ。
父に言えば首にはしない…とは思うが違う仕事を与えられそうで怖かった、というのもある。
ならばいつも通り仕事をしてもらおう、ということで腕を拘束し、口輪をして食堂へ行けば両親の瞳が丸くなったが、それでも態度は変わらなかった。
ありがたいよな。
で、飯を食ってるのはいいんだけど、今日はちょっとだけ味が薄い。
料理人は昨日父に言われた通り、オレのものだけ味を薄くしてくれたのだろうが、残念ながらタイミングが悪かった。
クルトも料理を口にした瞬間、眉を寄せたからな。それから口に含んだものをゆっくりと咀嚼し、何か考えていたくらいだ。
いつもと味付けが違うことに気付いたのだろうが、それは仕方ないだろう。そんなクルトに父が「朝食だけ少し味が薄いと思うが、気にしないでくれ。昼からは戻る」と言ったら「じゃあ安心ですね」とにこりと笑った。
すまん。昨日は自分の手で食べたからな。
そしていつも通りクルトに飯を食わせてもらって、オレだけ早いティータイム。
手の拘束を外してもらって、カップを持つ。ちなみにクルトはオレの隣で食事中。本来なら同じテーブルに着くことはないが、クルトの場合は全てが許される。
そんな理由でオレ達とほぼ同じ食事を黙々と食べるクルトにオレのデザートを渡すように告げて、カップを傾ける。
うまい。
「それで今日も学園はお休みよ」
「まぁ、仕方ないですよね」
昨日はクルトがいないから休んだが、今日は呼びだされているのだ。
ヴェルディアナ嬢たちは大丈夫だろうか。アルトゥルに絡まれていないだろうか。
そんなことを思いながらも、クルトが嬉しそうにデザートを食べ終わるのを待つ。ちなみにオレ用のデザートはオレの食事に含まれるから、どれだけクルトが遅くとも両親は待ってくれる。
出来た両親だが、オレオレ詐欺には本当に気を付けてほしいものである。
そんなアホなことを考えていると、デザートを食べ終わったのかクルトがカップを傾けていた。
■■■
食事が終わってから急いで馬車でやって来たのは王都一の教会。教会なぞ馴染みがないから、ちょっとだけわくわくしたのは秘密だ。
馬車から降りて教会へと近づいたら、見るからに位が高そうな人が入口に立っていて。そこでこの人がオレの魔力を量りに来て、焼身自殺に巻き込まれた人だと気付いた。
「お待ちしておりました」
「あの時の…」
オレの言葉に、にこりと笑うだけのその人に申し訳なさが募る。
火魔法でオレの身体を一部炭素化するまで焼いて、そのあと一つ残さずに完璧に蘇生しているのはこの人とクルトのおかげだ。じゃなければ炭素化するまで焼いて、再生するわけがないからな。
「お呼び立てして申し訳ありません」
深々と頭を下げるその人にオレもつい、つられて下げてしまう。癖なんだよな…。
「ではこちらへ」
そう言って扉を兵が開けると大司教さんとやらの後を両親がついていき、オレもその後を付いていく。もちろんクルトも一緒に、だ。
なんせ拘束に口輪のフルコースなのだから。
寧ろこうでもしないと安心できないと思うんだ。周りが。
まぁそんなことで拘束と口輪なオレをクルトが皮の紐を引いてくれる。…犬の散歩とか言うなよ?
というか誰もいないんだな。
きょろ、と初めて入る教会に興味があってあちこち見ている。綺麗なステンドグラスに瞳を奪われながら、転ばないようにクルトが誘導してくれる。
ステンドグラスなんてめったに見えるものじゃないからな。ほへーと間抜けな顔をして進んだ先。
「スヴェン様、止まりますよ」
「あ、ああ」
オレがあちこち見ていることを知っているクルトが小さく笑いながらそう言ってくれ、ぶつかることは回避された。
そんなオレを両親はほんわかとしながら見ているし、大司教さんに至ってはぽわぽわと花を飛ばしている。…なんだろう。子供があちこち見ているのを微笑ましく見守られている気分は。
「スヴェン様、こちらがヴィリ様の像になります」
花をぽわぽわと飛ばしながら微笑みかけてくる大司教さんに何とも言えない気持ちを抱きながら、手を向けられた方を見てから上を向けば、そこには茶を入れてくれたあのお節介な神とうり二つの顔があった。
聞き慣れた声に起こされ、ぼんやりしているままのオレの唇を奪う。
ああ。クルトか。
そんなことを思いながら、ふわふわとする頭を目覚めさせるために、ぐっと背を伸ばす。
うん。いい朝…いい…いいのか? いや、変わらない、という意味では大変いい朝なんだけれど。
クルトがオレの部屋にいるということは、オレが寝てから戻ってきたのか。
「スヴェン様ー? おはようございますですよー」
「…おはよ」
「きゃあ! 寝ぼけてふわふわしてるスヴェン様可愛すぎない?! 寝ぼけてる間にもう一回キスしちゃお!」
なんか元気だな。こいつ。
それから宣言された通り、もう一度唇を奪われると髪を手櫛で整えてくれる。
うん。気持ちがいい。
「さて、スヴェン様。お着換えして、ご飯食べに行きましょうか!」
「うん?」
着替えはいい。でも食べに行く?
まだ脳みそが覚醒していないからか、クルトの言葉に首を傾げれば「なんか今日のスヴェン様めっちゃ可愛いんだけど」と呟いている。
「スヴェン様、押し倒されたくなければさっさと覚醒してください。私、もう限界が近いので」
「…眠い」
「っく…! 可愛い…ッ! じゃなくて、ほらほらスヴェン様! しゃきっとしてくだしあ!」
なんか動揺しまくってるのか、噛んでるぞ。
でも昨日の疲れがまだ残ってるからか、めちゃくちゃ眠い。けどクルトが必死になってるから起きなきゃな。
「もっかいキスしてくれたら起きる…かも?」
「もぉー!」
ぽやんぽやんしているオレの口から出た言葉に、クルトが何やら叫びながら両手で顔を覆って、絨毯が敷かれた床をごろごろしている。
ふはっ。
「今日のスヴェン様、マジ可愛い!」
「可愛いって言われるの好きじゃないんだよなぁ…」
「何ってんですか!スヴェン様! スヴェン様は可愛いんですよ?! 他のご令嬢なんか霞むくらいには可愛いんですよ?!」
すっげー力説してるけど、オレ、男だからな?
なんてツッコミを入れたら脳がようやく目覚めたらしい。視界がクリアになった。
「でもスヴェン様からのリクエストですからね! キスはさせてもらいますよー!」
「んむ…」
ちゅっと触れるだけのキスをしてから、じっと見つめてくるストロベリー・レッドの瞳にオレの瞳が映っている。それがなんだか不思議で、思わず手を伸ばせばストロベリー・レッドの瞳が大きく見開く。
そして。
「――ッ?」
伸ばしたその手を掴まれると、クルトの瞳が逸らされた。
「嫌…だったか?」
そう言えばクルトからこうしてはっきりと拒否されたのは初めてかもしれない。
そのことに動揺してしまった。
いつもクルトだけはオレのことを拒否しなかった。だが、今はっきりと拒否をされてしまったことに瞳が揺らぐ。そしてオレもまた、視線をあちこちと彷徨わせる。
「わる…」
「いえ!」
悪い、と言おうとした言葉をクルトの声が遮った。その声にびくりと身体が跳ねる。
「あー…もう…」
「クルト?」
握ったオレの手を額に持って行くと、まるで懺悔をするかのようにもう片方の手が添えられた。
そして。
「クルト…お前…」
「あんま見ないでくださいよ…。恥ずかしいんですから」
ちらりと見えた耳は、瞳のように真っ赤で。
「あんまり可愛い事言うと、本当に食っちまうぞ?」
「――…っ!」
そっぽを向きながら呟くクルトになぜか胸がどきりと大きく跳ねる。
いつものおちゃらけた態度でも、オレを脅すような態度でも、よく分からない感情をぶつける態度でもない。恐らくだが、クルト本来の態度が見えたことに興奮したのだと思う。
「ク…」
ルト、と続く言葉は発せらることはなかった。
なぜかって?
「んむ…ぅ」
クルトの唇で塞がれたからだ。
「ん…ゃ」
突然のキスには慣れているとはいえ、舌までねじ込ませ口腔内をまさぐることは食事以外ではしたことはない。
けれど食事を与えられることに慣れているオレは、鼻で息をすることも知っているし、なんなら舌の動きがなんとなく分かってしまう。
なんせ11年ほど口移しで食事をしていたからな。
「ふ、ぁ…っん…っ」
舌を絡ませ、唾液を与えられる。それを躊躇いなく飲めば、ふ、とクルトが笑う。
その笑みはふざけたものではなく、一人の男としての笑みで。
すると握っていた手が離れ、代わりに頬を包まれキスが深く、激しくなっていく。
「ぁ…ふ…っぁ…」
くちゅ、ぴちゃと濡れた音を立てながらオレの口腔を貪るクルトに抵抗はしない。いや、抵抗しなくていいと身体が知っているのだ。
散々貪っていった舌がずるりと抜けると、酸素が足りないオレははぁはぁと肩を上下に揺らす。それはクルトも同じだったようで、小さく肩を揺らしている。
「スヴェン様」
「ク…ルト…」
もう一度、と言いかけたその時。
コンコンとドアがノックされ、2人で肩を震わせる。
「クルト?」
「――ッ! 大丈夫です!」
「そうか。なら早くしろよ?」
「はい、すみません」
クルトと使用人の会話を聞きながら、ドキドキとしている胸を押さえる。
危なかった…っ!
いや、仮にキスをされている所を見られても問題はない。うがいの最中だとか、苦しいがそう言い訳しても「そうなんだ」で納得されてしまうからな。
しかし――。
「すみません、スヴェン様」
「あ、いや…。うん」
あの時、使用人がこなかったらオレは何を言おうとした?
良く分からない感情に混乱しながらも、ベッドから滑り降りた。
「教会へ…ですか?」
「ああ。なんでも神託を賜ったようでな。朝一番に来るように、と」
「神託、ねぇ…」
胡散臭いな、なんて思ってしまうのは昨日、両親から聞いた神様―ヴィリだからだろう。
魂の叫びを発した後、両親にはオレが生まれる前に一度ヴィリに会ったことがある、と話した。
信じなくてもいい。けれど、ヴィリとは知り合いだと言えば、両親はどこか納得したように頷いた。
「だから赤子の頃から自我があったのか」
「スヴェンちゃんはヴェリ様に愛されているのね」
そう言ってオレを抱きしめてくれた。嘘をついている、と考えなかったのかとも思ったが、オレが一度も教会へ行っていないこと、それなのにヴィリの像をまるで見てきたかのように話したことで信じることにしたようだ。
こういっちゃなんだが、この両親大丈夫か? なんか悪いセールスが来たらころッと騙されそうで怖いんだけど。
けれどオレのことを信じてくれる両親だからこそ死ねなかったのだろう。
それに、オレが生まれた時の神託の為だけに生かされているのか、とその時に父に尋ねた所、母が泣いてしまった。
「神託は関係ない。私たちはスヴェンに生きてほしいだけだよ」
そう告げる父に本当に申し訳なくなり、頭を下げた。
そんなこともあって、ヴィリとオレが知り合いだと信じている両親から神託と聞いて、つい微妙な顔をしてしまった。
「スヴェン様」
「ん…」
それと同時にクルトに飯を口移しで食わせてもらっている最中なんだけれども。
なんでクルトに飯を食わせ貰っているのかって? こいつの仕事を取り上げたら首にされるんじゃないかって思っているからだ。
父に言えば首にはしない…とは思うが違う仕事を与えられそうで怖かった、というのもある。
ならばいつも通り仕事をしてもらおう、ということで腕を拘束し、口輪をして食堂へ行けば両親の瞳が丸くなったが、それでも態度は変わらなかった。
ありがたいよな。
で、飯を食ってるのはいいんだけど、今日はちょっとだけ味が薄い。
料理人は昨日父に言われた通り、オレのものだけ味を薄くしてくれたのだろうが、残念ながらタイミングが悪かった。
クルトも料理を口にした瞬間、眉を寄せたからな。それから口に含んだものをゆっくりと咀嚼し、何か考えていたくらいだ。
いつもと味付けが違うことに気付いたのだろうが、それは仕方ないだろう。そんなクルトに父が「朝食だけ少し味が薄いと思うが、気にしないでくれ。昼からは戻る」と言ったら「じゃあ安心ですね」とにこりと笑った。
すまん。昨日は自分の手で食べたからな。
そしていつも通りクルトに飯を食わせてもらって、オレだけ早いティータイム。
手の拘束を外してもらって、カップを持つ。ちなみにクルトはオレの隣で食事中。本来なら同じテーブルに着くことはないが、クルトの場合は全てが許される。
そんな理由でオレ達とほぼ同じ食事を黙々と食べるクルトにオレのデザートを渡すように告げて、カップを傾ける。
うまい。
「それで今日も学園はお休みよ」
「まぁ、仕方ないですよね」
昨日はクルトがいないから休んだが、今日は呼びだされているのだ。
ヴェルディアナ嬢たちは大丈夫だろうか。アルトゥルに絡まれていないだろうか。
そんなことを思いながらも、クルトが嬉しそうにデザートを食べ終わるのを待つ。ちなみにオレ用のデザートはオレの食事に含まれるから、どれだけクルトが遅くとも両親は待ってくれる。
出来た両親だが、オレオレ詐欺には本当に気を付けてほしいものである。
そんなアホなことを考えていると、デザートを食べ終わったのかクルトがカップを傾けていた。
■■■
食事が終わってから急いで馬車でやって来たのは王都一の教会。教会なぞ馴染みがないから、ちょっとだけわくわくしたのは秘密だ。
馬車から降りて教会へと近づいたら、見るからに位が高そうな人が入口に立っていて。そこでこの人がオレの魔力を量りに来て、焼身自殺に巻き込まれた人だと気付いた。
「お待ちしておりました」
「あの時の…」
オレの言葉に、にこりと笑うだけのその人に申し訳なさが募る。
火魔法でオレの身体を一部炭素化するまで焼いて、そのあと一つ残さずに完璧に蘇生しているのはこの人とクルトのおかげだ。じゃなければ炭素化するまで焼いて、再生するわけがないからな。
「お呼び立てして申し訳ありません」
深々と頭を下げるその人にオレもつい、つられて下げてしまう。癖なんだよな…。
「ではこちらへ」
そう言って扉を兵が開けると大司教さんとやらの後を両親がついていき、オレもその後を付いていく。もちろんクルトも一緒に、だ。
なんせ拘束に口輪のフルコースなのだから。
寧ろこうでもしないと安心できないと思うんだ。周りが。
まぁそんなことで拘束と口輪なオレをクルトが皮の紐を引いてくれる。…犬の散歩とか言うなよ?
というか誰もいないんだな。
きょろ、と初めて入る教会に興味があってあちこち見ている。綺麗なステンドグラスに瞳を奪われながら、転ばないようにクルトが誘導してくれる。
ステンドグラスなんてめったに見えるものじゃないからな。ほへーと間抜けな顔をして進んだ先。
「スヴェン様、止まりますよ」
「あ、ああ」
オレがあちこち見ていることを知っているクルトが小さく笑いながらそう言ってくれ、ぶつかることは回避された。
そんなオレを両親はほんわかとしながら見ているし、大司教さんに至ってはぽわぽわと花を飛ばしている。…なんだろう。子供があちこち見ているのを微笑ましく見守られている気分は。
「スヴェン様、こちらがヴィリ様の像になります」
花をぽわぽわと飛ばしながら微笑みかけてくる大司教さんに何とも言えない気持ちを抱きながら、手を向けられた方を見てから上を向けば、そこには茶を入れてくれたあのお節介な神とうり二つの顔があった。
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