悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います

マンゴー山田

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真相編

治癒の魔石

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「むー…? んはっ?!」

ふっと意識が浮上したと同時に目を開ければ、そこはいつもの天板で。
あれ?と思ったのは数秒。きょろきょろと周りを見渡せば、くまさんとライオンさん、羊さんのぬいぐるみに、緑から銀に変わるカーテンが目に入って「ああ。ベッドで寝てるのか」と納得して。
そして「あ」と声が出た次の瞬間「レイジス?!」と足元から声がしてびっくう!と身体が浮き上がる程驚いた。

「ほげえええ!」
「なんて声を出すんだい?! 父様だよ!」

つい変な叫び声を出しちゃったけど、父様が必死に「父様だよ! レイジスー!」と言いながら泣いている。
あ、ごめんなさい。父様。
膝を折ってベッドに両腕を置いてその間に頭を乗せておんおんと泣く父様の頭をなんとなーくなでなでと撫でてみる。これはいつもフリードリヒがやってくれること。泣いたり褒められたりすると頭を撫でてくれる。最近はソルゾ先生やアルシュ、ノアも撫でてくれる。たまーにハーミット先生も撫でてくれるんだ!
おっきい手で頭を撫でられるとうふふーってなっちゃう。けど僕の手は小さいからね…。皆みたいにうまく撫でられないんだけど。

「レイジス…」
「泣かないでください。父様」
「うおおおおおおおん! レイジスが頭を撫でてくれたあああぁぁっ!」

そう言って再びおんおんと泣き出す父様。おばばばば。さっきよりも泣き方が激しい…! どうしよう!
父様がおんおんと泣いてるのをどうしたらいいのか分からずオロオロし始める僕。
と、とにかく泣き止んでもらおう!

「と、父様! 泣かないでください…!」
「レイジス可愛いいぃぃっ!」

あれー?! なんか違うこと言い始めたぞー?!
なんか今日の父様はいつもより感情の起伏が激しい。どうしたんだろう?
泣いてる父様によしよしと頭を撫でると、初めてあの頭痛に襲われた時を思い出すねー。あの時もリーシャがずっと泣いてて頭を撫でてたんだよね。

「ごめんね、レイジス。父様、取り乱してしまったよ…」
「う、うん」

急に泣いたと思ったら急に泣き止んで真面目な表情で、撫でていた手を両手で包まれた。はわー…、父様の手あったかーい。
それにうふふーと笑えば、父様も瞼を赤くしながらもにこりと笑ってくれた。

「さて、レイジスはどうしてここにいるか覚えているかい?」
「えっと…メトル君と図書室に行ってー、動物図鑑を借りてー、階段を下りてたらー…」

最後の記憶の前をえっとえっとと思い出しながら父様に言えば、うんうんと聞いてくれる。
それに最後の記憶だと…。

「それから急に窓ガラスが割れて、それから…それから…」

割れた大きなガラスが僕に向けて落ちてくるのをメトル君が突き飛ばしてくれたおかげで避けることができた。
でもそのせいでメトル君の腕にガラスが滑って…。

「メトル君…」
「うん?」
「父様! メトル君は大丈夫ですか?! 僕をかばって腕に…!」
「うんうん、落ち着いて。ね? レイジス?」

興奮してがばりと上半身を起こすと、くらりと眩暈のようなものに襲われた。後ろに倒れた僕の身体を素早く父様が支えてくれたことにほっとしながら「ごめんなさい」と言えば「レイジスはごめんなさいが言えていい子だね」と父様が笑顔で答えてくれた。
そっとベッドに横にされると「それよりも」と父様が告げる。

「痛いところはない?」
「え…? えっと…?」

さっきは興奮してそんなこと思わなかったけど、父様にそう言われて初めて背中と後頭部が痛いことに気付いた。

「後頭部と背中が痛い…かな?」
「そうか。レイジスが寝てる間にお医者さんに診てもらったけど怪我はどこにもなかったよ」
「はへ?」

階段の踊り場から突き飛ばされて背中から落ちて怪我がない? たんこぶくらいあってもいいような気がするんだけど…。

「ホントですか? たんこぶも?」
「うん。たんこぶ一つなかったよ」
「はへー」

僕の身体、だいぶ丈夫になったねー。ご飯一杯食べてるかなー? だとしたらもっともりもり食べなきゃね!

「うん。リーシャ君に貰ったアミュレットが無事発動したんだね」
「アミレット?」
「そうだよ。リーシャ君に貰ってレイジスのクリスタルに移動した『文字』だね。クリスタルがアミュレットになったから『物理防御』が発動したんだと思うよ」
「うむむ?」

なるほど? アミレットにあった文字がクリスタルに移動したから、クリスタル自体がアミレットになっちゃってたのかー。
なーんだ。僕が丈夫になったわけじゃないのかぁ…ちょっと残念。だけどアミレットに守ってくれてありがとうってお礼言わなきゃ!
でも…。

「あれ? 頭と背中がすっごい痛いのは…?」
「リーシャ君も言ってたけど痛覚はちゃんとあるからね?」
「むむ? そういえばそんなこと言ってたような…?」

アミレットをくれた時、痛覚まで無くすと手足を失いそうだって話をしてて…。ああ、そっかそっか。
なるほど、と納得してから「そういえば」と父様を見る。

「クリスタルは無事なんですか?」
「うーん…無事、と言えば無事だけど…」

ううん? なんか父様の言葉の歯切れが悪い。どうしたんだろう?

「それはまたあとで、ね?」
「? はい」
「それよりも起き上がれそうかい?」
「めっちゃ痛いですけど大丈夫です」
「…無理しちゃダメだよ?」
「怪我がないなら大丈夫です!」

ふんすー!と鼻息を荒くすれば父様の眉が寄った。けど怪我がないなら大丈夫だと思うんですよー。最悪治癒魔法を自分にかければ問題ない…っとそうだ、治癒魔法をかけてみればよいのでは?

「えいや」

ぺたりと胸に両手を置いて何も考えずに治癒魔法をかけてみれば、僕自身がぺっかああぁ!と光り輝く。うおおぉぉ?! なんだ?!

「ふえああぁぁ?!」
「レイジス?!」

ぺっかー!と光り輝く僕の身体にちょっとパニックに陥る。何?! 何なの?!
しばらく発光したかと思えば、しゅううぅと僕の身体を輝かせていた光が治まる。それにぽかんとする僕と父様。何が起きたのか分らず二人で口を開けていると、バン!と勢いよく寝室のドアが開いた。
うおおおおお! ビックリした!

「レイジス様! 今度は何をやらかしたんですかぁー!」
「ヒェ?! リーシャ?!」

どうやら扉を開けたのはリーシャだったようで。でもね。その目が…なんか…その、怖いんだけど…。
つかつかとベッドの前までくるとそこからギッと瞳を吊り上げて僕を見るリーシャ。カーテン越しでもめっちゃ怖いんですけど?!
ひええええ!とぶるぶると震えていると「フォルス。少しいいか?」とのほほんとしたフリードリヒの声がした。

「構いませんよ、殿下。それにリーシャ君も」
「ああ、悪いな」
「いえ」

ぽかんとしていた父様もドアが開いた時点で元に戻っていたらしくいつも通りだ。素早い。
僕の手を握ってくれていた手が離れて、代わりにカーテンをアルシュが持って中に入ってきたフリードリヒが手を握ってくれた。ほわぁ…。
そしてリーシャもぷりぷりとしながらも中に入ってきた。ひょわ。怖い。

「目が覚めてよかった。気分は?」
「全然大丈夫です。背中と後頭部がめっちゃ痛いですけど!」
「それは仕方ないです。むしろそれで済んだと思ってください」

ぷりっとしながらも父様とほぼ同じことを言うリーシャに「そっか」とだけ告げると、うんせと上半身を起こす。
途端背中に走る痛みに顔をしかめればフリードリヒに「大丈夫かい?」と心配される。それに「大丈夫ですよー」と痛みに耐えながらへらりと笑えば「無理はしないように」と言われてしまった。

「それよりさっきのはなんだったんですか!」
「それが…僕にも分んなくてさ」
「何をしたんだい?」
「僕自身に治癒魔法を使ったらああなりました」
「どういうことですか?」

眉を寄せてそう聞いてきたアルシュに「分かんない」と首を横に振れば「暴走…?」とノアがリーシャに聞けば「その可能性が高いかも」と頷く。
安定してた治癒魔法が暴走…? ううーん…まぁ、そうなのかな?

「詳しいことはソルゾに聞くとして…。レイジスご飯は食べられそうかい?」

にっこりと微笑みながらそう告げるフリードリヒに、僕が返事するよりも早く「ぐううぅぅ…きゅるるるる」とお腹が返事をしてくれた。その音に、くすりとフリードリヒが笑うと「じゃあ、ご飯にしようか」と頭を撫でてくれた。



「あれ? メトル君だ!」
「おう。身体は大丈夫か?」

寝室からぞろぞろとリビングにやってくるといつも僕が座ってるソファにメトル君が座っていた。ぱたたーと小走りでメトル君に近付くと「怪我、大丈夫?」と聞いてみる。
それに「ああ。大丈夫だ」とぐっと力こぶを作るように腕を曲げるとほっと息を吐く。

「レイジス。話しは後だ」
「あ、はーい!」

そうだったそうだった。今はぎゅるぎゅると鳴る怪獣を鎮める方が先だった。
父様とメトル君がいるからソファがぎちぎちと狭そうに並んでる。でも僕はフリードリヒのお膝に乗っちゃうから予備のソファは使わないかも?

「レイジス。おいで」
「わぁーい!」

フリードリヒが座った後、ぱんぱんと膝を叩く。そこに猫まっしぐらと言わんばかりに僕が突撃すれば「うぎゅう?!」と背中の痛みにうずくまる。いだだだだ。そうだった。痛みはあったんだ。メトル君を見つけた時は意識がメトル君にいってたから痛みを忘れてたけど。でもこれ軽い打撲っぽいよね…。いてて。
蹲った僕にすぐさま父様が「急に走るからだよ」と背中をさすりながら叱る。

「ごめんなさい」
「レイジスは言えばわかる子だからね」

よしよしと頭を撫でられてからゆっくりと支えられながら立ち上がると、父様に手を引かれながらのろのろと歩く。治癒魔法でも痛みは取れなかったか…。残念。

「そう言えば部屋がめちゃくちゃ光ってたが…?」
「んぎ。僕自身に治癒魔法使ったらああなった」
「レイジス様自身に治癒魔法を使ったのですか?」
「はい。怪我はないけれど痛みがあったので」
「ふむ?」

僕の答えにソルゾ先生の眉が寄る。あわわわ。また変な事しちゃったー!

「ソルゾも後にしろ。今は朝食だ」
「うん? 朝食?」
「ああ。レイジスは昨日の昼から寝てたからね」
「ほあ?!」

さらっと重大なことを告げたフリードリヒが驚き叫ぶ僕に対してにこりで済ませるのに、メトル君は耳を押さえて「うるせぇ」って呟く。うん。ごめん。フリードリヒ達は僕の叫び声に慣れてるからね…。すまぬ。すまぬ。

「っていうか朝?! 昨日の昼?!」
「うん。そうだよ。意識が戻らないから心配してたんだけど…。カイジュウさんが元気に鳴いてるなら心配はないかな?」

ふふっと笑うフリードリヒに驚きすぎてぱくぱくと口を開けたり閉じたりしてると、早くご飯を食べたいお腹が「ぎゅうるるるるる」って鳴った。それが恥ずかしくて両腕でお腹を押さえれば「カイジュウでレイジス様の調子が分かるのは助かりますねぇ」ってほんわとソルゾ先生が言う。

「あわわ!」
「さ。話は後にしてご飯を食べようか」

僕たちがわちゃわちゃしてる間に侍女さんが素早くご飯の用意をしてくれた。毎回素早い配膳に驚いちゃう。
侍女さん達が用意してくれた今日の朝ご飯はー?

「サンドイッチにコーンスープ、サラダに…?」
「グラタンだな。レイジスがお腹空いてると思って」
「はわー! ありがとうございます!」

フリードリヒが僕用に大きなグラタンを用意してくれたらしい。にっぱー!と笑顔でお礼を告げてから、ぎゅうと抱き締めるといこいこと頭を撫でてもらう。うふふー。
そして「ぐるるるるる」と獣のような唸り声がお腹から聞こえると「ぷふっ」とリーシャに笑われた。それにてへりと笑えばフリードリヒが「じゃあ、いただこうか」と告げる。

「いっただっきまーす!」

元気よくいただきますをしてから卵のサンドイッチを掴んでもぎゅり! ほわー! おいひぃー!
もっぎゅもっぎゅとサンドイッチを三口くらいで食べてから温かなコーンスープを…と思ったらフリードリヒがフーフーしてくれていた。

「はい、レイジス」
「ありがとうございますー!」

はいどうぞ、と少し冷めたコーンスープを渡されて一口。ふまままままー!
温かいスープが胃を刺激したのか、食欲が増した。うおおお! 食べるぞー!
それを皮切りにサンドイッチ、グラタン、サラダ、スープをたくさん食べる所を見ている皆でさえも少し引くくらいの量を食べて、デザートもペロリ。今日のデザートはパンナコッタ。それも完食してフィニッシュです。

「ごちそうさまでしたぁ」
「お腹いっぱいになった?」
「腹八分くらいです!」
「マジかよ…」

僕の言葉にメトル君がドン引きして、父様が「レイジスがたくさん食べてくれると父様も嬉しい…!」とハンカチで目元を拭い、侍女さん達はにっこにこしてた。

「でも…」
「うん?」
「グラタン食べたらボックスパンのシチューグラタン食べたくなるよねぇ…」
「おい。朝飯食ってすぐそういうこと言うのやめろ」

けぷ、と息を吐きながらお茶を飲めばメトル君からツッコミが入る。ええー。

「煮込みハンバーグとかー、照り焼きチキンとかー」
「ええい! やめろやめろ! 食いたくなるだろうが!」
「ボックスパンのシチューグラタン…煮込みハンバーグ…照り焼きチキン…」

おお! 特攻隊長のリーシャから言葉が出るたびにじゅるりと見えない涎が垂れてるのが見えるぞ! 
ふふふ。そうじゃろうそうじゃろう。気になるじゃろう?

「新しい料理か…。となると食堂の方にもレシピを渡さねばならんか」
「あ! じゃあお昼にボックスパンのシチューグラタン食べてー、お夕飯に煮込みハンバーグ…は重いから照り焼きチキンにしてー、チキンが余ればサンドイッチにしよう! レシピも書いておくぞー!」
「ほんっとお前食うの好きだな」
「もちろん! 食べることは生きること。生きてるから食べられるんだし!」

えっへん!と胸を張ればメトル君が呆れ、フリードリヒが後ろからぎゅうと抱き締めてくれて、父様も再び目元をハンカチで覆っている。ジョセフィーヌも目元を指で拭ってるし、アルシュもちょっと泣きそう。
え? なになに? どったの?
どこかしんみりとした空気の中でメトル君が口を開いた。

「そうか。お前は生きたいか」
「もちろん! もっといろんなもの食べたいし、見たいし、遊びたい!」
「…そうか」

むっふー!と鼻息を荒くしてそう言えば、メトル君の瞳が優しくなった。おおん?

「あ、そういえばホントに腕、大丈夫だったの?」
「いきなりだな。けど飯食ってる時に見ただろ?」
「ううーん…それはそうなんだけど…」
「疑い深いな。傷はそこのソルゾに治癒してもらった」
「はわ! ソルゾ先生治癒魔法使えたんですか?!」

じゃあお揃いだー!とにっぱーと笑えば「正確には違うんですけどね」と苦笑いを浮かべている。ほへ? どういうこと?

「フリードリヒ殿下、よろしいでしょうか?」
「メトルも口が堅いから問題ないだろう。構わない」
「分かりました」

おん? そういやなんかフリードリヒのメトル君に対する態度がどことなく柔らかいような…?
かくんと首を倒して二人を見れば「ああ、勘違いすんなよ?」とメトル君が僕にびしっと指をさす。だから人を指さしちゃダメだってばー。

「メトルから色々聞いたからな。それを踏まえての態度だよ」
「ふぅーん?」

というか何を聞いたんだろう?
父様も涙を拭いてにこにこしてるし…。よく分んないけどソルゾ先生の話が気になる。

「私が治癒できたのはこの魔石のおかげですね」

そう言って革袋から石を取りだしてテーブルの上に置く。おや? これって…。うんん?

「レイジス?」
「なんかこの魔石、石自体に力を感じるというかなんというか…」
「魔石ですからね」
「魔石なんだけどこう…石自体が魔法っていうか…あーん! うまく説明できないー!」

ふびゃー!と頭を抱えると「ああ、レイジスがいいたいことは分かる」とメトル君からの援護にぱっと顔を上げれば「うん」と頷く。

「魔法じゃない何か、って言いたいんだろ?」
「それそれ! でも魔石だから魔法になるんだよね?」
「それは間違いないな。オレが魔石を使う理由がそれだからな」

ハーミット先生は魔力はあるけど属性がないんだもんね。だから魔法を使うには魔法を閉じ込めた魔石が絶対に必要なわけで。

「でも僕は魔石としか感じませんけどね?」
「ありゃ? どういうこと?」

リーシャは魔石としか感じない。でも僕は魔石でも魔法の力を感じない。どゆこと?

「それ、手に持っても大丈夫なのか?」
「構わん」
「そもそもこれってフリードリヒ殿下の魔石なんですか?」

ソルゾ先生もフリードリヒに許可もらってたし。

「これは元々王家のものだ」
「はびょー?!」

え? え? そんな大事なものなの?!

「まぁ…色々あってソルゾに託していたが…。使う相手が違っても役に立てたのなら問題ないだろう」
「?」

フリードリヒの言葉に首を傾げると、僕の頭を優しく撫でてくれた。ふふー。

「でも、そんな大事なもの僕が触ってもいいんですか?」
「それは問題ないよ。父上もレイジスの事が大好きだからね」
「大好き…」

フリードリヒに大好きって言われると、ぽぽぽと頬が熱くなっちゃう。ほわぁ。

「レイジスが恥ずかしがってるから先に俺が見ても?」
「構わん」
「ならちょっと失礼して」

そう言ってメトル君が魔石を手にするとその瞳が大きく見開かれた。
どったの?

「これ…『文字』が彫られてるが?」
「はい。これのおかげで治癒魔法が使えない者でも使えるようになっています」
「フリードリヒ。これは王家のものだと言ったな?」
「ああ」
「なるほど? と、なるとこれは『聖女』様のものか?」
「ふえ?」

メトル君の言葉に、お腹に回された腕に力が入った。お? お? どうかしましたか?

「レイジス。これを」
「う、うん」

様子がおかしいフリードリヒを気にしながら「はいよ」とそれを渡されて両手で受け取る。するとほんわかとそれが淡く光り出した。
ほわ?!

「何なに?!」
「これは…?!」
「レイジスが持ったからだろうね」

皆が驚く中、そう冷静に告げるのは父様。え? え? どういうことですか?

「ユアソーン家は『聖女』様と繋がりが深い家系なんだよ」
「ええ?! そうなんですか?!」

初耳ですよ! 父様!

「だがその関係は不明だけどね!」

てへ☆とふざける父様にがっくしと肩を落とすけど、淡く光ってる石にぼんやりと浮かび上がるメトル君が言ったであろう『文字』が浮かんでいた。

「これ…って」
「な? 驚くだろ?」
「うん。でもこれ…」
「『日本語』だろ?」
「うん」

ってあれ?! 普通に頷いちゃったけどフリードリヒ達がいるんだった! しまったと思ったのもつかの間。皆普通だ。
あり?

「ああ、その辺りは気にしなくていいよ? メトルから『色々』聞いたからね?」
「ほわ」

にっこりと微笑むフリードリヒに『色々』がそういうことかと理解した。けどなんで今になって話したんだろう?

「それで、レイジス。それにはなんて書いてあるんだい?」
「あ、えと…『癒』?ですかね?」
「『癒』?」
「はい。癒えるとか治すって意味ですね。治癒にもこの文字が入ってますしね」
「なるほど?」
「でも治癒なら『治』の方が簡単だと思うんだけど?」

なんでわざわざこんな難しい字にしたんだろう? かくんと首を傾げれば「なんとなくレイジス様の感じてる疑問が分かる気がする」とリーシャが真面目な顔でカップを傾ける。

「この魔石を使う時はこの『文字』に魔力を流すんです」
「はえ。じゃあ複雑だから結構大変だったり?」
「はい。実を言いますと」

そう言って苦笑いを浮かべるソルゾ先生。なるほど。うん? でも文字に魔力を流すのならもっと簡単な字の方がいいのでは?

「治癒魔法は存在していますが使える者は殆どおりませんからね。医者や教会などはかすり傷程度しか治せない使い手でも、治癒魔法の使い手が一人でもいれば安泰です」
「でもフーディ村のおじいちゃん先生は世界で数人いるって…」
「そうですね。ですがです。国単体だと更に少なくなりますし、レイジス様のように怪我を完治させてしまう程の使い手はいないんです」
「はわー…」

なるほどー。

「だったら尚更簡単な字にした方がよくないですか?」
「あのな。さっきもソルゾが言っただろ」
「?」

黙って聞いていたメトル君が口を挟む。でもそれの意味が分からなくて首を傾げれば大きな溜息を吐かれた。ひどーい!

「怪我を完治させる程の使い手がいないんだ」
「うん」
「なら簡単な文字にしてそれらが使いたい放題になればどうなる?」
「怪我人がいなくなるね? でもいい事じゃない?」
「そうだな。怪我を簡単に治せるとなると怪我を恐れなくなるな」
「うむ?」

確かに怪我を簡単に治せちゃうなら怪我を恐れることはなくなるよね。でもそれとこれと何の繋がりが?

「つまりはレイジス様と同じですよ」
「どういう意味?」
「アミュレットで痛覚までなくしたら手足を無くしそうで怖い、ということですね」
「あ」

リーシャとノアの言葉にようやくメトル君が何を言いたいのか理解した。なるほど。この石一つで怪我が治せるんだから身体の心配なんかせずいろいろできる訳だ。
一番怖いと国同士のぶつかり合い、とか。

「それがあったから『治』じゃなくて『癒』にしたんだろうな」
「なるほど、なるほど。じゃあ、これ作った『聖女』様はそこまで考えてたのかー」

そうなるとこれを作った『聖女』様に興味が湧いてくる。完全に『日本語』だから日本人で間違いないんだけど。

「じゃあサルマー・エリオットさんって何者なんだろう?」
「誰だ? それ?」
「えっと…かつお節とか昆布とか作ってた人。確か『聖女』様の末裔だって言ってた。それとエリオット家はユアソーンが本家とも言ってたよ?」
「また『聖女』か。一体何者なんだろうな。その『聖女』様は」
「…その話しなのだけれどね」

メトル君と首を捻っていると、フリードリヒが静かに口を開いた。

「レイジスは『先祖返り』を知っているかい?」


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