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聖女編
カレーパンと違和感
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※前半レイジス視点、後半メトル視点となります。
「はぁ…あのかれーぱんなるもの、おいしかった」
「むふふー。王宮の方にレシピ渡しておきますので作ってくれると思いますよー」
「本当ですか! それは楽しみです!」
あれから僕のお腹を満たすために全員でお昼休憩を取ったんだー。炎天下の中、汗だくになって護衛してくれた騎士の人たちを労うためにもね。あとお馬さん! お水も飲みたいだろうし。
木陰で全員が休憩するから侍女さんたちが敷物をいっぱい入れてくれたんだー! それをフィルノさんが率先して配ってくれて助かっちゃった。
それからお昼ご飯は侍女さんと侍従さん、それにフリードリヒ達にも手伝ってもらったもの。おっきなお弁当箱をどんどんとうさうさバッグから引っ張り出し、みんなに配った。
ちなみに初めに出したのは梅干しのおにぎり。汗だくだからねー。塩分足りないと思って。
でも初めて食べるものだから吐き出しちゃう人とかが結構いてね…。うん、これはもうしょうがない。
「酸っぱいだけのこれは何だい?」
「梅干しですよー。夏の暑い時期は塩分が足りなくなっちゃうと病気になっちゃうので」
「ああ。だから騎士科の生徒は夏場にばたばた倒れる」
「ほぎゃ。そうなの?」
もぎゅっと梅干しのおにぎりを食べるメトル君はしれっというけど、それって大ごとなんじゃ…?
「まぁ…夏場に倒れるのは珍しくないからね」
「いやいや。それって絶対熱中症ですよね?!」
「だろうな。くそ暑い訓練場で汗かいて水分だけ取るんだから」
「あばば。それダメな奴ー!」
なんてことだ! とはいってもこの世界の医療はほとんど発達していない。だからこそ熱中症なんてものは知らないんだろうね。
「えと…そのネッチュウショウ? とはどういったものですか?」
「んとね、身体に熱がこもっちゃって、めまいとか吐き気とかが起きるんだ。最悪死んじゃう危ないものだよ」
「なんと」
僕の言葉に瞳を大きくして驚くフリードリヒ。
「確かに毎年…特に新入生はばたばたと倒れるが、身体がまだ慣れていないと思っていた」
「それが普通だと思ってましたからね」
うんうん、と頷くのはハーミット先生とフィルノさん。おあー。
「それに騎士になったらそんな甘いことは言ってられませんし」
それはわかるけどやっぱり知識があるのとないのとでは対処ができるかどうかだと思うんですよー。
「それで、そのネッチュウショウとやらになった場合はどうすればいいんだい?」
「まず身体を冷やすことが最優先ですね。それからお水が飲めれば飲ませて。とにかく涼しいところで休ませることが大切です」
「ふむ。それでなぜ塩分?」
「汗をかくからだな。汗で流した分の水分と塩分と取らないと調子がおかしくなる」
ぺろりと指についたご飯粒を舐めながらそう言うメトル君。僕たちは熱中症の怖さを知っているから言えるけど、たぶんハーミット先生やフィルノさんの中じゃ『とっても危険』っていう認識はあんまりなさそうなんだよね…。これが怖い。
「そういえば今年はあまり倒れた生徒はいないらしいな」
「そうなんですか?」
「ああ。レイジス案の水の魔石と風の魔石で作ったクーラー?で涼しくしてたからな」
「あ、よかったー。ちゃんと機能してたー」
そう。魔石の簡易クーラーなんだけど、学園長先生にばれててさ。せっかくだし各教室に置こうってなって。魔法科の生徒が魔石を作って置いてあるんだ。これも練習になるからって。
だから今年からは涼しく授業が受けられるんだ。僕は教室には行かないけどね! でもほかの先生たちも生徒たちも喜んでるって教えてもらってほくほく。冬になったら火の魔石で暖房作ろうね!
「というかこの梅干しってあの時のか?」
「あ、うん。そうそう。そろそろいいかなーって」
梅干しセットはコカトリス討伐のご褒美で学園長先生からもらったものだね。ソルさんと出会う前に漬けておいたんだー。でも道具がなくて心配だったんだけどうまくできて僕にっこり。
「それよりまだあんだろ?」
「あ、ちょっと待ってねー」
「レイジス様から集ろうとするとは…!」
「ん? いーのいーのってあれれ?」
「これですか?」
「あ、それそれー!」
きょろきょろと頭を動かしてお弁当箱を探す僕に、よっこいしょとソルゾ先生が後ろに置いていたお弁当箱を出してくれた。うさうさバッグの中身の秘密を知られちゃうと欲しいって人が出てくるからね。僕も良く分かんないし、バッグを狙う人も出てくるから中身を知っているのは侍女さんとフリードリヒ達と父様だけ。
それを見越して全部出してたくれたみたい。ソルゾ先生ありがとー!
「これは?」
「カレーパンです! あ、これ皆さんに配らないと」
「それは私が」
「フィルノさんありがとうございます!」
「いえいえ。それにしてもいい香りですね」
「むふふー」
このカレーパン、中身のカレーを作ってるとどうしても食べたくなっちゃって、涎をだらだら出しながら作ってたんだよねー。あ、もちろんカレーに涎は入ってないよ! それからカレーを冷やし固めてパン生地で包むんだけど…。やっぱりフリードリヒが乗り気でさ。じゃあみんな包もうってなって。侍女さんとフリードリヒ同様、包むのが癖になった侍従さんと包んだんだー。すっごい楽しかった!
それから揚げたてをお弁当箱に詰めてうさうさバッグの中へと、すーしゅぽん!
この準備があったからちょっと遅くなっちゃったことは内緒。
揚げたてアツアツをフィルノさんと部下の人たち…なのかな?が配って歩いてた。僕たちは一足先にいただきます!
「外はカリッ、中はとろー! うまままー!」
「レイジス。カレー付いてるよ?」
「ふぎゅ!」
口元をフリードリヒが指でぬぐい、当たり前のようにぺろりと舐める。はぎゃあ! 恥ずかしい!
「おいしい…」
僕が一人はぎゃーはぎゃーと騒いでいると、静かに聞こえてきた声に全員の視線が集まった。
そこはカレーパンを持って瞳をキラキラとさせているエストラさん。頬を紅潮させて感動してる様子。うふふー。よかったー。
「まだまだあるのでいっぱい食べてくださいねー!」
「………ッ!」
僕の声にびくりと肩を震わせたエストラさんが、躊躇いながらもこくりと頷くとみんなカレーパンに齧りつく。
「カレーライスもうまかったが、パンもうまいな」
「本当に。いくらでも食べられそうです」
フリードリヒ達は昨日も試食で食べてるでしょー! 僕もだけど! それでも次から次へとなくなっていくカレーパン。他の人たちはどうかな?と首を伸ばせば、みんなニコニコ顔で食べてくれている。わっふー! 頑張って作ってよかったー!
フィルノさんも僕が一つ食べ終えるころには戻ってきて一口齧った後、瞳を丸くしたのち無言で食べてる。けどその表情はにこにこで。むふふー。カレーのレシピ、渡しておくからねー。
その後カレーパン争奪戦があったり、アイスに驚いたりしてお昼休憩はお終い。王都まで半分も行ってないからこれから休憩なしで走るんだって。
お馬さんたちの疲労具合をみながら、必要があれば治癒魔法をかけて元気いっぱいにしていざ! 王都へ!
と、言うわけでお日様がバイバイし始めるころに王宮へと無事到着。そこにはたくさんの人がいて、ほわぁとお口を開ければフリードリヒがそっと下あごを戻してくれて。あ、すみません。ありがとう!
餃子戦争を共に駆け抜けた人たちを見つけて小さく手を振れば、にっこりと微笑んでくれて。
それからぞろぞろとフィルノさんとエストラさんの背中の後をついていく。この辺りは前来た時通ったから覚えてるー! そういえばメトル君は?とちらりと視線を向ければ、普段の表情が消えてどことなく険しい感じ。それに首を傾げればフリードリヒに「よそ見をすると転んじゃうから、ね?」とやんわりと背中を押された。
それに「ごめんなさい」と告げると、にこりと微笑まれる。
んー…。なんだろう。
前来た時よりもなんだか空気がピリピリしてるような気がする。前は人がほとんどいなくてよく分かんなかったけど、ここまで空気が張り詰めてる感じはしなかったような…?
しかもそれがメトル君に向けられてるんだから余計に意味が分からない。
かくかくと頭を左右に揺らしながら歩けば、後ろからリーシャに「ちょっと、ふらふらしないでくださいよ」と怒られた。ふわ! ごめん!
張り詰めた空気の中、前と同じ部屋の前に来るとそこへと入っていった。
「なんか…空気がぴりぴりしてて痛い…」
「まぁ、こればかりはね」
そう言って笑うのは父様。
「でもこの程度で済んでるんだ。レイジスがいなかったらもっとすごいだろうね」と、笑う父様にどう反応していいか分からず困惑すれば、メトル君が「はぁー…つっかれる」と言って詰襟をぐいと崩す。
あ、今回もあの礼服っぽいやつを着てるんだけど、やっぱりちょっと息苦しい感じはするよね。
「しかし、なぜこんなにも空気が張り詰めているのでしょうか?」
僕の疑問をアルシュが聞いてくれたことに感謝しながら、出されたお茶を飲む。あ、おいしいー! おやつのクッキーもうまうま。
さくさくとクッキーを食べながら、さっきの質問に答えてくれそうな父様を見ればなんだか苦笑いを浮かべてる。ううん?
「まぁ…メトル君に対していい印象をもっていないから、だろうね」
「なんで?!」
思わずそう声に出せば、父様の眉がハの字になる。
「うーん…これは父様が言っていいのか判断がつかないから言えないなぁ」
「うむむー…、気になる…!」
この話は多分明日かな?という父様の言葉を信じ、唇を尖らせると一応納得することにする。
「さて、今日はごゆっくりお休みくださいね」
「フィルノさん、エストラさん、ありがとうございました!」
「では、また明日」
「おやすみなさーい!」
ばいばーい!とフィルノさんとエストラさんに手を振ってから扉が閉まると「じゃあご飯を食べようか」と父様が告げる。それに「ごはーん!」と両腕を上げると「今日のご飯は何だろうね?」とフリードリヒに頭を撫でてもらう。
それにむふふと笑うと、呆れたように僕を見つめるメトル君。
「ほんっとどこに行っても変わらないのな、お前」
「緊張してる?」
「あー…、なんとなくこういう空気になるのはわかってたからな」
「うん?」
それってどういう?と首を傾げれば「ま、明日わかることだ」と瞳を細める。眉間に皺が寄っているからきっと辛いことや嫌なことだろう。それでもメトル君は僕についてきてくれた。
「メトル君」
「あん?」
「ここのご飯、おいしいんだよ!」
にっぱーと笑いながらそう言えば「そうか」と小さく笑った。そうそう。
辛いときはおいしいもの食べて、休めば元気になるんだから!
だから、そんなに悲しい顔をしないで?
「レイジス。久しぶりだな」
「陛下! おはようございます!」
「む」
夕ご飯をもりもり食べて、フリードリヒと一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで眠っておはよう!
昨日の魔力はすっかりと回復して、今日も元気いっぱいだぞー!
制服に着替えてお部屋で皆を待って食堂に移動。ここも相変わらず人がごった返しててなんだか嬉しくてにまにましちゃう。
厨房で顔見知りの人がいたから「おはようございます!」って挨拶したら、手を止めてこっちに来てくれた。そこで書き溜めたレシピを渡したらものすごく感動してくれた。
でも「光の浄化魔法を使える人がいないのでマヨネーズが作れず困っておりまして…」としょんぼりしながら教えてくれた。ううーん…浄化の魔石は完成してるけどこれ渡しちゃっていいのかなー?って思ってたら、そこになぜか陛下が登場。相変わらず自由だなぁ、なんて思ってたら父様が腰を抑えて後ろに立ってた。
「おはようございます父様。腰が痛いんですか?」
「う、うん? そうだね?」
なんだかしどろもどろしてるけど大丈夫かな? はっ!
「父様もしかして…!」
「うん?!」
「昨日お馬さんに乗ってたからですか?!」
「うん! そうだね! お馬さんにずっと乗ってたから腰が痛いかな!?」
もー、父様も若くないんだからーとぷりっとしながら治癒魔法をかければ「レイジスありがとうー!」とぎゅうううと抱きしめられる。と、父様! ちょ、ちょっと力が強いかなー? なんて…? あぶぅ。
「フォルス! レイジスから何かが抜けている!」
「っは! レイジス! レイジス!大丈夫かい?!」
「んぶぅ…っは!」
このやり取りはもう慣れちゃったよね。今回はお城の屋根が見えたよ! 新記録だ! やったね!
「大丈夫ですよー。お城の屋根ってすごくきれいで感動しちゃいました!」
「うおおおぉん! 本当にごめんよおおおぉぉ!」
「はぎゅう」
「フォルス! 力を加減しろ!」
陛下の言葉ではっとした父様が涙目で「ごめんね! ごめんね! レイジスー!」と謝り通してるその頭を撫でながら「大丈夫ですよー。お菓子のお城が見えたくらいで済みましたから!」と言えば「お菓子のお城…」と周りがざわざわとざわめき始めちゃった。
お菓子のお城…じゃなくてもお菓子の家って憧れるよねぇ。なんてむふむふと思ってると口元を拭かれた。
「レイジス、何かおいしいものでも思いついた?」
「お菓子の家とか素敵だなぁと」
「なんですかそれ?!」
「童話に出てくるものだよー。屋根も壁もぜーんぶお菓子でできてるの!」
んばっと両手を上げて、ふんすふんすと鼻息を荒くしながらそう言えば「今度作ってみようか」とフリードリヒがにっこりと微笑む。え?! いいんですか?!
「うん。用事が終わったら検討してみようか」
「ふむ。それなら人を集めねばならんな」
「でしたら王都の菓子店に協力をしてもらったらどうでしょうか」
「なるほど。それならできそうか」
とまぁ陛下とフリードリヒが本格的に検討に入ったところで「浄化の魔石の件はいいのか?」ってメトル君に耳打ちされた。あ! そうだった!
「陛下、陛下! 少しお聞きしたいことがありまして…!」
「うん? レイジスの言うことなら何でも聞いてあげるぞ」
「いや。それはちょっと…」
本気なのか冗談なんか分かんなこと言わないでくださいよー。怖いー。
「っと…そなたは…」
そこでメトル君に気付いた陛下の眉間に皺が寄る。うん?
「あ、陛下。彼は…」
「メトル・オリバーン」
「うん?」
あれ? 陛下メトル君のこと知ってたんですか?
それにしてはなんかちょっと…ものすごく険悪な…。
「父上。ここだと迷惑になります」
「…そうだな。それでレイジスよ。何を聞きたいんだ?」
「あ、そうだった。えとですねマヨネーズを作るために…うんしょ、浄化の魔石の使用許可をお願いしたいんです」
言いながらうさうさバッグの中から浄化の魔石を取り出すと陛下に向けてそれを見せる。その瞬間、後ろに控えてた兵士さんが動いたけどそれを陛下が止めた。
んぐ、そうだよね。いくら優しくしてくれてるって言ってもいきなりバッグから何かを掴んで見せたらそうなるよね。僕の配慮不足でした。ごめんなさい。
「浄化の…魔石?」
「はい。えとハーミット先生に使ってもらったので使えない、ってことはないと思うんです」
はうはうと興奮しながらそう言えば、なぜか瞳を大きくしたまま固まってしまった陛下。あれ?
「浄化の魔石はすでに完成されております。私が保証しましょう。父上」
「そ、うか。レイジスは毎回とんでもないものを持ってくるな」
「えへへー」
フリードリヒの言葉でハッとした陛下が、僕の頭を撫でてくれる。うふふー。嬉しいなー。
んふんふと笑っていると「じょ…浄化の魔石?!」となぜか厨房の方々が身を乗り出して僕たちを見ている。あ、魔導士の方ですか?
「えと…使ってもいいですか?」
「安全は?」
「私が保証しましょう」
父様が胸に手を当てて頭を下げれば「ふむ」と少しだけ迷ったようなそぶりを見せた後。
「いいだろう。許可しよう」
「わぁ! ありがとうございます!」
「浄化の魔石は光魔法と同様のもの、として考えればよいか?」
「はい。その認識で問題ありません」
おわ。やっぱりリーシャが敬語を話すとなぜかにまにましちゃう。そんな僕が分かっているのか、ぎろりと睨まれるけど怖くないんだからね! むふん!
「レイジス。それを厨房に渡してきなさい」
「はーい! 使い方も一緒に教えてきますね!」
「ああ、なら私も行こう」
結局全員で厨房に移動して浄化の魔石の使い方を教えると、なぜかみんなが震えてた。なんで?!
「ここここここんな貴重なものを…!」
両手で受け取った顔見知りの人が頭を下げてまるで宝でも受け取ったようにしてる。ううーん…。これからばんばん作る予定だから気にしなくていいのにと思ってたけど、現状はまだまだ貴重なもの。そうなっちゃうか。
「あ、そうだ。氷の魔石はどう?」
「そちらはもう! ものすごく助かってます!」
氷の魔石の使い心地はどうかな?って思って聞いてみてよかった!
ぱぁってお花が咲いた。よかったー。じゃあ浄化の魔石も使ってね!
ばいばいと手を振って陛下のもとへと戻ると、またしても頭を撫でられた。ほわ。
「またあとでな」
「あ、はい」
「フリードリヒも」
「はい」
そう言ってフリードリヒの髪をくしゃりと撫で、踵を返した陛下に頭を下げて見送ると、静かだった食堂が再びざわざわと騒がしくなる。おっと。そうだった。陛下の登場ですっかりと忘れてた。
さーて、ご飯ご飯ー!とフリードリヒを見れば、頭の上に手を置いて呆然としている。およよ?どうされました?
「フリードリヒ殿下?」
「―――…ッ?!」
僕の呼びかけにフリードリヒがハッとした。大丈夫?
パンジーが揺れていたけれどそれに気付かないふりをする。
「お腹すきましたぁー…」
「うん。そうだね。さて、我々も朝食を食べようか」
「わーい! ごはーん! ってメトル君?」
「ん? ああ。腹減ったな」
なんかぼんやりしてたけど大丈夫かな? お腹すいてるからかな?
なら。
「ご飯いっぱい食べようね!」
「お前の半分なら食えるな」
そう意地悪く言うけどやっぱり心ここにあらずって感じ。大丈夫かなぁ?
■■■
いやいやいや。ちょっと待て。
陛下のレイジスへの接し方は何なんだ?!
なんて思ってるのは俺だけ…なんだろうな。アルシュもリーシャもノアもただ見てるだけだし。それにフォルスのおっさん。
あれはどう見ても…。
うん、まぁBLの世界だからそうだとしても不思議じゃないんだが。
そう考えると陛下…バイロンのレイジスの接し方が義理の息子に対するものだとしてもあれはない。仮にもここは王宮。立場がはっきりしているところだ。それなのに。
やはりこの世界はおかしい。
俺に対して塩対応はまぁよしとしよう。ノーマルがそういうルートなんだから恨まれて当然なんだからな。だけどやっぱりおかしい。
この世界はレイジスへの愛情が異常なのだ。
それはフリードリヒ然り、バイロン然り。
裏ルートを進む俺にとっては大変ありがたいんだがやはり違和感はぬぐえない。
どうもレイジスを愛する世界になっているように見える。本来ならば主人公が受ける愛情をそのままレイジスが受けているのだ。
俺もレイジスのことは好きだからな。ああ、勘違いすんなよ? 人間として、好きなだけだ。
そういえばおっさんが「レイジス君が主人公のゲームが出るみたいですよ?」って言ってたがその影響か?
もしそうだとしてもレイジスに対する態度は…。
フォルスのおっさんとバイロンとの関係を見ればなんとなく分かるが、そんなことが可能なのか?
もしもそうならばレイジスは…。
いや。仮定の話を考えていても仕方ない。
聖女が遺したというものを見ればこの疑問の答えもあるはずだからな。
さて、レイジスが「ご飯ー」と言っているから飯でも食うか。
周りの視線も痛いし。
――だが、もし。もしもそれが仮定でないとしたら聖女はいったいユアソーン家に何をしたんだ?
「はぁ…あのかれーぱんなるもの、おいしかった」
「むふふー。王宮の方にレシピ渡しておきますので作ってくれると思いますよー」
「本当ですか! それは楽しみです!」
あれから僕のお腹を満たすために全員でお昼休憩を取ったんだー。炎天下の中、汗だくになって護衛してくれた騎士の人たちを労うためにもね。あとお馬さん! お水も飲みたいだろうし。
木陰で全員が休憩するから侍女さんたちが敷物をいっぱい入れてくれたんだー! それをフィルノさんが率先して配ってくれて助かっちゃった。
それからお昼ご飯は侍女さんと侍従さん、それにフリードリヒ達にも手伝ってもらったもの。おっきなお弁当箱をどんどんとうさうさバッグから引っ張り出し、みんなに配った。
ちなみに初めに出したのは梅干しのおにぎり。汗だくだからねー。塩分足りないと思って。
でも初めて食べるものだから吐き出しちゃう人とかが結構いてね…。うん、これはもうしょうがない。
「酸っぱいだけのこれは何だい?」
「梅干しですよー。夏の暑い時期は塩分が足りなくなっちゃうと病気になっちゃうので」
「ああ。だから騎士科の生徒は夏場にばたばた倒れる」
「ほぎゃ。そうなの?」
もぎゅっと梅干しのおにぎりを食べるメトル君はしれっというけど、それって大ごとなんじゃ…?
「まぁ…夏場に倒れるのは珍しくないからね」
「いやいや。それって絶対熱中症ですよね?!」
「だろうな。くそ暑い訓練場で汗かいて水分だけ取るんだから」
「あばば。それダメな奴ー!」
なんてことだ! とはいってもこの世界の医療はほとんど発達していない。だからこそ熱中症なんてものは知らないんだろうね。
「えと…そのネッチュウショウ? とはどういったものですか?」
「んとね、身体に熱がこもっちゃって、めまいとか吐き気とかが起きるんだ。最悪死んじゃう危ないものだよ」
「なんと」
僕の言葉に瞳を大きくして驚くフリードリヒ。
「確かに毎年…特に新入生はばたばたと倒れるが、身体がまだ慣れていないと思っていた」
「それが普通だと思ってましたからね」
うんうん、と頷くのはハーミット先生とフィルノさん。おあー。
「それに騎士になったらそんな甘いことは言ってられませんし」
それはわかるけどやっぱり知識があるのとないのとでは対処ができるかどうかだと思うんですよー。
「それで、そのネッチュウショウとやらになった場合はどうすればいいんだい?」
「まず身体を冷やすことが最優先ですね。それからお水が飲めれば飲ませて。とにかく涼しいところで休ませることが大切です」
「ふむ。それでなぜ塩分?」
「汗をかくからだな。汗で流した分の水分と塩分と取らないと調子がおかしくなる」
ぺろりと指についたご飯粒を舐めながらそう言うメトル君。僕たちは熱中症の怖さを知っているから言えるけど、たぶんハーミット先生やフィルノさんの中じゃ『とっても危険』っていう認識はあんまりなさそうなんだよね…。これが怖い。
「そういえば今年はあまり倒れた生徒はいないらしいな」
「そうなんですか?」
「ああ。レイジス案の水の魔石と風の魔石で作ったクーラー?で涼しくしてたからな」
「あ、よかったー。ちゃんと機能してたー」
そう。魔石の簡易クーラーなんだけど、学園長先生にばれててさ。せっかくだし各教室に置こうってなって。魔法科の生徒が魔石を作って置いてあるんだ。これも練習になるからって。
だから今年からは涼しく授業が受けられるんだ。僕は教室には行かないけどね! でもほかの先生たちも生徒たちも喜んでるって教えてもらってほくほく。冬になったら火の魔石で暖房作ろうね!
「というかこの梅干しってあの時のか?」
「あ、うん。そうそう。そろそろいいかなーって」
梅干しセットはコカトリス討伐のご褒美で学園長先生からもらったものだね。ソルさんと出会う前に漬けておいたんだー。でも道具がなくて心配だったんだけどうまくできて僕にっこり。
「それよりまだあんだろ?」
「あ、ちょっと待ってねー」
「レイジス様から集ろうとするとは…!」
「ん? いーのいーのってあれれ?」
「これですか?」
「あ、それそれー!」
きょろきょろと頭を動かしてお弁当箱を探す僕に、よっこいしょとソルゾ先生が後ろに置いていたお弁当箱を出してくれた。うさうさバッグの中身の秘密を知られちゃうと欲しいって人が出てくるからね。僕も良く分かんないし、バッグを狙う人も出てくるから中身を知っているのは侍女さんとフリードリヒ達と父様だけ。
それを見越して全部出してたくれたみたい。ソルゾ先生ありがとー!
「これは?」
「カレーパンです! あ、これ皆さんに配らないと」
「それは私が」
「フィルノさんありがとうございます!」
「いえいえ。それにしてもいい香りですね」
「むふふー」
このカレーパン、中身のカレーを作ってるとどうしても食べたくなっちゃって、涎をだらだら出しながら作ってたんだよねー。あ、もちろんカレーに涎は入ってないよ! それからカレーを冷やし固めてパン生地で包むんだけど…。やっぱりフリードリヒが乗り気でさ。じゃあみんな包もうってなって。侍女さんとフリードリヒ同様、包むのが癖になった侍従さんと包んだんだー。すっごい楽しかった!
それから揚げたてをお弁当箱に詰めてうさうさバッグの中へと、すーしゅぽん!
この準備があったからちょっと遅くなっちゃったことは内緒。
揚げたてアツアツをフィルノさんと部下の人たち…なのかな?が配って歩いてた。僕たちは一足先にいただきます!
「外はカリッ、中はとろー! うまままー!」
「レイジス。カレー付いてるよ?」
「ふぎゅ!」
口元をフリードリヒが指でぬぐい、当たり前のようにぺろりと舐める。はぎゃあ! 恥ずかしい!
「おいしい…」
僕が一人はぎゃーはぎゃーと騒いでいると、静かに聞こえてきた声に全員の視線が集まった。
そこはカレーパンを持って瞳をキラキラとさせているエストラさん。頬を紅潮させて感動してる様子。うふふー。よかったー。
「まだまだあるのでいっぱい食べてくださいねー!」
「………ッ!」
僕の声にびくりと肩を震わせたエストラさんが、躊躇いながらもこくりと頷くとみんなカレーパンに齧りつく。
「カレーライスもうまかったが、パンもうまいな」
「本当に。いくらでも食べられそうです」
フリードリヒ達は昨日も試食で食べてるでしょー! 僕もだけど! それでも次から次へとなくなっていくカレーパン。他の人たちはどうかな?と首を伸ばせば、みんなニコニコ顔で食べてくれている。わっふー! 頑張って作ってよかったー!
フィルノさんも僕が一つ食べ終えるころには戻ってきて一口齧った後、瞳を丸くしたのち無言で食べてる。けどその表情はにこにこで。むふふー。カレーのレシピ、渡しておくからねー。
その後カレーパン争奪戦があったり、アイスに驚いたりしてお昼休憩はお終い。王都まで半分も行ってないからこれから休憩なしで走るんだって。
お馬さんたちの疲労具合をみながら、必要があれば治癒魔法をかけて元気いっぱいにしていざ! 王都へ!
と、言うわけでお日様がバイバイし始めるころに王宮へと無事到着。そこにはたくさんの人がいて、ほわぁとお口を開ければフリードリヒがそっと下あごを戻してくれて。あ、すみません。ありがとう!
餃子戦争を共に駆け抜けた人たちを見つけて小さく手を振れば、にっこりと微笑んでくれて。
それからぞろぞろとフィルノさんとエストラさんの背中の後をついていく。この辺りは前来た時通ったから覚えてるー! そういえばメトル君は?とちらりと視線を向ければ、普段の表情が消えてどことなく険しい感じ。それに首を傾げればフリードリヒに「よそ見をすると転んじゃうから、ね?」とやんわりと背中を押された。
それに「ごめんなさい」と告げると、にこりと微笑まれる。
んー…。なんだろう。
前来た時よりもなんだか空気がピリピリしてるような気がする。前は人がほとんどいなくてよく分かんなかったけど、ここまで空気が張り詰めてる感じはしなかったような…?
しかもそれがメトル君に向けられてるんだから余計に意味が分からない。
かくかくと頭を左右に揺らしながら歩けば、後ろからリーシャに「ちょっと、ふらふらしないでくださいよ」と怒られた。ふわ! ごめん!
張り詰めた空気の中、前と同じ部屋の前に来るとそこへと入っていった。
「なんか…空気がぴりぴりしてて痛い…」
「まぁ、こればかりはね」
そう言って笑うのは父様。
「でもこの程度で済んでるんだ。レイジスがいなかったらもっとすごいだろうね」と、笑う父様にどう反応していいか分からず困惑すれば、メトル君が「はぁー…つっかれる」と言って詰襟をぐいと崩す。
あ、今回もあの礼服っぽいやつを着てるんだけど、やっぱりちょっと息苦しい感じはするよね。
「しかし、なぜこんなにも空気が張り詰めているのでしょうか?」
僕の疑問をアルシュが聞いてくれたことに感謝しながら、出されたお茶を飲む。あ、おいしいー! おやつのクッキーもうまうま。
さくさくとクッキーを食べながら、さっきの質問に答えてくれそうな父様を見ればなんだか苦笑いを浮かべてる。ううん?
「まぁ…メトル君に対していい印象をもっていないから、だろうね」
「なんで?!」
思わずそう声に出せば、父様の眉がハの字になる。
「うーん…これは父様が言っていいのか判断がつかないから言えないなぁ」
「うむむー…、気になる…!」
この話は多分明日かな?という父様の言葉を信じ、唇を尖らせると一応納得することにする。
「さて、今日はごゆっくりお休みくださいね」
「フィルノさん、エストラさん、ありがとうございました!」
「では、また明日」
「おやすみなさーい!」
ばいばーい!とフィルノさんとエストラさんに手を振ってから扉が閉まると「じゃあご飯を食べようか」と父様が告げる。それに「ごはーん!」と両腕を上げると「今日のご飯は何だろうね?」とフリードリヒに頭を撫でてもらう。
それにむふふと笑うと、呆れたように僕を見つめるメトル君。
「ほんっとどこに行っても変わらないのな、お前」
「緊張してる?」
「あー…、なんとなくこういう空気になるのはわかってたからな」
「うん?」
それってどういう?と首を傾げれば「ま、明日わかることだ」と瞳を細める。眉間に皺が寄っているからきっと辛いことや嫌なことだろう。それでもメトル君は僕についてきてくれた。
「メトル君」
「あん?」
「ここのご飯、おいしいんだよ!」
にっぱーと笑いながらそう言えば「そうか」と小さく笑った。そうそう。
辛いときはおいしいもの食べて、休めば元気になるんだから!
だから、そんなに悲しい顔をしないで?
「レイジス。久しぶりだな」
「陛下! おはようございます!」
「む」
夕ご飯をもりもり食べて、フリードリヒと一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで眠っておはよう!
昨日の魔力はすっかりと回復して、今日も元気いっぱいだぞー!
制服に着替えてお部屋で皆を待って食堂に移動。ここも相変わらず人がごった返しててなんだか嬉しくてにまにましちゃう。
厨房で顔見知りの人がいたから「おはようございます!」って挨拶したら、手を止めてこっちに来てくれた。そこで書き溜めたレシピを渡したらものすごく感動してくれた。
でも「光の浄化魔法を使える人がいないのでマヨネーズが作れず困っておりまして…」としょんぼりしながら教えてくれた。ううーん…浄化の魔石は完成してるけどこれ渡しちゃっていいのかなー?って思ってたら、そこになぜか陛下が登場。相変わらず自由だなぁ、なんて思ってたら父様が腰を抑えて後ろに立ってた。
「おはようございます父様。腰が痛いんですか?」
「う、うん? そうだね?」
なんだかしどろもどろしてるけど大丈夫かな? はっ!
「父様もしかして…!」
「うん?!」
「昨日お馬さんに乗ってたからですか?!」
「うん! そうだね! お馬さんにずっと乗ってたから腰が痛いかな!?」
もー、父様も若くないんだからーとぷりっとしながら治癒魔法をかければ「レイジスありがとうー!」とぎゅうううと抱きしめられる。と、父様! ちょ、ちょっと力が強いかなー? なんて…? あぶぅ。
「フォルス! レイジスから何かが抜けている!」
「っは! レイジス! レイジス!大丈夫かい?!」
「んぶぅ…っは!」
このやり取りはもう慣れちゃったよね。今回はお城の屋根が見えたよ! 新記録だ! やったね!
「大丈夫ですよー。お城の屋根ってすごくきれいで感動しちゃいました!」
「うおおおぉん! 本当にごめんよおおおぉぉ!」
「はぎゅう」
「フォルス! 力を加減しろ!」
陛下の言葉ではっとした父様が涙目で「ごめんね! ごめんね! レイジスー!」と謝り通してるその頭を撫でながら「大丈夫ですよー。お菓子のお城が見えたくらいで済みましたから!」と言えば「お菓子のお城…」と周りがざわざわとざわめき始めちゃった。
お菓子のお城…じゃなくてもお菓子の家って憧れるよねぇ。なんてむふむふと思ってると口元を拭かれた。
「レイジス、何かおいしいものでも思いついた?」
「お菓子の家とか素敵だなぁと」
「なんですかそれ?!」
「童話に出てくるものだよー。屋根も壁もぜーんぶお菓子でできてるの!」
んばっと両手を上げて、ふんすふんすと鼻息を荒くしながらそう言えば「今度作ってみようか」とフリードリヒがにっこりと微笑む。え?! いいんですか?!
「うん。用事が終わったら検討してみようか」
「ふむ。それなら人を集めねばならんな」
「でしたら王都の菓子店に協力をしてもらったらどうでしょうか」
「なるほど。それならできそうか」
とまぁ陛下とフリードリヒが本格的に検討に入ったところで「浄化の魔石の件はいいのか?」ってメトル君に耳打ちされた。あ! そうだった!
「陛下、陛下! 少しお聞きしたいことがありまして…!」
「うん? レイジスの言うことなら何でも聞いてあげるぞ」
「いや。それはちょっと…」
本気なのか冗談なんか分かんなこと言わないでくださいよー。怖いー。
「っと…そなたは…」
そこでメトル君に気付いた陛下の眉間に皺が寄る。うん?
「あ、陛下。彼は…」
「メトル・オリバーン」
「うん?」
あれ? 陛下メトル君のこと知ってたんですか?
それにしてはなんかちょっと…ものすごく険悪な…。
「父上。ここだと迷惑になります」
「…そうだな。それでレイジスよ。何を聞きたいんだ?」
「あ、そうだった。えとですねマヨネーズを作るために…うんしょ、浄化の魔石の使用許可をお願いしたいんです」
言いながらうさうさバッグの中から浄化の魔石を取り出すと陛下に向けてそれを見せる。その瞬間、後ろに控えてた兵士さんが動いたけどそれを陛下が止めた。
んぐ、そうだよね。いくら優しくしてくれてるって言ってもいきなりバッグから何かを掴んで見せたらそうなるよね。僕の配慮不足でした。ごめんなさい。
「浄化の…魔石?」
「はい。えとハーミット先生に使ってもらったので使えない、ってことはないと思うんです」
はうはうと興奮しながらそう言えば、なぜか瞳を大きくしたまま固まってしまった陛下。あれ?
「浄化の魔石はすでに完成されております。私が保証しましょう。父上」
「そ、うか。レイジスは毎回とんでもないものを持ってくるな」
「えへへー」
フリードリヒの言葉でハッとした陛下が、僕の頭を撫でてくれる。うふふー。嬉しいなー。
んふんふと笑っていると「じょ…浄化の魔石?!」となぜか厨房の方々が身を乗り出して僕たちを見ている。あ、魔導士の方ですか?
「えと…使ってもいいですか?」
「安全は?」
「私が保証しましょう」
父様が胸に手を当てて頭を下げれば「ふむ」と少しだけ迷ったようなそぶりを見せた後。
「いいだろう。許可しよう」
「わぁ! ありがとうございます!」
「浄化の魔石は光魔法と同様のもの、として考えればよいか?」
「はい。その認識で問題ありません」
おわ。やっぱりリーシャが敬語を話すとなぜかにまにましちゃう。そんな僕が分かっているのか、ぎろりと睨まれるけど怖くないんだからね! むふん!
「レイジス。それを厨房に渡してきなさい」
「はーい! 使い方も一緒に教えてきますね!」
「ああ、なら私も行こう」
結局全員で厨房に移動して浄化の魔石の使い方を教えると、なぜかみんなが震えてた。なんで?!
「ここここここんな貴重なものを…!」
両手で受け取った顔見知りの人が頭を下げてまるで宝でも受け取ったようにしてる。ううーん…。これからばんばん作る予定だから気にしなくていいのにと思ってたけど、現状はまだまだ貴重なもの。そうなっちゃうか。
「あ、そうだ。氷の魔石はどう?」
「そちらはもう! ものすごく助かってます!」
氷の魔石の使い心地はどうかな?って思って聞いてみてよかった!
ぱぁってお花が咲いた。よかったー。じゃあ浄化の魔石も使ってね!
ばいばいと手を振って陛下のもとへと戻ると、またしても頭を撫でられた。ほわ。
「またあとでな」
「あ、はい」
「フリードリヒも」
「はい」
そう言ってフリードリヒの髪をくしゃりと撫で、踵を返した陛下に頭を下げて見送ると、静かだった食堂が再びざわざわと騒がしくなる。おっと。そうだった。陛下の登場ですっかりと忘れてた。
さーて、ご飯ご飯ー!とフリードリヒを見れば、頭の上に手を置いて呆然としている。およよ?どうされました?
「フリードリヒ殿下?」
「―――…ッ?!」
僕の呼びかけにフリードリヒがハッとした。大丈夫?
パンジーが揺れていたけれどそれに気付かないふりをする。
「お腹すきましたぁー…」
「うん。そうだね。さて、我々も朝食を食べようか」
「わーい! ごはーん! ってメトル君?」
「ん? ああ。腹減ったな」
なんかぼんやりしてたけど大丈夫かな? お腹すいてるからかな?
なら。
「ご飯いっぱい食べようね!」
「お前の半分なら食えるな」
そう意地悪く言うけどやっぱり心ここにあらずって感じ。大丈夫かなぁ?
■■■
いやいやいや。ちょっと待て。
陛下のレイジスへの接し方は何なんだ?!
なんて思ってるのは俺だけ…なんだろうな。アルシュもリーシャもノアもただ見てるだけだし。それにフォルスのおっさん。
あれはどう見ても…。
うん、まぁBLの世界だからそうだとしても不思議じゃないんだが。
そう考えると陛下…バイロンのレイジスの接し方が義理の息子に対するものだとしてもあれはない。仮にもここは王宮。立場がはっきりしているところだ。それなのに。
やはりこの世界はおかしい。
俺に対して塩対応はまぁよしとしよう。ノーマルがそういうルートなんだから恨まれて当然なんだからな。だけどやっぱりおかしい。
この世界はレイジスへの愛情が異常なのだ。
それはフリードリヒ然り、バイロン然り。
裏ルートを進む俺にとっては大変ありがたいんだがやはり違和感はぬぐえない。
どうもレイジスを愛する世界になっているように見える。本来ならば主人公が受ける愛情をそのままレイジスが受けているのだ。
俺もレイジスのことは好きだからな。ああ、勘違いすんなよ? 人間として、好きなだけだ。
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