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カマルリア編
おうどんちゅるるー
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「踏んでください! お願いします!」
そう騎士さんに頭を下げてお願いする。
そしてお願いされた騎士さんは、ドン引きしながら僕を見る。
「レイジス様。それでは語弊があります」
「ふえ?」
「それだと騎士さんも困っちゃいますよ」
肩を竦めて呆れているのはハーミット先生。困ったように笑ってるのがソルゾ先生。
アルフレッド殿下の魔力過多の治療をヘンリクさんにお願いされて早3週目。すでに彩の月が通り過ぎ、紅葉の月(10月)へと入っている。日差しは徐々に強さを弱めて過ごしやすい気温。
実は2週間はほとんど記憶がなかったりする。なんせ起きたら魔力を中和して、魔力を半分以上使ってご飯をもぐもぐ。そしたらすぐに眠くなってベッドに直行。起きればお昼すぎでご飯を食べて魔力を中和しにアルフレッド殿下のお部屋へを繰り返していたから。
お風呂は起きてから。魔力回復が若干追いつかないみたいで、クリスタルの力を借りてる。今まで溜めてた魔力を少しずつ切り崩して回復に当ててるんだ。
だからご飯をゆっくり味わう、なんてことができなくてしょんぼり。王族四人はご飯を味わって食べてるみたいだけど。僕は放っておいておいしいご飯をいっぱい食べてくださいね!
そして今週。ようやく魔力の半分以上を中和できたのか、アルフレッド殿下の体調がよくなってきてお熱も引いた。ぜいぜいと苦しそうな呼吸も落ち着いて、ゆっくりとしている。お医者さんも驚くハイスピード回復。
まだ10歳だからねー。体力が増えればその分魔力も吸収できるようになるらしい。なので、今は食事に力を入れ体力づくり。とはいっても魔力過多で体調を崩したのは数か月前らしい。それまでも魔力過多で苦しんでいたらみたいなんだけど、それは無事収まってる。
じゃあなんでまた魔力過多になったのかというと…。
フリードリヒがソルさん…テネブラエさんと契約したのが原因らしい。
今まではヴァルジスク君と王族四人が魔力の中和をしていたらしいんだけど、アルフレッド殿下がルクスさんと契約したら光の属性が強すぎて中和できなくなっちゃったんだって。
それで初めはフリードリヒを呼んで闇魔法で中和をお願いしようとしたらしいんだけど、ソルさんと契約しちゃったから国から出られなくなっちゃったらしい。しかも、ウィンシュタインに魔力がようやく回り始めたところだからフリードリヒがウィンシュタインから出るとまたおかしくなるみたい。
だから魔力が多くて契約にも縛られない僕が呼ばれたらしい。それを聞いたのが2日前。僕も体調と心が万全じゃなかったからお話しできなかったんだって。父様が「弱さに付け込んで、ここに連れてきてごめんね?」ってしょんもりしながら謝られちゃった。ちょびっとだけ驚いたけど「ちょうど僕もフリードリヒ殿下と離れて自分の気持ちを整理したかったらよかった」って言ったら、父様にぎゅううと力いっぱい抱きしめられた。にゅっと出ちゃいけないものが出たけど、それはすぐに戻ってきた。相変わらずだなぁ。父様は。
そんなこんなでアルフレッド殿下の体調も落ち着いたところで、ご飯もようやくゆっくりと三食食べられるようになった。二週間はお昼と夜だけだったからね。それに、ドカ食いしている僕を父様や先生たち、それにジョセフィーヌや侍女さんが心配してくれてた。まぁ食べては吐いてたからね。本当に食べ物と父様たちには申し訳ないことをしたなって反省。というかあの時はどうすることもできなかったんだけど。
僕の体調も少しずつ戻って一人分のご飯から、二~三人分のご飯を食べられるようになった。ここまで戻すのに一か月くらい?かな? まぁ…魔力消費でドカ食いしての荒治療みたいなものだったけど、結果オーライってやつだろうなー。
そして。ちょびっとだけ自分の時間が持てるようになった僕は、ようやく料理を作ることにした。なんてことはない。僕が食べたいものを作るだけ。
とはいってもカマルリアはウィンシュタインとは違ってあんまり珍しい食材が手に入らない。手に入ったとしてもめっちゃ高いらしいから、僕が食べる分はウィンシュタインのツケになってるらしい。戻ったらまずはお金払おう。
「ここはハガルマルティアから少し離れてるからな。だから食料の調達が大変なんだ」
「へぇー。あ、だからウィンシュタインの方が、食材が豊富なんですねー」
「そうだね。カマルリアとウィンシュタインは世界のほぼ中心にぽつんとあるからね」
「どちらかと言えば気候はカマルリアの方が穏やかだな」
「ほぉー」
と時間があるときは四人の王族にお話を聞いている。
ちなみに。世界地図はウィンシュタインとカマルリアにないらしい。それは二国の国民が真実に気付かないようにされてるからなんだって。つまりは戦いを避けるためにしてるらしい。
まぁ…信じてる聖女様が世界の混乱を引き起こしてました、なんて言われても信じがたいもんね。それに。
「ここにとって聖女とは敵みたいなものだからな」
「ああー…それはもうしょうがないですよねー…」
「だからここは旧神を信仰している」
「旧神様?」
「そうだ。我々も聖女信仰だが、ここだけ違うんだ」
まだまだ僕の知らないことがいっぱいあるなぁ、なんて思いながらお話を聞いてるけどこれ聞いて大丈夫なの?って時々思う。
フリードリヒとの婚約は今のところ保留になってるけど、破棄するかもよ?って思わない?
でもさ、それが一切ないの。僕とフリードリヒは一緒になるものだって思ってるんだよ。不思議だよね?
そんな思いを抱きながら、僕は騎士さんに頭を下げる。
「僕のために踏んでください!」
「レイジス様、悪化してます」
なんてことはない。急におうどんが食べたくなったんだよ。それで、作ろうってなったんだけど、生地を踏むとコシが出る、みたいなことをばあちゃんから聞いたような気がして、じゃあ!と僕がふみふみしてたんだけど、体重が…体重が軽すぎて悲しいことに。
そのおうどん…いや、すいとんになったものは僕のお口には入らず、ジョセフィーヌと侍女さん達、それに父様の胃袋へと入っていった。なんで?!
その為、おうどん作りにハッスルした僕は体重がありそうな騎士さんに目を付けた。さすがにジョセフィーヌや侍女さんに踏ませることは避けた。女性に年齢と体重を聞いちゃダメ、絶対。
ハーミット先生にお願いしたんだけど断られちゃったし…。残念。そして王族四人にも踏んで!とは言えなくて。こうして立っている騎士さんに声をかけてはドン引きされるのを繰り返している。
「ちょっとだけ! 先っぽだけでいいから!」と言ったら「レイジス様! はしたないですよ!」とソルゾ先生に叱られて…。しょうがない、と肩を落としながら部屋に戻れば、王族四人がすでにいて。おわ。
「どうだった?」
「…全敗でした」
「そうだろうな」
「うー…」
あっはっはっ!と笑うギリクさんを、頬を膨らませて睨めば「そんな可愛い顔して睨んでも可愛いだけだぞ」って言われて、再び肩を落とす。
するとコンコンとノックをされて、返事をする前にドアが開けられる。この開け方は…。
「おい、いるか?」
「いますよー」
顔を出したのはヴァルジスク君。今日も元気そうでなにより。
「お前いい加減にしろよ?」
「うん?」
「踏んでくださいって回ってるそうだな」
「うん」
「騎士達が困惑しきってる」
ありゃりゃ。ついに苦情が言っちゃいましたかー…。ごめんなさい。
「…はい。ごめんなさい」
「…アルの件がなかったらぶっ飛ばしてたぞ」
「…申し訳ないです」
しょぼぼんと肩を落として「ごめんなさい」をすれば、はぁー…と大きなため息を吐かれる。おふ。
「何かを踏めばお前の奇行はなくなるのか?」
「ぷえ?」
ヴァルジスク君の言葉に首を傾げれば「何かを踏めば奇行は止まるのか?」と言われ、こくりと頷けば「…一度だけだぞ」と聞こえた気がした。
「え?」
「お前の奇行が止まるなら一度だけ、やってやる」
「ホントですか?!」
「ああ、一度だけだ。いいな?」
「はい! ありがとうございます!」
やったー!と喜べば「よかったな、レイジス」とシュルスタイン皇子に頭を撫でられる。むふふー。
「それで? 何を踏めばいいんだ?」
「あ、ちょっと待ってください! おうどんの生地…おうどんの生地…!」
ばたばたと作っておいたおうどんの生地を侍女さんと慌てて取りに行く。そして、布に包まれたそれを父様が持ってくれて戻れば、ヴァルジスク君の眉が思いっきり寄った。
「動物の死体とかじゃないだろうな?」
「そんなことするわけないでしょ?!」
僕を何だと思ってるの?!
ぷん!と怒れば「それで?」とぶっきらぼうに言われる。それでもちゃんと約束を果たしてくれるヴァルジスク君。ううーん…どことなく香る、ツンデレ臭。
「これを、思いっきり踏み踏みしてください!」
「…一日?」
「いえ。一回に付き一、二分ですね」
「一回?」
「はい! 踏んでは折りたたんでを三~五回繰り返すので!」
「良く分からんな」
「でもおいしいおうどんになりますから!」
むっふーと鼻息荒くそういえば、やっぱり奇妙なものを見るような視線で見られる。けど慣れちゃったよね。
「ここにいる二人を貸してやる。ただし、踏むのは私の前で、が条件だ」
「わわ! ありがとうございます!」
「…アルの部屋の近くにしたのは失敗だった」
「ふえ?」
「なんでもない」
そう言ってそっぽを向くヴァルジスク君を、四人の王族がにやにやしながら見てるけど僕は踏んでもらえるだけで十分嬉しかった。
「じゃあじゃあ! お願いします!」
すさっと布にくるまれたそれをもう一枚布を敷いたところに置く。もちろん光魔法で浄化を…と思ったら「光魔法は使うな」とヴァルジスク君に止められた。え? じゃあどうすれば?と困っていると、クリスタルを取り出して僕に渡された。え?
「お前の魔力が混ざっているから使えるんだろう?」
「あ、はい」
クリスタルを受け取って、ぎゅって握ればそれだけで光魔法が発動して浄化されたことにびっくり。それはヴァルジスク君もそうだったみたいで、カーディナル・レッドの瞳が大きく見開いた。
ふわりとそよ風が吹き抜け、髪を揺らした後に残ったのはすがすがしい空気のみ。はへぇ…。
「…それは貸してやる」
「あ、ありがとうございます?」
良く分かんないけど、浄化ができたのならよし! それからあからさまに嫌そうな騎士さんにブーツを脱いでもらって、れっつふみふみ! 体感で一、二分踏んでもらって折り返してまたふみふみ。それを繰り返してとりあえず四回目で終わらせる。
あとはトライアンドエラーの繰り返し。ウィンシュタインに戻ったら、おいしいおうどんをフリードリヒ達に食べさせたいからね!
そんなわけで踏み終わった生地をクリスタルで浄化して、あとは一時間ほど放置。それから切って、茹でて、おつゆをじゃばばーとかけて出来上がり!
一時間放置してる間にヴァルジスク君がもう用はない、といわんばかりにさっさと戻っちゃったから残されたのは僕らだけ。それでも十分な量のおうどんに僕、ほくほく。
「まずは素うどんでいただこう!」
どんぶりがなかったから急遽土魔法でどんぶりを作って、火魔法で焼く。なんか聖獣さんたちも乗り気でお手伝いしてくれたからお礼もかねて聖獣さん達にもおうどんをふるまうことに。
おおおー。いいにおーい。
お出汁はお味噌汁作ってるから問題ないからね!
「そいじゃ…いただきまーす!」
お箸もなかったからフォークでいただきます! 今度木を加工して割りばし作ろう。そう思いながらじゅるるー!と一口。風魔法で切ったから太さは機械並みに正確。しゅごい。
「ふまー! おうどんふまー!」
わあ!と興奮する僕だけど、王族と聖獣さんたち達は大丈夫かな?ってちらっと見れば…。なんか固まってる? おいしくなかった?
「レイジス! おいしいよ!」
「パスタとは違う触感…。けれどこのツユがおいしい…!」
「あー…これは食欲ない時でも食えそうだ」
未知の食べ物を臆することなく食べる先生たちと父様。と、いうか父様はおうどん食べる前に、すいとん食べたでしょ?! でも喜んでもらえてよかった!
じゅるー!と僕は勢いよく啜るけど、他のみんなは啜ることができないからパスタみたいにフォークに巻いてうまうま。
今、てんぷらも揚げてもらってるからね!
「なんだ…この食べ物は…!」
「白いのがもちもちしていて…けれど嫌な触感ではない」
「黒い液も実にうまい」
どうやら衝撃が強かっただけみたいで安心したー。一口食べてから、その後は無言でおうどんを食べている。聖獣さんたちもただただおうどんを食べている姿にむふ、と笑えば「てんぷらが揚がりました!」と言ってかき揚げを侍女さんが運んでくれた。
テーブルの上にどどん!とかき揚げの山を乗せたお皿を置いて、侍女さんが胸を張って戻っていく。ありがとー! 侍女さんがかき揚げを運んだあとにおかわりのおうどんが運ばれてきて、かき揚げをいそいそとおうどんの上に乗せてしみー、しみー。
そして。ぱくん!
ふおおおお! んまー!
おつゆ染み染みかき揚げうまー!
むふむふと鼻息を荒くしながらかき揚げとおうどんを食べていたら、先生たちも父様もかき揚げに挑戦中。王族も、聖獣さんもかき揚げをいそいそとおうどんに中に入れている。ふふー。
それからコロッケも運ばれてきて僕大興奮。ジョセフィーヌ…やるな…!
「これは?」
「コロッケです! ふかしたお芋さんをつぶして具を入れて揚げたものです!」
「そういえばこれも不思議な触感だったな」
「油で調理するんだったか?」
「はい! そうです!」
既に海でフライを食べてるガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子は抵抗がないからか、ぱくぱくと食べている。ギリクさんも抵抗がないからかコロッケをおいしそうに食べてるけど、やっぱりルシミアルさんは少し抵抗があるみたい。けど、みんながもぐもぐしてるのを見てぱくんと一口。
するとぱあぁと顔が明るくなって、もぐもぐしてる。聖獣さん達は抵抗なんてものがないのか、ひたすらもぐもぐしてる。
んふー。おうどんの生地を踏んでくれた騎士さんに感謝しながらおうどんをもぐもぐしていると、コンコンとノックがした。それに返事をする前にドアが開いたからヴァルジスク君だとすぐに気付く。おっと。普通にご飯中ですけど大丈夫かな?
「はぁ…お前らのせいでアルが食いたいと言い出した」
「ぷえ?!」
あらら?! アルフレッド殿下のところまで匂いが届いちゃいました?!
「レイジスお姉ちゃん」
「アルフレッド殿下!」
ヴァルジスク君に隠れるようにいたアルフレッド殿下に思わず立ち上がる。おわわ?! もう歩けるように?!
「いい匂い…したから、ヴァル兄さまに連れてきてもらったんだ」
「あわわ!」
ああー!やっぱり匂いが届いてましたか! ごめんなさい!
「それにしても何の匂いだ?」
「だしの匂いでしょうかね?」
「…で? 何を食べているんだ?」
「騎士さんに踏んでもらったおうどんです」
「おうどん…」
おいしそう…!とアルフレッド殿下の瞳がキラキラと輝き始める。あっとー。これはどうしたら…?
ちらりとヴァルジスク君を見れば、眉を寄せて険しい表情を浮かべている。デスヨネー。
「あるのか?」
「え?」
「おうどんとやらは」
「あ、はい。ありますけど…食べられます?」
「いいんですか?! 兄さま!」
「…食べたいんだろう?」
「はい!」
あー…。これはあれだ。フリードリヒに甘やかされてる僕だー。はたから見ればこんな感じなのかー。ちょっと恥ずかしいな、なんて思いながらも席はどうするかと悩む。聖獣さんたちがいるから席がいっぱいなんだよねー。
「お前たちは?」
「おお。これはこれは。カマルリアの童よ」
「何?」
「我らは聖獣だ。レイジスのメシを食いたくてな。こうして人の形をとっている」
「聖獣…?」
「そうじゃ。ルクス―ノクスも人型になれるがそこな童の体力だと難しいからの」
ほほほと笑うのはスズ姐さん。
聖獣さんとお話しするにあたって、どうやって呼んだらいいのかって聞いたら「好きに呼べばよい」と言われちゃったからスズ姐さんに「スザク姐さん!」って呼んだら、お口をふさがれてあぶあぶ。
「お主は我らの真名を知っておるのか?」
「マナ?」
「我らの本当の名だ」
四人の聖獣さんに囲われて問い詰められてちょっと怖かったけど、こくんと頷けば「やはりか」と肩を竦める。
やはり?
「レイジス。そなた異世界の記憶があるのであろう?」
その言葉にこくりと頷けば「なら我らの真名を知っていてもおかしくはないか」とお口を解放された。
「だが…。主は記憶が欠損しておると言っておったが…。違うのかの?」
記憶の欠損? どういうこと?と首を傾げれば、なぜか四人が焦りだした。
「何でもないわよ。気にしなくていいからね」
そう言ってほほほと笑うスズ姐さん。それから真名を隠した名前ならいいって言われて、麒麟さんにはキリさん。青龍さんにはセイさん。それから黒虎さんにはクロさんと呼ぶことにした。そしたら四人が声を上げて笑った。
「なるほどなるほど。これなら微妙に隠せていていいな」
「むー? ダメでした?」
「いや。これでよい。長しか我らの真名は知らんからな。だから他の名前を付けて呼ばせたが…。これはこれで楽しいものだ」
あっはっはっと豪快に笑うのはセイさん。属性が土だからかめちゃくちゃ心が広い。ちなみにスズ姐さんは男の人らしい。けど、話し方がお姉さんっぽいから姐さんって付けたらすごく気に入ったみたい。
そんなことがあって聖獣さんたちを呼ぶときはそうなっている。
そしてジョセフィーヌがおうどんを二人分用意すると、席も増えた。おお?
「我からのさーびすだ」
「セイさんありがとうございます!」
「よいよい。このおうどんとやらがうまかった礼だ」
なるほど。セイさんが魔法で作ってくれたらしい。すごい!
そっちに僕と父様、先生たちが移動して僕らが座ってたところにアルフレッド殿下とヴァルジスク君に座ってもらう。ぬくもりが残ってるけどごめんね。
ソファにアルフレッド殿下を座らせてからヴァルジスク君が座ると、騎士さんがヴァルジスク君の方に付く。うん?
ちょっと違和感を感じたけどまぁ、気にするほどでもないかとずるるとおうどんをすすれば、アルフレッド殿下が小さなおててでフォークにおうどんを巻き付けてふーふと冷ましている。はわぁぁ…。可愛い…!
けどやっぱりうまくいかないのか、つるるんと逃げていくおうどんに眉を下げてしまう。ヴァルジスク君は大丈夫かな?とちらりと見れば、こっちも苦戦中。けど力もあるからすぐに巻けたみたい。
アルフレッド殿下は…と、さくりとかき揚げを食べながら見ればまだまだ食べられない様子。ううーん…お手伝いしたくなっちゃうー。
「ヴァルジスク殿下、毒見を」
「私よりアルの方を頼む」
「いえ。我らはヴァルジスク殿下の毒見係も兼ねておりますので」
うん?
騎士さんとのやり取りでさっきの違和感が大きくなった。いや、確かにヴァルジスク君も王位継承は持つかもしれないけど、ギリクさん達はヴァルジスク君を『殿下』って呼んでないんだ。
アルフレッド殿下はついてるのに。さくん、とコロッケを食べながら見ていたけど、やっぱりアルフレッド殿下が気になって、ついお手伝いをしてしまう。
くるくるんとおうどんをフォークで巻いて「はい、どうぞ」って差し出せば「え?」って不思議そうな顔をされた。
おっとー!そうだった! ついお手伝いしちゃったけど、偉い人だった!
ほぎゃっとアホ毛様を伸ばしたけど「食べていいの?」って首を傾げられて僕昇天。あああああ! 可愛い…!
「はい! どうぞ!」
「ありがとう! レイジスお姉ちゃん!」
「おい! アルに食わせるな!」
「ダメ…ですか? ヴァル兄さま?」
「う…っ!」
うりゅりゅとうるんだ瞳で見つめられて、ヴァルジスク君も無事完敗。けど「せめてこっちのを食べろ」といわれてどんぶりを交換されてしまった。あ、そっちは毒見した奴か。
冷めたおうどんは、アルフレッド殿下のお口へ。初めて食べるものだから吐き出しちゃってもいいからねーと保険はかけてあるから、万が一おえっぷってしちゃっても大丈夫!
もむもむとお口を動かして、こくんと飲み込むアルフレッド殿下の顔が光り輝く。うおおおお! 眩しいー!
「おいしい! これ、おいしい!」
「よかったー。ゆっくり食べてね!」
「うん!」
「かき揚げとかは少しなら大丈夫だと思うんだけど…」
まずはヴァルジスク君の許可をもらってからね?と視線を突き刺さしながら言えば「ヴァル兄さま!」と興奮したアルフレッド殿下がきらきらと瞳を輝かせる。あ、これは落ちたな。
そう確信してヴァルジスク君を見れば、いそいそと毒見係にかき揚げとコロッケを食べさせている。むふー。
「油が重いので少しにしてくださいね!」
「分かっている! お前はアルの親か何かか!」
「ひょえ?!」
ヴァルジスク君に怒鳴られて、しょぼぼとすれば「レイジスお姉ちゃんは、母上なの?」って純粋な瞳で見つめられて困惑する。ええー?
「アル。こいつはお前の母上じゃない。いいか? こいつは…」
「はいはい。ご飯の時くらい楽しい話しようか。ヴァルジスク君?」
にっこりと笑うガラムヘルツ殿下に、ヴァルジスク君が口を噤むと「ほら」と小さく切ったかき揚げとコロッケを渡している。お兄ちゃんだなぁ。
渡されたコロッケを恐る恐る食べたアルフレッド殿下だけど、これまたぱあぁぁと全身から光り輝き、僕の目を焼く。うおおおおお!
でも全身からおいしいっていうのが分かるから僕も嬉しい。
「おうどんおいしいね! ヴァル兄さま!」
「…そうだな」
にこーっと笑うアルフレッド殿下にほんわほんわと癒されながらご飯を食べ終えると、ばいばーい!とお部屋に戻っていった。
はぁー…可愛かった…。
けど、この後からアルフレッド殿下が毎食僕の部屋に食べに来るようになっちゃって、王宮の侍従さんとちょっとしたバトルが始まっちゃったけど、ヴァルジスク君の一声であっさりと勝敗が決まった。
「レイジスお姉ちゃん! おいしいね!」
「ね!」
すっかりと胃腸もよくなったアルフレッド殿下と一緒に、ご飯をもぐもぐ。
ついでにヴァルジスク君も一緒にご飯を食べるから自然と人数に加えられて、渋々来ていたのが気付くとそこにいたりする。
だから魔力の中和も僕の部屋でやることが多くなって、アルフレッド殿下の私物が置かれるようになっていった。
気付けば紅葉の月(10月)も終盤に入り、冬の匂いが漂い始めた竜潜の月(11月)が近づいていた。
そう騎士さんに頭を下げてお願いする。
そしてお願いされた騎士さんは、ドン引きしながら僕を見る。
「レイジス様。それでは語弊があります」
「ふえ?」
「それだと騎士さんも困っちゃいますよ」
肩を竦めて呆れているのはハーミット先生。困ったように笑ってるのがソルゾ先生。
アルフレッド殿下の魔力過多の治療をヘンリクさんにお願いされて早3週目。すでに彩の月が通り過ぎ、紅葉の月(10月)へと入っている。日差しは徐々に強さを弱めて過ごしやすい気温。
実は2週間はほとんど記憶がなかったりする。なんせ起きたら魔力を中和して、魔力を半分以上使ってご飯をもぐもぐ。そしたらすぐに眠くなってベッドに直行。起きればお昼すぎでご飯を食べて魔力を中和しにアルフレッド殿下のお部屋へを繰り返していたから。
お風呂は起きてから。魔力回復が若干追いつかないみたいで、クリスタルの力を借りてる。今まで溜めてた魔力を少しずつ切り崩して回復に当ててるんだ。
だからご飯をゆっくり味わう、なんてことができなくてしょんぼり。王族四人はご飯を味わって食べてるみたいだけど。僕は放っておいておいしいご飯をいっぱい食べてくださいね!
そして今週。ようやく魔力の半分以上を中和できたのか、アルフレッド殿下の体調がよくなってきてお熱も引いた。ぜいぜいと苦しそうな呼吸も落ち着いて、ゆっくりとしている。お医者さんも驚くハイスピード回復。
まだ10歳だからねー。体力が増えればその分魔力も吸収できるようになるらしい。なので、今は食事に力を入れ体力づくり。とはいっても魔力過多で体調を崩したのは数か月前らしい。それまでも魔力過多で苦しんでいたらみたいなんだけど、それは無事収まってる。
じゃあなんでまた魔力過多になったのかというと…。
フリードリヒがソルさん…テネブラエさんと契約したのが原因らしい。
今まではヴァルジスク君と王族四人が魔力の中和をしていたらしいんだけど、アルフレッド殿下がルクスさんと契約したら光の属性が強すぎて中和できなくなっちゃったんだって。
それで初めはフリードリヒを呼んで闇魔法で中和をお願いしようとしたらしいんだけど、ソルさんと契約しちゃったから国から出られなくなっちゃったらしい。しかも、ウィンシュタインに魔力がようやく回り始めたところだからフリードリヒがウィンシュタインから出るとまたおかしくなるみたい。
だから魔力が多くて契約にも縛られない僕が呼ばれたらしい。それを聞いたのが2日前。僕も体調と心が万全じゃなかったからお話しできなかったんだって。父様が「弱さに付け込んで、ここに連れてきてごめんね?」ってしょんもりしながら謝られちゃった。ちょびっとだけ驚いたけど「ちょうど僕もフリードリヒ殿下と離れて自分の気持ちを整理したかったらよかった」って言ったら、父様にぎゅううと力いっぱい抱きしめられた。にゅっと出ちゃいけないものが出たけど、それはすぐに戻ってきた。相変わらずだなぁ。父様は。
そんなこんなでアルフレッド殿下の体調も落ち着いたところで、ご飯もようやくゆっくりと三食食べられるようになった。二週間はお昼と夜だけだったからね。それに、ドカ食いしている僕を父様や先生たち、それにジョセフィーヌや侍女さんが心配してくれてた。まぁ食べては吐いてたからね。本当に食べ物と父様たちには申し訳ないことをしたなって反省。というかあの時はどうすることもできなかったんだけど。
僕の体調も少しずつ戻って一人分のご飯から、二~三人分のご飯を食べられるようになった。ここまで戻すのに一か月くらい?かな? まぁ…魔力消費でドカ食いしての荒治療みたいなものだったけど、結果オーライってやつだろうなー。
そして。ちょびっとだけ自分の時間が持てるようになった僕は、ようやく料理を作ることにした。なんてことはない。僕が食べたいものを作るだけ。
とはいってもカマルリアはウィンシュタインとは違ってあんまり珍しい食材が手に入らない。手に入ったとしてもめっちゃ高いらしいから、僕が食べる分はウィンシュタインのツケになってるらしい。戻ったらまずはお金払おう。
「ここはハガルマルティアから少し離れてるからな。だから食料の調達が大変なんだ」
「へぇー。あ、だからウィンシュタインの方が、食材が豊富なんですねー」
「そうだね。カマルリアとウィンシュタインは世界のほぼ中心にぽつんとあるからね」
「どちらかと言えば気候はカマルリアの方が穏やかだな」
「ほぉー」
と時間があるときは四人の王族にお話を聞いている。
ちなみに。世界地図はウィンシュタインとカマルリアにないらしい。それは二国の国民が真実に気付かないようにされてるからなんだって。つまりは戦いを避けるためにしてるらしい。
まぁ…信じてる聖女様が世界の混乱を引き起こしてました、なんて言われても信じがたいもんね。それに。
「ここにとって聖女とは敵みたいなものだからな」
「ああー…それはもうしょうがないですよねー…」
「だからここは旧神を信仰している」
「旧神様?」
「そうだ。我々も聖女信仰だが、ここだけ違うんだ」
まだまだ僕の知らないことがいっぱいあるなぁ、なんて思いながらお話を聞いてるけどこれ聞いて大丈夫なの?って時々思う。
フリードリヒとの婚約は今のところ保留になってるけど、破棄するかもよ?って思わない?
でもさ、それが一切ないの。僕とフリードリヒは一緒になるものだって思ってるんだよ。不思議だよね?
そんな思いを抱きながら、僕は騎士さんに頭を下げる。
「僕のために踏んでください!」
「レイジス様、悪化してます」
なんてことはない。急におうどんが食べたくなったんだよ。それで、作ろうってなったんだけど、生地を踏むとコシが出る、みたいなことをばあちゃんから聞いたような気がして、じゃあ!と僕がふみふみしてたんだけど、体重が…体重が軽すぎて悲しいことに。
そのおうどん…いや、すいとんになったものは僕のお口には入らず、ジョセフィーヌと侍女さん達、それに父様の胃袋へと入っていった。なんで?!
その為、おうどん作りにハッスルした僕は体重がありそうな騎士さんに目を付けた。さすがにジョセフィーヌや侍女さんに踏ませることは避けた。女性に年齢と体重を聞いちゃダメ、絶対。
ハーミット先生にお願いしたんだけど断られちゃったし…。残念。そして王族四人にも踏んで!とは言えなくて。こうして立っている騎士さんに声をかけてはドン引きされるのを繰り返している。
「ちょっとだけ! 先っぽだけでいいから!」と言ったら「レイジス様! はしたないですよ!」とソルゾ先生に叱られて…。しょうがない、と肩を落としながら部屋に戻れば、王族四人がすでにいて。おわ。
「どうだった?」
「…全敗でした」
「そうだろうな」
「うー…」
あっはっはっ!と笑うギリクさんを、頬を膨らませて睨めば「そんな可愛い顔して睨んでも可愛いだけだぞ」って言われて、再び肩を落とす。
するとコンコンとノックをされて、返事をする前にドアが開けられる。この開け方は…。
「おい、いるか?」
「いますよー」
顔を出したのはヴァルジスク君。今日も元気そうでなにより。
「お前いい加減にしろよ?」
「うん?」
「踏んでくださいって回ってるそうだな」
「うん」
「騎士達が困惑しきってる」
ありゃりゃ。ついに苦情が言っちゃいましたかー…。ごめんなさい。
「…はい。ごめんなさい」
「…アルの件がなかったらぶっ飛ばしてたぞ」
「…申し訳ないです」
しょぼぼんと肩を落として「ごめんなさい」をすれば、はぁー…と大きなため息を吐かれる。おふ。
「何かを踏めばお前の奇行はなくなるのか?」
「ぷえ?」
ヴァルジスク君の言葉に首を傾げれば「何かを踏めば奇行は止まるのか?」と言われ、こくりと頷けば「…一度だけだぞ」と聞こえた気がした。
「え?」
「お前の奇行が止まるなら一度だけ、やってやる」
「ホントですか?!」
「ああ、一度だけだ。いいな?」
「はい! ありがとうございます!」
やったー!と喜べば「よかったな、レイジス」とシュルスタイン皇子に頭を撫でられる。むふふー。
「それで? 何を踏めばいいんだ?」
「あ、ちょっと待ってください! おうどんの生地…おうどんの生地…!」
ばたばたと作っておいたおうどんの生地を侍女さんと慌てて取りに行く。そして、布に包まれたそれを父様が持ってくれて戻れば、ヴァルジスク君の眉が思いっきり寄った。
「動物の死体とかじゃないだろうな?」
「そんなことするわけないでしょ?!」
僕を何だと思ってるの?!
ぷん!と怒れば「それで?」とぶっきらぼうに言われる。それでもちゃんと約束を果たしてくれるヴァルジスク君。ううーん…どことなく香る、ツンデレ臭。
「これを、思いっきり踏み踏みしてください!」
「…一日?」
「いえ。一回に付き一、二分ですね」
「一回?」
「はい! 踏んでは折りたたんでを三~五回繰り返すので!」
「良く分からんな」
「でもおいしいおうどんになりますから!」
むっふーと鼻息荒くそういえば、やっぱり奇妙なものを見るような視線で見られる。けど慣れちゃったよね。
「ここにいる二人を貸してやる。ただし、踏むのは私の前で、が条件だ」
「わわ! ありがとうございます!」
「…アルの部屋の近くにしたのは失敗だった」
「ふえ?」
「なんでもない」
そう言ってそっぽを向くヴァルジスク君を、四人の王族がにやにやしながら見てるけど僕は踏んでもらえるだけで十分嬉しかった。
「じゃあじゃあ! お願いします!」
すさっと布にくるまれたそれをもう一枚布を敷いたところに置く。もちろん光魔法で浄化を…と思ったら「光魔法は使うな」とヴァルジスク君に止められた。え? じゃあどうすれば?と困っていると、クリスタルを取り出して僕に渡された。え?
「お前の魔力が混ざっているから使えるんだろう?」
「あ、はい」
クリスタルを受け取って、ぎゅって握ればそれだけで光魔法が発動して浄化されたことにびっくり。それはヴァルジスク君もそうだったみたいで、カーディナル・レッドの瞳が大きく見開いた。
ふわりとそよ風が吹き抜け、髪を揺らした後に残ったのはすがすがしい空気のみ。はへぇ…。
「…それは貸してやる」
「あ、ありがとうございます?」
良く分かんないけど、浄化ができたのならよし! それからあからさまに嫌そうな騎士さんにブーツを脱いでもらって、れっつふみふみ! 体感で一、二分踏んでもらって折り返してまたふみふみ。それを繰り返してとりあえず四回目で終わらせる。
あとはトライアンドエラーの繰り返し。ウィンシュタインに戻ったら、おいしいおうどんをフリードリヒ達に食べさせたいからね!
そんなわけで踏み終わった生地をクリスタルで浄化して、あとは一時間ほど放置。それから切って、茹でて、おつゆをじゃばばーとかけて出来上がり!
一時間放置してる間にヴァルジスク君がもう用はない、といわんばかりにさっさと戻っちゃったから残されたのは僕らだけ。それでも十分な量のおうどんに僕、ほくほく。
「まずは素うどんでいただこう!」
どんぶりがなかったから急遽土魔法でどんぶりを作って、火魔法で焼く。なんか聖獣さんたちも乗り気でお手伝いしてくれたからお礼もかねて聖獣さん達にもおうどんをふるまうことに。
おおおー。いいにおーい。
お出汁はお味噌汁作ってるから問題ないからね!
「そいじゃ…いただきまーす!」
お箸もなかったからフォークでいただきます! 今度木を加工して割りばし作ろう。そう思いながらじゅるるー!と一口。風魔法で切ったから太さは機械並みに正確。しゅごい。
「ふまー! おうどんふまー!」
わあ!と興奮する僕だけど、王族と聖獣さんたち達は大丈夫かな?ってちらっと見れば…。なんか固まってる? おいしくなかった?
「レイジス! おいしいよ!」
「パスタとは違う触感…。けれどこのツユがおいしい…!」
「あー…これは食欲ない時でも食えそうだ」
未知の食べ物を臆することなく食べる先生たちと父様。と、いうか父様はおうどん食べる前に、すいとん食べたでしょ?! でも喜んでもらえてよかった!
じゅるー!と僕は勢いよく啜るけど、他のみんなは啜ることができないからパスタみたいにフォークに巻いてうまうま。
今、てんぷらも揚げてもらってるからね!
「なんだ…この食べ物は…!」
「白いのがもちもちしていて…けれど嫌な触感ではない」
「黒い液も実にうまい」
どうやら衝撃が強かっただけみたいで安心したー。一口食べてから、その後は無言でおうどんを食べている。聖獣さんたちもただただおうどんを食べている姿にむふ、と笑えば「てんぷらが揚がりました!」と言ってかき揚げを侍女さんが運んでくれた。
テーブルの上にどどん!とかき揚げの山を乗せたお皿を置いて、侍女さんが胸を張って戻っていく。ありがとー! 侍女さんがかき揚げを運んだあとにおかわりのおうどんが運ばれてきて、かき揚げをいそいそとおうどんの上に乗せてしみー、しみー。
そして。ぱくん!
ふおおおお! んまー!
おつゆ染み染みかき揚げうまー!
むふむふと鼻息を荒くしながらかき揚げとおうどんを食べていたら、先生たちも父様もかき揚げに挑戦中。王族も、聖獣さんもかき揚げをいそいそとおうどんに中に入れている。ふふー。
それからコロッケも運ばれてきて僕大興奮。ジョセフィーヌ…やるな…!
「これは?」
「コロッケです! ふかしたお芋さんをつぶして具を入れて揚げたものです!」
「そういえばこれも不思議な触感だったな」
「油で調理するんだったか?」
「はい! そうです!」
既に海でフライを食べてるガラムヘルツ殿下とシュルスタイン皇子は抵抗がないからか、ぱくぱくと食べている。ギリクさんも抵抗がないからかコロッケをおいしそうに食べてるけど、やっぱりルシミアルさんは少し抵抗があるみたい。けど、みんながもぐもぐしてるのを見てぱくんと一口。
するとぱあぁと顔が明るくなって、もぐもぐしてる。聖獣さん達は抵抗なんてものがないのか、ひたすらもぐもぐしてる。
んふー。おうどんの生地を踏んでくれた騎士さんに感謝しながらおうどんをもぐもぐしていると、コンコンとノックがした。それに返事をする前にドアが開いたからヴァルジスク君だとすぐに気付く。おっと。普通にご飯中ですけど大丈夫かな?
「はぁ…お前らのせいでアルが食いたいと言い出した」
「ぷえ?!」
あらら?! アルフレッド殿下のところまで匂いが届いちゃいました?!
「レイジスお姉ちゃん」
「アルフレッド殿下!」
ヴァルジスク君に隠れるようにいたアルフレッド殿下に思わず立ち上がる。おわわ?! もう歩けるように?!
「いい匂い…したから、ヴァル兄さまに連れてきてもらったんだ」
「あわわ!」
ああー!やっぱり匂いが届いてましたか! ごめんなさい!
「それにしても何の匂いだ?」
「だしの匂いでしょうかね?」
「…で? 何を食べているんだ?」
「騎士さんに踏んでもらったおうどんです」
「おうどん…」
おいしそう…!とアルフレッド殿下の瞳がキラキラと輝き始める。あっとー。これはどうしたら…?
ちらりとヴァルジスク君を見れば、眉を寄せて険しい表情を浮かべている。デスヨネー。
「あるのか?」
「え?」
「おうどんとやらは」
「あ、はい。ありますけど…食べられます?」
「いいんですか?! 兄さま!」
「…食べたいんだろう?」
「はい!」
あー…。これはあれだ。フリードリヒに甘やかされてる僕だー。はたから見ればこんな感じなのかー。ちょっと恥ずかしいな、なんて思いながらも席はどうするかと悩む。聖獣さんたちがいるから席がいっぱいなんだよねー。
「お前たちは?」
「おお。これはこれは。カマルリアの童よ」
「何?」
「我らは聖獣だ。レイジスのメシを食いたくてな。こうして人の形をとっている」
「聖獣…?」
「そうじゃ。ルクス―ノクスも人型になれるがそこな童の体力だと難しいからの」
ほほほと笑うのはスズ姐さん。
聖獣さんとお話しするにあたって、どうやって呼んだらいいのかって聞いたら「好きに呼べばよい」と言われちゃったからスズ姐さんに「スザク姐さん!」って呼んだら、お口をふさがれてあぶあぶ。
「お主は我らの真名を知っておるのか?」
「マナ?」
「我らの本当の名だ」
四人の聖獣さんに囲われて問い詰められてちょっと怖かったけど、こくんと頷けば「やはりか」と肩を竦める。
やはり?
「レイジス。そなた異世界の記憶があるのであろう?」
その言葉にこくりと頷けば「なら我らの真名を知っていてもおかしくはないか」とお口を解放された。
「だが…。主は記憶が欠損しておると言っておったが…。違うのかの?」
記憶の欠損? どういうこと?と首を傾げれば、なぜか四人が焦りだした。
「何でもないわよ。気にしなくていいからね」
そう言ってほほほと笑うスズ姐さん。それから真名を隠した名前ならいいって言われて、麒麟さんにはキリさん。青龍さんにはセイさん。それから黒虎さんにはクロさんと呼ぶことにした。そしたら四人が声を上げて笑った。
「なるほどなるほど。これなら微妙に隠せていていいな」
「むー? ダメでした?」
「いや。これでよい。長しか我らの真名は知らんからな。だから他の名前を付けて呼ばせたが…。これはこれで楽しいものだ」
あっはっはっと豪快に笑うのはセイさん。属性が土だからかめちゃくちゃ心が広い。ちなみにスズ姐さんは男の人らしい。けど、話し方がお姉さんっぽいから姐さんって付けたらすごく気に入ったみたい。
そんなことがあって聖獣さんたちを呼ぶときはそうなっている。
そしてジョセフィーヌがおうどんを二人分用意すると、席も増えた。おお?
「我からのさーびすだ」
「セイさんありがとうございます!」
「よいよい。このおうどんとやらがうまかった礼だ」
なるほど。セイさんが魔法で作ってくれたらしい。すごい!
そっちに僕と父様、先生たちが移動して僕らが座ってたところにアルフレッド殿下とヴァルジスク君に座ってもらう。ぬくもりが残ってるけどごめんね。
ソファにアルフレッド殿下を座らせてからヴァルジスク君が座ると、騎士さんがヴァルジスク君の方に付く。うん?
ちょっと違和感を感じたけどまぁ、気にするほどでもないかとずるるとおうどんをすすれば、アルフレッド殿下が小さなおててでフォークにおうどんを巻き付けてふーふと冷ましている。はわぁぁ…。可愛い…!
けどやっぱりうまくいかないのか、つるるんと逃げていくおうどんに眉を下げてしまう。ヴァルジスク君は大丈夫かな?とちらりと見れば、こっちも苦戦中。けど力もあるからすぐに巻けたみたい。
アルフレッド殿下は…と、さくりとかき揚げを食べながら見ればまだまだ食べられない様子。ううーん…お手伝いしたくなっちゃうー。
「ヴァルジスク殿下、毒見を」
「私よりアルの方を頼む」
「いえ。我らはヴァルジスク殿下の毒見係も兼ねておりますので」
うん?
騎士さんとのやり取りでさっきの違和感が大きくなった。いや、確かにヴァルジスク君も王位継承は持つかもしれないけど、ギリクさん達はヴァルジスク君を『殿下』って呼んでないんだ。
アルフレッド殿下はついてるのに。さくん、とコロッケを食べながら見ていたけど、やっぱりアルフレッド殿下が気になって、ついお手伝いをしてしまう。
くるくるんとおうどんをフォークで巻いて「はい、どうぞ」って差し出せば「え?」って不思議そうな顔をされた。
おっとー!そうだった! ついお手伝いしちゃったけど、偉い人だった!
ほぎゃっとアホ毛様を伸ばしたけど「食べていいの?」って首を傾げられて僕昇天。あああああ! 可愛い…!
「はい! どうぞ!」
「ありがとう! レイジスお姉ちゃん!」
「おい! アルに食わせるな!」
「ダメ…ですか? ヴァル兄さま?」
「う…っ!」
うりゅりゅとうるんだ瞳で見つめられて、ヴァルジスク君も無事完敗。けど「せめてこっちのを食べろ」といわれてどんぶりを交換されてしまった。あ、そっちは毒見した奴か。
冷めたおうどんは、アルフレッド殿下のお口へ。初めて食べるものだから吐き出しちゃってもいいからねーと保険はかけてあるから、万が一おえっぷってしちゃっても大丈夫!
もむもむとお口を動かして、こくんと飲み込むアルフレッド殿下の顔が光り輝く。うおおおお! 眩しいー!
「おいしい! これ、おいしい!」
「よかったー。ゆっくり食べてね!」
「うん!」
「かき揚げとかは少しなら大丈夫だと思うんだけど…」
まずはヴァルジスク君の許可をもらってからね?と視線を突き刺さしながら言えば「ヴァル兄さま!」と興奮したアルフレッド殿下がきらきらと瞳を輝かせる。あ、これは落ちたな。
そう確信してヴァルジスク君を見れば、いそいそと毒見係にかき揚げとコロッケを食べさせている。むふー。
「油が重いので少しにしてくださいね!」
「分かっている! お前はアルの親か何かか!」
「ひょえ?!」
ヴァルジスク君に怒鳴られて、しょぼぼとすれば「レイジスお姉ちゃんは、母上なの?」って純粋な瞳で見つめられて困惑する。ええー?
「アル。こいつはお前の母上じゃない。いいか? こいつは…」
「はいはい。ご飯の時くらい楽しい話しようか。ヴァルジスク君?」
にっこりと笑うガラムヘルツ殿下に、ヴァルジスク君が口を噤むと「ほら」と小さく切ったかき揚げとコロッケを渡している。お兄ちゃんだなぁ。
渡されたコロッケを恐る恐る食べたアルフレッド殿下だけど、これまたぱあぁぁと全身から光り輝き、僕の目を焼く。うおおおおお!
でも全身からおいしいっていうのが分かるから僕も嬉しい。
「おうどんおいしいね! ヴァル兄さま!」
「…そうだな」
にこーっと笑うアルフレッド殿下にほんわほんわと癒されながらご飯を食べ終えると、ばいばーい!とお部屋に戻っていった。
はぁー…可愛かった…。
けど、この後からアルフレッド殿下が毎食僕の部屋に食べに来るようになっちゃって、王宮の侍従さんとちょっとしたバトルが始まっちゃったけど、ヴァルジスク君の一声であっさりと勝敗が決まった。
「レイジスお姉ちゃん! おいしいね!」
「ね!」
すっかりと胃腸もよくなったアルフレッド殿下と一緒に、ご飯をもぐもぐ。
ついでにヴァルジスク君も一緒にご飯を食べるから自然と人数に加えられて、渋々来ていたのが気付くとそこにいたりする。
だから魔力の中和も僕の部屋でやることが多くなって、アルフレッド殿下の私物が置かれるようになっていった。
気付けば紅葉の月(10月)も終盤に入り、冬の匂いが漂い始めた竜潜の月(11月)が近づいていた。
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