ロリっ子Jkは平穏を愛す

赤オニ

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 タピオカミルクティー、やけに達筆に書かれた看板を見上げる。タピオカミルクティー。若者に大人気のアレである。
 文字の周りに黒い丸が描かれており、パッと見呪いにでもかけられたように見えるけど、恐らくはタピオカを意識していると思われる。
 店構えとしてはクリーム色の外観に薄ピンクの屋根、掲げられた看板の色も橙をベースに黄色や赤などが散りばめられ、ポップで可愛い。
 ただ、達筆な文字と呪いのような黒い斑点が描かれた看板の存在でマイナスになっている。


 タピオカミルクティー専門店って幽世にもあるんだ……わたしが知らないだけで、結構オシャレだ。
 よく見ればタピオカミルクティー専門店の他にクレープ屋、古着に雑貨などを売っている店が連なっていて、商店街のような雰囲気。人……じゃなくて、あやかしで賑わっている。
 ストローでタピオカを吸い上げ、熱々のたこ焼きを頬張る。その姿は同年代となんら変わりない。


 わたしの知っているあやかしは力に貪欲で、人間を喰う、恐ろしいモノ。
 力を得るためなら方法を選ばず、卑怯で狡猾に狙ってくるーーそういうものだと、ずっと思っていた。今まで見てきたあやかしはそうだったから、皆そういうものなんだと思った。


 スイや紅葉君、木葉ちゃんのような例外もいるけど、ごく稀なんだろうって勝手に考えていた。
 幽世にいるあやかしは異形な姿を除けば、笑う声も食べる様子も人間と対して変わらない。楽しそうで、目がキラキラしていて、わたしなんかよりずっと輝いて生きている。


 一面しか見ていなかったのだと気付くと同時に、お前らの存在がわたしの人生を変えたんだと恨む気持ちも出てくる。
 お前らが幽世で生きていてくれたら、現世で人間を襲ったりしなければ、わたしは何かを恨み怯えながら生きていくことはなかった。
 自分勝手な感情だ。


「……あやかしって、怖いものだと思ってました」
「そうなの?」
「そりゃあ、人間からしたら怖ぇだろうよ。力に執着するヤツらは見境ねぇし」


 言葉をもらすと、鴉天狗は不思議そうに声を出して、鼻をひくつかせていたあやかしは顔をしかめながら吐き捨てるように続ける。


「そういうヤツらは、弱ぇからな」
「弱い……?」


 襲ってくるあやかしは人に化けて誘い込む知能はあったし、殴ったり蹴ったりスタンガン当てたりで追い払ってきたけど、わたしからしてみれば弱くないと思う。
 凶暴性があるし、他のあやかしも喰らっているからそれなりに力はあるはずだ。
 首を横に倒すと、鼻を鳴らして答えてくれた。


「妖力の話じゃねぇぞ。己に満足出来ず、力を求めて人間や同胞を喰らう。力を得たところで何にもなりゃしねぇのに、馬鹿なヤツらだよ」
「彼らは幽世が嫌いだしね」
「現世が好きってわけでもないけどな。自分より強いヤツがいることが許せねぇからなぁ。現世にいるあやかしってのは、人間に興味があるとか流れ着いただけとかそういうヤツら以外は、生まれた場所に馴染めなくて逃げたんだよ」


 苛立つように舌打ちをしたあやかしは、彼らを疎んでいるんだろうか。弱くて、悲しい存在を。


 自分の生まれた場所に馴染めなかった。
 まるでわたしのことを言われているようで、視線が下がる。馴染めなくて、逃げた。彼らはつらかったんだろう、逃げることしかできないことも、馴染めなかった場所を恨むことも。
 だからといって人間を襲っていいわけじゃないけど。
 力に固執して、爪弾きにされて、行き着いた場所が現世で。自分より弱いものを襲うことで満足できたのか。


 横を通り過ぎるあやかしは、今の生活を楽しんでいるように見える。現世に行き着いた彼らは、違ったんだろう。
 襲ってくるあやかしは怖くて、わたしの平穏を壊すから嫌いだ。見えなければよかったのに、何度思ったか。
 見えることは変わらないし、関わっていることも変わらない。わたしなりの日常を送ろうと奮闘している。
 ……彼らの心まで汲む必要はない。自分を納得させて、前を向く。進むしかない。わたしは、わたしの日常を生きたいんだから。


 少しだけ、考えてしまう。
 あやかしが見える人間じゃなくて、最初からあやかしに生まれていたら、違ったのかもしれない。


 鴉天狗は鴉たちを飛ばして扉を探してくれた。しかし中々見つからず、歩き回り疲れ果てたわたしが動けなくなってしまい、結局その日は鴉天狗の家で休むことになった。
 まさかこんなに見つからないなんて、現世への道のりは遠い。
 幽世では半日ぐらい経っているようだけど、同じように時間は流れているんだろうか。それが不安である。下手したら2、3日は幽世かもしれないし、その間わたしは行方不明だし。


 一緒に探してくれたお礼を言って別れ、鴉天狗の家に着いていく。
 誤って幽世に連れてきてしまったから責任取って守れ、と別れるまで扉を探してくれたあやかしに念押しされたようで、鴉天狗は歩けなくなったわたしを気にかけてくれた。
 反応は淡白だし面で表情は読み取れないけど、心配してくれているのは感じる。
 すっかり疲れてしまい、欠伸をかみ殺しながら着いた家は大きかった。家というか、洋館? とりあえず大きい。
 庭には木がいくつか植わっていて、枝には鴉が沢山とまっていて、ホラー映画に出てくる館みたいな雰囲気だ。


 中に入ると、鼻がむずむずしてくしゃみが出た。なにここ、すごくホコリっぽい。
 振り返って「風邪?」と聞いてきた鴉天狗に曖昧に返し、ずるずる鼻を啜りながら案内されて着いたのは、辛うじて鴉天狗が寝れるスペースを保った部屋。
 床には大量の本が積み上げられ、地震がきたら空いているスペースが潰れるだろうと想像ができる。
 整理整頓できないタイプなのか、物が多すぎるのか。


「寝床、ここしかないからいい?」
「ありがとうございます……。明日になったら空き部屋掃除してもいいですか?」
「いいけど、君居着くの?」
「違います」


 そこはキッパリ否定させてもらう。
 片付いていないのが気になるとかの問題ではなく、単純にわたしが寝床を奪ってしまったので鴉天狗の寝床がないからだ。ないなら作ればいい。
 これだけ広い舘だから、空き部屋の1つや2つぐらいあるだろう、多分。


 閉まった扉を見て、仰向けになる。
 この部屋も大分ホコリっぽい。泊めてもらう身だけど、ここまで汚いと流石に気になってしまう……今夜はひとまず寝て体力をつけよう。明日現世に帰れたらそれならそれでいいけど、仮にまた泊まるなら絶対ホコリまみれになる。


 重たい瞼を下ろして、眠りにつく。


 起きたら太陽が真上まで上っていた。幽世に太陽あるんだ、なんて考えながらも慌てて洗面台へ向かう。
 一晩寝て、体力は戻ったみたい。館の中はかなり広く、洗面台へたどり着くまで結構迷った。
 これ掃除してるのかなと思わず半目になってしまう洗面台で顔を洗って口をゆすぎ、クシを借りるわけにいかないので手ぐしで髪を整える。


 鴉天狗はどこにいるんだろう……一つ一つ部屋を見て回るほど館を歩き回る自信がないので呼ぼうとした時、一羽の鴉が窓から入ってきて肩にとまる。
 角を曲がると鳴いたので、反対側に行ったら黙った。恐らく道案内をしてくれているんだと思う。
 1つの扉の前で鳴いたのでノックをすると、中から鴉天狗の声が聞こえたので開ける。


「起きるの遅くてごめんなさい」
「疲れてたんでしょ、ご飯食べれる?」
「あ、はい」
「用意するね」


 手伝おうか迷って、勝手の分からない人様のキッチンをいじるのも気が引けたので大人しく席に着く。


 ホコリまみれの部屋を考え、どんなご飯かと構えていたら、バターのいい匂いが漂ってくる。お皿に乗って出てきたのは、程よく焦げ目のついたフレンチトースト。
 お皿は真っ白だし渡されたフォークもピカピカ。新品を出したのかも、と失礼なことを考えながらお礼を言って一口食べる。
 バターの風味と甘みに口元が緩む。


「美味しい!」
「そう。よかった」


 夢中で食べてる間に紅茶までいれてくれた。ストレートは飲めないからミルクと砂糖を入れて飲むと、まろやかで美味しい。暖かいマグカップを手のひらで包みながらちびちび飲む。
 食事を終え、皿洗いを済ませると、「それじゃあ行こうか」と声をかけられ並んで館を出た。


 昼間だからか、枝にとまっている鴉の数が少ない。
 そういえば、道案内をしてくれた鴉は食事中は椅子の背もたれにとまっていたけど、また肩に乗っている。
 鴉天狗は何も言わないし、そこまで重さも感じないから放っておく。


 道を歩くあやかしに聞いたりと探したけど、収穫なし。このまま見つからなかったらどうしよう……わたし、現世に帰れないのかな。
 そーちゃんとも、真理夏とも、学校の子たちとももう会えないのか。横を歩く鴉天狗に話しかけられても上手く反応出来ず、ベンチに座っていてと言われて鴉天狗がそばを離れていってから、ため息をつく。


 行き交うあやかしの姿に、不安が湧いてくる。


 怖い。嫌だ。早く帰りたい。
 わたしの場所は幽世じゃない、現世だ。皆のいる場所が、わたしの場所なのに。ここにいると、足元が不安定でたまらない。ぐらぐら揺れてるみたいに、怖くなる。唇をかんで、爪を手のひらにくい込ませて泣きそうになるのを必死で堪える。


「そーちゃん……」


 会いたい。


「真理夏……」


 会いたい。


「凛、木葉ちゃん、紅葉君……」


 会いたい。
 皆に、会いたい。わたしの日常に、帰りたい。


「貴方、人間でしょ?」
「ーー! 誰、ですか……」


 皆の顔を思い浮かべていると、突然声をかけられ身構える。
 人型のあやかしだ。近付いていることに全然気付かなかった……。
 昨日のあやかしとは違って、値踏みするような視線が心地悪い。睨んでいると、手を差し出された。満面の笑みを浮かべ、歌うように誘ってくる。


「貴方を救ってあげる」
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