I'll

ままはる

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第三章

ルーティン

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起床は六時。
準備を済ませてグラウンドに集合するのが七時。
準備体操、柔軟をしてからのランニング、トレーニング、素振りや打ち合いを、休憩を挟みながら十一時まで。
そこから二時間の昼休みを挟んで、十三時から十七時までは、事務処理や講義のデスクワーク等。

これが、魔物討伐の無い日のスケジュールである。
ウィルはひと月もすれば、すっかりこのルーティンに慣れた。
今日も今日とて、他の隊士たちと共にグラウンドを走っている。

「ウィル~♡」

グラウンドの外から、ウィルを呼ぶ声が飛んできた。
ウィルの知らない女だが、服装から城の女中だとわかる。女中が三人。その他にも事務員や、食堂のアルバイト、どこの誰かもわからない、とにかく女ばかりが十数人、一角に集まっている。ちゃっかりその中にキリーの姿もあるのだが。

ウィルはニッコリと笑顔を浮かべると、そちらに向かって手を振ってみせた。

「きゃぁ♡   可愛いー!」

色めき立つ女たち。
その黄色い声に、ウィルはご満悦。

「モテてるじゃん、ウィル」

「『可愛い』ってのが気になるけどな」

走るペースを上げて、ラリィが隣にやってきた。

「ラリィくん、頑張ってー♡」

ラリィにも飛んでくる声援に、彼はピースサインで応える。するとまた、女たちの喜ぶ声が上がった。
更に女たちの声援は続く。

「ゼンくーん! ファイトー!」

「セイル様ぁ♡」

「リズ様、今日もお美しいですー♡」

リズは少し困った顔で小さく手を振ってみせたが、ゼンはちらりと視線を向けただけ。セイルにいたっては完全に無視である。

「うるせぇなあ! お前ら、訓練の邪魔だ! 散れ!」

他の班の隊士が女たちに向かって声を張り上げる。

「お前ら一班がどうにかしろよ! 毎日毎日キャーキャー言われやがって!」

「羨ましがるなよ」

「羨ましいに決まってるだろ!」

ウィルに言われて素直に認める隊士。

「守護剣士な上に顔もいいなんて、贅沢すぎるんだよ! お前ら絶対に来世はフンコロガシ以下だからな!」

「だったら今世を満喫しなきゃだなぁ」

ケラケラと笑うラリィ。
そんな隊士たちの様子を悩ましげな顔で眺めているのは、第三部隊長ライト=ランク。

「見事に偏った班になりましたね」

ライトの隣で、副部隊長が苦笑しながら言った。

「私なりにバランスを考えたつもりだったのだがな」

「でしょうね。無表情で誤解されやすいゼンはセイルと組ませるのが一番でしょうし、女性に困っていないこの二人とならリズはトラブルにならりにくい。ラリィのフォローはリズが上手いし、他の隊士とトラブルを起こしそうなウィルは、ラリィのコミュ力である程度抑制される。バランスは取れているはずなのに、ビジュアルが偏りすぎて、まるでアイドルグループですね」

副部隊長の分析を聞きながら、ライトは深いため息を吐いた。

「華があるのが悪いとは思わんが……一番の懸念は何だと思う?」

「ウィルかと」

「お前もそう思うか」

「田舎から出てきた少年に、グリーンヒルのような都会は魅力的に映るでしょうね。加えて守護剣士という肩書きを手に入れて、そのビジュアルの良さからも、女性の人気が高い。私が彼であっても、ハメを外したくなる」

「まだ子供なのだがな」

「まさに今から、ですね」

既にライトの耳にも、ウィルがほとんど寮に帰ってきていないという話が届いている。
練習生の時とは違って外泊禁止ではないが、新入隊士が褒められたことではない。
ましてやまだ十三歳。どこで誰と何をしているのか、知るのが怖い。

「ラリィにそれとなく、ウィルを外泊させないように言ってみましたが、『オレの言うことなんか聞かない』と笑って流されました」

「リズから注意させるか」

「最終的にはそれで良いかと思いますが、まだ様子をみても良いのでは」

副部隊長は穏やかに笑う。

「どこかで一度、痛い目をみるのが一番効果的ですよ」

「……それもそうか」

「それで、『あの話』はもう彼らには伝えたのですか?」

「それを伝えに来たのだが……」

苦虫を噛み潰したようなライト。副部隊長はやれやれと一息ついてから、隊士たちに向かって声を上げる。

「ウィル、リズ、ゼン! 部隊長がお呼びだ! あー……あと、セイルも!」

ライトは横目で、己の右腕となるこの男を見る。

「お前は本当に気が回るな」

「お褒めに預かり光栄です」

副部隊長は一礼すると、こちらにやって来たウィルたちと入れ替わり立ち去って行った。
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