25 / 74
第三章
ルーティン
しおりを挟む
起床は六時。
準備を済ませてグラウンドに集合するのが七時。
準備体操、柔軟をしてからのランニング、トレーニング、素振りや打ち合いを、休憩を挟みながら十一時まで。
そこから二時間の昼休みを挟んで、十三時から十七時までは、事務処理や講義のデスクワーク等。
これが、魔物討伐の無い日のスケジュールである。
ウィルはひと月もすれば、すっかりこのルーティンに慣れた。
今日も今日とて、他の隊士たちと共にグラウンドを走っている。
「ウィル~♡」
グラウンドの外から、ウィルを呼ぶ声が飛んできた。
ウィルの知らない女だが、服装から城の女中だとわかる。女中が三人。その他にも事務員や、食堂のアルバイト、どこの誰かもわからない、とにかく女ばかりが十数人、一角に集まっている。ちゃっかりその中にキリーの姿もあるのだが。
ウィルはニッコリと笑顔を浮かべると、そちらに向かって手を振ってみせた。
「きゃぁ♡ 可愛いー!」
色めき立つ女たち。
その黄色い声に、ウィルはご満悦。
「モテてるじゃん、ウィル」
「『可愛い』ってのが気になるけどな」
走るペースを上げて、ラリィが隣にやってきた。
「ラリィくん、頑張ってー♡」
ラリィにも飛んでくる声援に、彼はピースサインで応える。するとまた、女たちの喜ぶ声が上がった。
更に女たちの声援は続く。
「ゼンくーん! ファイトー!」
「セイル様ぁ♡」
「リズ様、今日もお美しいですー♡」
リズは少し困った顔で小さく手を振ってみせたが、ゼンはちらりと視線を向けただけ。セイルにいたっては完全に無視である。
「うるせぇなあ! お前ら、訓練の邪魔だ! 散れ!」
他の班の隊士が女たちに向かって声を張り上げる。
「お前ら一班がどうにかしろよ! 毎日毎日キャーキャー言われやがって!」
「羨ましがるなよ」
「羨ましいに決まってるだろ!」
ウィルに言われて素直に認める隊士。
「守護剣士な上に顔もいいなんて、贅沢すぎるんだよ! お前ら絶対に来世はフンコロガシ以下だからな!」
「だったら今世を満喫しなきゃだなぁ」
ケラケラと笑うラリィ。
そんな隊士たちの様子を悩ましげな顔で眺めているのは、第三部隊長ライト=ランク。
「見事に偏った班になりましたね」
ライトの隣で、副部隊長が苦笑しながら言った。
「私なりにバランスを考えたつもりだったのだがな」
「でしょうね。無表情で誤解されやすいゼンはセイルと組ませるのが一番でしょうし、女性に困っていないこの二人とならリズはトラブルにならりにくい。ラリィのフォローはリズが上手いし、他の隊士とトラブルを起こしそうなウィルは、ラリィのコミュ力である程度抑制される。バランスは取れているはずなのに、ビジュアルが偏りすぎて、まるでアイドルグループですね」
副部隊長の分析を聞きながら、ライトは深いため息を吐いた。
「華があるのが悪いとは思わんが……一番の懸念は何だと思う?」
「ウィルかと」
「お前もそう思うか」
「田舎から出てきた少年に、グリーンヒルのような都会は魅力的に映るでしょうね。加えて守護剣士という肩書きを手に入れて、そのビジュアルの良さからも、女性の人気が高い。私が彼であっても、ハメを外したくなる」
「まだ子供なのだがな」
「まさに今から、ですね」
既にライトの耳にも、ウィルがほとんど寮に帰ってきていないという話が届いている。
練習生の時とは違って外泊禁止ではないが、新入隊士が褒められたことではない。
ましてやまだ十三歳。どこで誰と何をしているのか、知るのが怖い。
「ラリィにそれとなく、ウィルを外泊させないように言ってみましたが、『オレの言うことなんか聞かない』と笑って流されました」
「リズから注意させるか」
「最終的にはそれで良いかと思いますが、まだ様子をみても良いのでは」
副部隊長は穏やかに笑う。
「どこかで一度、痛い目をみるのが一番効果的ですよ」
「……それもそうか」
「それで、『あの話』はもう彼らには伝えたのですか?」
「それを伝えに来たのだが……」
苦虫を噛み潰したようなライト。副部隊長はやれやれと一息ついてから、隊士たちに向かって声を上げる。
「ウィル、リズ、ゼン! 部隊長がお呼びだ! あー……あと、セイルも!」
ライトは横目で、己の右腕となるこの男を見る。
「お前は本当に気が回るな」
「お褒めに預かり光栄です」
副部隊長は一礼すると、こちらにやって来たウィルたちと入れ替わり立ち去って行った。
準備を済ませてグラウンドに集合するのが七時。
準備体操、柔軟をしてからのランニング、トレーニング、素振りや打ち合いを、休憩を挟みながら十一時まで。
そこから二時間の昼休みを挟んで、十三時から十七時までは、事務処理や講義のデスクワーク等。
これが、魔物討伐の無い日のスケジュールである。
ウィルはひと月もすれば、すっかりこのルーティンに慣れた。
今日も今日とて、他の隊士たちと共にグラウンドを走っている。
「ウィル~♡」
グラウンドの外から、ウィルを呼ぶ声が飛んできた。
ウィルの知らない女だが、服装から城の女中だとわかる。女中が三人。その他にも事務員や、食堂のアルバイト、どこの誰かもわからない、とにかく女ばかりが十数人、一角に集まっている。ちゃっかりその中にキリーの姿もあるのだが。
ウィルはニッコリと笑顔を浮かべると、そちらに向かって手を振ってみせた。
「きゃぁ♡ 可愛いー!」
色めき立つ女たち。
その黄色い声に、ウィルはご満悦。
「モテてるじゃん、ウィル」
「『可愛い』ってのが気になるけどな」
走るペースを上げて、ラリィが隣にやってきた。
「ラリィくん、頑張ってー♡」
ラリィにも飛んでくる声援に、彼はピースサインで応える。するとまた、女たちの喜ぶ声が上がった。
更に女たちの声援は続く。
「ゼンくーん! ファイトー!」
「セイル様ぁ♡」
「リズ様、今日もお美しいですー♡」
リズは少し困った顔で小さく手を振ってみせたが、ゼンはちらりと視線を向けただけ。セイルにいたっては完全に無視である。
「うるせぇなあ! お前ら、訓練の邪魔だ! 散れ!」
他の班の隊士が女たちに向かって声を張り上げる。
「お前ら一班がどうにかしろよ! 毎日毎日キャーキャー言われやがって!」
「羨ましがるなよ」
「羨ましいに決まってるだろ!」
ウィルに言われて素直に認める隊士。
「守護剣士な上に顔もいいなんて、贅沢すぎるんだよ! お前ら絶対に来世はフンコロガシ以下だからな!」
「だったら今世を満喫しなきゃだなぁ」
ケラケラと笑うラリィ。
そんな隊士たちの様子を悩ましげな顔で眺めているのは、第三部隊長ライト=ランク。
「見事に偏った班になりましたね」
ライトの隣で、副部隊長が苦笑しながら言った。
「私なりにバランスを考えたつもりだったのだがな」
「でしょうね。無表情で誤解されやすいゼンはセイルと組ませるのが一番でしょうし、女性に困っていないこの二人とならリズはトラブルにならりにくい。ラリィのフォローはリズが上手いし、他の隊士とトラブルを起こしそうなウィルは、ラリィのコミュ力である程度抑制される。バランスは取れているはずなのに、ビジュアルが偏りすぎて、まるでアイドルグループですね」
副部隊長の分析を聞きながら、ライトは深いため息を吐いた。
「華があるのが悪いとは思わんが……一番の懸念は何だと思う?」
「ウィルかと」
「お前もそう思うか」
「田舎から出てきた少年に、グリーンヒルのような都会は魅力的に映るでしょうね。加えて守護剣士という肩書きを手に入れて、そのビジュアルの良さからも、女性の人気が高い。私が彼であっても、ハメを外したくなる」
「まだ子供なのだがな」
「まさに今から、ですね」
既にライトの耳にも、ウィルがほとんど寮に帰ってきていないという話が届いている。
練習生の時とは違って外泊禁止ではないが、新入隊士が褒められたことではない。
ましてやまだ十三歳。どこで誰と何をしているのか、知るのが怖い。
「ラリィにそれとなく、ウィルを外泊させないように言ってみましたが、『オレの言うことなんか聞かない』と笑って流されました」
「リズから注意させるか」
「最終的にはそれで良いかと思いますが、まだ様子をみても良いのでは」
副部隊長は穏やかに笑う。
「どこかで一度、痛い目をみるのが一番効果的ですよ」
「……それもそうか」
「それで、『あの話』はもう彼らには伝えたのですか?」
「それを伝えに来たのだが……」
苦虫を噛み潰したようなライト。副部隊長はやれやれと一息ついてから、隊士たちに向かって声を上げる。
「ウィル、リズ、ゼン! 部隊長がお呼びだ! あー……あと、セイルも!」
ライトは横目で、己の右腕となるこの男を見る。
「お前は本当に気が回るな」
「お褒めに預かり光栄です」
副部隊長は一礼すると、こちらにやって来たウィルたちと入れ替わり立ち去って行った。
10
あなたにおすすめの小説
絶対許さねー!
氷嚢ミゾレ
ファンタジー
婚約者と親友に嵌められ気付けば断罪…。
薄情な父と兄、信じてくれていたのは弟と母方の従兄弟だけだった。
断罪される前…ん?待てよ?前世の記憶蘇ってきたんですけど!?
誰が味方で誰が敵か分からない状態。
一度目、二度目、三度目と増えていく世界。今度こそ幸せになれるのか!?不思議もあり…。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
最強のアラサー魔導師はかつての弟子達に迫られる~ただ冒険者を始めようとしただけなのに弟子達がそれを許してくれない~
おやっつ
ファンタジー
王国魔導師団指南役をしていたシューファはある日突然、王様に追放されてしまう。王様曰く、シューファみたいなアラサーが教えていたら魔導師団が衰えるとのことだった。
突然の追放で行く場所を失ったシューファは貴族社会の王国では卑下されていた冒険者での強さが全ての帝都に行くことにした。
シューファが帝都に行ったと報告を受けたかつての弟子達はガクに会いに自分の仕事を放棄して帝都に向かう。
そう、彼女らの仕事は国の重鎮だというのに───
小説家になろうにも投稿中です!
毎日投稿していこうと思うので、ブクマなどをしていただけると励みになります。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません
紫楼
ファンタジー
母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。
なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。
さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。
そこから俺の不思議な日々が始まる。
姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。
なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。
十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる