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第25話 相棒。
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落ち着きを取り戻しかけていた精神が、またざわつき始める。【戦闘狂】の持続時間は、興奮に作用する脳内物質アドレナリンと密接な関係があるらしい。
ゴブリンロードを倒し、僕は安堵していた。「戦闘狂」が解除されかかっていたのだ。
危なかった。ジョアンが来なかったら、僕はシャルファさんがクリザヘルだと気付かなかっただろう。きっと殺されていた。
「ははッ! いいね! この感じ!」
クリザヘルと戦いながら、僕は興奮していた。血湧き肉踊るってやつなのだろう。
僕の攻撃は、ほとんどクリザヘルに通用しなかった。僕も充分化け物だが、彼女の強さは常軌を逸している。
彼女の周囲には魔法で呼び出された剣が高速で飛び回り、近づく事も容易ではない。かと言って遠距離から物を投げて攻撃しても弾かれる。そして剣や稲妻、火の玉が次々と飛んでくるのだ。
覚悟を決めて何度か突っ込んだが、僕の体が切り裂かれるだけだった。流血が酷いが、痛みは「戦闘狂」のお陰で感じてはいない。
勝てる気がしない。だけど、楽しい。死を間近に感じるからこそ、生きていると実感出来る。
「リオン、今傷を治すからな! ジョアンが目覚めるまで持ち堪えろ!」
「ありがとうベル! だけどジョアンの回復を待つつもりはないよ! クリザヘルはボクが殺す!」
ジョアンは飛び交う剣に胸を貫かれ、瀕死の重体になった。ベルが魔法で治癒したが、まだ目覚めない。
僕の思考に、もはやクリザヘルを捕えると言う意識はなかった。殺す事しか考えていなかった。彼女は手強い。殺さずに捕らえる事は、無理だと思ったのだ。そしてジョアンを傷つけられた怒りが、その気持ちを増幅させていた。
飛んでくる剣や魔法をギリギリで交わしながら、僕はクリザヘルの隙を窺う。
「リオン、聞いてくれ! この状況はお前に不利だ! だが、挽回のチャンスはある! ジョアンさえ目覚めればな! さっき思い出した事なんだが、ジョアンもお前と一緒で......」
ベルが話しかけてくるが、僕はクリザヘルの攻撃をかわすのに必死で、全く内容が入って来なかった。
「ごめん、今話すの無理かも!」
巨大な火球を飛び越え、捨て身で剣の嵐へ飛び込む。何本かは手足で弾き飛ばしたが、脇腹や背中に三本程が突き刺さってきた。
「ぐはッ!」
僕は血を吐いた。痛みがないからわからないが、致命傷かも知れない。
だが、近づいた。クリザヘルとの距離はゼロ。顔を潰して即死させる!
僕は彼女の顔面目がけて拳を突き出した。彼女は笑っていた。まるで僕を憐れむかのように。
構わない! その余裕もここまでだ! 僕は全力でクリザヘルの顔面をぶち抜いた。手応えあり、の筈だった。
「なっ! 何コレ!?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。クリザヘルの全身は瞬時に無数の針で覆われ、僕の拳は貫かれて血まみれになった。痛みはないが、驚きで手を引き抜く。穴だらけだ。
「うふふ。驚いた? 戦意喪失、って奴かしら?」
針に覆われたままの不気味な顔でそう言うと、クリザヘルは手のひらを僕の顔面に向けた。至近距離から魔法を打つつもりだ。
戦意喪失? 笑わせるな! 針に覆われているからなんだ! 針ごと拳で貫いてやる!
僕はヒュッと息を吸った。狙うは彼女の心臓。呪文を唱えるその一瞬でケリを付ける。
「待てリオン!」
知らない声。いや、懐かしさを感じる声。その声に気を取られ、僕の攻撃は一瞬遅れた。
「死ね!」
クリザヘルが勝ち誇って叫ぶ。手のひらが輝き、今にも魔法が放たれる、その瞬間。
彼女の腕、肘から下が切り離され、地面に落ちた。一瞬遅れ、鮮血が溢れる。
「ぎゃあああああーッ!」
ガクリと膝をつき、絶叫するクリザヘル。僕とクリザヘルの周囲を飛んでいた剣の嵐もいつのまにか止み、地面に落下している。
呆気に取られる僕の横に、誰かが立った。
「お前は攻撃特化型なんだろ? つまり防御は弱い。今みたいに魔法でカウンター気味に守られちまうと、自分が傷つくだけだ。だからこそ、俺はお前の相棒なのさ。なにせ、防御特化型だ」
そう言って笑ったのは、銀髪で金色の目をした美青年。初めて見る顔の筈だけど、僕には彼が誰なのか分かった。ベルがさっき言っていたのは、きっとこの事だ。そうか。僕と同じく、体が二つあるんだ。
「ジョアン!」
「ああ。そうとも、相棒」
ジョアンはそう言って、僕の頭をクシャクシャと撫でた。
ゴブリンロードを倒し、僕は安堵していた。「戦闘狂」が解除されかかっていたのだ。
危なかった。ジョアンが来なかったら、僕はシャルファさんがクリザヘルだと気付かなかっただろう。きっと殺されていた。
「ははッ! いいね! この感じ!」
クリザヘルと戦いながら、僕は興奮していた。血湧き肉踊るってやつなのだろう。
僕の攻撃は、ほとんどクリザヘルに通用しなかった。僕も充分化け物だが、彼女の強さは常軌を逸している。
彼女の周囲には魔法で呼び出された剣が高速で飛び回り、近づく事も容易ではない。かと言って遠距離から物を投げて攻撃しても弾かれる。そして剣や稲妻、火の玉が次々と飛んでくるのだ。
覚悟を決めて何度か突っ込んだが、僕の体が切り裂かれるだけだった。流血が酷いが、痛みは「戦闘狂」のお陰で感じてはいない。
勝てる気がしない。だけど、楽しい。死を間近に感じるからこそ、生きていると実感出来る。
「リオン、今傷を治すからな! ジョアンが目覚めるまで持ち堪えろ!」
「ありがとうベル! だけどジョアンの回復を待つつもりはないよ! クリザヘルはボクが殺す!」
ジョアンは飛び交う剣に胸を貫かれ、瀕死の重体になった。ベルが魔法で治癒したが、まだ目覚めない。
僕の思考に、もはやクリザヘルを捕えると言う意識はなかった。殺す事しか考えていなかった。彼女は手強い。殺さずに捕らえる事は、無理だと思ったのだ。そしてジョアンを傷つけられた怒りが、その気持ちを増幅させていた。
飛んでくる剣や魔法をギリギリで交わしながら、僕はクリザヘルの隙を窺う。
「リオン、聞いてくれ! この状況はお前に不利だ! だが、挽回のチャンスはある! ジョアンさえ目覚めればな! さっき思い出した事なんだが、ジョアンもお前と一緒で......」
ベルが話しかけてくるが、僕はクリザヘルの攻撃をかわすのに必死で、全く内容が入って来なかった。
「ごめん、今話すの無理かも!」
巨大な火球を飛び越え、捨て身で剣の嵐へ飛び込む。何本かは手足で弾き飛ばしたが、脇腹や背中に三本程が突き刺さってきた。
「ぐはッ!」
僕は血を吐いた。痛みがないからわからないが、致命傷かも知れない。
だが、近づいた。クリザヘルとの距離はゼロ。顔を潰して即死させる!
僕は彼女の顔面目がけて拳を突き出した。彼女は笑っていた。まるで僕を憐れむかのように。
構わない! その余裕もここまでだ! 僕は全力でクリザヘルの顔面をぶち抜いた。手応えあり、の筈だった。
「なっ! 何コレ!?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。クリザヘルの全身は瞬時に無数の針で覆われ、僕の拳は貫かれて血まみれになった。痛みはないが、驚きで手を引き抜く。穴だらけだ。
「うふふ。驚いた? 戦意喪失、って奴かしら?」
針に覆われたままの不気味な顔でそう言うと、クリザヘルは手のひらを僕の顔面に向けた。至近距離から魔法を打つつもりだ。
戦意喪失? 笑わせるな! 針に覆われているからなんだ! 針ごと拳で貫いてやる!
僕はヒュッと息を吸った。狙うは彼女の心臓。呪文を唱えるその一瞬でケリを付ける。
「待てリオン!」
知らない声。いや、懐かしさを感じる声。その声に気を取られ、僕の攻撃は一瞬遅れた。
「死ね!」
クリザヘルが勝ち誇って叫ぶ。手のひらが輝き、今にも魔法が放たれる、その瞬間。
彼女の腕、肘から下が切り離され、地面に落ちた。一瞬遅れ、鮮血が溢れる。
「ぎゃあああああーッ!」
ガクリと膝をつき、絶叫するクリザヘル。僕とクリザヘルの周囲を飛んでいた剣の嵐もいつのまにか止み、地面に落下している。
呆気に取られる僕の横に、誰かが立った。
「お前は攻撃特化型なんだろ? つまり防御は弱い。今みたいに魔法でカウンター気味に守られちまうと、自分が傷つくだけだ。だからこそ、俺はお前の相棒なのさ。なにせ、防御特化型だ」
そう言って笑ったのは、銀髪で金色の目をした美青年。初めて見る顔の筈だけど、僕には彼が誰なのか分かった。ベルがさっき言っていたのは、きっとこの事だ。そうか。僕と同じく、体が二つあるんだ。
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