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第33話 【最終話】グリオルド帝国の侵攻と失敗。
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「何がどうなっている! 邪神ベルゲニウスの加護があれば勝てる戦いだろう!」
グリオルド帝国皇帝ライオットの怒声に、第八王子ミシュラは身をすくめた。
彼が今立っているのは、魔法によって飛行を可能とした巨大な船「戦艦バルトール」の司令塔だ。
大陸の半分は既に支配下に治めたグリオルド帝国だったが、残りの半分を侵攻するには険しい岩山を超える必要があった。
岩山を越えた先には四つの王国。人間国ロマンシア、エルフ国ドノナスト、ドワーフ国シュタンガイン、そして魔人国シャダールだ。
これら四つの国は互いに同盟を結び、共存共栄の道を歩んでいる。特に同盟のリーダーとなっているロマンシア王国は非常に強国であり、多くの魔法使いを従えていた。
岩山の山頂には南北に渡って数カ所の砦が設置されており、そこには魔法使いを有するロマンシア軍が控えている。
岩山越えの為に開発された「戦艦バルトール」だったが、敵の魔法使い達が召喚した「聖龍グラン・バラー」に苦戦を強いられていた。
「このままでは戦艦は落ちるぞ!何故だ! 何故俺たちは負けそうなのだ!」
怒り狂う父に怯え、戦艦の各操作にあたっているミシュラや兄皇子達は戸惑った。
そして一番上の兄、第一皇子クライスが父皇の顔色を伺いつつ進言する。
「わ、わかりません! 間違い無くあの役立たず、末弟のリオンを生贄に捧げた筈です! なぁミシュラ! そうだよな!」
「は、はい兄上! 確かに俺はあのゴミを生贄の祭壇でなぶり殺し......」
ミシュラがそう言いかけた時、皇帝ライオットはピクリと眉を動かした。
「なぶり殺した、だと?」
ドスドスと足を踏み鳴らし、ライオットはミシュラに詰め寄る。そして彼の襟首を持ち上げ、締め付けた。
「おいミシュラ!俺は確かに言ったよなぁ!? バカのお前でも分かるように、優しく丁寧に言った筈だ! 邪神様は生き餌を好むから殺すなよってなぁ!」
「ひッ、ヒィィィッ! 殺してません! なぶり殺す勢いで、半殺しに......!」
ガクガクと震え、ズボンを尿で濡らすミシュラ。
「ははッ、マジかよあいつ漏らしてやがるぜ」
「まぁ、まだ十三のガキだからな」
笑い出す兄皇子達。ライオットはミシュラの襟首を片手で持ち上げたまま、何度も顔面を殴りつけた。
「うごぇッ! 父上、お許し、お許しをッ!」
顔が変形するまで殴りつけると、ライオットはミシュラを投げ飛ばす。
「きっとお前が殺してしまったのだ! あの役立たずをな! だからベルゲニウス様はお怒りになり、加護を下さらなかったのだ! ミシュラ! どう責任を取るのだ!」
「か、代わりの生贄を......!」
「ああ、そうだな! ならば次の生贄はお前だ、ミシュラ!」
「そ、そんな......!」
絶望に打ちひしがれるミシュラを見て、ゲラゲラと笑う兄上皇子達。
「まぁそうなるわな、順番的に見て」
「ミシュラも役立たずのゴミだから仕方ねぇさ」
笑い続ける兄皇子達に、ライオットが喝を入れる。
「いつまでふざけているつもりだ! 撤退するぞ! そしてミシュラを生贄にして、今度こそ勝つ! いいな!」
「はい、父上」
撤退を始めた「戦艦バルトール」。ロマンシア軍は追撃をせず、彼らが逃げるままにした。
「何故撤退するのだ、ライオットよ」
いつのまにかライオットの横に立っていた美少年が、静かに告げる。美しい銀色の長髪と、金色の瞳。魔人の勇者サタナキアスだ。
「こ、これはこれはサタナキアス様! じ、実はその、我が愚息が誤って生贄を殺してしまったのです。役立たずの末弟リオンというゴミですが......その為、邪神ベルゲニウス様のご加護を得られなかったのでございます」
「何!? リオンを殺しただと!? おい、それは本当なのか!」
「ひ、ヒィィィッ! 左様でございます!」
美しいサタナキアスの顔が、一瞬で鬼の形相になる。その恐ろしさはライオットの怒りなど比ではなく、その場にいた者達全員が凍りついた。
「リオンは我が兄、魔王リオンの生まれ変わりだ! 絶対に殺すなと、そう伝えてあった筈だぞ!」
サタナキアスは怒り狂い、魔法でライオットを宙に持ち上げる。
「お、お、お許しを! サタナキアス様!」
ジタバタと空中でもがくライオット。ミシュラはその様子を見て、自分も父も助からないだろうと思った。そして涙を流しながら平伏した。兄皇子達もミシュラに倣い床に頭を擦り付ける。
「邪神ベルゲニウスとリオンの魂には深い繋がりがある! これまでベルゲニウスの加護を得られたのは、生贄の力だけではないのだ! リオンの存在こそが、最も重要だったのだ! ライオット! 僕は確かに言った筈だ! バカのお前でも分かるように、優しく丁寧に言った筈だぞ! リオンは重要な存在だから、命懸けで守れと! 転生した魔王リオンを上手く使う事が、この戦いの肝であるとな!」
「は、はい! 確かにそう承っておりました! ですが、我が愚息がどうしてもリオンを生贄にしたいと申しまして......」
そこまで言った所で、ライオットは魔法の束縛から解放され、床に落ちた。
サタナキアスはギロリと、ミシュラ達皇子を睨む。
「どいつだ?」
ギラギラとした目つきに、ミシュラは命を奪われる思いだった。
「そこにいる、第八皇子ミシュラです!」
ライオットが指を差したのは、あろう事かミシュラだった。ミシュラは心臓を鷲掴みにされたように苦しくなった。
「そ、そんな、父上! 確かにリオンを生贄に推薦したのは俺ですが、サタナキアス様が殺すなと命じていた事など、知りません! 知ってさえいれば......」
ミシュラは弁明しようとしたが、ライオットに「やかましい!」と遮られる。
あまりにも理不尽だった。だがそれと同時に、ミシュラの心に疑問が湧き上がる。
(父上はどうして、リオンを生贄にする事に反対しなかったんだろう。こうなる事がわかっていたなら、絶対にリオンを生贄にしたりはしなかった筈だ。だけど父上は、喜んで賛成していた。リオンなど役立たずのゴミクズだと、そう言っていた。嘘をついているようには見えなかった。もしかしたら、父上は何らかの理由でサタナキアス様の言葉を忘れてしまったんじゃないだろうか。だけど、だとしたら一体どうして......)
思考は巡るが、答えは出なかった。そんなミシュラの目の前に、サタナキアスがやってきてしゃがみ込んだ。そして平伏しているミシュラの顎をクイッと持ち上げた。
「なぁミシュラ。お前を殺すのは簡単だ。息を吸って吐く程度の労力で、僕はお前を殺す事が出来る。だが、それではあまりにもつまらない。よって今から、お前に指令を与える。もしもそれをクリア出来れば、お前の命は助かる」
「は、はい! な、何でもします! なんなりとお申し付け下さい!」
ミシュラはガタガタと震え、カチカチと歯を鳴らしながらサタナキアスを見つめる。
「よし。では我が兄、リオンを探せ。奴はおそらく蘇った。ベルゲニウスの生贄になったのなら、それは充分あり得る話だ。ベルゲニウスはリオンと出会う事で、失っていた記憶の一部を取り戻したのかも知れぬ。ミシュラよ。リオンを見つけ、僕の前に連れてくるのだ。それが出来たなら、お前の命は見逃す。だがもしも見つけられなかった場合は......」
サタナキアスは話しながら、ミシュラの頬の肉を人差し指と親指でギュウウッと掴む。
「死よりも恐ろしい罰を与えよう。そしてベルゲニウスに代る、新たな邪神を作り出す為の材料になってもらう」
「ヒィィィッ! が、頑張ります!」
サタナキアスの話には謎が多かった。リオンが魔王リオン? サタナキアス様の兄? 蘇った? わからない事だらけだ。だが、質問は許されない。この状況での問いかけは、おそらく死を意味する。
(やるしかない)
ミシュラは鼻水と涙を垂れ流しながら、コクコクと何度も頷いたのだった。
だがミシュラも、そして勇者サタナキアスすらも知らない。リオンは既に、誰の手にも追えないほどの力と、最強の相棒を取り戻しているという事を。
そして彼らの野望は呆気なく阻止される。だがそれは、もう少し先のお話。
グリオルド帝国皇帝ライオットの怒声に、第八王子ミシュラは身をすくめた。
彼が今立っているのは、魔法によって飛行を可能とした巨大な船「戦艦バルトール」の司令塔だ。
大陸の半分は既に支配下に治めたグリオルド帝国だったが、残りの半分を侵攻するには険しい岩山を超える必要があった。
岩山を越えた先には四つの王国。人間国ロマンシア、エルフ国ドノナスト、ドワーフ国シュタンガイン、そして魔人国シャダールだ。
これら四つの国は互いに同盟を結び、共存共栄の道を歩んでいる。特に同盟のリーダーとなっているロマンシア王国は非常に強国であり、多くの魔法使いを従えていた。
岩山の山頂には南北に渡って数カ所の砦が設置されており、そこには魔法使いを有するロマンシア軍が控えている。
岩山越えの為に開発された「戦艦バルトール」だったが、敵の魔法使い達が召喚した「聖龍グラン・バラー」に苦戦を強いられていた。
「このままでは戦艦は落ちるぞ!何故だ! 何故俺たちは負けそうなのだ!」
怒り狂う父に怯え、戦艦の各操作にあたっているミシュラや兄皇子達は戸惑った。
そして一番上の兄、第一皇子クライスが父皇の顔色を伺いつつ進言する。
「わ、わかりません! 間違い無くあの役立たず、末弟のリオンを生贄に捧げた筈です! なぁミシュラ! そうだよな!」
「は、はい兄上! 確かに俺はあのゴミを生贄の祭壇でなぶり殺し......」
ミシュラがそう言いかけた時、皇帝ライオットはピクリと眉を動かした。
「なぶり殺した、だと?」
ドスドスと足を踏み鳴らし、ライオットはミシュラに詰め寄る。そして彼の襟首を持ち上げ、締め付けた。
「おいミシュラ!俺は確かに言ったよなぁ!? バカのお前でも分かるように、優しく丁寧に言った筈だ! 邪神様は生き餌を好むから殺すなよってなぁ!」
「ひッ、ヒィィィッ! 殺してません! なぶり殺す勢いで、半殺しに......!」
ガクガクと震え、ズボンを尿で濡らすミシュラ。
「ははッ、マジかよあいつ漏らしてやがるぜ」
「まぁ、まだ十三のガキだからな」
笑い出す兄皇子達。ライオットはミシュラの襟首を片手で持ち上げたまま、何度も顔面を殴りつけた。
「うごぇッ! 父上、お許し、お許しをッ!」
顔が変形するまで殴りつけると、ライオットはミシュラを投げ飛ばす。
「きっとお前が殺してしまったのだ! あの役立たずをな! だからベルゲニウス様はお怒りになり、加護を下さらなかったのだ! ミシュラ! どう責任を取るのだ!」
「か、代わりの生贄を......!」
「ああ、そうだな! ならば次の生贄はお前だ、ミシュラ!」
「そ、そんな......!」
絶望に打ちひしがれるミシュラを見て、ゲラゲラと笑う兄上皇子達。
「まぁそうなるわな、順番的に見て」
「ミシュラも役立たずのゴミだから仕方ねぇさ」
笑い続ける兄皇子達に、ライオットが喝を入れる。
「いつまでふざけているつもりだ! 撤退するぞ! そしてミシュラを生贄にして、今度こそ勝つ! いいな!」
「はい、父上」
撤退を始めた「戦艦バルトール」。ロマンシア軍は追撃をせず、彼らが逃げるままにした。
「何故撤退するのだ、ライオットよ」
いつのまにかライオットの横に立っていた美少年が、静かに告げる。美しい銀色の長髪と、金色の瞳。魔人の勇者サタナキアスだ。
「こ、これはこれはサタナキアス様! じ、実はその、我が愚息が誤って生贄を殺してしまったのです。役立たずの末弟リオンというゴミですが......その為、邪神ベルゲニウス様のご加護を得られなかったのでございます」
「何!? リオンを殺しただと!? おい、それは本当なのか!」
「ひ、ヒィィィッ! 左様でございます!」
美しいサタナキアスの顔が、一瞬で鬼の形相になる。その恐ろしさはライオットの怒りなど比ではなく、その場にいた者達全員が凍りついた。
「リオンは我が兄、魔王リオンの生まれ変わりだ! 絶対に殺すなと、そう伝えてあった筈だぞ!」
サタナキアスは怒り狂い、魔法でライオットを宙に持ち上げる。
「お、お、お許しを! サタナキアス様!」
ジタバタと空中でもがくライオット。ミシュラはその様子を見て、自分も父も助からないだろうと思った。そして涙を流しながら平伏した。兄皇子達もミシュラに倣い床に頭を擦り付ける。
「邪神ベルゲニウスとリオンの魂には深い繋がりがある! これまでベルゲニウスの加護を得られたのは、生贄の力だけではないのだ! リオンの存在こそが、最も重要だったのだ! ライオット! 僕は確かに言った筈だ! バカのお前でも分かるように、優しく丁寧に言った筈だぞ! リオンは重要な存在だから、命懸けで守れと! 転生した魔王リオンを上手く使う事が、この戦いの肝であるとな!」
「は、はい! 確かにそう承っておりました! ですが、我が愚息がどうしてもリオンを生贄にしたいと申しまして......」
そこまで言った所で、ライオットは魔法の束縛から解放され、床に落ちた。
サタナキアスはギロリと、ミシュラ達皇子を睨む。
「どいつだ?」
ギラギラとした目つきに、ミシュラは命を奪われる思いだった。
「そこにいる、第八皇子ミシュラです!」
ライオットが指を差したのは、あろう事かミシュラだった。ミシュラは心臓を鷲掴みにされたように苦しくなった。
「そ、そんな、父上! 確かにリオンを生贄に推薦したのは俺ですが、サタナキアス様が殺すなと命じていた事など、知りません! 知ってさえいれば......」
ミシュラは弁明しようとしたが、ライオットに「やかましい!」と遮られる。
あまりにも理不尽だった。だがそれと同時に、ミシュラの心に疑問が湧き上がる。
(父上はどうして、リオンを生贄にする事に反対しなかったんだろう。こうなる事がわかっていたなら、絶対にリオンを生贄にしたりはしなかった筈だ。だけど父上は、喜んで賛成していた。リオンなど役立たずのゴミクズだと、そう言っていた。嘘をついているようには見えなかった。もしかしたら、父上は何らかの理由でサタナキアス様の言葉を忘れてしまったんじゃないだろうか。だけど、だとしたら一体どうして......)
思考は巡るが、答えは出なかった。そんなミシュラの目の前に、サタナキアスがやってきてしゃがみ込んだ。そして平伏しているミシュラの顎をクイッと持ち上げた。
「なぁミシュラ。お前を殺すのは簡単だ。息を吸って吐く程度の労力で、僕はお前を殺す事が出来る。だが、それではあまりにもつまらない。よって今から、お前に指令を与える。もしもそれをクリア出来れば、お前の命は助かる」
「は、はい! な、何でもします! なんなりとお申し付け下さい!」
ミシュラはガタガタと震え、カチカチと歯を鳴らしながらサタナキアスを見つめる。
「よし。では我が兄、リオンを探せ。奴はおそらく蘇った。ベルゲニウスの生贄になったのなら、それは充分あり得る話だ。ベルゲニウスはリオンと出会う事で、失っていた記憶の一部を取り戻したのかも知れぬ。ミシュラよ。リオンを見つけ、僕の前に連れてくるのだ。それが出来たなら、お前の命は見逃す。だがもしも見つけられなかった場合は......」
サタナキアスは話しながら、ミシュラの頬の肉を人差し指と親指でギュウウッと掴む。
「死よりも恐ろしい罰を与えよう。そしてベルゲニウスに代る、新たな邪神を作り出す為の材料になってもらう」
「ヒィィィッ! が、頑張ります!」
サタナキアスの話には謎が多かった。リオンが魔王リオン? サタナキアス様の兄? 蘇った? わからない事だらけだ。だが、質問は許されない。この状況での問いかけは、おそらく死を意味する。
(やるしかない)
ミシュラは鼻水と涙を垂れ流しながら、コクコクと何度も頷いたのだった。
だがミシュラも、そして勇者サタナキアスすらも知らない。リオンは既に、誰の手にも追えないほどの力と、最強の相棒を取り戻しているという事を。
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