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魔王から奴隷へ。
第1話 王位剥奪。
しおりを挟む「魔王ファリエッダ様。貴女(あなた)には本日をもって、その座を降りて頂きます」
「なんだと......!」
元老院からの突然の宣告に、私は思わず声を荒げた。魔王である私を呼びつけ、事もあろうに任を解く、だと!? 私は目の前に鎮座する、三人の老人達を睨みつける。
「ふざけるな! 政治に口を挟むだけでは飽き足らず、何の権限があってそんな......!」
「それは私から説明するわ、エッダお姉様」
私の左脇に控えていた側近、「魔女」ファリアンヌがクスクスと笑いながらそう言った。彼女は私の双子の妹だ。
「お姉様が、私達【魔人】の家畜である人間の奴隷達に、目をかけているという疑惑が以前からあったの。まぁ疑っていたのは他ならぬ私なんだけどね」
「貴様、アンヌ! 何の根拠があってそのような戯言を!」
私は妹を振り返って睨みつける。すると彼女は、私のもう一人の側近である「魔勇者」ガルフェインの影に隠れる。
「怖ーい! 助けてガル!」
ファリアンヌはガルフェインに抱きつくが、彼は戸惑うように私を見た。
それもその筈。ガルフェインは私の側近であると同時に、婚約者でもあるのだ。彼の剣は、私を守る為に存在する。
「ガルフェインから離れろ、アンヌ。人の婚約者に抱きつくなどと......」
私は二人を引き離そうとした。だが驚いた事に、ガルフェインはファリアンヌを強く抱きしめる。
「きゃん。やだぁガルったら。大胆なんだから。お姉さまの嫉妬の視線が痛いわ」
「なっ......! どう言う事だガルフェイン!」
私の胸に、ズキズキと痛みが走る。
「すまないエッダ。君が人間と馴れ合っていると知ってしまった以上、もう愛せない。お別れだ。婚約も破棄させてもらう。俺はアンヌと婚約するよ」
ガルフェインはそう言って、ファリアンヌと口づけを交わす。
「そんな......! 酷いよガル......!」
あまりのショックに、魔王としての毅然とした言葉遣いを忘れ、十八歳の少女へと戻る。
「あはは! いい気味だわ! 私よりもほんのちょっぴり魔力が高いってだけで、魔王に選ばれたクソ女! あんたはね、今日全てを失うのよ! 魔王の地位も、婚約者も、そして親友もね! ガル、あの人間のメスをここに呼び出して」
ファリアンヌは嘲るように笑いながら、私の婚約者だった男に指図する。
「ああ、そうだな」
ガルフェインは薄く笑って、右手を前方にかざす。すると元老院と私の丁度中間くらいに、人間の少女「シエラ」が現れた。彼女は私達「魔人」が家畜として使う奴隷。そして私の親友だった。
シエラの歳は私と同い年の十八歳。黒髪の可愛らしいメイドだ。メイドは奴隷の中でも最上位の「上級奴隷」で、城で働く奴隷達。だがそれでも本来、親しくなってはいけない存在なのだ。
「シエラ!」
私は思わず彼女の名前を呼んだ。彼女がここに呼ばれたという事は、まさかあの事がバレてしまったのだろうか。
私は密かに奴隷達を自室に誘い、度々お茶会を開いていた。
些細なミスで虐待され、傷ついた彼女達の心を少しでも癒してあげたい。そう思って始めた事だった。私は「奴隷制度」に反対している。いずれ魔王の権限で、廃止したいと思っていた。
だが廃止するにはいくつもの難題があり、一筋縄ではいかなかった。
「彼女は私の身の回りの世話をしている者だが。何故ここに呼んだ? シエラを......どうするつもりだ!」
毅然と言い放つ。だが私の心には、恐怖が生まれていた。まさかこんな事になってしまうなんて。
シエラはキョトンとして、周囲を見回す。そして私とファリアンヌの顔を、交互に見比べた。
「えっ!? エッダ様が二人!? どうして?」
シエラは驚きに目を見張り、何かに気付いたように息を飲むと、口元を両手で覆った。
「私、もしかして、とんでもない事を......」
ポロポロと涙をこぼすシエラ。
「あはは。そうよシエラ。数時間前、あなたに色々と質問をしたのは私。ファリエッダの双子の妹である、魔女ファリアンヌ様よ! ああ、思い通りに事が運ぶって最高に快感だわ! 今日まで仮面をつけて過ごして来たのは無駄じゃなかった。私の素顔を知る者は少ない。私はあんたの影武者で終わる気はないのよエッダ! そうよ! シエラが全部教えてくれたわ! あんたが如何に人間共にお優しいかって事をね! 奴隷とお茶会? はぁ!? 何それ。頭おかしいんじゃないの!? この低脳! クズ女! さぁ、もう言い逃れ出来ないわよ! 元老院、エッダから王冠を取り上げなさい!」
ファリアンヌの号令で、元老院達が私の前に集まる。そして私の頭上に輝く王冠に手を伸ばしてくる。
「ええい! 触るな、汚らわしい!」
私は元老院達を押し退け、逃れようとする。
「往生際が悪いわね! あれを見なさい!」
ファリアンヌが指を差した方向には、シエラが立っていた。そしてその背後にはガルフェイン。彼はシエラの首に、剣の刃を添えていた。
「動けば、この奴隷の命はないぞ」
ガルフェインの目は本気だった。私は抵抗をやめ、元老院に王冠を奪われるままにする。
「ごめんなさいエッダ様。ごめんなさい。本当にごめんなさい......」
嗚咽を漏らし、泣きじゃくるシエラ。
「シエラ、あなたは悪くない。悪いのはこの性悪な妹よ。私と同じ顔で、あなたを騙した。こちらこそ、巻き込んじゃってごめんね。今、助けるから。さぁ、王冠は渡したでしょう。さっさとシエラを解放して!」
私はシエラの元へ近付こうとした。
「まだよ! さぁ元老院! 宣言して! 新たなる魔王の誕生と、罪を犯した前魔王への処罰を!」
ファリアンヌが嬉々として叫ぶ。すると元老院の一人が、王冠をファリアンヌの頭に乗せて宣言する。
「本日、この時をもって魔王ファリエッダの王位を剥奪。妹のファリアンヌへと新たに戴冠する。なお、ファリエッダは今後【下級奴隷】となり、オークラルド大監獄へ追放。看守長の身の回りの世話をする事となる。以上」
元老院はそう宣言すると、私の首に首輪を嵌めた。これは隷従の首輪。主に逆らうと、死よりも恐ろしい激痛が全身を襲う。通常ならこんな物騒な物、易々とつけられる事はない。だが今はシエラが人質に取られている為、一切の抵抗をする事が出来なかった。
「うふふ、エッダお姉様。いえ、下級奴隷のファリエッダ。あなたは一生私の奴隷よ。今から与える命令に、絶対に逆らっちゃ駄目。いいわね? ファリエッダ、あなたは今後一切、【魔術】を使ってはいけない。【女神の加護】も使っては駄目。逆らえば恐ろしい罰が与えられるわ」
ファリアンヌはそう言って私を床に引き倒し、頭を足で踏みつけた。
「元老院、こいつの服剥ぎ取って。下級奴隷の服を着せるのよ。それとガル、その人間のメス殺して。もう用済みだから」
「ああ、任せろ」
嘘でしょ!? まずい! シエラが殺されてしまう! シエラの命を守る為に無抵抗でいたのに、彼女が殺されたら意味がない!
「邪魔だ! 退け!」
私はありったけの力を振り絞り、ファリアンヌと元老院達を振り払った。そして素早く立ち上がり、シエラの方を見る。
「シエラ!」
「エッダ、様......」
シエラの首からは、鮮血が勢いよく吹き出していた。ガルフェインが剣を下に払うと、シエラの血が飛沫となって私の顔に降りかかる。
シエラは崩れるように倒れ、そのまま動かなくなった。
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