【完結】Eランクの最凶邪竜〜家族を殺されたおっさん、最強の破壊神「世界を喰らう邪竜」となって復讐を開始する。土下座して謝ってももう遅い!

アキ・スマイリー

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第2章

第12話 不吉な予感。

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 ロバロガルダスに戻り、憲兵団を要請したステイン。彼らと共に再びルースド村に向かい、巨大テントで横たわっているモンスター使い達を捕らえてもらう。

「これで依頼は完了ですね」

「ありがとうございます、フィル様」

 村長と固い握手を交わすステイン。村長夫妻と娘のジュディは、何度も礼を言って感謝を表した。

 今回の仕事は無報酬。だがステインにとっては彼らの感謝と笑顔だけで、充分な報酬に値した。

 ステインはロバロガルダスに戻り、冒険者ギルドへ向かう。無報酬とはいえ、依頼完了の報告はしっかりとしなければならない。だがその途中、彼を呼び止める者がいた。

「フィーリア様! あれほど冒険へ出てはいけないと申しましたのに!」

 ステインは驚いて振り返る。見るとフィルの正体である王女フィーリアの執事、セイバー・スチャンが険しい顔で立っていた。年の頃は三十代前半。長い黒髪を後ろで結い、眼鏡をかけた美形の男だ。

「冒険者ギルドになど行かせませんよ! さぁ、帰りましょう!」

 セイバーに手を引かれ、ステインはうろたえる。

「い、いや、私は......」

 そう言いかけて、しかし彼は観念した。今ステインはフィルの姿を取っている。声も容姿も印象も全てだ。今更幻影を解除すれば、それこそ騒ぎになりかねない。

「わかりました」

 ステインは仕方なく、セイバーに手を引かれてフィーリアの邸宅へと歩いた。程なくして到着した北区の貴族街。その一画に、フィーリアの住まう邸宅があった。

 ステインは、ここに来たのは初めてだった。フィーリアの生活環境の事は本人から聞いて知っていたが、実際に目の当たりにするとその大きさや立派さに驚きを隠せない。

 だが感嘆の声を上げる訳には行かなかった。今の彼はフィル。この大邸宅の住人なのだ。

「さぁフィーリア様、早くお入り下さい。今日はこれから社交界があるのですから。さっさとその鎧を脱いで下さい。すぐにドレスに着替えていただきますよ」

「は、はい」

 ステインは焦っていた。このままではその社交界とやらに参加させられてしまう。姿は誤魔化せても、仕草や優美さまでは真似出来ない。それは本人の知識や経験からくるものだからだ。

 そうなればバレる。偽物という事が。

(まずい事になった。しかし本物のフィーリアはどこにいるのだ?)

 ステインは戸惑いながらもフィーリアの部屋へと案内され、中に入る。だがそこで、彼は予想外の人物と出くわす。金色の長い髪に青い瞳。小さな美しい顔に、スラリとした長身。そして女性らしいプロポーション。

 部屋の中にいたのは本物のフィーリアだった。ステインは思わずその名を呼ぶ。

「フィーリア!」

「えっ!? あなた誰!?」

 面食らうフィーリア。冒険者姿の自分が目の前に現れたのだから、それも無理はない。

「フィーリア様が、二人......?」

 セイバーは一瞬、呆気に取られる。だがそこでフィーリアが機転を利かせる。

「これはフィル様! また私に冒険のお話をしに来て下さったのですね!」

「えっ......!? あ、ああそうですとも。今日はとてもすごい冒険だったんです!」

 ステインはそう答えながらも、慎重に状況把握に努めた。そして予想する。

 つまりはこうだ。セイバーはフィルがフィーリアであると当たりを付けていたが、あくまで彼の推論であり確証は無い。

 だからフィーリアにとっては、ここでフィルとフィーリアが別人だと証明するチャンスなのだ、と。

 まぁ実際には同一人物なのだが、別人だと思ってもらった方がフィーリアも今後の行動が取りやすくなる筈だ。

(フィーリアはおそらく、私だと気づいているな)

 ステインはそう考え、白銀の全身鎧「浄火の鎧」を腕輪に収納し、正体を現す事にした。収納の為の合言葉は、腕輪の持ち主自身が決める事になっている。そしてステインは、その合言葉をすでにフィーリアから聞いてあった。

「邪を戒めし炎よ。我が腕に戻れ」

 ステインがそう言うと、鎧は光と化して腕輪に吸収されていった。だがもちろんこれは本物ではなく、ステインが作り出した幻影である。

「おお、なんと!」

 セイバーはステインの姿を見て驚きの声を上げた。そこに立っていたのはアラフォーの底辺冒険者、ではない。

 金色のショートヘアに青色の目。そしてスラリとした長身。そして女性らしいプロポーション。紳士用のシャツとズボンを着用した男装の麗人だった。

 顔はフィーリアにそっくりで、双子と言っても差し支えはない。だがその眼光の鋭さ、醸し出すクールで知的な雰囲気が別人である事を示していた。

 全てステインの作り出した幻覚ではあるが。

「私はてっきり、魔剣王フィルの正体はフィーリア様かと思い込んでおりました。フィル様、フィーリア様、ご無礼をお許しください。どんな罰でもお受け致します」

 セイバーはそう言って、深々と頭を下げた。

「罰など必要ないわセイバー。私は気にしていないし、フィル様は寛容なお方。きっと許してくださるわよ」

「ええ、もちろんです。セイバー殿、どうか顔をお上げ下さい」

 二人の許しを得て、セイバーは顔を上げた。その表情は申し訳なさで満ちていた。

「お許しいただき、誠にありがとうございます。これ以上お二人のお邪魔は出来ませんので、私は退室致します。メイドにお茶を持たせますか?」

「いえ、いらないわ。誰にも話を邪魔されたくないの」

 フィーリアは微笑を浮かべて静かにそう言った。

「かしこまりました。ではフィル様、どうぞごゆっくり」

 会釈し退室するセイバーに、ステインは会釈を返す。そして彼が去った後、フィーリアに向かって微笑んだ。

「私の正体には、気づいているんだよな?」

「ええ、もちろんです。ステイン様」

 そうして二人は、しばらくの間笑い合った。

「久しぶりに会えて嬉しいよ。先程のセイバー殿の様子では、どうやら君は軟禁されていたようだな」

「ええ、そうなんです。ボクも冒険に出たいのは山々だったのですが、事情がありまして。実は、婚約する事になったのです」

「なんだって!?」

 ステインは驚愕のあまり、卒倒しそうになってフラつく。

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

 どうにか持ち堪える、「男装の麗人」ステイン。

「相手は一体誰なんだ?」

「グリンザニア公爵家とは古い付き合いの伯爵家、ロイプール伯爵の御子息フォルナスト殿下です。私は子供の頃に一度会っただけなのですが......知らないうちに話がまとまってしまったようです」

「そうか......」

 ステインは打ちのめされたようにうつむき、近くにあった椅子に座る。

「いつかそんな日が来るとは思っていたが、いざ直面するとなかなかにキツイな」

 ステインは背もたれに寄りかかり、額に手を当てた。

「それは、愛の告白と受け取ってよろしいのでしょうか」

 フィーリアは少し頬を赤らめ、ステインに尋ねた。

 ステインは椅子ごと豪快に倒れ、それから慌てて起き上がる。

「い、いや、そう言う意味じゃないんだ。君は私の冒険仲間。大切な相棒だ。もう会えなくなるのが寂しいって事さ」

 倒れた椅子を立て直しながら、ステインは取り繕うようにそう言った。

「また、そうやってはぐらかすのですね」

 フィーリアは寂しそうにうつむいた。目には少し涙も光っている。

「以前もお伝えしましたが、私は、ステイン様をお慕いしています! 愛しています! 好きです! 大好きです! この気持ち、受け取ってはいただけないのですか!?」

 フィーリアの目からポロポロと涙が溢れる。ステインは困ったように彼女を見つめていたが、やがて意を決したように口を開く。

「私はしがない中年の冒険者だ。貴族で、しかも公国の王女である君とは釣り合わないよ。今回の婚約、受けるべきだ。その方がきっと幸せになれる」

 やっとそう伝えたステインだったが、その心は狂おしいほどに叫んでいた。本当の気持ちを伝え、彼女を連れ去ってしまいたい。だが誰よりも道徳を重んじるステインにとって、それはどうしても出来ない事だった。

「そう......ですか。わかりました。ではフォルナスト殿下とのご婚約、お受けする事にします。今日の社交界は、その婚約披露パーティーでもあるんです。今後、ボクはもう......ステイン様にお会いする事はないと思います」

 フィーリアは寂しげに微笑んで、棚に置いてある葡萄酒とグラスを二つ取った。

「最後に祝っていただけますか? ボクの結婚を」

「ああ、もちろんだ」

 二人は乾杯し、それから他愛もない話をした。しばらくして、話題は今日の冒険の話へと移っていく。

「モンスター使い達は、ケイオス教団と名乗っていた。私達が以前戦ったフーザギオンも、どうやらその一派のようなんだ。これはその内の一人が持っていたものだ」

 ステインは五色の模様が入ったペンダントを腰のポーチから取り出した。フィーリアはそれを手に取って、まじまじと見つめる。

「この模様、何処かで見た事があるような気がします」

「なんだって!? 一体どこでだ?」

 不吉な予感を感じ、ステインはやや強い口調で問いただす。

「どこだったかな......うーん、どうしても思い出せません。もし思い出したら、セイバーに伝言してもらいますよ。冒険者ギルドのフィル宛に」

「そうか、わかった」

 二人はその後少し話をして、握手をして別れた。ステインの心には寂しさと、五色のペンダントに対する拭いきれない不安が渦巻いていた。






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