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今日から憲兵編。

第1話 詐欺師の汚名を着せられ、追放されました。

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「それじゃあみんな、フェレルはパーティーから抜けてもらうって事で異議はないな!」

「異議なーし」

 ここは冒険者ギルド。冒険から戻ってきたパーティーが、一人の人物を追放しようとしていた。

「ちょっと待ったぁー! 異議あり!」

 困惑気味に口を開いたのは、美しい緑の髪と緑の瞳をした美青年。名前はフェレルと言う。

「どうして俺がパーティーから抜けなきゃならないの? 俺は、君らとなら一緒に頑張れると思ってパーティーに参加したのにさ」

 憤慨するフェレルの鼻息は荒い。

「いや、だってよぉフェレル。お前......何の役にも立ってねぇじゃん。魔物との戦闘だって、ただ突っ立ってるだけだし。お前が伝説の剣聖ライナの弟子だって言うから仲間に誘ったのによ。とんだ期待外れだぜ」

 やれやれと肩をすくめるのは、パーティーのリーダー。赤鎧の剣士レッディだ。彼はフェレルを見下すような目で見つめている。

「ほんとにな」

「全くよ。役立たずも良いところだわ」

 青ハチマキの武闘家ブルースと、黄色いローブの魔法使い、イエローザも同意を示す。

「ちょっ.....! 役立たずだって!? その言い方はあんまりだ! 傷つくじゃないか! 俺は役立たずなんかじゃない。確かに冒険者としては新米だし、まだまだ経験不足かもしれないけど......それでもとっても役に立つ男だよ?」

 フェレルは不満気に言い返す。だが青いハチマキのブルースは、それを鼻で笑う。

「へっ、良く言うぜ。まぁ、お前自慢の【光速剣】の信憑性はともかく、姿を変えるユニークスキル【変身】は面白い能力だけどな。だけど、きっと俺たちの役には立たないだろうぜ。いや、待てよ」

 ブルースが、フェレルをジロジロと見つめる。

「お前、女にも変身出来るのか? 例えばホラ、あそこにいるサラちゃんとかさ」

 彼が指を差したのは、冒険者ギルドの中にある酒場のウェイトレス。この町でも評判の美少女である。

「ああ、あのスタイル抜群の美少女? もちろん、なれるよ」

 フェレルはそう言って一瞬でサラに変身する。

「おおお! いいねぇ! よしよし、じゃあこれから俺の彼女になってくれるなら、パーティーにいてもいいぜ! 俺、サラちゃんの大ファンなんだよ」

 そう言ってブルースはサラに変身したフェレルの肩を抱く。

「じゃあまずは友達から♡っておい! 俺は男だぞ!」

 フェレルは元の姿に戻り、彼を押し退ける。

「例え冗談でも、俺は君の彼女になるつもりはないよ! まぁとにかく、話を戻すけどさ。俺はめちゃくちゃ戦ってたし、パーティーの役に立ってた筈だよ。実は、サプライズがあるんだ」

 フェレルはそう言って、腰に付けていた布袋を取り外し、近くのテーブルに置いた。

「じゃーん。魔石、いっぱいゲットしといたよ。途中みんなが休憩してる間にさ、俺、ちょっとオシッコしに抜けただろ? その時にさ、あの階層の魔物全部斬り殺して来たんだ。これはその戦利品。全部は取れなかったけどね」

「はぁ?」

 自信満々で語るフェレルに、レッディが呆れたような声を出す。

「殺した魔物の数は1256匹。ゲットした魔石の数は151個。魔物の死体は、魔石を抜き取るまで消滅しないよね? だから、魔石はまた後で回収してくるよ。」

 フェレルは笑顔でそう言った。だが対するレッディは、とても笑顔を保てるような心境ではなかった。

「おいおいおいおいおいおい! 冗談キツイぜ。頭がイカレてんのかテメェ! 言うに事かいて、階層中のモンスターを皆殺しにしただぁ? この大ボラ吹きが! いつ戦ってたんだよ! そもそも剣すら抜いてなかっただろうが! その魔石だって、おおかた俺たちの荷物から盗んだんだろう!」

 レッディが怒りの形相でフェレルに詰め寄る。

「ちょ、ちょっと待ってよレッディ。俺は盗みなんてやってない。それに俺のスキルの事は何度も説明してるじゃないか。仲間に加わる時も、冒険中にも説明したよ? 俺の【光速剣】はその名の通り、光の速さで繰り出す剣なんだ。移動も光速で出来るし、壁も抜けられるし、ダンジョン中を一瞬で駆け巡る事も出来る」

「あのなぁ。俺たちも何度も言ってるが、そんな訳ないだろ。【光速剣】は伝承に出てくる英雄ジーク・フリーダムの持つスキルだ。あれはな、作り話なんだ。【光速剣】なんて今まで使えた奴はいないし、現存しない! 幻のスキルなんだよ! お前の妄想に俺たちまで巻き込まないでくれ。迷惑だ」

 レッディは呆れたように言うが、フェレルは必死に続ける。

「そう言わずに聞いてよ。俺は本当に【光速剣】が使える。これは師匠にも認められた事なんだ。みんなには見えないかも知れないけど、俺は剣を抜いてる。ただ剣速が早すぎて、斬られた敵でさえその事に気付いていないんだ。既に死んでるから放っておいて大丈夫なんだけど......みんなは俺の言葉を信じないで『死体』と戦ってるんだよ」

 フェレルに悪意は全くないが、彼の弁明を聞くレッディのこめかみにピキッと青筋が浮かび上がる。

「実際、俺が斬った敵は全く反撃してこなかっただろ? 俺はただ、みんなの役に立ちたいだけなんだ。何度も言ってる事だけど、みんなは力を温存して欲しい。そしていざという時に、力を合わせよう」

 そう言って和解を求めるように両手を開き、微笑むフェレル。

「この野郎! ふざけた事抜かしやがって! そんなの信じられる訳ねぇだろうが、この嘘つきめ! 魔物が反撃して来なかったのは、俺たちの攻撃が早くて的確だったからだ!」

 レッディはフェレルをドンッと突き飛ばす。フェレルは少しよろめいたが、笑顔から一転、キッと彼を睨み返す。

「嘘じゃない、本当だよ。俺の師匠、剣聖ライナに誓って」

 フェレルは右手を胸に当て目を閉じ、誓いの仕草を取った。

「ふん! なら剣聖ライナも嘘つきって事だな。本当だって言うなら証明して見せろ! これを斬れるか!? もちろん、お前の光速剣でだ!」

 レッディはそう言って右手に持っていた、酒の入ったジョッキを差し出す。それは彼が、酒場で飲んでいる友人から「一杯おごれよ」と言ってもらって来たものだ。冒険者ギルドには酒場も併設されているのだ。

「俺も師匠も嘘つきじゃあない。だけどそれを斬れば、店の人に迷惑がかかるよ」

「弁償なら俺がするから、斬ってみろよ。斬れるものならな」

 レッディはニヤリと笑う。フェレルはため息をついて、腰に差した剣の柄に手を置いた。

「仕方ないな。本当に弁償してよ?」

 フッ、と息を吐く。だが、いつまで経っても剣を抜く気配は無い。

「おい、さっさと......」

「もう斬ったよ」

 フェレルはそう答えたが、ジョッキは斬られた様子は無い。フェレルも剣を抜いてすらいなかった、ように

「ハッ! ウケでも狙ってるつもりかよ。お前は動いてねぇし、ジョッキも斬れてねぇんだよ! いくら早く動いてるからって、全然見えないなんて事はありえねぇ! 残像くらいは見える筈だ! それも見えねぇって事はつまり、テメェは頭がイカれた嘘つきって事だ! これで決まりだな、詐欺師野郎。お前は追放だ。なぁみんな!」

 そう言ってジョッキを近くのテーブルに置き、立ち去ろうとするレッディ。

「おーい、ちょっと待ってよ。信じられないかも知れないけど、光速で切った影響でまだ断面がくっついてるんだ。もう一度持ち上げてもらえれば、斬れてるのが分かるよ」

 フェレルはそう説明したが、三人は呆れたように顔を見合わせ、肩をすくめた。

「はぁー、やれやれだぜ。どこまで嘘重ねる気だよ、全く。もうう疑いようが無いな。こいつは剣聖の弟子を語る、どうしようもないクズだ。もう二度と、俺たちに近づくんじゃないぞ。それと、俺たちから盗んだ魔石は返してもらう」

 ブルースはそう言って、テーブルに置いてあったフェレルの布袋を取る。中には魔石がぎっしり入っている。

「いや、嘘なんてついてないし、魔石も盗んでないよ。俺が魔物を倒して......」

 フェレルは反論しようとするが、そこへイエローザが割って入る。

「あんたの実家のパン屋もさ、材料にこだわってるらしいけど、どうせそれも嘘なんでしょ? 味もまずいに決まってるわ。こんな嘘つきを育てた親が作るパンだものね」

 彼女が言い放った言葉に、フェレルの目つきと顔色がサッと変わる。

 その表情は、怒りに満ちていた。

「俺の両親を侮辱する事は、誰であろうと許さない! もう一度言ってみろ! お前の首を斬り落とす!」

 怒気のこもった声と気迫、そして眼力の圧力に負け、イエローザは「ヒィッ」と悲鳴を上げる。

 フェレルは普段、温厚な性格である。しかし誰にでも優しく親切な両親を侮辱され、ついに我慢の限界が訪れたのだ。

「チッ、詐欺師野郎が吠えやがって。剣も抜けない無能の癖に、一人前に脅すつもりか? もういい、行こうぜ。関わりたくねぇ」

「だな」

「は、早く行きましょ」

 フェレルの仲間だった三人は、足早にその場を立ち去る。そしてギルドの受付に魔物とフェレルから獲得した魔石を提出し、換金する。

 フェレルは怒りがおさまらない様子だったが、無言で冒険者ギルドを出て行く。

 その様子を、ギルドの酒場で酒を飲む、一人の美女が見つめていた。

「ふむ......間違いないな。彼には暗殺の才能がある」

 美女はそう言って立ち上がり、酒場の会計を済ませてギルドから出て行く。

 その後。レッディが酒場から持ち出したジョッキを片付けようと、ウェイトレスのサラが持ち上げた、その瞬間。

「きゃああッ!」

 ジョッキは鋭利な切り口で、横真っ二つに斬れた。酒がこぼれ、テーブルと床を濡らして行く。

「何なのよ、これぇ!」

 うろたえるサラ。そう。フェレルの言っていた事は、全て真実だったのである。

 一方その頃ダンジョン内。本日フェレル達が探索した階層では、大騒ぎになっていた。

「おいおいおいおい! 死屍累々じゃねーか! なんだよこの死体の山は!」

「ああ、足の踏み場もねぇくらいだ。それにこの階層の守護者も倒されてるってよ」

「じょ、冗談だろ!? やったのは誰だ!?」

「守護者の部屋に書き置きがあったそうだ。それには『剣聖ライナの愛弟子、フェレル参上!』と書かれていたらしい」

「フェレルっていや、レッディのパーティーに入った噂のルーキーか!」

「ああそうだ。奴め、とんでもない拾い物をしたもんだ」

「ああ、違いねぇ! レッディの奴め今頃、ギルドで自慢してるぜ。だがまぁ、そのフェレルってのも所詮はルーキーだな。せっかく魔物共を殺したのに、魔石を取っていってねぇ。魔石を取らなきゃ、冒険者は稼げねぇってのによ。まぁ、おかげで俺たちは大儲けだがな!」

「ああ、全くだ!」

 冒険者達は謎のルーキーに感謝しつつ、無数に転がっている魔物達の死体から魔石を回収して行ったのだった。
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