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あなたの心の痛み、このエリカしかと受け止めたわ
翌朝、エリカは強くなっていた。
マナ輸送体と結合したマナが一晩を経てエリカの体に馴染んだのである。 エリカの体はまるでパワード・スーツを着込んだかのように力に満ちていたし、視覚も聴覚も嗅覚も鋭敏になり世界がより鮮明に感じられた。 マナ酔いの気分の悪さが完全に治まったのと相まって、エリカは元気一杯である。
「強くなるのも悪くない気分ね」
ラットリングを退治していた頃も実はこういうプロセスが繰り返されていたのだが、ラットリングが放出するマナ輸送体が多くないため、エリカにマナ酔いは生じなかったし強くなったのを実感することもなかった。
◇◆◇
エリカは朝食を済ませるとハンター協会を訪れた。 彼女は今日はじめて、協会が仲介する依頼に手を出す。 潜入捜査の依頼で稼いだカネで《魔物探知》のスクロールを買い、オーク退治で荒稼ぎするのだ。
協会の建物に入ったエリカは、依頼ボードに直行した。
「あったあった、私の依頼」
潜入調査の依頼書を掲示板から引き剥がして、受付カウンターに持って行く。 依頼書には依頼の詳細は書かれていない。 潜入調査であることと、どういう人材が求められているかだけが記載されている。
依頼用窓口の職員はマロン君ではなかったが、この職員はエリカとマロン君とのやり取りを何度も見ていたので、エリカとのコミュニケーションはスムーズに進んだ。
「潜入調査の依頼を引き受けてくれるのですね? それでは奥の部屋で依頼の詳細について... あっ、少々お待ちください。 えっと、この依頼はですねえ、機密保持の関係で依頼人の方が直接ブリーフィングを行いますので、日を改めて面接していただくことになります」
「げっ、面接ー?」
面接と聞いてエリカは即座にうんざりした。
「やっぱやめよかな、この依頼。 ブリーフィングとかわけわかんないし」
そのとき、マロン君がおもむろに口を開いた。 彼はエリカにフォローが必要であることを超人的な勘の良さで察知し、近くまで寄ってきていたのだ。
「ブリーフィングとは、依頼の内容に関する詳しい説明のことです。 そして、面接といっても堅苦しいものではなくて、クライアントとハンターとのミーティングのようなものです。 ハンターの能力と依頼の内容が噛み合っているかについて話し合うほか、依頼の報酬について再交渉することもあります」
「ありがとう、マロン君。 助かったわ」
エリカはマイ・ベルをチーンと鳴らして了解の意を告げる。
「それで、面接の日時ですが」と依頼用窓口の職員。「明日の午後2時でよろしいでしょうか?」
「ええ」
エリカは再びベルをチーンと鳴らし、そそくさとその場を立ち去った。
◇◆◇
ハンター協会のビルを出たエリカは南門に足を向けた。 モンスターがまばらな南門エリアは《魔物探知》がないと狩りの効率が悪いが、何匹かは魔物を狩れるだろう。
南門に向かって歩くエリカ。 商店街に差し掛かった彼女の目に映ったのは武器屋の看板だ。 いまエリカが腰から下げているミスリルの長剣は、この武器屋から盗んだものである。
長剣の代金を早く支払いたいのだが、食料などに比べて金額が桁違いに大きいため、エリカは未だ長剣の代金の支払いに向けて行動を起こせていない。 この武器屋で長剣を盗んでから、エリカは一度も店内に足を踏み入れていなかった。
「値段だけでも確認しとこうかな。 オーク狩りが軌道に乗れば近いうちに代金を払えるし」
エリカは武器屋のドアをくぐり、久しぶりに店内に足を踏み入れた。 カウンターには前に来たときと同じ男性店員が座り、暇なのだろうか鼻毛を抜いている。
なんとはなしにエリカは、自分の長剣が陳列されていた棚に目を向けた。 するとそこには、エリカの長剣が入っていたケースだけが空っぽのまま放置されている。 エリカがこの店で長剣を頂戴してから数週間が経過するというのに。 最高級品の剣を失ったことで武器屋が受けた精神的なショックは大変なものだったのだ。
「私が盗んだ剣は、この店にとってかけがえのないモノだったのね...」
しかしケースの中には値札が残っていて、そのおかげでエリカは店員に尋ねるまでもなく長剣の価格を知ることができた。 ただし、その金額は...
「3千万ゴールドですって!? これはちょっと...」
予想以上の金額に絶句するエリカ。 3千万ゴールドを稼ぐにはオークを 1,500匹も倒さねばならない。 途方もない数字である。 南門エリアにオークが 1,500匹もいるかどうかすら怪しい。
「とにかく私の剣の売値はわかった。 そして武器屋さん、あなたの心の痛み、このエリカしかと受け止めたわ」
武器屋の心の痛みを受け止めはしたが、ミスリルの長剣を武器屋に返却するつもりはエリカになかった。 未だ刃こぼれ1つなく新品同様にピカピカと銀色に輝く長剣だから、エリカがこの剣をあのケースに戻してマイ・ベルをチンと鳴らせば、武器屋の苦悩は直ちに解消される。 しかし、エリカは剣を手放せなかった。 手放すには切れ味が良すぎたし美しすぎたのだ。
◇
武器屋を出たエリカは南門の外で狩りをした。 この日の戦果はオーク3匹とゴブリン5匹、しめて8万ゴールドだった。
マナ輸送体と結合したマナが一晩を経てエリカの体に馴染んだのである。 エリカの体はまるでパワード・スーツを着込んだかのように力に満ちていたし、視覚も聴覚も嗅覚も鋭敏になり世界がより鮮明に感じられた。 マナ酔いの気分の悪さが完全に治まったのと相まって、エリカは元気一杯である。
「強くなるのも悪くない気分ね」
ラットリングを退治していた頃も実はこういうプロセスが繰り返されていたのだが、ラットリングが放出するマナ輸送体が多くないため、エリカにマナ酔いは生じなかったし強くなったのを実感することもなかった。
◇◆◇
エリカは朝食を済ませるとハンター協会を訪れた。 彼女は今日はじめて、協会が仲介する依頼に手を出す。 潜入捜査の依頼で稼いだカネで《魔物探知》のスクロールを買い、オーク退治で荒稼ぎするのだ。
協会の建物に入ったエリカは、依頼ボードに直行した。
「あったあった、私の依頼」
潜入調査の依頼書を掲示板から引き剥がして、受付カウンターに持って行く。 依頼書には依頼の詳細は書かれていない。 潜入調査であることと、どういう人材が求められているかだけが記載されている。
依頼用窓口の職員はマロン君ではなかったが、この職員はエリカとマロン君とのやり取りを何度も見ていたので、エリカとのコミュニケーションはスムーズに進んだ。
「潜入調査の依頼を引き受けてくれるのですね? それでは奥の部屋で依頼の詳細について... あっ、少々お待ちください。 えっと、この依頼はですねえ、機密保持の関係で依頼人の方が直接ブリーフィングを行いますので、日を改めて面接していただくことになります」
「げっ、面接ー?」
面接と聞いてエリカは即座にうんざりした。
「やっぱやめよかな、この依頼。 ブリーフィングとかわけわかんないし」
そのとき、マロン君がおもむろに口を開いた。 彼はエリカにフォローが必要であることを超人的な勘の良さで察知し、近くまで寄ってきていたのだ。
「ブリーフィングとは、依頼の内容に関する詳しい説明のことです。 そして、面接といっても堅苦しいものではなくて、クライアントとハンターとのミーティングのようなものです。 ハンターの能力と依頼の内容が噛み合っているかについて話し合うほか、依頼の報酬について再交渉することもあります」
「ありがとう、マロン君。 助かったわ」
エリカはマイ・ベルをチーンと鳴らして了解の意を告げる。
「それで、面接の日時ですが」と依頼用窓口の職員。「明日の午後2時でよろしいでしょうか?」
「ええ」
エリカは再びベルをチーンと鳴らし、そそくさとその場を立ち去った。
◇◆◇
ハンター協会のビルを出たエリカは南門に足を向けた。 モンスターがまばらな南門エリアは《魔物探知》がないと狩りの効率が悪いが、何匹かは魔物を狩れるだろう。
南門に向かって歩くエリカ。 商店街に差し掛かった彼女の目に映ったのは武器屋の看板だ。 いまエリカが腰から下げているミスリルの長剣は、この武器屋から盗んだものである。
長剣の代金を早く支払いたいのだが、食料などに比べて金額が桁違いに大きいため、エリカは未だ長剣の代金の支払いに向けて行動を起こせていない。 この武器屋で長剣を盗んでから、エリカは一度も店内に足を踏み入れていなかった。
「値段だけでも確認しとこうかな。 オーク狩りが軌道に乗れば近いうちに代金を払えるし」
エリカは武器屋のドアをくぐり、久しぶりに店内に足を踏み入れた。 カウンターには前に来たときと同じ男性店員が座り、暇なのだろうか鼻毛を抜いている。
なんとはなしにエリカは、自分の長剣が陳列されていた棚に目を向けた。 するとそこには、エリカの長剣が入っていたケースだけが空っぽのまま放置されている。 エリカがこの店で長剣を頂戴してから数週間が経過するというのに。 最高級品の剣を失ったことで武器屋が受けた精神的なショックは大変なものだったのだ。
「私が盗んだ剣は、この店にとってかけがえのないモノだったのね...」
しかしケースの中には値札が残っていて、そのおかげでエリカは店員に尋ねるまでもなく長剣の価格を知ることができた。 ただし、その金額は...
「3千万ゴールドですって!? これはちょっと...」
予想以上の金額に絶句するエリカ。 3千万ゴールドを稼ぐにはオークを 1,500匹も倒さねばならない。 途方もない数字である。 南門エリアにオークが 1,500匹もいるかどうかすら怪しい。
「とにかく私の剣の売値はわかった。 そして武器屋さん、あなたの心の痛み、このエリカしかと受け止めたわ」
武器屋の心の痛みを受け止めはしたが、ミスリルの長剣を武器屋に返却するつもりはエリカになかった。 未だ刃こぼれ1つなく新品同様にピカピカと銀色に輝く長剣だから、エリカがこの剣をあのケースに戻してマイ・ベルをチンと鳴らせば、武器屋の苦悩は直ちに解消される。 しかし、エリカは剣を手放せなかった。 手放すには切れ味が良すぎたし美しすぎたのだ。
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