コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~

好きな言葉はタナボタ

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お時間と覚悟のほうはよろしいでしょうか?

軍庁舎を出たエリカは、すぐ近くにあるハンター協会へ足を向けた。 今はまだ午前11時。 ひと仕事するには十分な時間がある。

「私の長所を活かせて、楽に稼げて、1日で終わる。 そんな依頼があるといいな」

他のハンターたちに混じり、エリカは依頼ボードで依頼を探す。 しかしエリカの希望にマッチする依頼がない。

風俗店の用心棒、要人のボディーガード、夜間警備員、潜入調査、アーティファクトの探索、下水道の清掃、ファントムさん捕獲、犯罪者の捕縛、引っ越しの手伝い、イモ掘り、庭木の伐採...

これまでに見たのと同じような依頼ばかりだ。 何度も見かけるのは不人気な売れ残りの依頼で、人気の依頼は張り出されてすぐにハンターが引き受けるのかもしれない。

「相変わらずファントムさん捕獲の依頼が出てる。 これって私の存在が知れ渡る前から出てるよね? 誰が出してるんだろう」

エリカはイモ掘りの依頼を引き受けることにした。 報酬は3千ゴールドと少ないが、掘りたてのイモを分けてもらえるらしい。 久しぶりにのんびりと過ごすのもいいだろう。 



イモ掘りの依頼書をボードから引き剥がし、エリカは依頼用の窓口に向かった。 依頼用窓口の担当者はビマルトという名の職員だ。

エリカが自分の存在を示すためにチンと鳴らしたベルに、ビマルトは予想外の食いつきを見せた。

「エリカさん! 待ってましたよ」

(あらっ、そんなに私に会いたかったの?)

依頼書を窓口カウンターのテーブルに置くと、ビマルトはそれを手に取るものの内容を見もせずエリカに言う。

「ハンター協会からエリカさんに頼みたいことがあるんですよ」

エリカはベルを鳴らす。

チーン?(それって依頼なの?)

エリカのベルの腕前はメキメキと上達しており、ベルの音で疑問文を表現できるまでになっていた。

「ここでは何なので奥の部屋でお話しましょう」



(ここの男たちって、ことあるごとに私を奥の部屋に連れ込みたがるのよね。「頼みたいこと」だからクレームじゃないはずだけど。「お願いしたいこと」なら微妙だけど)

そこはかとなく心配しつつエリカは応接室(奥の部屋)のソファーに腰掛けた。

エリカが席についたのを見計らってビマルトが話を切り出す。

「ここから先は内密にお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

よろしくってよ。 チン。

「あと、少々長い話になるのですが、お時間と覚悟のほうはよろしいでしょうか?」

(か、覚悟? 怖じ気づくほど長い話なの?)



「エリカさんにね、とある塔に保管されているエテルニウム製の剣を探し出し、その剣で塔内に巣食うモンスターを退治して欲しいんですよ」

(エテルニウムってなんだっけ? 前にどこかで聞いたけど)

エリカはベルをチンと鳴らして話の続きを促す。 エリカに覚悟を要求するほどだ。 これで終わるような短い話ではあるまい?

「話が長いのはここからです。 できるだけ文字数を少なくするのでご辛抱ください」

誰に向けた言葉なのかは不明だが、そう前置きしてビマルトは語り始めた。

「まず、今回の依頼の背景をお伝えしておきましょう。 2週間ほど前に『アーティファクト探索』という依頼が出されました。 依頼の詳細は一般には公開されず、依頼を受けるハンターにのみ明かされました」

「依頼を受けたパーティーが出発してから1週間も経過しないうちに、依頼書を再掲載しろという要望がクライアントからありましてね。 つまり、『このパーティーが任務に失敗した』とクライアントが判断したということです」

「私どもハンター協会としては、依頼を受けたパーティーがまだ探索中だろうと思ったんですが、クライアントはそのパーティーが任務に失敗したことを確信している様子でした」



ビマルトはいったん言葉を止め、少し間をおいて話を続ける。

「そして先日、2つ目のパーティーがアーティファクト探索の依頼を受けて出発し、今朝方そのパーティーの生き残り1名が町に戻って来ました」

(生き残り? ってことは他の人は死んじゃった?)

「その生き残りのハンターがハンター協会に明かした依頼の内容と塔の内部の状況を考慮した結果、私どもハンター協会はエリカさんに先ほどの依頼をお願いすることにしたのです」

そこでビマルトは一息ついてエリカに尋ねた。

「ここからまた少し長い話になりますが、少し休憩しましょうか?」

それはいい考えね。 チーン。

「それじゃ、お茶を淹れて一服しましょう」



ビマルトは紅茶を淹れて、お茶受けにクッキーも出してくれた。 エリカの好きなチョコ・クッキーだ。

ビマルトはたくさん喋って喉が乾いていたのだろう。 美味しそうに紅茶を飲んでいる。 エリカはクッキーを食べながら紅茶を飲む。

チョコ・クッキーはエリカの好物である。 エリカはチョコレートだけを食べることは滅多にないが、チョコレートが使われたクッキーやケーキは大好きだ。 チョコレートはそれだけを食べるものではないとすら思っている。 エリカの中でチョコレートは、バターや蜂蜜やマヨネーズやチーズやアンコと同じカテゴリーの食品、つまり調味料だ。



一服を終えたビマルトが話を再開する。

「じゃ、話を続けましょう。 えーと、生き残りのハンターが明かしてくれた情報についてでしたね。 まず、この『アーティファクト探索』の依頼の内容がですね、ミザル市から西に3日ほど歩いた場所にある塔からエテルニウム製の剣を取って来るというものでした。

「この塔の内部に同一種類のモンスターが何匹もおりましてね、このモンスターというのが金属製で、普通の剣では歯が立たなかったそうです。 パーティーは壊滅し、かろうじて1人のハンターが窮地を脱して町へ戻ってきました。

「1つ目のパーティーも、このモンスターに全滅させられたに違いありません。 合計6人ものベテラン・ハンターを失ったのはハンター協会にとってもミザル市にとっても大きな痛手ですよ。

「クライアントが1つ目のパーティーの全滅を不自然なほど早期に把握していたこと、そして、ハンターを殺すのが目的と言わんばかりの依頼。 クライアントが不純な動機で依頼を出した疑いが濃厚です」

ビマルトはカップに残っていた紅茶で喉を潤して再び話し始める。

「そこでクライアントを調べたところ、協会と接触していたのはクライアントの代理人で、クライアント本人は有力な市会議員でした。 市会議員との正面対決はマズい、さりとてこの依頼を放置してもおけない。 そこでエリカさんを頼ることにしたのです。

「エリカさんには、塔にあるエテルニウムの剣を入手し、その剣でもって塔に住む金属製のモンスターを退治して頂きたい。 エテルニウムの剣なら金属製のモンスターも簡単に切れるでしょう。

「依頼の目標物であるエテルニウムの剣と、ハンター殺しの道具である金属モンスターを排除すれば、クライアントの真の意図が奈辺なへんにあるにせよ依頼が取り下げられるんじゃないかと私どもハンター協会は期待しているんです」
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