63 / 144
アリスの一日
エリカが塔に向けて町を出た日の朝、すなわちガブリュー大佐がミザル市に到着した朝のことである。
朝食の席でフロスト中尉が言い出した。
「アリスさん、今日から軍の講習が始まります」
「初回講習の期間は1週間。 講習は座学と実技に分かれていて、それぞれ1日2時間ずつ行われます」
アリスは食事中なので筆談で茶々を入れることもなく、トーストを齧りながら大人しくフロスト中尉の言葉を聞き流している。
「万引きGメンのお仕事は1日おきに午前と午後でしょう?」
アリスはテーブルの上の卓上ベルに右手を伸ばし「イエス」の意味でチンと鳴らした。 左手がミルクの入ったコップでふさがっているので、右手に持っていたトーストは口にくわえている。
「ですから、講習も1日おきに午前と午後に行うように手配しておきました。 今日は万引きGメンが午後からの日なので、朝から講習です」
◇
アリスにとって講習は退屈なだけだったが、家事賄い付きの生活を維持するため1週間ガマンするのだと考えれば諦めも付く。 アリスは心を殺して4時間を過ごした。
座学では、軍庁舎の一室で教官が軍人として活動するうえで必要な知識を講義した。 生徒はアリス1人だけの個別指導であった。
実技は町の外で戦闘訓練だ。 しかしアリスはファントムさんで姿が見えないから、手取り足取りの指導や模擬戦は不可能である。 教官にできたのは、アリスに剣の握り方・構え方・斬りつけ方などのお手本を示すことだけだった。
『剣が重い』というアリスの訴えに対し、軍はアリスに高価なミスリル製の剣を与えた。 アリスが特殊な人材であればこそである。
与えられた剣を手に取ってアリスは驚いた。
「めっちゃ軽いやん!」
アリスの従来の刀剣観を一新する軽さだったのだ。
次にアリスは剣を鞘から抜き、姿を現したミスリルの刀身を見て喜んだ。
「めっちゃ綺麗やん!」
エリカ同様にアリスも、ミスリルの美しさの前にイチコロであった。 ミスリルという金属の美しさにはどうやら、女性の心を惹き付けてやまない魅力があるらしい。
◇
午後からは南の商店街で万引きGメンだ。 アリスの本業とも言うべき仕事である。 休憩を挟みながら3時間ほど、アリスは商店街を徘徊し万引きを取り締まる。
取り締まると言っても、万引き犯を見つけたらベルを鳴らすだけだ。 さらにアリスは透明だから、逆上した万引き犯に暴力を振るわれる心配もない。
アリスが万引きGメンとして活動を始めてから今日で3日目だが、その有効性は明白だった。 昨日や一昨日に比べて明らかに万引き犯が減っていたのである。
『ファントムさん万引き警戒中』という貼り紙が商店街のそこかしこに張られているのも万引きが急速に減った理由の1つだろう。 商店街とアリスの契約の一部として、アリス(とエリカ)が「ファントムさん」の名を貼り紙に用いることを認めたのだ。
万引き犯にしてみれば、いつどこでファントムさんが見ているか分からないから万引きなど出来ようはずもなかった。 ファントムさんがオムニプレゼントな存在であると考える万引き常習者も多く、そういう者は「商店街で万引すれば必ずバレる」と思い込み、南の商店街での万引きにスッパリと見切りを付けるのであった。
朝食の席でフロスト中尉が言い出した。
「アリスさん、今日から軍の講習が始まります」
「初回講習の期間は1週間。 講習は座学と実技に分かれていて、それぞれ1日2時間ずつ行われます」
アリスは食事中なので筆談で茶々を入れることもなく、トーストを齧りながら大人しくフロスト中尉の言葉を聞き流している。
「万引きGメンのお仕事は1日おきに午前と午後でしょう?」
アリスはテーブルの上の卓上ベルに右手を伸ばし「イエス」の意味でチンと鳴らした。 左手がミルクの入ったコップでふさがっているので、右手に持っていたトーストは口にくわえている。
「ですから、講習も1日おきに午前と午後に行うように手配しておきました。 今日は万引きGメンが午後からの日なので、朝から講習です」
◇
アリスにとって講習は退屈なだけだったが、家事賄い付きの生活を維持するため1週間ガマンするのだと考えれば諦めも付く。 アリスは心を殺して4時間を過ごした。
座学では、軍庁舎の一室で教官が軍人として活動するうえで必要な知識を講義した。 生徒はアリス1人だけの個別指導であった。
実技は町の外で戦闘訓練だ。 しかしアリスはファントムさんで姿が見えないから、手取り足取りの指導や模擬戦は不可能である。 教官にできたのは、アリスに剣の握り方・構え方・斬りつけ方などのお手本を示すことだけだった。
『剣が重い』というアリスの訴えに対し、軍はアリスに高価なミスリル製の剣を与えた。 アリスが特殊な人材であればこそである。
与えられた剣を手に取ってアリスは驚いた。
「めっちゃ軽いやん!」
アリスの従来の刀剣観を一新する軽さだったのだ。
次にアリスは剣を鞘から抜き、姿を現したミスリルの刀身を見て喜んだ。
「めっちゃ綺麗やん!」
エリカ同様にアリスも、ミスリルの美しさの前にイチコロであった。 ミスリルという金属の美しさにはどうやら、女性の心を惹き付けてやまない魅力があるらしい。
◇
午後からは南の商店街で万引きGメンだ。 アリスの本業とも言うべき仕事である。 休憩を挟みながら3時間ほど、アリスは商店街を徘徊し万引きを取り締まる。
取り締まると言っても、万引き犯を見つけたらベルを鳴らすだけだ。 さらにアリスは透明だから、逆上した万引き犯に暴力を振るわれる心配もない。
アリスが万引きGメンとして活動を始めてから今日で3日目だが、その有効性は明白だった。 昨日や一昨日に比べて明らかに万引き犯が減っていたのである。
『ファントムさん万引き警戒中』という貼り紙が商店街のそこかしこに張られているのも万引きが急速に減った理由の1つだろう。 商店街とアリスの契約の一部として、アリス(とエリカ)が「ファントムさん」の名を貼り紙に用いることを認めたのだ。
万引き犯にしてみれば、いつどこでファントムさんが見ているか分からないから万引きなど出来ようはずもなかった。 ファントムさんがオムニプレゼントな存在であると考える万引き常習者も多く、そういう者は「商店街で万引すれば必ずバレる」と思い込み、南の商店街での万引きにスッパリと見切りを付けるのであった。
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!