コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~

好きな言葉はタナボタ

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アリスの一日

エリカが塔に向けて町を出た日の朝、すなわちガブリュー大佐がミザル市に到着した朝のことである。

朝食の席でフロスト中尉が言い出した。

「アリスさん、今日から軍の講習が始まります」

「初回講習の期間は1週間。 講習は座学と実技に分かれていて、それぞれ1日2時間ずつ行われます」

アリスは食事中なので筆談で茶々を入れることもなく、トーストをかじりながら大人しくフロスト中尉の言葉を聞き流している。

「万引きGメンのお仕事は1日おきに午前と午後でしょう?」

アリスはテーブルの上の卓上ベルに右手を伸ばし「イエス」の意味でチンと鳴らした。 左手がミルクの入ったコップでふさがっているので、右手に持っていたトーストは口にくわえている。

「ですから、講習も1日おきに午前と午後に行うように手配しておきました。 今日は万引きGメンが午後からの日なので、朝から講習です」



アリスにとって講習は退屈なだけだったが、家事まかない付きの生活を維持するため1週間ガマンするのだと考えれば諦めも付く。 アリスは心を殺して4時間を過ごした。

座学では、軍庁舎の一室で教官が軍人として活動するうえで必要な知識を講義した。 生徒はアリス1人だけの個別指導であった。

実技は町の外で戦闘訓練だ。 しかしアリスはファントムさんで姿が見えないから、手取り足取りの指導や模擬戦は不可能である。 教官にできたのは、アリスに剣の握り方・構え方・斬りつけ方などのお手本を示すことだけだった。

『剣が重い』というアリスの訴えに対し、軍はアリスに高価なミスリル製の剣を与えた。 アリスが特殊な人材であればこそである。

与えられた剣を手に取ってアリスは驚いた。

「めっちゃ軽いやん!」

アリスの従来の刀剣観とうけんかんを一新する軽さだったのだ。

次にアリスは剣を鞘から抜き、姿を現したミスリルの刀身を見て喜んだ。

「めっちゃ綺麗やん!」

エリカ同様にアリスも、ミスリルの美しさの前にイチコロであった。 ミスリルという金属の美しさにはどうやら、女性の心を惹き付けてやまない魅力があるらしい。



午後からは南の商店街で万引きGメンだ。 アリスの本業とも言うべき仕事である。 休憩を挟みながら3時間ほど、アリスは商店街を徘徊し万引きを取り締まる。

取り締まると言っても、万引き犯を見つけたらベルを鳴らすだけだ。 さらにアリスは透明だから、逆上した万引き犯に暴力を振るわれる心配もない。

アリスが万引きGメンとして活動を始めてから今日で3日目だが、その有効性は明白だった。 昨日や一昨日に比べて明らかに万引き犯が減っていたのである。

『ファントムさん万引き警戒中』という貼り紙が商店街のそこかしこに張られているのも万引きが急速に減った理由の1つだろう。 商店街とアリスの契約の一部として、アリス(とエリカ)が「ファントムさん」の名を貼り紙に用いることを認めたのだ。

万引き犯にしてみれば、いつどこでファントムさんが見ているか分からないから万引きなど出来ようはずもなかった。 ファントムさんがオムニプレゼントなあらゆる場所に同時に存在する存在であると考える万引き常習者も多く、そういう者は「商店街で万引すれば必ずバレる」と思い込み、南の商店街での万引きにスッパリと見切りを付けるのであった。
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