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《支配》 vs. シャリンシャリン
「ほう、確かにここにかぶせると毛布が消えるな」
そう言ってガブリュー大佐は何度かエリカの上に毛布をかぶせては引き剥がす。 毛布の下のエリカはいい迷惑である。
(やめなさいよね、ホコリっぽいから)
「よしメカジキ少尉、《支配》の呪文に取りかかれ」
大佐の言葉を聞いてエリカは戦慄した。
(支配!? 軍は私を《支配》するつもりだったのね!)
しかし痺れた体では逃れる術はない。 エリカは未知の恐怖に身をすくませる。
(《支配》されたらどうなるの? 自我がなくなってロボットのように使われるの? そんなの許せない。 殺されるよりも許せない。 ちくしょう、少しでも隙を見せたらこいつら全員ぶっ殺してやる)
エリカの殺意にも気づかず、メカジキ少尉が詠唱を始める。
「ロブドブロプストリケラス...」
詠唱がしばらく進んだとき、玄関で誰かが呼び鈴が鳴らす音が聞こえてきた。 シャリンシャリーン。
「むっ、誰だこんなときに。 シバー少尉、誰が来たのか確認してこい。 メカジキ少尉は詠唱を続行だ」
また呼び鈴がなる。 シャリンシャリン。
シバー少尉が玄関へと向かい、メカジキ少尉は《支配》の呪文を唱え続ける。
「...クールミトンポリカスエート オオヌカセヤーク...」
しばらくしてシバー少尉が戻ってきて報告する。
「訪問者の姿が見えませんでした。 おそらくヒロサセ少尉かと」
また呼び鈴。 シャリンシャリーン、シャリンシャリーン。
メカジキ少尉の詠唱の声が止まった。
「こううるさくては呪文に集中できません。 呼び鈴の音をなんとかしてください」
シャリンシャリーン。
◇
アリスはエリカの家から誰も出て来ないことで疑惑を深めていた。
(やっぱり怪しい。 この時間にシバー少尉も家にいてないってことある? 家の中で何かが起こってるんちゃうか?)
アリスは呼び鈴の紐から手を離し、玄関のドア・ノブに手をかけて開けようとしたが、ドアは施錠されていて開かなかった。
アリスは再び呼び鈴を鳴らす。 シャリンシャリーン。 家の中にいるのが誰であれ、しつこく鳴る呼び鈴に腹を立てて出て来ればアリスは家の中に入れる。 家の中に誰もいなければ...? アリスのムダな労力ということになるが、呼び鈴を鳴らすぐらいは大した労力ではない。 そう、あと100回ぐらいならば。
◇
エリカにとって何度も鳴る呼び鈴の音は騒音どころか福音だった。
(ナイスよアリスちゃん! その調子で時間を稼いで! もう少しで動けるようになりそうな予感がするの。 痺れが取れたら、コイツらぶっ殺してやる)
◇
「フロスト中尉は何をやっとるんだ!」
ガブリュー大佐は苛立たしげに罵ったが、すぐに気持ちを切り替えて冷静に考える。
(ヒロサセにサワラジリの《支配》の現場を見られるのは絶対にまずい。 今しばらくはヒロサセの信頼を失うわけにいかんからな。 ヒロサセが諦めて帰ってくれればいいんだが...)
大佐の願いを嘲笑うかのように、そこで再び呼び鈴の音。 シャリーン。 と同時にガブリュー大佐の内ポケットでケータイ・テレホンがブルブルと震える。 着信だ。
テレホンをかけてきたのはフロスト中尉だった。 アリスがトイレにいないことに気づいたのである。
「申し訳ございません大佐。 ヒロサセ少尉に逃げられました」
シャリンシャリーン。
「ああ、今ここに来ている。 いま忙しいから詳しい報告は後ほどな」
大佐は切ったテレホンを片手に握ったまま指示を出す。
「シバー少尉、この家に出入りできる場所は何ヶ所ある?」
「玄関と裏手のドアの2ヶ所です」
「よし鍵がかかってるか確認して来い。 絶対にドアを開けるんじゃないぞ。 マベルス中尉、この耳障りな音をどうにかしろ」
◇
しばらくして呼び鈴の音が途絶えた。 マベルス中尉がどうにかしたのだ。 呼び鈴の音と共に生じたエリカの希望は、呼び鈴の音と同時に潰えた。
(やっぱり私は《支配》されちゃうの? 逃げれると思ったのに! もう少しで麻痺が解けそうな気がしてるのに! ...アリスちゃん、もう帰っちゃったのかな?)
アリスはまだエリカの家の敷地内にいた。
(呼び鈴を鳴らしても音がせえへんようになった! ぜったい家の中に誰かおるわ)
◇
「やっと静かになったな」
ガブリュー大佐は晴れ晴れとした顔である。 大佐は自分の指示がアリスの疑惑を深めたことを知らない。 彼は呼び鈴の音が家の外まで漏れ聞こえることを知らなかったのだ。
「メカジキ少尉、《支配》だ」
大佐に言われてメカジキ少尉が再び《支配》の呪文を最初から唱え始める。
「ロブドブロプストリケラス...」
◇
アリスはエリカの家の周囲を歩いて回って入り口を探したが、裏手のドアも施錠されていた。
(うーん、こうなったら。 過激になるけど...)
アリスはエリカの家の敷地を出ると、自宅の官舎を目指して駆け戻り始めた。
アリスが自宅を目指して走るうちにも、メカジキ少尉の唱える《支配》の呪文は着々と進行してゆく。
「...クールミトンポリカスエート オオヌカセヤーク ヌカクニギレノンニウデオシ...」
◇
自宅に戻る途中の道でアリスはフロスト中尉の姿を認めた。 厳しい表情を顔に浮かべ、小走りでアリスが来た方角へと向かっている。
(私の脱走がバレたんやな。 エリカさんの家に行くつもり? まあ、もうどうでもええわ)
フロスト中尉とすれ違ってから数分もかからずに、アリスは官舎に辿り着いた。 3階まで一気に駆け上がり、呼吸も荒く自宅に入る。 そして自室の壁に立て掛けてあった目当ての品を拾い上げると、足早に部屋を出て行った。
アリスが取りに戻ったのは軍から支給されたミスリルの剣。 この剣でエリカの家のドアを壊して内部に侵入しようというのだ。
そう言ってガブリュー大佐は何度かエリカの上に毛布をかぶせては引き剥がす。 毛布の下のエリカはいい迷惑である。
(やめなさいよね、ホコリっぽいから)
「よしメカジキ少尉、《支配》の呪文に取りかかれ」
大佐の言葉を聞いてエリカは戦慄した。
(支配!? 軍は私を《支配》するつもりだったのね!)
しかし痺れた体では逃れる術はない。 エリカは未知の恐怖に身をすくませる。
(《支配》されたらどうなるの? 自我がなくなってロボットのように使われるの? そんなの許せない。 殺されるよりも許せない。 ちくしょう、少しでも隙を見せたらこいつら全員ぶっ殺してやる)
エリカの殺意にも気づかず、メカジキ少尉が詠唱を始める。
「ロブドブロプストリケラス...」
詠唱がしばらく進んだとき、玄関で誰かが呼び鈴が鳴らす音が聞こえてきた。 シャリンシャリーン。
「むっ、誰だこんなときに。 シバー少尉、誰が来たのか確認してこい。 メカジキ少尉は詠唱を続行だ」
また呼び鈴がなる。 シャリンシャリン。
シバー少尉が玄関へと向かい、メカジキ少尉は《支配》の呪文を唱え続ける。
「...クールミトンポリカスエート オオヌカセヤーク...」
しばらくしてシバー少尉が戻ってきて報告する。
「訪問者の姿が見えませんでした。 おそらくヒロサセ少尉かと」
また呼び鈴。 シャリンシャリーン、シャリンシャリーン。
メカジキ少尉の詠唱の声が止まった。
「こううるさくては呪文に集中できません。 呼び鈴の音をなんとかしてください」
シャリンシャリーン。
◇
アリスはエリカの家から誰も出て来ないことで疑惑を深めていた。
(やっぱり怪しい。 この時間にシバー少尉も家にいてないってことある? 家の中で何かが起こってるんちゃうか?)
アリスは呼び鈴の紐から手を離し、玄関のドア・ノブに手をかけて開けようとしたが、ドアは施錠されていて開かなかった。
アリスは再び呼び鈴を鳴らす。 シャリンシャリーン。 家の中にいるのが誰であれ、しつこく鳴る呼び鈴に腹を立てて出て来ればアリスは家の中に入れる。 家の中に誰もいなければ...? アリスのムダな労力ということになるが、呼び鈴を鳴らすぐらいは大した労力ではない。 そう、あと100回ぐらいならば。
◇
エリカにとって何度も鳴る呼び鈴の音は騒音どころか福音だった。
(ナイスよアリスちゃん! その調子で時間を稼いで! もう少しで動けるようになりそうな予感がするの。 痺れが取れたら、コイツらぶっ殺してやる)
◇
「フロスト中尉は何をやっとるんだ!」
ガブリュー大佐は苛立たしげに罵ったが、すぐに気持ちを切り替えて冷静に考える。
(ヒロサセにサワラジリの《支配》の現場を見られるのは絶対にまずい。 今しばらくはヒロサセの信頼を失うわけにいかんからな。 ヒロサセが諦めて帰ってくれればいいんだが...)
大佐の願いを嘲笑うかのように、そこで再び呼び鈴の音。 シャリーン。 と同時にガブリュー大佐の内ポケットでケータイ・テレホンがブルブルと震える。 着信だ。
テレホンをかけてきたのはフロスト中尉だった。 アリスがトイレにいないことに気づいたのである。
「申し訳ございません大佐。 ヒロサセ少尉に逃げられました」
シャリンシャリーン。
「ああ、今ここに来ている。 いま忙しいから詳しい報告は後ほどな」
大佐は切ったテレホンを片手に握ったまま指示を出す。
「シバー少尉、この家に出入りできる場所は何ヶ所ある?」
「玄関と裏手のドアの2ヶ所です」
「よし鍵がかかってるか確認して来い。 絶対にドアを開けるんじゃないぞ。 マベルス中尉、この耳障りな音をどうにかしろ」
◇
しばらくして呼び鈴の音が途絶えた。 マベルス中尉がどうにかしたのだ。 呼び鈴の音と共に生じたエリカの希望は、呼び鈴の音と同時に潰えた。
(やっぱり私は《支配》されちゃうの? 逃げれると思ったのに! もう少しで麻痺が解けそうな気がしてるのに! ...アリスちゃん、もう帰っちゃったのかな?)
アリスはまだエリカの家の敷地内にいた。
(呼び鈴を鳴らしても音がせえへんようになった! ぜったい家の中に誰かおるわ)
◇
「やっと静かになったな」
ガブリュー大佐は晴れ晴れとした顔である。 大佐は自分の指示がアリスの疑惑を深めたことを知らない。 彼は呼び鈴の音が家の外まで漏れ聞こえることを知らなかったのだ。
「メカジキ少尉、《支配》だ」
大佐に言われてメカジキ少尉が再び《支配》の呪文を最初から唱え始める。
「ロブドブロプストリケラス...」
◇
アリスはエリカの家の周囲を歩いて回って入り口を探したが、裏手のドアも施錠されていた。
(うーん、こうなったら。 過激になるけど...)
アリスはエリカの家の敷地を出ると、自宅の官舎を目指して駆け戻り始めた。
アリスが自宅を目指して走るうちにも、メカジキ少尉の唱える《支配》の呪文は着々と進行してゆく。
「...クールミトンポリカスエート オオヌカセヤーク ヌカクニギレノンニウデオシ...」
◇
自宅に戻る途中の道でアリスはフロスト中尉の姿を認めた。 厳しい表情を顔に浮かべ、小走りでアリスが来た方角へと向かっている。
(私の脱走がバレたんやな。 エリカさんの家に行くつもり? まあ、もうどうでもええわ)
フロスト中尉とすれ違ってから数分もかからずに、アリスは官舎に辿り着いた。 3階まで一気に駆け上がり、呼吸も荒く自宅に入る。 そして自室の壁に立て掛けてあった目当ての品を拾い上げると、足早に部屋を出て行った。
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